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2-14 魔王軍侵攻戦 渓谷

よろしくお願いします。

 単騎駆け状態の俺達は、事前に決めていた進行ルートをアホみたいに突出した。

 これが本当の集団戦だったら軍法会議ものである。


 進行ルート上にいる敵をロロが薙ぎ払い、我慢できなくなったフィーちゃんがドパンしに飛んでいき、クリスタルがあれば爆散させる。

 そんな俺達の戦績はこうだ。


 ロロ。雑魚敵200以上撃破。小隊ボス2体撃破。

 フィーちゃん。雑魚敵15体撃破。クリスタル2個爆散。

 俺。名馬と化す。

 パーティ内で一人だけスコアがかけ離れてる……っ。


 だが、役割分担は凄く大切なんだよなぁ。

 ロロ達の活躍は俺の機動力があってこそなのだ。だから我慢するしかない。


 そんなこんなで渓谷エリアに突入した。

 渓谷エリアは、左右がわずかに斜めになった壁で挟まれた一本道だ。道幅は5メートルくらいと広いんだか狭いんだか分からない幅だ。

 崖の高さは10メートルくらいだが、その地点から上は進入禁止のマークがついているため、行くことはできない。


 早速わらわらと雑兵が現れたが、俺が渓谷に行きたかった理由はここが俺と一番相性が良いからに他ならない。

 俺は右手の壁上方に鎖を撃ち込み、身体を巻き上げ崖の半ばへ逃げ込んだ。


 壁に撃ち込んだ鎖を握る片手と、壁に引っかけた足のみでバランスを取る。

 ボルダリングなんて一生縁がないだろうな、と思っていたけれど、それに近しい事をこうしてやっているのだから人生分からないものだ。


 念のために逆サイドの壁に鎖を撃ち込んでおき、俺はロロに言った。


「ロロ、撃ち放題だ」


「にゃふーっ! オラオラ喰らうが良い!」


 ロロから光の球を当てられた人形が、剣を振り下ろして光の雨を敵に降らせる。

 さらに光の雨をこっそりと受けた別の人形が、剣を振り下ろして横合いから拡散レーザーを撃ちまくる。

 端的に言えばチートだった。


 ビットオーブをロロが使い始めた時は、迂遠でマニアックな武器だと思ったけど、やり方次第でえぐすぎる性能になるようだ。

 敵に向けて撃った魔法の余波を吸収させ、吸収した魔法を撃ち、さらに他のビットオーブに余波を吸収させ魔法を撃ち……ある程度の威力が下がるまでチェインさせる。

 さらに、ビットオーブは敵の魔法も吸収できるので、相当にぶっ壊れた性能と言えた。


 そんな一方的な虐殺だったが、それを許さない者が現れた。

 最初はでっかいカエルが現れたと思ったら、ロロが騒ぎ出した。


「無重力ガエルだわ!」


「ハッ!? た、確かにアイツこの前の『ローレンが行く』でやってた奴だ!」


「覚えているなら良いわ!」


「それ、私もご飯食べながら見たですぅ!」


 先々週のローレンが行くで、アイツの生態を紹介していた。


 無重力ガエルは魔法の力を借りて、まるで地面に着地するかのように壁や天井に垂直に着地し、三次元的な攻撃を仕掛けてくる。

 大型犬ほどもある体格から繰り出されるボディプレスにより、同程度の大きさの獲物を圧殺する戦法を取る。なお、コイツはカエルのくせに舌が伸びないらしい。


――無重力カエルは、自分の身体を無重力に変えるぅ、なんちってぇ。


――殺すぞ。


 俺はローレンが行くでお馴染のマスコットキャラのクソみたいな駄洒落と、ブリザード系ナレーターの掛け合いを思い出した。


 そんな無重力カエルが3匹出現。


「ロロ、荒い動きするかもしれないから、しっかり掴まってろよ」


「うん、ギュッてしてるから激しくしても大丈夫。コウヤの好きなように動いていいよ」


「辛かったら言えよ」


「うん。一緒に飛ぼう」


「じゃあ、行くよ……」


「んん……っ」


 早速飛び掛かってきた一体の無重力カエルのジャンピングプレスを、反対側の崖に刺しておいた鎖を伝って回避。

 ロロと合体しての空中移動は初めてだったが、普通に出来るな。

 ロロはちょっと怖かったのか、小さく呻きながら俺に絡める四肢へ力を加えていた。


 俺達が居た場所の崖がぼろりと崩れ、残骸がポリゴンになって消えていく。

 結構シャレにならない一撃みたいだな……怖くなってきた。


 まあ、死なないし怪我もしないという言葉を信じて頑張ろう。

 たぶん、この前の訓練みたいに、攻撃を喰らってもダメージ測定だけで痛みはないんだろうと思う。


「ロロ、どんどん動くから慣れてきたら攻撃に参加しろ!」


 俺は言うだけ言うと、すぐそばの壁に鎖を撃ち込んで3メートルほど移動した。

 その瞬間、俺達が居た場所の壁にカエルが垂直に着地した。

 カエルを横から見る位置取りになったので、俺はチャンスとばかりにカエル目掛けて鎖を放つ。


 至近距離だったので鎖はカエルの後ろ脚にしっかり絡みつき、機動力を奪った。

 まずは一匹。とどめは後だ。最悪刺せなくても良い。


 残り2体の姿を確認せずに、とりあえず鎖移動。

 FPSで開けた場所で敵を探すためだけに立ち止まるバカはまずいない。その瞬間にも敵が引き金を引こうとしているかもしれないのだから。もちろん、おとりとか意味があるなら別だろうけど。

 じっちゃんにどこからともなく散々撃たれた小学生時代を送っていた俺は、視野を広げながら移動していく。


 カエル2匹の位置関係、他の雑魚敵の動向、地形情報。

 それらを、魔力交換ブーストの力を借りた目と脳が、通常時よりも遥かに集中して分析していく。


 来る!


 何度目かの空中移動が終わった直後に、移動場所を狙いすましたかのようにカエルが跳んでくる。

 俺はすぐさま鎖を切り離し、自由落下する。

 3メートルほど落下したところで、鎖を放って身体の落下を止める。

 まんまと引っかかったカエルが、今まで俺達が居た場所に着地する。ポリゴンとなって消える壁の残骸を浴びながらその様子を下から見ていた俺は、もう一方の手から鎖を放ち捕縛に成功した。


 2体目を捕縛したところで、ロロが攻撃に参加し始めた。

 地表でわらわらする雑兵に、魔法を撃ち込んでいく。人形たちはまだ使えないみたいだな。


「無理するなよ」


「激しくされて慣れてきたかも。ちょっと気持ち良くなってきた」


「このステージが終わったら少し休憩しような」


「さ、撮影されてるのに? お、お外でそれはさすがに恥ずかしいよぅ……」


「休憩の本来の意味忘れちゃった感じかな? っと」


 アホな会話をしている内に最後の一匹が飛んできた。

 俺は斜め上に鎖を撃ち込み、高速で少しだけ移動すると、例によってのこのこ現れたカエルに鎖を巻きつけた。


 これでとりあえず、無重力カエルは全部封じたな。


「フィーちゃん、カエル共を頼む」


「了解ですぅ! 綿毛流しィイイヤァ!」


 俺のお腹から解き放たれた悪魔が、すぐ近くでもがいているカエル一体を速攻で殴りつける。

 ためらいがゼロであった。


 さらに。


「タンポポ真拳、弐の拳……なぁあああああ、綿毛漂着!」


 この前見たキモ怖い動きのタンポポ真拳奥義である『綿毛漂流』と字面が似てるけど、知らない技だ。

 それは風に舞う綿毛が大地に舞い降りるかのように……


 天空高く振り上げられたカカトが無慈悲に振り下ろされた。


 ドゴォッ!


 そばにいたもう一匹のカエルの背中にカカトが叩きつけられ、生命活動が絶望的なレベルでクレーター型に陥没した。

 タンポポの綿毛が漂着する瞬間なんて見たことないけど、あんな感じなのかな? よく世界は滅ばないな。


「もうもう、他の女の子の活躍ばかり見てぇ」


「いや、見ていたのはグロ映像だ」


 嫉妬したロロが首筋にンチューしてきたので、ロロ成分が自動で補給される。


 もちろん、そんな事をしている間も周囲の状況はちゃんと確認しているぞ。


 雑兵も残り少なく、渓谷にわらわらと入ってきたプレイヤーたちに倒されていく。

 あ、俺が捕縛した最初のカエルさんも倒されてしまったな。さっきまで壁の中ごろに居たのに、落ちちゃったらしい。まあ、俺が無力化したのでポイントはこちらにも入るから良いんだけどね。

 しかも、カエルを倒したのはなんとシルニャンだった。呪いルビカンテで爆散させていた。めっちゃもっさりした一撃だった。


「さて、賑やかになってきたし、どんどん行くか」


「うん! 先に行ってクリスタル壊しちゃおう!」


「合体ですぅ!」


 フィーちゃんと再び合体し、俺達は空中をガンガン移動し始めた。




「うぉおおおおお、やばいやばいやばい!」


「にゃふぇーい! 行け行けぇ!」


「ひゃっはーっ! コウヤさん最高にクレイジーですぅ!」


 俺は鎖を伝いながら、崖を真横にひた走った。

 そんな俺が走った後を魔法弾がガンガン着弾していく。

 そのスリルにロロとフィーちゃんが、興奮した声を上げる。


 渓谷の中盤に差し掛かると、まるで『中盤戦行ってみよう!』とばかりに、難易度が上がりやがった。

 魔法を放ってくる雑兵が現れだしたのだ。

 魔法世界は犬猫ですら魔法の素養があるので、当然、魔獣もまた何らかの形で魔法を使ってくるのだ。

 たぶん、今までの雑兵も使っていたのだろうけど、遠距離魔法は中盤になって初めて使われた。


 そして、俺達は突出してしまっているものだから、本来ならたくさんの人へバラけて放たれるであろう魔法を集中砲火されている。


 鎖を振り子のように使って壁を走り、振り子の範囲に限界が来たら新しい鎖を張って同じように移動する。

 我ながらもはや地球人の限界を遥かに超えた動きであった。

 その大部分を支えているのは、魔力交換のブーストだ。身体能力もそうだが、集中力や空間認識力が通常時よりも遥かにブーストしている。

 かつて俺はルーラさんにチートを貰えなくて不貞腐れたけど、うん、これ十分にチートだわ。ロロとチュッチュッする度に強くなる素敵仕様。


「ロロ、見えたぞ! 準備は良いか!?」


「オッケーよ!」


 興奮しすぎているロロは、そう答えて俺の首筋にムチューッと吸い付く。

 やはり最大の敵は背中に潜んでいる。たぶん、これはキスマークができているんじゃないかな?


 渓谷中盤にある敵増援クリスタルが見えた。

 俺が見ている前で、さらに20体ばかりの増援が生産されている。


「行きなさい! ララ、リリ、ルル!」


 ロロが人形達を敵陣上空に飛ばし、3体が同時にひたすら光の矢をザンザンと降らし始めた。

 俺はその間、付近の壁をピョンピョンと飛び回る。

 

 今までだったらこれでほぼカタがついたのだが、今回は生き残った敵が多数いた。やはり敵が強くなっているようだ。


「ごめん、倒せなかったわ!」


「いいよってあぶね!?」


 ロロの言葉に反応した瞬間、砲弾のように岩が飛んできた。

 すんでのところでそれを回避し、狙ってきた奴を見る。


 撃ってきたのは、岩でできたゴーレムだった。

 ゴーレムは以前戦ったエレメントクリスタルが成長した姿だ。日本のゲームなんかだと脳筋のイメージが強いが、テフィナのゴーレムは元がエレクリなので魔法をガンガン使ってくる。

 弱点は、ゴーレムの中にあるエレクリみたいな核だ。


「今回の小隊ボスは魔法使い仕様かよっと! くそっ、きつすぎる!」


 悪態を吐きながら回避し、敵の情報を見る。


 小隊ボスは重装甲の魔法使い仕様。

 雑兵もまた魔法使い仕様。

 狭い渓谷に魔法使いの敵部隊を配置するとか極悪にもほどがある。


 これは撃破されるかもわからん。


「ロロ、ビットオーブは魔法を吸収出来るんだよな?」


「出来るけど、ガンガン来られたら操作が追い付かないから無理!」


「クソッ、仕方がないから逃げるぞ」


 攻撃が飽和しすぎている。

 それに、そろそろ俺の魔力がヤバいように思える。

 鎖は一回放つのに魔力を大して使わないけど、すでに放った回数が100は余裕で超えている。

 少し休まないと無理だ。


「あ、コウヤ、あそこの崖に穴がある!」


 ロロが、おっかなびっくり俺の首から片腕を離し、崖の途中を示した。そしてすぐに元に戻す。

 ロロの言う通り、確かにそこには不自然な穴が開いていた。


 もしかしたら、伏兵用の場所なのでは、と考えたが、制圧できれば休憩には持って来いだ。

 俺はその穴に行ってみることにした。


「ロロ、敵がいたらすぐさま攻撃してくれ」


「了解」


 ガンガン放たれる魔法を回避しつつ、穴の入口に着地する。

 穴の中には、ピンク色のネズミが一匹いた。


 それを俺が認識した次の瞬間、俺の首に絡んでいたロロの手が真横に薙ぎ払われた。

 その手から放たれた光の刃で、ネズミさんはポリゴンになって消えた。


「よしっ、ポイントガードゲットだわ!」


 ポイントガードとは、拠点ゾーンに敵が辿り着いた際に起こるプレイヤーのポイントの減少を一回だけ無効にしてくれる。もちろん自分だけだ。

 主に特殊な敵を倒すとゲットできると説明にはあったが、ピンクのネズミだったようだ。


 とりあえず入り口付近は危ないので、奥に入る。

 洞窟は奥行き2メートル程度。高さは俺の身長で少し屈むよう。

 崖の途中にあるということもあり、攻撃から身を隠すには十分だった。


 ロロとフィーちゃんを下ろした俺は、一番奥の壁に寄りかかり、彼氏座椅子の体勢。


「もうもう、ここは戦場なんだからね? もうーっバカァ!」


 と言いつつ、ロロが俺の股の間に座った。

 ガシンと両腕をロロの身体に回して、合体!


「おーっ、彼氏座椅子ですぅ! リアルで初めて見ました!」


 フィーちゃんが言う。

 確かにこの体勢をリアルで見る機会なんて早々ないだろう。テフィナであっても、日本であっても。

 フィーちゃんの反応に、ロロはんふぅーっと上機嫌そうに鼻を鳴らした。


「はぁーっ、マジで疲れた……」


 ロロ達の事はひとまず置いておいて、俺はロロ成分を補給する作業に専念する。

 ぬくぬくのやわやわだ。凄まじくキスしたい。


「コウヤ頑張ったね? よしよし、凄くカッコ良かったよ。きっとレオニードさんたちもびっくりしてる」


「そうか? 無謀でアホな少年とか世間様に思われてないかな?」


「そんな事ないよ。私をおんぶしてるのにピョンピョン飛んで、凄かったもん」


「ロロがそう思ってくれるだけで自信が出てくるよ。ありがとう。ロロも凄かったぞ。いっぱい敵を倒して、きっとこのゲームの一番のポイントゲッターだな」


「んふふぅ、そうかしら?」


「コウヤさん、私っ、私はどうでした!?」


「フィーちゃんも凄く強くて思わず足が震えたね」


 恐怖心すら抱いたとは言えない。

 なんだよ、あのダイナマイトみたいな爆砕。それからカカト落としのグロ映像。あんなの俺の知ってるタンポポじゃないよ。


 フィーちゃんは羽をピピッピピッと振るわせながら、押忍ぅと十字を切った。


「ふぅ……ロロ、ちょっと横になって休みたいかも。ごめん」


「じゃあじゃあ、膝枕してあげる!」


「愛月の恋人は戦場でもイチャコラし始めるんですねぇ。やっぱり頭のネジが消し飛んでますぅ!」


 フィーちゃん、愛月の恋人の頭のネジの具合がさっきより酷くなってるよ。

 まあ、他のプレイヤーが敵と戦っている中で膝枕し始めれば、そう言われても仕方ない。


 女の子座りするロロの太ももに頭を乗っけて、俺は目を瞑った。


 先ほどまで戦闘のせいであれだけ興奮していたのに、睡魔が襲ってきた。たぶん、2時間睡眠と連日にわたる苛烈なドレインのせいだ。あと、ふわりと鼻腔を擽る甘い香りも原因の一つだろう。


「悪い……後続が追い付いたら起こして……」


 深く息を吐き、身体から力を抜いた。

 すぅっと意識が遠のいていく最中。


「カッコ良かったよ、コウヤ。好きよ」


 ロロが啄むようにキスをしてきた。

 フィーちゃんがわたわた騒いでいたのは、夢のことか現のことか。


読んでくださりありがとうございます。

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