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1-4 初めての夜と街への道のり

 よろしくお願いします。

 ちゃんと5分で出てきたロロティレッタは、俺と目が合うなり鼻の頭にクシャッと皺を作り、ふ、フシャーッ!

 いきなり威嚇された俺もとりあえず、ニャギャシャー! と威嚇しておき、入れ替わりでトイレにGO。

 実を言うと、割と危なかったのである。


 トイレは男女で別れていた。

 無知を装い、女子の方に入る誘惑が脳裏を掠めるが、流石に変態が過ぎる。


 トイレは洋式で、非常に綺麗にされている。内装は黒と白を基調にしたシックな雰囲気だ。

 トイレを見れば文明度が分かると偉い人が言ったそうだが、それを鵜呑みにするならテフィナはやはり非常に高度な文明なのだろう。温水お尻洗浄どころか、お尻にフローラルな香りをつける機能までつけてやがる。

 こいつぁいよいよ俺の知識チートは児戯に等しくなりそうだぜ。

 まあ、うら寂れた公園の公衆トイレが天国に思えるようなトイレ事情の世界で生きていくよりは、遥かにマシなんだけどね。


 用を足して手を洗っていると、ふとロロティレッタの味が薄まってきたような感じがした。風呂で最初に貰った時もこうなったが、これが示すところはなんだろうか。

 考えられるのは、二つ。

 舌が味に慣れてしまったのか、カラータイマーが鳴り始めたか。


 後者なら中々気の利いた機能だ。

 いきなりプツリと効力が切れるのはちょっと怖い。


 トイレから出ると、ロロティレッタがチョコでコーティングされた菓子パンを食いながらニコニコしていた。

 おい、俺がトイレに入っている間に何があった。


「んふふー。おいひい」


 その急変ぶりに困惑しながら、ロロティレッタの向かい側に座って、彼女の顔をまじまじと見る。

 大きな口がニンマリと弧を描き、長いまつげが楽し気に細まった目を隠す。

 こんな風に笑うのか。ううむ、やっぱり超絶可愛い。


 しかし、なんだっていきなり……あー、そう言えば。

 俺はさっき導きの群島でテーブルに着いた後のことを思い出す。


 ルーラさんが説明をしてくれる中、コイツはまったく遠慮せずにケーキを貪っていた。

 挙句の果てには、敵と認識されていた俺のケーキまで欲する始末。


 つまり、コイツはお菓子大好きっ子なのか?

 そして、食べると気分が上向きになっちゃう感じ?

 甘い物を食って傷ついた心を慰める女の子がいるという話は聞いたことがあるけど、あれって漫画の中だけじゃないのか?

 うーむ。わからん。わからんけど、機嫌が良くなることは良い事だ。


 ロロティレッタは俺の視線に気づくと、何を思ったのかチョコパンが俺から見えないようにススッと身体の向きを変えた。袋をカサカサ、パンをもむもむ、そして、テーブルに置いてあった紙パックの飲み物をゴッキュゴッキュ、プハーッ!


「やっぱりチョコパンには濃いめのミルクティーよね! 最強!」


 激しく同意。

 っていうか、ねえ、そこは俺にも食べるか聞こうぜ?


「美味しそうだな。なあ、まだあるなら俺にもくれないか?」


 導きの群島でどれほど寝ていたか知らないが、俺も割とお腹が空いていた。

 ロロティレッタは俺をチラリとみると、唇を尖らせ、コートからパンの耳が大量に入った袋を取り出してきた。

 片やチョコパンとミルクティー、片やパンの耳かつ飲み物はなし。

 これが階級制度です。


「ふぁい、パンの耳! ありがとう!」


 俺のお礼の言葉に、ロロティレッタはプイッと横を向いてもむもむと食事を再開した。

 パンの耳をもしゃついた俺は腹が膨れた代わりに、口の中の水分がドレインされた。台所で頂いた水は、妙に美味かった。


「くぁ……」


 ご飯を食べてしばらくすると、気怠そうに頭をテーブルに置いたロロティレッタが小さくあくびをし、身体をもぞつかせる。どうやら眠いようだ。

 この場所の時刻はまだ18時なのだが、世界すら越えてしまった俺達は体内時計が全く合っていないのだ。まあ、導きの群島で寝ていたから俺はそこまで眠くはないんだけどな。


 しかし、そうか、ロロティレッタは眠いか。

 正直、この文明について尋ねたいことは山のようにあるし、魔力なんてものがある以上は魔法もあるだろうからその使い方も知りたい。

 が、眠気をアピールする女子にアレ知りたいコレ知りたいするわけにもいかない。俺が逆の立場なら、コイツ死なねえかなと思うのはまず間違いないからな。


「疲れたんだろ? 明日早く起きたいし、もう寝るか?」


「……うん」


 返事まで間があったのは、コイツも魂の双子の就寝について理解しているからだろうな。 

 5メートル離れられない。かつ壁に隔たれてはならない。俺の魔力を注入しても一夜など持つはずもない。

 ……それはもう一緒に寝るしかないじゃないか、ちくしょうぅへへへ。


 ロロティレッタは体を起こすと、にやけるのを我慢する俺に真剣な目を向けてきた。

 クール系な顔立ちをした美少女の真剣な眼差しに、俺は思わず居住まいを正す。


「私達、一緒に寝なくちゃだけど、お願いだから変なことしないでね?」


 あ、これガチなお願いだ。しゅん。

 俺は自分でもびっくりするくらい急落したテンションを必死で隠し、呆れた素振りで言った。


「お前が俺をどういう風に見ているか知らないけど、俺はそんなことしないよ」


「うん、信用してるからね。私、心から好きになった人じゃないと本当に嫌だから。お願い……お願いね?」


 それはフリなの、と疑いの余地がないレベルで切実な声色であった。

 もはや真剣な顔で頷くほかない。


 それから、俺達は一つの寝室を選んだ。

 どの部屋も造りは同じで、ベッドとサイドテーブル、三人掛けの丸テーブルがあるだけの簡素な部屋だ。タンスやクローゼットなどの収納が無い点だけ違和感を覚えた。しかし、よく考えればロロティレッタのコートは亜空間収納なんて機能がついているみたいだし、宿泊所に収納を置く意味があまりないのかもしれない。

 ベッドは少し大きく、シングルとダブルの中間くらいのサイズだ。俺はベッドに殊更興味がなかったので、サイズの名称は不明。


 もちろん、お互いにベッドの上で眠る。

 え、俺は床や椅子に座って寝るとか嫌ですが、何か?

 というより、俺は同じ部屋の中にいるのだから、襲うつもりなら俺がどこで眠ろうがあまり関係がない。


 それから寝る支度を済ませると、俺達はベッドに入った。


「それじゃあ、おやすみ」


「……うん」


 俺の就寝の挨拶に、ロロティレッタは若干緊張した返事をする。

 ベッドの端と端で、お互いに背を向けて目を閉じる。


「……」


「……」


「なあ、明かり消さない?」


「え、あ、うん」


 俺の言葉に、はたとしたような返事をしたロロティレッタ。何をした風でもないのだが、返事の直後に明かりが消えた。


 暗闇に包まれた室内は、外の嵐が嘘のように静寂に包まれていた。

 自分の立てる衣擦れの音に妙な気まずさを覚え、ロロティレッタが立てたベッドの軋みの音にいちいち心臓が跳ねあがる。

 さらには掛け布団が一枚しかないので、凄く気を遣う。こんな事なら隣の部屋のベッドから掛け布団を持ってくれば良かったと激しく後悔。だってだって、一つの掛け布団を美少女と分け合ってみたかったんだもん……っ!


 こんなんじゃあ眠れるわけがねぇ。

 そう思っていたのだが、俺も今日は精神的に疲れていたのか美少女との同衾にも関わらず、いつしか微睡、やがて夢の中へ落ちていった。まあ体感で3時間はモンモンし続けた後だけどね!


 そして、早朝。

 確かに掛け布団をかけて寝たはずの俺の上から掛け布団が無くなっていた。

 横を向けばロロティレッタが丸められた掛け布団とイチャイチャしながら、やや半笑いな顔で眠っている。

 思い出するのは、導きの群島で見たロロティレッタの寝相。あの時と同じ寝相だ。


「これは悔しがればいいのか、ホッとすればいいのか」


 なんで俺を抱き枕にしないんだ、という気持ち半分。

 これで俺が抱き枕にされてたら誤解を解くのに大変だった、という現実半分。


「だけど、夢じゃなくて良かった」


 俺はこの幸運が夢オチでないことに心底安堵した。

 ロロティレッタとこれからどうなるか分からないが、少なくとも日本で疲れ切った眼をしながら社畜をするより、よほど生を実感できる暮らしが出来るだろうから。




 あの適当な天気予報が告げた通り、台風一過、今日は青い空が広がっていた。

 昨晩決めた通り、俺達は宿泊所を後にしてウェルクの町へ向けて歩き出す。


 なお、ロロティレッタを起こす際にこれと言ってトラブルなどなかった。

 寝起きの彼女からビンタを貰うリスクがあるので、賢明な俺は離れた場所からガンガン声を掛けたのだ。もちろん朝ゆえに全力全開な野獣を落ち着かせてからな。

 ただ、目覚めて俺の顔を見るなり、顔を真っ赤にして頬を膨らませたのは可愛かった。きっと寝顔を見られたのが嫌だったのだろう。


 さて、この道は海沿いを走っており、左手に砂浜と海、右手側は礫岩と丘陵が頭を連ねる草原が広がっている。道自体は綺麗なタイル張りで、少し不安だった水溜まりなどはなかった。


 青い空には白い雲がゆっくりと流れ、エメラルドグリーンの海は朝日を浴びてキラキラと輝く。

 海から吹く風が丘陵を緑に染める草を波立たせ、まるで海の波がそのまま草原を駆け抜けるようだった。


 そんな草原では、モグラみたいな手を持ったトカゲが、俺達の姿を発見するや否やすぐさま穴を掘って、その中に逃げ込む姿が見られた。


「ふ……ふはっ!」


 これだよ、これ!


「ふはははははっ! 俺は今、異世界に居る!」


 道を歩き出して5分。

 昨日から我慢していた俺のテンションがついに爆発した。


「なあなあ、ロロティレッタ! あの生き物見たか!? あれってなんて生物だ!? 動物? それとも魔獣!?」


 キョトンとするロロティレッタに詰め寄って何アレ小僧と化した俺。詰め寄られた彼女は目を白黒させた。


「あ、あれは土堀ウサギっていう魔獣だけど」


「おお、魔獣! すげえ! 俺でも倒せるか!? なあなあ!」


「ちょ、なな、なんでいきなり、う、うぅ……な、馴れ馴れしいわよ! もっと離れてよ!」


 目をギュッと閉じて、怒鳴りつけられた。


 は、はわ……しゅん。

 超絶美少女に拒絶された俺は、テンションが急落すると同時に恐怖した。距離感を間違えた。


「ご、ごめん。その、他の世界が初めてだからちょっと興奮しちゃった。ごめんね?」


 俺が謝ると、ロロティレッタは少し罰が悪そうな顔を一瞬見せてから、唇を尖らせた。

 俺のしょんぼり具合に罪悪感でも感じたのか、ロロティレッタが説明を始めた。


「……魔獣の強さは同じ種でも強かったり弱かったりするわ。人と同じ」


「へえ、そうなんだ」


「……」


「……」


 え、それで終わり? もうちょっと説明してくれていいんだよ?

 しかし、ロロティレッタはつまらなさそうに唇を尖らせて、歩いて行ってしまった。


 む、むぅ、昨日はちょっと良い感じになったかなと思ったんだけどな。

 ロロちゃんはちょっと気難しい女の子なのかな?

 彼女いない歴=年齢な異世界初心者には、ハードモードな相棒なんだけど。


 ロロティレッタとの関係はこんなだが、異世界の情景は俺の心を大いに慰めてくれた。


 地球とは異なる進化を遂げた末に生まれた移動する植物や、魔法の力を借りて自然界を生き抜く様々な姿の生き物たち。

 そう言った動物たちが織り成す弱肉強食の理がリアルタイムで繰り広げられる様は、日本ではそうお目に掛かれないものだった。


 そうかと思えば、なにこれセーブポイント!? と思うようなキラキラと輝く光の柱が道の端にあったり、レーザー光線で穿たれたような穴を開ける巨石があったり、自然すらも俺を驚かせてくる。


 そんな風にあっちこっちに気を散らす俺だから、前を歩いていたロロティレッタはいつしか俺の後ろを歩き出した。

 俺が異世界に夢中だったために、歩行のリズムが何度か狂ったからだ。5メートル以上離れようとすると足が動かなくなると言うのは、こういう事態も起こるのである。

 っていうか、それなら隣を歩いてガイドさんしてくれればいいのにね。コイツはむすっとして、やってくれそうな雰囲気じゃない。


 途中、何度か休憩を挟み、業務連絡的な会話が数回。

 そんな道中に、事件は起きた。


 そこは防風林のように道の左右に薄い林がある場所だった。


「止まって!」


 焦ったようなロロティレッタの声に、俺は体をビクつかせて足を止めた。

 何事かと尋ねるより先に、彼女がなぜ注意勧告したのか理解した。


「おわっ、なんだアイツ」


 別のところを見ていたから気づかなかったが、前方の道の脇でなんか変なのがボヨンボヨン飛び跳ねているのだ。距離にして4メートルと言ったところか。割と近くてマジでビビった。

 その身体のフォルムは、バスケットボールに緑色の毛を付けたような感じ。地面に接地すると身体がブヨンと潰れ、その反動でまた跳ねる。


「フサポヨだわ」


「フサポヨって見たまんまじゃねえか。で、魔獣なのか?」


「魔獣はどんなに弱くても道に張られてる結界内に入れないわ。だからアレは動物」


「なるほど。っていうかお前はなんで俺の後ろに隠れてんだよ」


 例外を除いて昨日から今の今まで、5メートル制限やテーブルなどの遮蔽物をうまく使って俺から離れていたくせに、身の危険があるとこれですか!?

 室内では見られなかったロロティレッタの知られざる一面に触れて、俺もほっこり……しねえよ!


「う、うっさいわね、細かいこと気にしてんじゃないわよ!」


「ふわっ逆ギレ!? そろそろ引っ叩いても世論は黙認してくれる気がしてきたんだが……まあいいよ。で、盾にされている現状で聞きたくないんだが、危険はあるのか?」


「フサポヨなんて学校の飼育小屋くらいでしか見た事ないし、野性種の強さなんて分からないわ。ゼットが壊れてなければスキャンアプリを使えたんだけど……あ、でも待って。そう言えば良いのがあったわ」


 ロロティレッタはそう言うと、俺の後ろで何やらごそごそ。きっと、またコートの中を漁ってるのだろう。俺はいつでも対処できるように、フサポヨから目を逸らさない。


 ロロティレッタは俺の身体をしっかり盾にしつつ、チキッとわずかに音を鳴らす何かをした。

 何をしたのか凄く見たいが、野生動物は目を逸らすと襲ってくるらしいので、目を逸らせない。まあ毛で覆われているのでどこが目か分からんのだが。


「なにしてんの?」


「能力測定よ。この前、能力スキャナーをゲームの初回特典で貰えたの」


「ゲーム特典って。どんな文明だよ」


「えっとなになに……ウィルク・フサポヨ。種族レベルは6。個体レベルは3。魔力量は145。総合戦闘力は……なんだたったの30。はっ、カスじゃない」


 フサポヨの能力値を読み上げたロロティレッタは強気な発言で締めくくると、俺の後ろからずずいと姿を現した。

 毛先に薄紅色が混じる翡翠色の髪をファサッと横に払い、片手を腰に添える姿は、一見すればふてぶてしい態度で強者に抗う心強き者の姿。しかしてその実態は、弱者に強い者の後ろ姿であった。最低な女である。


「お、おい。大丈夫なのか?」


 思い出すのは、導きの群島にて長い四肢の無駄遣いとしか言えない喧嘩殺法を放ってきたロロティレッタの姿。

 それなのにどうしてそんなヤ無茶する。魂の双子になってストレスたまっちゃったのか?


「はっ、なにビビってんのかしらね。フサポヨはね、私達の結界を利用してる雑魚のくせして、たまにお父さんフサポヨがこうやって調子くれるのよ。前に生き物ワクワク紀行でやってたわ」


「い、いや、調子くれてるのは完全に……」


「飼育小屋に居るヤツみたいに草むらのフリしてれば安全なのに、まったく。ほらっしっしっ! 擬態ぐらいしか能がない分際でゅふぅ!」


 如何にフサポヨが取るに足らない存在かため息交じりに説明するロロティレッタへ、フサポヨがまさかの攻撃。

 バスケットボールサイズの生物がボディに突き刺さり、彼女は尻もちをついてから、お腹を押さえて丸くなる。流れるような動きのやられっぷりだった。


「ひっ、ひぅううう、いたっ、やめ、やめてぇええ」


 そんな彼女に追い打ちとばかりに、ボヨンボヨンとジャンプ攻撃を繰り出すフサポヨ。


 ふと見ると、お父さんの雄姿でも見ているのか、中サイズと小サイズのフサポヨが防風林の合間から顔を半分出していた。毛むくじゃらで見えないが、きっと子フサポヨはキラキラした目をしていることだろう。お父さん、そんな高慢ちきなクソ女やっつけちゃえ! そんな声が聞こえるようだ。


 一方お父さんフサポヨにボコられているロロティレッタ。

 最初の一撃こそ痛そうだったが、追い打ちは決して痛そうではない。なにせ彼女の上でポヨンポヨン弾んでいるだけだし。


 しかし、ここは異世界だ。

 レベルとかファンタジーな単語がさっき飛び出したし、万が一、HP的な要素があった場合、不思議な原理によって弱攻撃の連打でも死を迎えるかもしれない。

 うん、早く助けてやろう。……存分に恩を与える感じでな。


「ロロティレッタぁああああ! クソッ、離れろよぉお!」


 焦りと怒りの混ざった叫びを上げた俺は、しかし、その叫びとは裏腹にとても冷静にドライブシュートを決める。

 思いのほか筋肉質だったフサポヨの体にちょっと足首が痛かったが、強引に振り切る。フサポヨは防風林を越えて、砂浜にどしゃりと落ちた。そんなお父さんフサポヨの姿を追って、他のフサポヨ達も砂浜へ飛び跳ねていく。

 初戦闘は大勝利である。


「はぁはぁ……ふぅ、もう大丈夫だ、ロロティレッタ」


 まったくもって余裕だったが、必死さをアピールしたい俺は肩で息をして彼女に話しかける。

 彼女は涙が溢れた目で俺を見ると、地面に蹲ってわんわん泣き出してしまった。


「ひ、ひぅううううぁああわんわんわんわん!」


 この子、こんなんですけど、ソシャゲなら堂々の最高レアリティを張れそうな只者じゃない雰囲気の美女なんですよ。

 なんという見掛け倒し。

 レベル3の敵を盛大にディスり、そんな相手にアッと言う間にノサれるセンス。

 ふふっ、いいぞいいぞ、ロロティレッタ。お前の素敵な一面をもっと俺に見せてくれ!


「ふぁああああんあんあんあん!」


「怖かったな。大丈夫、もう大丈夫だよ」


 とりあえず、俺以外の原因で泣いている今こそ好感度を上げる大チャンス。俺はせっせと慰めることにした。

 背中をなでなでしつつ、脳に染み込むように優しく声を掛ける。もう片方の手でロロティレッタの手を握ってやると、不安からか彼女もまた手を握り返してきた。

 ふふふっ、良い感じだぜぇ!



 読んでくださりありがとうございます。

 次話は本日12時予定です。

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