2-12 魔王軍侵攻戦 スタート
よろしくお願いします。
ちょっと長くなったので、今日はもう一話あります。
ネチッ、クッチュ、ンッチュと音が鳴る。
フィーちゃんがフゥーフゥーと腕を振り。
シルニャンさんが仮面の上から両手で顔を隠し、指の隙間からガン見し。
垣根を形成する少年少女が、赤面したり、殺気立ったり、手をブンブン振ったり。
色んなところから、にゃー、と鳴き声があがったり。
そんな嵐の中心で俺達はキスをした。
ロロはだいしゅきホールドで、それを支える俺は腰と背中に手を回し。
甘い毒が絡み合い、たっぷり30秒。
本能で生きる動物みたいな感じだった。
「ぷはぁ……休憩すぅ?」
放送事故であった。
これと言ってお咎めはなかったが、俺は凄まじいやっちまった感に、砂浜で座りながら遠い目をした。
空も海も青いなぁ。
「まあまあ、大丈夫ですよぉ!」
目の前でふよふよと飛ぶフィーちゃんが、俺を励ました。
「そうだと良いんだけど」
「気にしすぎですってぇ。愛月の恋人は頭のネジが緩いって言うのは常識ですから!」
凄い言われよう。
だけど、愛月の町での有様を見てきた俺には反論の言葉がなかった。
今考えれば、ターミナル前広場を囲う建物が全部休憩できるところっておかしいじゃん。頭のネジゆるっゆるだよ。
「そうよ、コウヤは何も悪くないわ。私だけは分かってるから」
全ての元凶が全責任を俺に押し付けてきた。
たぶん、お前以外の人の方が分かってくれてるよ?
「ねっ、だから元気出して? ほらっ、元気になーれ元気になーれ」
ロロは元気にさせようと、耳元で囁く。
なにこれ凄く元気になる。そして凄く帰りたくなる。
今日にでもまた言ってもらおうと心にメモした。
「元気になーれ元気になーれですぅ」
逆サイドの耳でフィーちゃんも囁く。
甲高くも可愛らしい声にリンクさせて、ちっちゃな手で耳たぶをもにもにしてくる。
不覚にもさらに元気になった。
俺が元気になるのと時を同じくして、案内の放送が流れた。
『まもなく11時より、魔王城攻略戦第一部、魔王軍侵攻が始まります。参加者の皆様は、集合場所に移動してください。繰り返します――』
俺はすくっと立ち上がり、お尻についた浜の砂を落とした。
さらにロロが俺のお尻をペシペシ叩いた。たぶん俺がやっただけで落とせていたはずなのになぁ。
「よし、それじゃあ二人とも行こうか」
「ええ、行きましょう!」
「ぼっこぼこにするですぅ!」
力強い二人の言葉に、俺はコクリと頷いた。
魔王城攻略戦は2部構成だ。
1部は魔王軍侵攻、つまり防衛戦である。
2部は魔王城攻略、つまり侵攻戦である。
1部はポイントで順位がつけられ、ランキング上位の者が2部に進出できる。
では、1部のルールを説明しよう。
1部は防衛戦というだけあり、防衛ゾーンがある。
そこに敵を侵入させると、敵の強さに応じてランダムで選ばれたプレイヤーのポイントが減少する。選ばれる人数は敵の強さに関わらず50名なので、運の要素も強い。
侵入した敵はその時点で消失する。
敵の種類は様々で、強さの強弱はもちろん、倒すと一度だけポイント減少を回避できる敵なども存在する。また敵の階級で加算されるポイントが変わるぞ。
ポイントを獲得する方法は様々で、その詳細は明示されているがかなり多いので割愛する。っていうか俺も覚えてない。
・敵の撃破。
・敵増援クリスタルの破壊行動に参加。
・敵拠点ゾーンへ侵入して巨大クリスタルを破壊、もしくはその行動に参加。
この3つが高得点なだけ覚えておけばいい。特に一番下は相当に高得点。
なんにしても、とにかく活躍すれば良い。
また、防衛戦でプレイヤーが撃破されると、そのプレイヤーは防衛戦終了だ。
それまでに得たポイントでランキングに挑むことになるのだが、撃破されてもポイント減少判定に参加させられるので運が悪ければもりもり減っていく。
なお、ポイントはマイナスにもなるぞ。
プレイヤーは、ソロでもパーティでも参加できる。
パーティの場合は、最大で6人まで。
ランキングは、パーティ全員のポイントの平均値で競う事になる。
このイベントに参加するのは、中学生、高校生、義務冒険者1年、2年だ。
一般人と上級冒険者は魔王城攻略戦には出ない。
一般人も強い人は多いし、上級冒険者は言わずもがな。
だから、格下と歩調を合わせるとどうしてもゲームバランスがおかしくなってしまうから、このイベントには出れないのである。彼ら向けのイベントは別にあるみたいだな。
中学生も出れるんだな、と思ったけど、彼らは戦闘技術を学んだりする部活動をしているみたい。高校生も同じだ。
下手をしなくても俺よりも強いんじゃないだろうか?
「ちなみにロロは何部に入ってたの?」
「私? 私はテーブルゲーム部よ。私にテーブルゲームやらせたら超強いからね」
マニアックな部に入っていた。
今度一緒にやってみよう。実力伯仲だったら二度とやらんかもしれないが。
さて、参加者集合場所に行くと、大きなホログラムの地図が表示されていた。
その下には読み込みコードがあり、自分のゼットに同じ地図を表示できるみたい。
まず間違いなく重要アイテムなので、俺達は地図をゲットし、ホロビュー機能で自分たちの回りに表示させることにした。
俺達はスタートライン付近に移動して、作戦会議を始めた。
防衛戦のフィールドは、超巨大なバーチャルフィールド(VF)だ。
特別強化訓練でお世話になったコノハスライム地獄の超巨大番である。
その範囲は4キロ四方。
拠点ゾーンから出るとすぐに草原エリアが現れ、そこを過ぎると、渓谷、森、渓谷の3つのルートが現れる。
そこを抜けるとまた荒野があり、敵の拠点ゾーンが存在する。
全てのエリアには、敵増援クリスタルが点在している。
なお、このVFは特別仕様なのか、普通の魔導装具を使用できるみたいだな。
「作戦会議を始めます」
「ぶっ殺しまくるですぅ!」
フィーちゃんがゴーゴーとばかりに腕を上げて、言った。
良い感じに温まって怖い。
「良い作戦だ。じゃあみんなでガンガン倒しに行く感じかな?」
「まあ待ちなさい」
テーブルゲーム部部員が待ったをかけた。
ロロは、ホロビュー地図を見つめて、何か納得したようにコクリと頷いた。
キリリとしたその横顔は、奇策を思いついた戦乙女のよう。
ゴクリと唾を飲み込んで見守る中、ロロはおもむろに口を開いた。
「じゃあガンガン行きましょう」
今の思わせぶりな態度は何だったのか。
「進攻ルートはどうする?」
「手あたり次第ぶっ殺すですぅ! 押忍押忍押忍ぅ!」
「へへっ、味方にいるとこれほど頼もしい存在はいないな。マジで撃破されないでね?」
「大丈夫ですよぉ! 私にはタンポポ真拳がありますから! 押忍押忍ぅ!」
「まあとりあえず近くのクリスタルから回ろうか。そんで、俺としては渓谷に行きたいな」
「バカね。ダメよそれじゃあ」
ツンッと俺の鼻を突っついてロロが言ってきた。
ボディタッチが好きな彼女である。
昔の俺なら油が浮いてないか気になったところだけど、最近は化粧水なんか使ってるので、鼻の頭も綺麗なもので、いつでもウェルカムだ。
「近くのクリスタルはみんな狙うから、遠くのを狙うわよ。私達は機動力があるんだから」
確かに一理ある。
俺は鎖移動で、フィーちゃんはぴゅーんと飛べる。
「じゃあ、ロロは全力ダッシュか。頑張れよ?」
「にゃんっ、すぐ意地悪言うー。お姉ちゃんを上手に運べたらご褒美上げるから、ねっ? コウヤきゅんは上手に出来るかな?」
そう言いながら、ロロがコートの内側からチラリと羽を見せてくる。
俺は震える手で胸を押さえ、コクリと頷いた。
凄まじい業が取り返しがつかないレベルで俺に刻み込まれていた。
「こっち行って、こっち行って、こっち行って、ここーっ!」
「ドグシューッですぅ!」
お姉ちゃん軍師が地図の各地点を指でぺっぺっぺっと示していき、進攻ルートを最終確認。フィーちゃんが、ラストに物騒な効果音を入れた。
机上の空論とはよく言ったものだ。強い敵に出会って手こずるとか考慮に入ってない。まあそれもよし。
スタート100秒前になりカウントダウンが始まった。
ある者はスタートダッシュを決め込もうと気合を入れ。
ある者は緊張からかわたわたし。
またある者は戦場であるにも関わらず、男の背中におぶさって密かに男の乳首を触りだす。
ちょまっ、振動魔法らめらってぇ……っ!
そんな自陣と対面する形で、100体あまりの魔獣型の敵が草原に現れる。
「え、なにこれ凄い迫力なんだけど」
「うぉおおおおお! 押忍押忍押忍ぅ! 皆殺しですぅ!」
「え、なにこれ凄い迫力なんだけど」
「ここが良いんでしょ? 戦場なのに本当にどうしようもない駄馬ね。ふぅー……」
「んぁ、にゃにこぇ、最大の敵が背中に乗ってるんらけろぉ」
これが戦場の熱で興奮するって現象なのか。
早くこんな悲しい戦いを終えて、幸せな家に帰ろう……おっと、死亡フラグはダメ絶対。
カウントが30秒を切り、俺は涎を拭って、ロロの額にデコピンを入れた。
ロロもさすがに気持ちを切り替えて、俺の首に絡めた腕に少しばかり力を込める。
フィーちゃんは相変わらず押忍押忍している。怖い。
「ロロ、魔力交換。最大で」
「愛の力ね!」
「だな」
俺達は魔力を交換し合った。
口の中をとろりとした極上の甘露が支配する。
最近は愛を混ぜ合わせるように魔力交換し合っていたので、自然、口の中に唾液が溜まった。きっとロロも同じだろう。
「「「3」」」
カウントダウンの合唱が始まった。
「キスしたくなっちゃった」
合唱する声に隠れて、ロロが俺の耳元で甘く囁く。
やっぱりお前もそう思うか。
「「「2」」」
俺はその声に少し口角を上げながら、チロリと唇を舐めた。
そうして、前方へ向けて手を突き出す。
「「「1」」」
フィーちゃんと目配せして、いよいよその時がきた。
「「「0!」」」
ブザーの音と共に、魔王軍侵攻戦が始まった。
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