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2-11 インタビュー

よろしくお願いします。

 参加者集合場所に行くと、結構な数の参加者でごった返していた。

 これから受付をするみたいで、みんなきっちりと並んでいる。

 受付には種類があるみたいで、それを整理するのはプラカードを持ったお姉さんたちとホログラムのレーン。


「ねえコウヤ、私達ってなに?」


「恋人」


「な、なんだってぇ!?」


「知らなかったの?」


「知ってたぁ、しゅきぃ」


「俺もーっ」


「うふふっ、お二人は会うたびに頭おかしくなってますねぇ!」


 フィーちゃんが毒を吐いてきた。

 稀に刺しに来るんだよな。たぶん妖精流のジョークなのだろう。

 ただ、ジョークではあるが事実であった。


 そんなフィーちゃんは俺が肩車してあげている。首筋になんとも微妙なプニプニ感が。なにせ中学生女子をそのまま50センチに縮めたような身体なので、肉の厚さも相応に薄いのだ。赤ちゃんなどのプニプニボディとはちょっと違う。


 さらに今のやりとりでロロが左腕にしがみ付いてきた。

 こちらはやわやわぬくぬくボディだ。


「俺達は義務冒険者受付だな」


「じゃああっちだね、行こ」


 俺は左腕をそのままロロの腰に回して歩き出す。

 首周りにはフィーちゃんがガシンッ!

 最強装備であった。

 昨日から今朝方まで続けられた超運動と苛烈なドレイン、そしてその後の2時間睡眠が、いよいよもって俺に正常な判断力を失わせていた。じわじわと太陽が俺を追い詰めるんだ……っ。


 そしてやってきた義務冒険者受付ゾーン。

 高校を卒業しすぐ、あるいは1年ほど経った若人たちが集う場所。

 俺は軽く畏怖と尊敬の眼差しを向けられた。


 テフィナ人の恋愛観……恋愛の手順かな? それは地球人と異なる。

 愛月を深めなければ性交ができないために、まずは相手の心を欲っする。

 一生懸命アピールして、好きになってもらい、さらにお互いを知ってもらって、そこで初めてキスを……愛月を始める。

 一晩限りの関係だとか、異性を食い散らかすなんてことはしない。愛月が組み込まれた進化により、テフィナ人はそういう遺伝子的精神構造になっているのだ。まあ愛月があるんで、ヤろうとしても出来ないのだが。


 だから、若いうちから相手の心を得て愛月を始めた男女の姿は、ある種壮大なラブストーリーを他者に想像させる。

 もちろん、多少は珍しいだけであり、俺達以外にも年若い愛月の恋人はたくさんいるぞ。愛月の恋人になっていないカップルなら、日本ほどではないにしてもそこら中にいる。


 列の進みは凄く早かった。

 その原因、というか受付の仕組みが、機械に身分証を押し当てるだけだからだ。

 これで受付完了。しかもそんな機械が各受付に3台ずつ設けられているので、ほぼ歩く感じの列の進みであった。


 参加受付が終わり、俺達は案内に従って義務冒険者待合ゾーンで待機。

 そこには500名ほどの義務冒険者が居た。


「これに参加する人たちって、みんな俺達みたいに参加を打診された人なの?」


 俺は二人に問うた。

 答えたのはフィーちゃん。


「参加枠によって募集の仕方が違いますぅ。例えば、義務冒険者枠の場合は3割が推薦ですねぇ。つまり私達ですぅ。残りは、参加申請した人の中から抽選ですねぇ」


「え、俺達は推薦されたのか?」


「推薦枠は、推薦だけでなく、そのシーズンに注目を集めてる人なんかにも話が来るみたいですねぇ」


「へぇ、なるほど。フィーちゃん詳しいね」


「はいー、せっかく参加するのでちゃんと調べてきましたぁ!」


 フィーちゃんは俺の耳をビーンと引っ張って遊びながら、元気に言った。


「さ、さすがだね!」


 妖精さんが真面目で辛い。

 それなのに、フィーちゃんが調べている間、俺達は……っ!


 もしかしてシャイニング・ブラスターしている瞬間だろうか?

 それともお花にお水をあげる優しいロロに、耳元でドSな言葉を囁いた時だろうか?


 ナニをしていたにしても、罪悪感と背徳感がフィーちゃんの重さの分だけ両肩にずしりとのしかかる。軽い。


「あっ、コウヤさん。見てください、インタビューされてますよぉ」


「ついに来てしまったか……」


 肩車しているフィーちゃんがそれをいち早く発見して、報告してきた。


「大丈夫ですよぉ、全員がインタビューされるわけではないんですから。私たちのところになんて来ませんって!」


 全員がインタビューされないという事実にホッとするも、フィーちゃんはそのままさらりとフラグを立ててきた。

 これはたぶん、来る。


 とりあえず、どんな様子なのか見てみようか。

 インタビュアー側は地球のそれと大して変わらない。ただし、カメラはファン○ルみたいに浮いている。

 受け手側の義務冒険者の女の子二人は、ダブルピースをして答えた。


「おかあさーん、おとうさーん、見てるぅ!? 頑張るからねぇ!」


「にゃふーっ! アレックス君見てるかぁ! 私頑張るかんねぇ!」


 可愛い。


 なるほど、ああいう感じで良いのか。

 アレなら余裕だわ。レオニードさん見てるぅってやればいい。


 別の方を向くと、また違う子がインタビューされていた。

 インタビュアーは何人もいるみたいだ。妖精さんを肩車してるし、誰かしらに狙われる可能性が高い。


 ん?

 今インタビューされている子はさっき見たボスキャラっ子だな。

 あの子、義務冒険者枠の参加者だったのか。中ボスと言われても納得だったんだが、ただの中二さんだった模様。


 中二さんの痛々しいファッションに、されどインタビュアーはにこやかにインタビュー。

 たぶん、テフィナでは普通のファッションや属性の一つなのだろう。裏原系ファッションのギャル、的な。


「カッコいい恰好ですね! まるで魔王ちゃんが紛れ込んでいるかと思いました! お名前を教えてください!」


 俺もそれ思った、とインタビュアーに共感。

 マイクを向けられた中二さんは、答えた。


「私は闇に堕ちた者シルフィーナ・シーラン」


 シルフィーナさんというらしい。

 ……どこかで聞いたことがあるような気がするぞ?

 ヤバいな、ロロの苛烈な羽攻めにより、本格的にIQが下がっているかもしれない。


「シルフィーナさんですね! あれ、もしかして今人気のシルニャンさんでは?」


「シルニャンは死んだ。ここにいるのはその抜け殻。闇堕ちシルニャンよ」


「ゴクリッ」


 頭おかしいセリフにインタビュアーも喉を鳴らす。

 彼女は有名人のようで、彼女のインタビューは注目されていた。

 気づけば人垣が出来ており、俺達からそう離れていない場所だったので、俺達は最前列だ。


 シルフィーナさんは、インタビュアーから少し離れると魔導装具を展開した。

 生き物の臓器で造られたような血管の浮き出た巨大戦斧。斧の中心にはギョロリとした目玉。

 それは中二病の町ブレイヤで売っていた、超禍々しいフォルムのルビカンテ・闇堕ちモデルだった。


 たぶん、ここで見ているみんなが思ったはず。

 うわー、と。


「魔王はこの斧で私が滅す。そして私は次代の魔王となりこの世界を破壊する」


「気合入ってますね!」


 それどころじゃないセリフなんだが、中二さんだし仕方がない。

 ちなみに、魔王ちゃんを倒しても次代の魔王にはなれない。


「そして……」


 シルフィーナさんは天高く上げた人差し指を、スッと振り下ろして一人の人物を指さした。

 ロロであった。


「魔王の次はお前だ、ロロティレッタ!」


 ゴクリッ。

 垣根を形成する少年少女の喉が鳴った。


 っていうか、え、知り合いだったの?


 必然的に、インタビュアーの回りで飛ぶカメラも俺達を追いかけ始める。

 俺の腕から抜け出たロロは、一歩前に進み出るとふぁさりと髪を横に払った。


「ふん、誰かと思えばただのシルニャンじゃない」


「今の私は闇堕ちシルニャンだ! お前への憎悪が私を闇の世界へ引きずり込んだ!」


「ぷはっ、闇堕ち!」


 この前眼帯デビューした女がシルニャンを小ばかにしたように笑った。

 ギリッとシルニャンが歯噛みする。


「そんなもので、光纏う愛され猫に超覚醒した私に勝てるのかしらね? あ、この人私の彼氏でーす!」


「あ、ども彼氏です」


「どもども友人ですぅ!」


 巻き込まんで欲しいのだが、紹介されてカメラまで俺に向けられてしまったので頭を下げておく。肩車しているフィーちゃんもカメラに手を振った様子。俺の位置からは見えないので勘。

 しかし、ちゃんと良い感じのセリフを考えておいたのに、この雰囲気では使えなかったな。


「にゃー。ふぐぅ、そ、そんな人よりも私良い人見つけますぅ!」


 シルフィーナさんは手をブンブンさせて悔しがった。

 そこで俺はハッとした。

 仮面つけてたし分からなかったけど、この子、この前俺が助けた女の子だ。


 ということはこのいざこざは……俺が原因!?

 や、やめて俺のために争わないで、とか言った方が良かったか?


「無理ですぅ! 私の彼氏テフィナ一カッコいいしぃ!」


「た、確かにカッコいいけれど! だけど、他に良い人なんていっぱいいるもん!」


「いませんーっ! 世の中はコウヤとそれ以外の男ですぅ!」


「ひぅううう、く、狂ってる……っ」


「なんだとコイツ、ニャギャシャーッ!」


「ひゃぁああ、ふ、フカーッ、フカァーッ!」


 ロロの力強い威嚇と、シルニャンの負け猫な威嚇がぶつかり合う。


 彼女たちの諍いはスルーされ、インタビュアーは俺とフィーちゃんの下へやってきた。

 ついに来てしまったか……


 まずはクルーの人が俺にインタビューの了承を得て、カメラが向けられる。


「こんにちは。素敵な彼女ですね」


「ありがとうございます。最高の彼女です」


「おお、熱々ですね! ご馳走様です。ところで、あなた達はシルニャンさんと因縁がありそうですけど、もしかして例の動画の男性じゃありませんか?」


「あ、はい、たぶんそうです。自分では見てないので正確には分からないですけど」


「やはり! いやー、私も見ましたよ。とてもカッコ良かったです! まだ見てない人のためにオチは言えませんがね!」


「ははっ、なんにしても事故が無くてよかったです」


「そうですね。おっと、あまり話し込んでしまうのもいけませんね。それでは最後に、今日の意気込みをお願いします」


 前振りが終わり、インタビューらしい質問が飛んできた。

 さあ、いざ普通に行くぞと気合を入れて口を開こうとしたら、インタビュアーさんが無茶ぶりしてきた。


「是非、カッコいい感じでお願いします」


 普通、こんな要求あるのかな?

 しかし、きっとレオニードさんが見ているだろうし、楽しんでもらいたい。

 旅の恥はかき捨てだ。やってやる。

 というか、シルニャンがすでにヤバかったし、大丈夫だろう。


 俺はインタビュアーから少し離れ、フィーちゃんと合体解除。

 ロロとの甘い日々を思い出し、頭のネジをふっ飛ばす。最愛の人に流転花された俺だ、もはや羞恥心などあってないようなもの!


 未だ人垣は健在。

 その中央で、俺は顔の前でカッコよく構えた手に魔導装具を展開した。

 光の粒子を纏って具現化した手袋から瞳を覗かせ、カメラ目線で言い放つ。


「魔王、見ているか。お前の野望も今日で潰える。テフィナで暮らす人々の想いの力を知るがいい! 見よ、これが反撃の狼煙だ!」


 そして天に向かって鎖を放出した。

 鎖と腕の回りに魔法陣が形成され、俺の身体が良い感じにキラキラしている。


「「にゃー」」


 ロロとシルニャンが喧嘩をやめて、猫みたいな声を出した。

 そして、フィーちゃんがノリノリで俺の演出に混ざった。


「魔王! 私とコウヤさんの愛の力がお前を打ち倒しますぅ! お花さん力を貸して、なぁー!」


 鎖を消失させて魔法陣の残滓がキラキラ舞い降りる中で、俺と真っ赤な闘気を纏ったフィーちゃんがポージング!


「にぇえええっ!?」


「プギャーッ!」


 フィーちゃんの悪ふざけに驚愕したロロを、シルニャンさんがプギャーする。

 そんなシルニャンさんにローキックを入れたロロは、すぐさま俺の下へ駆けてきて、ジャンピングだいしゅきホールド。


「フィーちゃん、コウヤは私んだよぉ! ンチューッ!」


「むぐぅ……っクチュー」


 生放送で舌を突っ込まれた。

 俺も脊髄反射でロロを抱きしめて舌を絡め、純魔力を流し込む。

 生放送で、蕩けるほど甘いキスが交わされる。

 俺だけではなく、ロロも寝不足で頭がおかしくなっていた。


「ひゅーっさすがロロちゃんですぅ! カメラの前なのに最高にクレイジーですぅ!」


 フィーちゃんがぶんぶん手を振った。

 もしかしたら、俺達がいつもイチャコラしているのを見せられてストレスたまっているのかもしれない。


「「「「にゃー」」」」


 会場中で猫が鳴いた。


読んでくださりありがとうございます。

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