2-10 イベント会場でイチャつく
よろしくお願いします。
トランペットの荘厳なメロディを奏でた。
公園内にいる全ての人が音の出どころを探す様にキョロキョロとあたりを見回し、一人また一人と同じ方へ顔を向けていく。
女性陣が俺達の下へやってきた。
「始まるみたいね」
「みたいだな。俺達も見に行こう」
ロロの言葉に答えながら、俺は立ち上がった。
気を遣ってくれたのか、クリスちゃんがクーファ夫妻に拘束され、同じくフィーちゃんもクリスちゃんを構ってくれる。
残された俺達は、手を繋いでゆるゆると歩き出す。
後ろに居た人達がおおはしゃぎで駆けて行き、どんどん追い越されていく。
「魔王ちゃんってのは結局なんなの?」
「まぁ、彼女に他の女の子のこと聞くなんて最低」
「そうか? 彼女を絶対的に愛してるなら良いじゃない?」
「一理ある。アンタ、私のこと好きすぎじゃない?」
「うん。自分でも、自分がこんなに女の子を好きに思うとは思わなかった」
ロロは大きな口をむにむにさせてから。
「よしっ、帰ろっか!?」
「実に魅力的な提案だけど。まあ、せっかく参加させてもらえるんだし、頑張ろうぜ。二人で一生の思い出にしよう」
「ほらまた帰らせようとするぅ! そう言うこと言われると、休憩したくなるんだけど。やめてくれない?」
もう俺が何を言っても発情し始めるんじゃないかと疑い始めている俺がいる。
「で、魔王ちゃんは結局何してる人なの?」
「魔王ちゃんは芸能人よ」
「芸能人なの?」
閣下みたいなものだろうか?
「うん。『魔王ちゃんプロジェクト』っていうのがあってね、それに応募した子の中で選ばれた女の子が、魔王ちゃんをやるの。そんで、こうやってテフィナ人共に勝負を挑むイベントをするの。10年くらいやると代替わり。ちなみに、魔王ちゃんは毎回第3代目よ。ホントはもう30代目以上はいってるはずだわ」
なるほど、すげぇ俗な存在だった。
となると、完全にこの前ロロを抱きしめたのは、周囲からは意味不明な行動に映った事だろう。
まあ、あの後にお風呂タイムになったので、ロロのムラムラ指数を高めた役割はあったかもわからんが。
「元々『魔王』ってのは、大昔の漫画でその概念が登場した悪くて強い奴なんだけど……」
アニメやゲームが好きなロロが、ペラペラと蘊蓄を垂れ始めた。
俺はそんなロロの大きな口の動きを見つめながら、うんうんと相槌を打ちつつ、キスしまくりたいなぁなどと考えていた。
そんな事を話している内に、人だかりの最後尾に到着。
レオニードさん達は……たぶん前の方にいるアレかな? 肩車されたクリスちゃんの回りでフィーちゃんがふよふよしている。
俺たちが到着してすぐに、トランペットの音がフィナーレを迎える。
それに合わせるように、喧騒がわずかなざわめきを残して消えた。
上空20メートルほどの中空に闇の渦が唐突に現れた。
そして、そいつはその中からぶわりと闇の波動を背負って出現する。
王冠の乗った金の髪を風になびかせ、赤の瞳で下界に群れる小さき者たちを見下す。
その服は黒と白のゴシックドレス。
編み上げのブーツが、かつりかつりと何もない空中を踏みしめ、まるで階段でも降りるかのように少しずつ降りてくる。
カーン、カーン、カーン……
どこか物悲しい金属の音が流れ始める。
ラスボスの登場シーンなんかで耳にすれば、物語の終局を予感させてテンションが上がってしまいそうな音だ。
「ま・お・う! ま・お・う!」
いつぞや聞いた魔王コールが始まった。
それを受けた魔王ちゃんはまるでゴミムシでも見るかのような目線を、下界に注ぐ。
「今、実物は可愛いって思ったでしょう」
「うん。だけど、やっぱりどう考えてもロロが一番だな。可愛いよ、ロロティレッタ」
そう言いながら、繋いでいた手を解いて腰に回す。
「にゃぅん、すぐそうやって……今日も犬殺し千手してあげぅ」
俺達はこそこそと囁き合った。
ロロの甘い声に、俺の胸のポッチがジンジンしだし、涎がじゅわりと口内に溜まる。
ロロはどうやら俺がソレを好きなんだと勘違いしちゃっているようだが、犬殺し千手はちょっと……
アレやられると、特にIQが下がるような気がするのだ。実際に、お姉たんお姉たんと、言葉が若返ってしまうのだ。それも切ない声で。それが凄く恐ろしい。
そんなことをしていると、いつの間にか空中にいる魔王ちゃんが、お尻をふりふりしてノリノリで踊っていた。
しかも今回は側近っぽい人達付きだ。これまた出てくるタイミングにイチャコラしていたので気づかなかったのだが、側近っぽい人達もノリノリで踊っていた。
なお、彼女はロングスカートを履いているが、下からは見えないようになっている模様。
「彼女はああいうキャラなの?」
「うん、高慢系おバカキャラなの。ちなみに前任の子はオラオラ系の魔王ちゃんだったわ」
「色々あるんだね」
「今回の子は凄い人気なのよ。可愛いでしょ?」
「ううん、ロロの方が圧倒的に可愛いよ。その翡翠色の瞳で見つめられるとドキドキするし、大きな口が弧を描くと俺も楽しくて幸せになる。最高に可愛いよ」
「ひぅ……しゅきぃ……休憩すぅ?」
「しない」
最近の俺は口が凄く上手になったように思える。
さらりと褒められるのだ。
臭いセリフも慣れれば楽しいものなのだと、最近知った。
「あのねあのね、コウヤはね、カッコいいよ。んふふふっ」
下手かよ。
もうちょっとなんかあるだろ。
だけどそんなところも可愛い。
気が付けば、魔王ちゃんの踊りは終わっていた。
凄いな、日本に居た頃なら瞬きすら惜しいとばかりに熱中したであろう美少女の踊りを、ほぼスルーしていたぜ。これが愛のなせる業か。
「愚かで無謀なるテフィナ人共よ、よくぞ参ったのじゃ」
直立して微動だにもしない配下を従えて、魔王ちゃんが朗々と語った。
その声は、確かに芸能人やってるだけあってよく通る良い声をしていた。これなら本当に魔王とか出来そうである。カリスマ性が結構あるのだ。
「我は魔王城で待とう。我に挑め、そして、散れ。さあ、宴の始まりなのじゃ。世界サーク、魔王城攻略戦……開☆催、なのじゃーっ!」
ロロがたまにやるジャンピング大の字をビシッと決めた魔王ちゃんの回りから、灰色の煙がぶしゃーと噴出する。凄く体に悪そうな色だ。
そして、それが消えるころには魔王ちゃん達はいなくなっていた。
代わりに、海の上空に巨大な城が出現していた。
アレが魔王城らしい。確かに禍々しいフォルムだ。
『魔王城攻略戦はガルファド時間11時より開催です。参加者の皆様はガルファド時間9時30分までに公園西出口にお集まりください。繰り返します―――』
「30分くらい余裕があるね」
「クリスちゃん達のところ行こ?」
「ああ、そうだな」
そもそも俺達はパーティで参加なので、フィーちゃんと合流しなくちゃならない。
しかし、レオニードさん達はどっかに行ってしまっていたので、ゼットで連絡を取る。
集合場所を決め、そこへ向かった。
会場である公園を移動すると、設営されていた様々なレクリエーション施設が開放され始めていた。主に子供が遊ぶ施設だな。
改めて、全くもって世界の危機ではなかった。
「ちょっとお腹減っちゃった」
昨日はろくに飯も食わずにイチャコラしたからな、朝飯だけでは足らなかったのだろう。
ロロは屋台でフランクフルトを買った。
ロロは、大口を開けて食べようとして、されど何を思ったのか止めてしまった。
そして、俺にフランクフルトを見せながら、耳元でこしょこしょと囁く。
「これ、ちっちゃいね」
「普通に小腹を満たすに足る大きさですけど。どこが小さいんですか?」
「だってお口半分くらい開ければ食べられるよ、これ」
「うん、そうだね」
「世の中にはそうじゃないのもあるんだよ。知ってた?」
「知らなかった。おいしいの、それ?」
「絶品ね」
「ぐぅ、煽りやがる……っ」
チロリと舌が唇を舐める。
帰りたいゲージがぐぐんと一気に溜まった。
ロロの話術に完全に敗北した俺の姿に、ロロは満足げにフランクフルトへかぶりついた。
全く、誰にも聞かれてないだろうな、今の会話。
周りを見回した俺の視界に、魔王軍幹部の姿が映った。
いや、すまん。確証は持てない。
ただ、恰好がもう完全に魔王軍幹部。もしくは魔王軍の食客的な奴。読者アンケート次第では仲間になる感じ。
赤と黒のドレスに顔の上半分だけ隠れる黒い仮面。
背中には竜の羽を生やし、頭には竜の角。
そして背中から瘴気のようなものが噴出している。
どう考えてもボスキャラだった。
そんな有様だから、みんなの注目を集めている。
ソイツは屋台で揚げ菓子8個入りを買い、もむもむ頬を膨らませながら食べ、どこかへ行ってしまった。
ちょっと可愛かった。
「コウヤコウヤ。あーん」
ロロが俺にフランクフルトをあーんしてきた。
俺はすぐに口を開けた。
「あーん……いや待て待て。串の先端がのどに刺さるから」
ロロが途中まで食べて根元に残ったフランクフルトだったので、口に垂直に持ってこられても困る。
ロロはハッとしたような感じでフランクフルトをカプリと噛むと、木串の先端に移動させた。そして、またあーん。最高かよ。
ただのフランクフルトがこんなに美味いと思った事はないかもしれない。
「美味しかった?」
「うん。ありがとう。あ、ロロ、唇にケチャップついてるよ、はい、取れた」
俺は親指で拭ったケチャップをぺろりと舐めた。
「にゃふふっ、コウヤもついてるよ。はい、取れた」
ロロは俺の唇……というか口内の結構深いところを親指でネットリとなぞり、そしてその指をぺろりと舐めた。
エロ可愛すぎる……っ。
「にゃー」
その声にハッとして声の出どころへ視線を向けると、俺達のすぐ近くで10歳くらいの女の子が顔を両手で隠して立っていた。そして、チラッと指の隙間から俺達を見る。そして俺達と視線が合い、またにゃーと指を閉じる。
「あ、あははっ」
さすがの俺もどう誤魔化せば良いのか分からないので、そのままロロの手を握って立ち去った。
10歳くらいの子にさっきのイチャつきをガン見されるのは不味いだろうがよ。俺なんて実質指で口内攻められたからね。
目印が目立つ集合場所に行くと、そこではテレビクルーにインタビューを受けているクーファ家の姿が。
下手をすれば巻き込まれかねないので、俺は少し離れた場所で他人の振りをした。こらっ、ロロ、じっとしてなさい!
インタビューが終わり、俺達はレオニードさん達の下へ。
「ひどいね、見てたでしょ」
「い、いや、すみません。絶対に巻き込まれると思って。どうもカメラとか緊張しちゃうんです」
「だけど、この後、参加者は集合したらインタビューされちゃうみたいだよ?」
「その時までに何かいい感じの言葉を考えておきます」
「それじゃあ楽しみにしてようかな! 僕らはここで見てるからね」
もしやライブな感じなの?
インタビューかぁ。
意気込みなんて聞かれた場合、正直に答えるなら『帰りたいです!』ってなるんだよなぁ。
まあ、今言ったように良い感じのセリフをぶち込めばいいか。臭いセリフはもはや言い慣れてしまっているからな。
「フィーちゃん、それじゃあそろそろ集合場所に向かおうか」
「はいですぅ! コウヤさん、ロロちゃん、頑張りましょうね!」
「おーっ!」
「お、おーっ!」
ロロが元気な気勢を、俺は迷いの籠った気勢を上げた。
そんなロロにクリスちゃんがわしっと抱き着いた。
「頑張ってね、お姉ちゃん」
最近のクリスちゃんは舌っ足らずを卒業したのか、結構ちゃんと喋る。
まあまだたまに舌っ足らずになるけど。
ロロとよくお喋りするから舌が鍛えられたのかな?
そんなクリスちゃんは、俺にモモパンを浴びせて。
「頑張ってね」
さらにもう一度モモパン。
幼女はツンデレだった。
最後にフィーちゃんを抱っこして、ズンチャズンチャと踊りだす。
人と妖精のキャッキャッ系コミュニケーションのダンスだ。たぶん、ロロに習ったのだろう。
フィーちゃんもフゥフゥみたいな感じで腕をフリフリ。
「フィーちゃんも頑張ってね」
「頑張りますよぉ! タンポポ真拳が火を噴くですぅ!」
ぶっちゃけ俺達の最高戦力かもしれんからな。期待しよう。
っていうか、俺とロロはどれくらい強いのだろう。
丁度良いし、今日参加する人達と比べてみるかな。
読んでくださり、ありがとうございます。




