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2-9 レオニードさんと仲良しな会話

よろしくお願いします。

 目が覚めたのは、朝の5時だった。


 ピヨピィ、ピヨッピィ! ピヨピィ、ピヨッピィ!

 ゼットのアラームが俺を叩き起こしたのだ。

 なお、このメロディはデフォルトで入っている『ピヨピィ』である。こんな設定にしているおかげで、たまにリアルピヨピィの囀りに、はわぁっ、と起こされる事態になっている。そろそろ違う音にした方が良いかもしれない。


 昨晩……っていうか今日寝たのは3時だった。

 恐ろしいまでの運動と発声の後に、2時間睡眠。

 しかも今日はテフィナ人的にかなり大きなイベント。

 起床してまず真っ先に、凄まじいやっちまった感が去来した。


 びっくりするほど気怠い身体に鞭打って、隣でぐでんとして眠るロロを起こす。

 そこで俺はベッドがひでぇ有様な事に気づいた。

 たぶん、昨晩は雨で、窓を開けたまま眠ってしまったのだろう。ベッドの位置は窓際ではないのだが、きっと雨が凄まじく横殴りだったのだ。きっとそうだ。

 こんな場所でよくお互いに眠れたもんだと感心した。よほど疲れていたのだろう。


 ロロは割とすぐに目を覚ました。

 寝起きでとろんとした目で俺を見つめ、雨のせいでびっしょりなベッドから逃れるように俺の上に身体を重ねた。

 一瞬にしてやっちまった感は消し飛び、代わりに俺の心を満たすのは圧倒的な多幸感。

 そんな絶対的な幸福を俺に与えて、ロロはまた寝た。果てしなく可愛い。そして温い。


 あまりの愛おしさにぎゅぅっと抱きしめると、ロロはもぞもぞ動いて膝の裏を器用に使ってきた。


「んふふふふっ、亀は身を守る際に甲羅に頭を隠すという。これぞ蜜技は弐の愛が一つ、首隠し亀」


「こ、これが……っ」


 シャ、シャイニング・ブラスター! にゃふぅーいっ!


 俺の残り少ないHPが早速失われた。


 その後、雨に濡れてしまった掛け布団や敷布団を洗濯機にぶち込み、シャイブラIN朝風呂。


 それはまるで毒状態。

 何か行動を起こすたびにHPが失われていく。苛烈に過ぎる。


 今日はレオニードさんも一緒なので、ちょっと相談した方が良いかもしれない。

 このままだと愛月が深まる前に頭がおかしくなる可能性がガチで出てきた。


 お互いの身体をピッカピカに洗い終わり、準備は万端。

 あとはロロが着替え終わるのを待つだけだ。


 ……おっといけない。

 俺は『ガンバル狂戦士 デトネイション』を飲んだ。

 元気が漲ってきた。

 へへっ、もうコイツなしじゃ生活できないぜ。あと紳士の下着も。


 残ったビンをエネルギー変換ゴミ箱に入れ、居間に戻ったところでロロが戻ってきた。


 今日のロロは勝負服だ。

 つまり、いつもの留め具がやたらとついた黒いロングコートである。

 さらに、最近はネコミミとネコシッポも着用。お気に入りである。


 あまりの可愛さにイチャコラしていると、我が家のインターホンが鳴る。

 フィーちゃんだ。

 すぐに対応し、玄関で靴を履く。


 そして、ドア一枚隔てた先に友達がいる状況で最後のイチャコラを開始。最低であった。

 とりあえず、モモニーはやめろ。隙あらばだな、コイツ。


「おはようフィーちゃん! 今日の太陽は俺を殺しに来てるね!」


 これほど攻撃的な陽光は生まれて初めてかもしれない。

 友人と徹夜で麻雀した時の朝だって、もう少し優しい光だったと思う。

 おのれ、俺とロロの愛を責めているのか、太陽っ!


「うふふふっ、おはようございますぅ! 太陽さんはいつも通りですよ?」


「おはようフィー! 良い天気ね!」


「ロロちゃん、おはようございますぅ!」


 俺とロロの見解に違いがあるのは何故だろうか。

 ドレインする方とされる方の違いかな?


 俺達はすぐにクーファ家へ。

 クーファ家の庭では、レオニードさんとステラさんが談笑し、クリスちゃんが芝生をジッと見る作業をしていた。

 パパとママが俺達に気づいたことで、クリスちゃんがバッと顔を上げる。

 すぐさまロロの下へ駆けて行き、いつものようにデルタゾーンにピットイン。ふふっ、クリスちゃん、その技はもはや君だけの物じゃないんだぞ。お兄ちゃんも最近散々ピットインしているのだ。いわばピットイン兄妹だね!


 モモパンされた。

 なんだこの幼女、もしや思考を読んだ?


 レオニードさん達といつものように挨拶を交わし、俺達は一路魔王城へ。


 魔王城は、この世界サークにある町・ガルファドの近くに出現したそうだ。


 というわけで、転移ゲートを通ってガルファドに到着。

 ルシェとの時差はプラス1時間で、ガルファドは現在7時だ。


 朝も早いのに、人が凄い。

 ガルファドは安全に海遊びが出来る町で、元々人気があったみたい。それにプラスして魔王城が近くに現れたのでおまつり状態だ。いや、実際にお祭りなんだろう。


 海遊びの町というだけあり、町行く人の中には結構な露出度の人が多い。

 ただ、テフィナのアウターは高性能な温度調整機能がついているので、むしろ露出する方が暑い場合もある。ファッションとか雰囲気でああいう格好をしてるのだろう。


「今日の予定は分かってるかい?」


 歩きながらレオニードさんが尋ねてきた。

 本来なら俺はしっかり、はい、と答えたところだろうけど。


「すみません。分からないです」


 だってロロがぁ……

 いろんな道具がぁ……

 シャイニング・ブラスターがぁ……


「もしかして、一昨日からずっと?」


 レオニードさんがやや畏怖するような目で俺を見てきた。

 止めてくださいよ、そんな目。俺達は友人じゃないですか。


「ほぼ、ずっと……」


 いや、俺だってこのままじゃダメだと何度も思ったのだ。

 だけど、バハムートとロロと俺の脳が言うことを聞かなかったのだ。つまり、ダメだと思うだけで流れのままに過ごしたのだが。


「な、なるほど。あとで相談があれば乗ろう。とりあえず、今は予定の話をしようか」


 さすが話が分かるあんちゃんだぜ。


 レオニードさんによると。


 今日はこれから開会式。

 魔王ちゃんのパフォーマンスがあるみたい。


 それが終わったら、テレビのインタビューを撮影。

 インタビューとかこちとら日本じゃチキンボーイでならしてたんだぞ。キツすぎて怯える。


「それが終わったら、色々とスタートだね。まずは前哨戦だ」


「前哨戦ですか? それは何をするんでしょう?」


「魔王ちゃんの軍勢が拠点に攻めてくる」


「それは危険じゃないんですよね?」


「ああ、大丈夫だよ。VFは知ってるだろ? アレの超大規模版を使うんだ」


 VF『バーチャルフィールド』は、特別強化訓練でお世話になった凄い技術だ。

 普通なら通り抜けてしまうホログラムに、ある程度触れるのである。


「魔王城攻略戦は、ほぼ全てVFを使用するんだ。だから安全だよ。まあ、君たちが見たことない魔獣も多数出てくるから、視覚的に怖い目に遭う事はあるかもしれない」


「そうだったんですね。それなら安心しました」


 俺はそう言って、クリスちゃんと手を繋いでニコニコするロロの横顔を見た。

 そんな俺の頭をレオニードさんがガシガシと撫でた。

 何の電波を受信したのか、その瞬間にロロがサッと俺達の方を向いた。はわはわしている。いや、お前とあれだけの事してBL疑惑を立てるなよ。


 そんな事を話している内に、集合場所である臨海公園に到着した。

 ちょっとウェルクに似ているな。ウェルクは、俺が最初に訪れた町だな。

 いずれ遊びに行こうと思っていたけど、他の海遊びの町に来てしまったな……だけど、あそこの宿泊所にはもう一度泊まりたいな。


 少し早めに来たので、時間が出来てしまった。

 屋台が出てたのでみんなで朝食を食べ、自由時間。


 俺とレオニードさんはベンチに座りながら、女性陣が海辺で遊ぶ様を見守り、ちょっと大人な話をした。


「あの、レオニードさん。俺、昨日だけで16回シャイニング・ブラスターしたんです」


「シャ、シャイニング・ブラスター?」


 ハッ!? 思わずアホな事を口走ってしまった。

 こんなの分かるはずがない。

 と、思いきや。


「シャイニング・ブラスターって魔獣機バハムートの……ハッ! な、なるほど、シャイニング・ブラスター16回か」


 レオニードさんの察しの良さにはやはり感服するぜ。


「それはまた随分はしゃいだね。まるでアニメの最終回みたいだ。僕の時はどうだっただろう……」


 レオニードさんは遠い目をして在りし日の自分たちを思い出そうとした。つまりステラさんと。あの癒しの女神っぽい女の人と。

 どんなだったんだろう。とりあえずフィールドは『雲の上』とか?


「うん、シャイニング・ブラスターの回数は覚えてないけど、僕らは最高で4日間ずっとだったね」


「それ死ぬじゃん」


「ふっ、さすがの僕も死ぬかと思ったけどね。幸いにして僕は当時上級冒険者だったんだ。ステラは幼馴染で同じパーティだったんだけどね。お互いに高レベルだったから、体力が凄くてね」


「やはりレベルが上がるとそうなんですね」


「うん、かつトレーニングは必須だけど」


 やはりか。レベル教育中にウェムの腕輪を装備しながらシャイニング・ブラスターしたからこんなに今の俺は凄い事になってるのか……やったぜ!


「その話はまあ置いといて。レオニードさんは蜜技というのを知ってますか?」


 俺が言うと、レオニードさんがビクンと身体を跳ねさせた。

 知っているらしい。


「ロロちゃんは蜜技を使うのかい?」


「はい……」


「ステラも使うんだ。死ぬほど気持ちい……ゴホン。あ、あーっと、僕の知り合いの奥さんたちも使うらしいね」


 死ぬほど気持ちいいのか。

 あの癒しの女神はどんな癒しの奥義を使ってくるのだろうか。


「蜜技ってなんなんですか?」


「蜜技は遥か太古から存在する女性の技なんだ。愛月の存在がそれを必要としたから発生したと言われているけど、なにせひっそりと開発された技なので確証はない。けれど、現代でも確かに存在し、女性はいつの間にか覚えてくる」


「ロロはマナネットで覚えたと言ってました」


「あ、うん、ステラも」


 やはりマナネットで覚えてくるのか。


「コウヤ君は何段階まで使われた?」


「弐の愛って奴までです」


「弐の愛……三日月車……流転花……犬殺し千手……無限渓谷……首隠し亀……スライム饅頭……」


「犬殺し千手を使われた時は自分の涎で死にかけました」


「僕は流転花でシャイニング・ブラスターが酷い事になった」


「一番良かったのは無限渓谷です」


「あれは良いよねぇ!」


「しかも最近は道具をいっぱい買って、アレンジが加わりました」


「僕もそうだったな。三日月車に猫舌極みは抗いようもない」


「俺は犬殺し千手に目隠しと手錠と羽が加わりました。物理的に抗いようがなかったです」


 やはりレオニードさんと話すのは楽しいな。

 それにしても流転花か、ふふっ。あんなの使っちゃダメに決まってるじゃんね。バカかよ。

 っていうか、あの癒しの女神が流転花使ったの? 凄まじい背徳感があるな。


「男にはそういう技はないんですか?」


 俺はこれが訊きたかった。


 もうロロは蜜技を知ってしまった。

 俺は使ってもらうと何だかんだで凄く嬉しいし、楽しい。

 だからロロが封印することはないだろう。

 だけど、そうするとロロが物足りなくなっちゃうかもしれない。それは嫌だ。


 レオニードさんは、大仰に頷いて言った。


「ある。かつて君と同じような危機感を覚えた男たちが編み出したものだ」


「そ、それはどこで覚えられますか?」


「マナネットだ」


「すげぇなマナネット」


 情報量がヤバい。

 帰ったらさっそく調べよう。


「その技の名前は魔獣八手という」


「魔獣八手……強そう」


「実際に強い。これのおかげで僕はステラと対等に戦えるようになったと言って過言ではないね」


「しゅごい。ぜひ覚えたいです」


「魔獣八手は、6体の魔獣の行動をお手本に編み出された48の技の事なんだ。しかし、今ではさらに多くなっている。君はまず、その6体のうち、愛月用の2体を覚えなさい。良いかい? 2体だけだ」


「わ、わかりました」


「素直でよろしい。最初から高レベルのことをすると、きっとロロちゃんは臆病になってしまう。こういう事は二人で楽しむ事なのだから、順番に、一段ずつ階段を昇る様にやっていくんだ。実際に、ロロちゃんは君に蜜技の参の愛は使ってないだろう?」


「はい」


「参の愛以上は愛月が深まったら解禁されるような技だし、君を驚かせたくないんだろう」


「はい、ロロは優しい子なんできっとそうなんだと思います」


 凄い事やられたけど、嫌ではなかった。

 きっとロロはレオニードさんの言ったように俺のことを考えてくれているんだろうな。

 やっぱり最高の女だ。帰りたくなってきた。


 俺の心に魔獣八手の名前と、レオニードさんの訓戒が刻まれた丁度その時。


 どこからともなくトランペットの音が鳴り響いた。

 いよいよイベントが始まろうとしていた。


 俺は、キッと顔を引き締めた。

 帰りたくて仕方がなかった。

 ロロとのイチャコラに勝るイベントなど存在しないのである。


読んでくださりありがとうございます。

ブクマ、評価ありがとうございます。

初めて感想頂きました。励みになります。ありがとうございます。

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