2-7 愛月の町キスティア
よろしくお願いします。
アニメ超次元魔獣機バハムートは、かつて子供たちに人気を博した。
その人気ぶりは、テフィナは町によって天体時間が変わるため、最も早くに放映される町の喫茶店に子供が集まるという現象が起こるほどだったそうだ。
このアニメの主人公とヒロインが一緒になって搭乗する古の魔獣機バハムート。
こいつの姿形がとにかくカッコよく、子供たちも心を鷲掴みにしたのだという。
とりあえず、首が長くて、でかい。
そんなバハムートの攻撃は多岐に渡る。
爪や牙での近接戦闘、高速移動からの翼でも切り裂き、身体の至る所から射出される魔法弾……そうそう、長い首を槍のように真っすぐにして突き刺し攻撃なんてのもあるな、うん。
そして何と言っても決めの超必殺技、シャイニング・ブラスター。
長い首を天高くのけぞらせ、身体の奥でエネルギーを貯め、口から一気に放射する白いビームだ。
しかし、この最強の技は一日に一発しか発射できない。
子供たちはみんな歯噛みし、想像した事だろう。
この技が連発出来れば、マジで最強だと。
そこらへんは製作者も分かっているので、最終話で超覚醒を果たしたバハムートは白いビームを何発も出す。
最後には、最強最悪の宿敵の腹を食い破り、身体の中でシャイニング・ブラスターだ。
バハムートと、シャイニング・ブラスターは強いのである。
……以上。
ふと思いついてしてみた説明を終える。他意はない。
朝日を浴びてツヤツヤと輝くロロと手を繋ぐ。
腕を絡めつつの恋人繋ぎだ。
俺のあげた猫耳と猫尻尾を誇らしげにつけたロロは、最高に幸せそうな顔でニッコリ笑う。
その笑みを受けた俺は、妙に怠い身体に鞭打ってニッコリ笑った。
おそらくこれが世にいう、げっそりしている、という奴なのではないだろうか。
だってロロがぁ……
シャイニング・ブラスターがぁ……
いやいやいや。
愛月が深まる前の男女はみんなあんな風に遊ぶのか?
それに、テフィナ女性はあんなに積極的なの?
それとも、ロロが俺のことを好きすぎるのだろうか?
バハムートを怖がっていたのなんて、始めの30分だけだったからね。
そのあとはシャイニング・ブラスター喰らっても、しゅきぃとか言ってキスしてくれたからね。
しかもロロの奴、妙な技をいくつも使ってきた。
思わずなんでそんなの知ってるのか尋ねてしまったが、返ってきた答えは、マナネット、と。
様々な魔法を駆使した謎の技術は『蜜技』というらしい。アレはダメだ。是非、今日もやってほしい。
さらに、俺の身体も回復力が尋常じゃなかった。
前から薄々感じては居たのだ。
具体的には、レベル教育の途中くらいからだな。
日本で暮らしていた時とは明らかに工場の稼働率が高いのだ。4時間稼働の個人工場と24時間フル稼働の大工場くらいの差がある。
原因はレベルアップにあると思う。
レベルアップすると、トレーニング効率の上昇と成長限界の上昇に大きな補正が加わる。その2つはきっと、いろんなものが含まれているのだろう。
そんでもって、俺はあの当時、ウェムの腕輪っていうトレーニング用のアクセサリーつけてたんだよね。
それにも関わらず、お風呂でシャイニング・ブラスター。
レベル教育の途中辺りからは、なんか治まらなくて、さらにシャイニング・ブラスター。ロロのリンスには本当にお世話になったな。リンスまで俺に優しいとかホント最高の女だ。
もう一つの原因として、魂の双子の『魔力交換時にスペックが上がる』という特性。
俺もそうだが、ロロもヤバかった。
お陰様で、昨日は9回シャイニング・ブラスター。
もう途中から何が何だか分からなくなった。
ロロも同じで途中からニャーニャーと俺の名前しか言わなくなった。あれはそう、飲んだあたりからおかしくなった。え、ロロが何を飲んだのかって? あ、あー、ぎゅ、牛乳牛乳。風呂だしねっ!
とまあ、そんなこんなで、疲れている洸也です。
早死にするかもわかりません。うん、俺が死ぬと連鎖的に魂の双子の片割れであるロロもガチで死ぬそうだから、意地でも長生きしよう。
さて、今日は愛月の町キスティアへ行くことになった。
朝食後、ロロが俺の太ももに顔を乗っけて、服の上からさわさわ撫でながら俺の顔を見上げ、おねだりしてきたのである。
その時の会話がこんな。
『行きたいなぁ、キスティア行きたいなぁ。私達、恋人だし、この前コウヤがメローに一人で行った時、今度どこかに行こうって言ってくれたし、あーあ、行きたいなぁ。コウヤとキスティア行きたいなぁ。ねぇ
、イク?』
『ロロが行きたいのならどこでも行くよ。一緒にイこう?』
『うん……一緒に、ね?』
出発は1時間後だった。
シャイニング・ブラスタァ! ニャーッ!
昨日の調子じゃ、連休は家の中でずっとイチャコラしているものかと思っていたけど、お出かけである。
そうそう。
昨日はあまりの出来事に綺麗さっぱり忘れていたんだけど、今朝、魔王城攻略について話し合った。
ロロはぜひ出たいみたいで、フィーちゃんに電話で聞いてもぜひ出たいみたい。
満場一致で参加を希望したので、レオニードさんに電話で伝えた。
魔王城攻略戦は、明後日から始まるので今日明日はひたすらイチャつきまくる事になるだろう。
そうして、きっと俺はへろへろになりながら魔王城へ赴くのだ。ふふっ、望むところ。
ワールドタワー内のキスティア行きのゲート付近に行くと。
『愛月の恋人以上限定』
と書かれた結界が。
さすが愛月の町。それ以外は入町拒否してる。どんな場所だよ。
どういう仕組みか知らないけど、俺達は普通に結界を素通り出来た。
何かしらで検知しているのだろう。
結界を潜った先は、ハートに満ち溢れていた。
右を向いても左を向いてもカップルカップルカップル。
一人では来れないけれど、もしこれたとしても絶対に一人で来てはいけない類の空間だった。
恐らく、ここら一帯にはソロ特攻の毒が空気中に散布されてるはず。吸うと、吐くか涙が出るか発狂する。
みんなしてベタベタチュッチュクしておる。まるで発情期の猫を詰め込んだような場所だ。
「コウヤコウヤ」
ロロが呼ぶので横を向くと、そのままチュッとキス。んふふっとはにかむロロ。最高に可愛い。
俺のテンションが一気に上がった。超楽しい。
ゲートの列に並び始める。
同じく列に並ぶカップルの頭から、ハートが浮かび上がりそうな光景がそこにあった。
「キスティアで何するの?」
「イチャコラするの。あとお買い物」
イチャコラは、まあ恋人の町だという話だし良いとして。
お買い物かぁ。
お金大丈夫かな?
まあ、俺のお金もあるし、大丈夫だろう。
「何買うの?」
俺が問うと、ロロはもじもじししてから、俺の耳元に口を近づけ、こしょこしょと言う。
「ラブリング」
「ラブリング?」
「ニャーッ! しーっ! しーっ!」
知らない物の名前だったので思わず問い返した声が少し大きかった模様。
ロロにぽかぁと肩パンされた。
恋人になってから初の肩パンだ。少し前に戻ったみたいで俺はほっこり。
「ごめん、知らなくて。それってなに?」
俺は小声でひそひそと話した。
ロロは真っ赤な顔でぷいっと横を向いた。
「ごめんって。教えて?」
俺はそんなロロの腰を抱き、イチャコラする。
これくらいはこの場ではセーフ。っていうか並んでいる奴らのほとんどがやってる。
やってない奴らは、愛月に入って間もないのだと思う。
ロロは俺の両肩にちょこんと手を置き、顔を耳元に近づけてこしょこしょと。
「避妊用のアクセサリー」
ヤバい、家に帰りたくなってきた。
「カップルによっては少し早く終わることもあるみたいだし、準備しておかないと、ね?」
話は人体に関わる事なので、ロロの言う通り、愛月が深まるタイミングはカップル毎に違う。
統計によると、最長で40日、最短で20日なのだとか。平均して1月くらい。
とにもかくにも、ラブリングを買うと。重大なミッションだな。
その詳細については、専門のお店でパンフレットなりを見るとしよう。
それからイチャイチャしながら待っていると、俺達の番になった。
っていうか、今まで潜ってきたどのゲートよりも順番の巡りが遅い。みんなイチャイチャに夢中なのだ。どうしようもないゲートである。
そのクセ、キスティアからターミナルタワーに戻ってくるカップルの半数ほどは、凄く足早。一刻も早く二人きりになりたいみたいなピリピリ感がある。もう半数はツヤツヤしている。この違いはなんだ?
やってきました、愛月の町キスティア。
この街のゲートは珍しく、二人一緒にゲートを潜れる。少しくらい離れても良いじゃないかと思えるけど、たぶんみんな頭がバカになっちゃってるんだろう。
かくいう俺達もニコニコしながら手を繋いで潜ったが。
キスティアターミナルの屋上に出ると、そこかしこでキスが繰り広げられていた。
軽く眩暈を起こしそうなった俺は、ゲートの出口ゾーンから出るとすぐにロロ成分を補給することにした。
「こ、コウヤぁ、お、おしょとだよぅ」
「そうだね、もう一回する?」
「しゅるぅー、ンチューッ!」
ロロ成分補給!
今まで行った町の中で一番楽しくなりそうな予感がする!
ろくすっぽ風景を見ないままターミナル内部に行くと、色々な広告のホログラムが通路を飾っていた。
主に、恋人同士で使う様々なグッズの。
そしてそれを見て、こしょこしょと耳打ちする彼氏彼女たちの姿。
なるほど、あのカップルはアレを買うつもりか。……マジで? 手錠と目隠しと羽なんだけど。何すんの? 拷問? ご要望に応えて最速発売らしいな。
「わぁ!」
ロロが同じ商品に食いついた。目がキラッキラッだ。
ちょっと待って欲しい。
俺の胸のポッチがジクジクと疼きだした。
「ねえ、コウヤ。お姉ちゃんこれ買いたいな?」
瞬間的に脳が7歳ほど若返り、口内に涎が充満する。
しかし、アレは不味い。このままだと調教される。ただでさえ兆候著しいのに。
俺はロロの腰をすかさず抱いて、その瞳を見つめた。
「俺はお前を男らしく愛したい。ダメかな?」
「は、はぅ……にゃー、しゅ、しゅきぃ……だ、だけど、ちょっとだけやりたいかな?」
「いつもみたいに折れてよ!」
「にゃっ! にゃんだとぉ! もしかしてはぐらかすつもりだったの!? あーあ、お姉ちゃんがっかりだな! コウヤがそんな子だったなんてがっかりだなぁ!」
「ひ、ひぅううう、ごめ、ごめにゃしゃい、おねえたんって、ハッ!? なにこれ口が勝手にっ!?」
「もうこれ買うの決定ね」
ロロはそう言って俺に微笑みかけた。
俺はこくりとか弱く頷くばかり。
そんな俺の耳元で、ロロが言う。
「私にも使っていいよ。代わりばんこね?」
「買おっか!」
「コウヤのそういうところ可愛いなって思うわ」
チューッ!
お値段たったの2000テス!
その後、ターミナル内の広告が実に効果的に俺達の購買意欲を刺激してきた。
「ふわぁ、なにあれ気持ちいいのかな」
「ロロ、涎出そうだぞ」
「っとじゅるり。だけど、コウヤも興味あるでしょ? 私、使っても良いけどなぁ?」
「買おっか!」
「ホント堪え性のない奴ね」
ンチューッ!
壊れるまで何回でも使えてお値段たったの1500テス!
「あっ、あれ! 友達が使ってるって言ってたヤツ!」
「猫舌極み? なにすん……友達凄いの使ってんな!?」
どんな友達だよ、相当に貪欲な女だな。
「凄いらしいよ? あー、だけど、なるほどこういうのか。恋人になる前なら欲しかったかもしれないけど」
そうなの!?
いや……そういえば、昨日お風呂でカミングアウトしあったっけ。
俺が知らぬ内にロロにコーティングされていたという驚愕の事実が発覚した。そして俺のリンスの減りが随分早い理由も。
俺の方もロロのリンス使ってごめんなさいって言っておいた。さらに、お風呂のお湯毎日飲んでたことも謝った。凄く興奮された。俺の彼女はちょっと頭がおかしかった。
「これならコウヤがいるから大丈夫だね?」
「うん、いらないね。今日もしてあげる」
「私もしてあげるね?」
「ぜひ!」
「必死かよぉ、可愛いっ」
ムチューッ!
そんなこんなで、広告ホログラムを見るだけで10000テス程度は出ていく予定が立った。凄く良い買い物の予定だ。
もう魔王城とか行かないで、しばらくお休みにしたいな。
下界に降り立つと、建物に囲まれた円形の広場が。
そこでもやはりみんなしてチュッチュッしていた。
さすがにそれ以上の事はしていないが、その代わりに寄り添いながら周りの建物に入っていく奴らがチラホラいる。
今まで行ったターミナル前広場はみんなお土産屋とかお食事処が大多数を占めていた。
しかし、愛月の町であるキスティアは違った。
俺はロロの腰を片手で抱きながら、一つの建物を指さした。
「ロロ、あそこ、入ろうか」
「え? なにあそ……あ、ふふっ、もうもうっ!」
ロロはそう言いつつも、俺より先に歩き出す。
腰から離れた俺の手をそのまま握って引っ張っていく。
ひとつだけ空いてた。
なるほど、キスティアからの帰宅者でツヤツヤとピリピリの二通りがあったのは、空いてないからか。ヤバいなテフィナの恋人。毎日がクリスマスかよって感じだ。
そんなわけで、いざ2時間。
シャイニング・ブラスター! ニャーッ!
読んでくださりありがとうございます。
シャイニング・ブラスターは必殺技の名前です。お間違えの無いよう。




