2-5 風雲急を告げる
よろしくお願いします。
朝。
目を覚ました俺は、自分の身体に抱き着いて眠るロロの頭を撫でた。
俺がプレゼントしたネコミミが、撫でられることで折れてはすぐにピンと立ち上がる。
こんなに可愛い子が俺の彼女なんだな、と改めて幸せをかみしめた。
ぬっくぬくでやっわやわな感触が、さっきから俺の胴に伝わっている。
その感触がなんであるかは、俺の胸に乗っかったロロの頭を辿って行けば分かる。
そこに広がるのは、一糸まとわぬ白い背中。
そう、ロロは上半身裸なのである。
そして、俺もまた上半身だけ裸なのである。
最近男らしい身体つきになってきた俺の脇腹に、ロマン物質がくっついている。
そんな有様だから、朝なのでただでさえ元気な思春期さんが、鎖に繋がれたバカ犬みたいに荒れ狂っている。
ロロの上半身は天上の女神もかくやと言った素晴らしい美しさだった。
運動音痴のくせに、キュッと引き締まった腹筋に、男のロマンを十分に満足させる程度には大きな胸。
姿勢が良いだけあり、背中のラインはそれはもう見事な曲線を描いていた。肩甲骨ですらエロかったからね。
そんなロロは、俺が思っていたよりもドスケベだった。
物凄くストイックに日々を過ごしてそうなキリリ系クールビューティなのに。
世界を震撼させる魔王と孤独な戦いをしてそうな魔女顔なのに。
俺の乳首が大好きな模様。
とまあこのように。
俺とロロの仲は、俺の予想通りエスカレートした。
予想通りとは言え、もう少しソフトな関係が10日くらいは続くのかな、と思っていた。
けど、早々に我慢の糸が切れた。ロロの。
もちろん男の俺としては否はない。ウェルカムであった。
それが昨日の夜だ。
愛月の過ごし方の導きにより、俺達の恋人レベルがまた一つ上がったのだ。
前半戦は俺が気絶して、俺が目覚めてから始まった後半戦はロロがとろんとした顔でニャーニャーしか言わなくなった。
俺達はまだ愛月の恋人になったばかりなので、昨日はお互いに上半身しか触っていない。
たぶん、そのまま下半身も行けたんじゃないかと思うけど、この一つずつランクが上がっていく制度が楽しくて仕方ないので、我慢することにした。
しかし、これで愛月が深まったらどうなっちゃうのか。お互いの愛に溺れて死んでしまうんじゃないだろうか?
「うにゃ……ふにゃー? ニャーニャー……って、はぅわぁッ!? なんだこれ、言葉が出てこなかった!?」
俺が頭を撫でていると、ロロが目を覚ました。
どうやら脳みそから一時的に言語が失われていたようで、大層びっくりしている。
「お前は覚えてないかもしれないけど、昨日も気絶する前はそうなってたよ?」
「うそでしょ!?」
「ホント。そんな姿も超可愛いよ」
「じゃあもうチューするしかないじゃない!」
「激しくどうんむーっ」
―――少々お待ちください。
「んはぁっ! おはよう、コウヤ。愛してるわ」
「はぁはぁ……おはようロロ、愛してるよ」
「ふふふふっ」
「あはははっ」
「今日もカッコいいね?」
「ロロも綺麗だよっはぁんっ、と、とりあえず乳首触るのやめようか、んぁっ!」
「ふふふっ、好きよ、大好き。愛してるわ」
「あ、ああ、俺も愛してふぁーっ! や、やらぁ、そのビリビィらめらってぇっ!」
「うへへへっ、涎垂らしてだらしない顔、いやらしい声までだしちゃって。朝からそんな風にするダメな子はお姉ちゃんになんて言うのかしら?」
そして、ロロはショタごっこ好きのドSだった。
サービス精神旺盛な俺は、おねえたんに必死で謝った。呂律は怪しかった。
その後、30分くらいイチャコラし続けた。
しかしてお外では普通のカップルだ。
適度な密着に、適度な愛の語らい。
いかんせんフィーちゃんがいるからな。
最近はクエストも上手い事こなせるようになり、今日も難なく達成できた。
気づくとテモチャのミッションがいくつか達成されていた。
パーティを組もう。
拠点地以外の世界でクエスト達成。
討伐クエストを3回達成。
強化訓練に参加。
……等々、結構な数を達成していた。
これにより、義務冒険者ランクが5まで上がった。
これで俺達はクエストランク10までの依頼を受けることが出来るようになった。
まあ、そんなことよりも。
フィーちゃんと別れた俺達は、足早に帰路につく。
一刻も早くキスしたい。
ロロも同じ想いのようで、口数少なく歩を進める。
しかし、俺とはしっかり手を繋ぐ。
「ねっ、コウヤ」
「ん?」
「今日もいっぱい触ってね?」
耳元で囁かれたその言葉に、俺の喉がゴクリと鳴った。
「あ、ああ。いっぱい触りっこしような?」
「なぁに、お姉ちゃんに触られたいの? そういう時は何てお願いするのかな?」
ロロのショタプレイが始まった。
なぜだか俺の胸のポッチがジンジンしだす。合わせて口内に涎が。まるでパブロフの犬になった気分。
もはや逃れられぬ。
そう悟った俺は、すぐさま思考を7歳ほど若返らせて、か弱い言葉を紡ぎ始めた。
「あ、あのあの、おねえた……」
ウゥウウウウウッ!
己を捨てて発した俺のセリフが、けたたましいサイレンの音にかき消された。
テフィナに来て初めての緊急警報に、俺はギョッとしながらも、とにかくロロを守らなくてはとロロを抱きしめて身構えた。
「ニャーッ、こ、コウヤぁ、お外だよぅ……あぅうう、しゅ、しゅきぃ」
いやいやいや、余裕だなおい!?
もしかして、緊急事態ではないのかも。
「これ、何の音? 警報じゃないの?」
「うん、緊急警報だよ」
「余裕だなお前!?」
そんなことをやっていると、近くの家々からもわらわらと人が出てきた。
そうして俺達が抱き合っているのを見て、あらまあまあ、みたいな顔をされる。
ふと見ると、ステラさんとクリスちゃんの姿が。
そうか、クーファ家が近かったか。もし何かあったら避難させてもらおう。
俺はロロの手を引っ張って、ステラさんたちの下へ行った。
「ステラさんっ。これはなんの騒ぎなんでしょうか?」
「あら、コウヤ君。あら、まあまあっ、仲良しねぇ」
ステラさんは俺達が手を繋いでいるのを見て、ニッコニコ。
クリスちゃんの目からハイライトが消え、てててっと俺達に近づくと、俺の手をペシペシ叩き、ロロの手を奪った。
ロロとクリスちゃんがキャッキャしだす。
こ、この幼女めっ、ロロは俺のだぞ!
「え、えっと、それでこれは何の騒ぎなんでしょうか?」
「うーん、分からないわぁ。スタンピード注意報もなかったし……なにかしら?」
スタンピード注意報とは、魔獣の暴走を予報するものだ。
天気予報みたいに、テレビやネットで知ることが出来る。
なお、暴走を起こす原因はいろいろあるみたい。
ステラさんも心当たりのないこの騒ぎの答えは、この後すぐに分かった。
サイレンが鳴り止み、放送が入る。
『ルシェのみなさん、魔王です! 魔王が現れました!』
……へ?
「ま、魔王っ!?」
もしかして、怖い事が起こるのか?
俺の脳裏に、第二次世界大戦の悲惨さを切り取った白黒写真の映像がフラッシュバックする。
この平和な文明に、そんな事が迫っているのか?
知らず内にロロを抱きしめていた。
コイツだけは何があっても守らないと。
「にゃぁ……こ、コウヤぁ……くりしゅちゃんの前ぇ……しゅ、しゅきぃ……」
ロロが甘い声を出しながら俺の背中に手を回し、クリスちゃんが俺のふくらはぎにガンガンローキックを入れてくる。ステラさんと近所の奥さんが、ニャーッと大騒ぎ。
……なんか、魔王とか大丈夫そうだな?
とりあえず、ステラさんは娘さんをどうにかしてくれませんか?
周りの人たちの様子を冷静に分析した俺は、そそくさとロロを離した。
とろんとした顔をしている。
お前、お外だぞ、自重しろよ。いやらしい女だな、まったく。
「魔王が現れたんだよね、大丈夫なの?」
「にゃぁん、にゃーにゃー」
言語失ってる……っ。
昨晩の一件でクセになってない?
抱きしめていた時からガクガクしていた足から、ついにすとんと力が抜け、ロロはその場に座り込む。
そんなロロにすかさずクリスちゃんがだいしゅきホールドで抱き着いた。ロロもギューッと抱きしめ返す。
とりあえず、コイツは使い物にならんな。
俺はステラさんの方へ向き直った。
奥さんたちが、手をブンブン振るって俺を見ていた。
テフィナ人は20歳前半で見た目の成長が長期間止まる。
80歳くらいから少しずつ老けていくのだが、コスメが高性能なので80歳を超えても若々しい。
そんな奥様連中が興味津々で俺を見ている。
なんか凄く話しかけづらい。
そんな俺の心情を察してでもくれたのか。
事態が動き出す。
ルシェの町上空に、巨大なホロウインドウが出現したのだ。
ホロウインドウに映っているのは、赤い絨毯の敷かれた玉座の間。
玉座には、一人の少女が頬杖をついてカメラを見据えていた。
「「「魔王ちゃんだわ!」」」
奥さん方がキャーキャー言いだした。
あれが魔王らしい。
うん、戦争とか起こしそうにないな。
なにせ、俺より年下っぽいし。
魔王ちゃんは金髪ストレートに、真っ赤な瞳を持った小柄な美少女だ。
ゴスロリ衣装を着ていて、頭には小さな王冠を被っている。
年齢は……14歳前後と見た。美少女過ぎてよく分からない。
魔王が現れた、と放送があったにしては、彼女は何がつまらないのか見下す様にカメラをじっと見続けるばかり。
「ま・お・う! ま・お・う!」
どこからともなくルシェの町で、魔王コールが始まった。
俺達の周りでも奥様方が声を揃えてコールする。みんな奥さんなのに凄く可愛い。良かった、ロロに恋してて。そうでなければ普通にときめいちゃう。
町中で上がる魔王コールに、魔王ちゃんの身体がリズムに乗って動き出す。
まずは足から、ま・お・うのリズムで、タン・タン・タンッ。
次第に全身まで行きわたったテンションに身を委ね、魔王ちゃんは玉座から立ち上がって後ろを向くと、腰に手を当てリズムに乗ってお尻をフリフリ。
ま・お・うのリズムで、お尻をクイ・クイ・クイッ! クイ・クイ・クイッ!
めっちゃノリノリじゃん。
さっきまでの見下してた様子はなんだったのか。
そんな映像がたっぷり5分ほど流れると、魔王ちゃんは腰に手を当てて言い放った。
『我は第3代目魔王、ステリーナ・デ・ヴァンガードなのじゃ!』
わぁあああああ、魔王ちゃーんっ、と穏やかなルシェの町が震えた。
ロロもクリスちゃんを抱っこして、キャッキャッしてる。
説明役が不在のため、俺は事態についていけなかった。
『このサークは我が物となったのじゃ!』
わぁあああああ、とまたもや大歓声。
せ、説明求ム。
『我に歯向かう者は皆殺しなのじゃ! それでも我に挑む愚かな者は我が魔王城へ来るがよい! 相手してやろうぞ!』
魔王ちゃんはカッコイイポージングを決めてそう言い放つと、今日一番の歓声が巻き起こった。
魔王ちゃんはエンターテイナーの一種なのかな?
『詳しくは、ヴァンガード家のホームページを見るのじゃ! 待っておるぞ、テフィナ人どもよ! ちゃ、ちゃんと参加するのじゃぞ!』
参加するぅ、頑張れぇ魔王ちゃーん、などの声援を受けて魔王ちゃんは満足げに頷くと、ホロウインドウは消えた。
「な、なんだったんだ?」
とりあえず、ヴァンガード家のホームページを見てみようかな?
読んでくださりありがとうございます。




