表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
57/171

2-2 それはもはやテロ

よろしくお願いします。


 バルガ周辺は大きな礫岩が転がる荒野だった。

 お情け程度にちらほらと草木が茂っているものの、基本は大小様々な石と土の風景だ。

 乾いた風がタンブルウィードを走らせる様は、中々に風情がある。俺の名前は、生咲洸也なので、ついに荒野に来ちまったとこの風景に感動を覚えた。


「あ、グルグル草だ。コウヤ、あれも魔獣だから気をつけてね」


 俺の彼女が注意してきた。

 どうやらタンブルウィードはグルグル草という魔物らしい。テフィナは本当に魔獣の名前が直球だな。


「マジか。言われなかったら蹴飛ばしてたよ」


「アイツは転がって小動物とかを巻き込んで、血を浴びて成長するんだって。『ローレンが行く』で見たわ」


「さすがエネーチケーだな」


 ローレンが行くはテフィナでもかなり人気の教育番組だ。

 大昔の魔獣学者の名を冠したソレは、異世界の魔獣について、謎のマスコットのクソ寒いギャグを交えて紹介する番組である。ロロがこの番組を好きなので、俺も毎回楽しみに見ている。


 俺達はそれぞれゼットで索敵マップを起動した。

 以前はロロしか持っていなかったけど、非常に便利なのでその日の内に俺とフィーちゃんもアプリを落としたのだ。


「討伐対象とそれ以外を分けるにはどうするんだ?」


「あ、それはねぇ」


 俺が問うと、ロロが身体をべったりくっつけて教えてくれた。

 せ、せんせぇっ、お、俺もう……っ!

 俺はすかさずその腰を抱いた。


 フィーちゃんも同じく分からなかったようで、ロロの肩口からひょっこり顔を出して一緒に説明を聞いた。


「行くわよアンタたち! エレクリにこの想いをぶつけるのよ!」


「「「おーっ!」」」


 おー、すげえ気合いだな。

 みんな義務冒険頑張ってるんだな、いいよね、こういう空気。


 俺はみんなが自主的に頑張るこの雰囲気に、俺達も頑張ろうという気持ちになった。

 その気持ちからロロの腰を抱きしめる腕に力が籠る。


「にゃぅ……もーっ!」


 ロロは、仕方ない奴ね、みたいな声と共に頬を膨らませると、腰に回された手に自分の手を重ねた。


「クソクソクソッ! ソロの恐ろしさ見せてやるわ!」


「そこのアンタ、ちょっと待ちなさいよ。私も同じ。一緒に行くわ」


「ほう、望むところよ。ひ、一人は寂しいしぃ……」


「私もぉ……っ」


 へぇ、ああやって仲間が出来ることもあるんだな。

 こういう場合は、おめでとうって拍手とかした方が良いのかな?

 いや、さすがにそんな漫画チックな祝福は相手も恥ずかしいか。大げさにして彼女たちの関係がぎこちなくなったら困るしな。


 よく見れば、なんか知らないけどそこかしこで臨時パーティが出来上がっている様子だ。

 今回集まった討伐隊は、なんか凄く良い感じだな。


 索敵マップの討伐対象とそれ以外の魔獣の区別の方法を教えてもらったところで、俺達も出発だ。


「あー、近場はダメね」


 町の近くにいる討伐対象は、当然のことながらすぐに狩られる。

 しかも今回の討伐隊はみんなやる気十分なので、凄い勢いで狩られて行ってるぞ。


 そこで俺は提案した。


「じゃあさ、鎖の移動術で遠くまで一気に行こうか? ロロは俺がおんぶしていくから、フィーちゃんは飛ぶか俺に掴まるかするの」


「おー、それ名案かも!」


「それ良いですね!」


 二人が同時に賛同してくれた。

 というわけで合体!


 ロロは俺の首とお腹に手足を絡め、フィーちゃんは飛ぶようだ。

 本当は前向きでカッコよく抱っこしたいところだけど、両手で鎖を使った方が連続で移動出来るから速いのだ。


「じゃあロロ、しっかり掴まっててね? 疲れたら言ってな」


「うん。あ、そうだ魔力交換すれば私もコウヤも疲れないかも」


「あ、そうか。いいね、それ」


 俺達はそのままの体勢で魔力を交換した。

 口内に心が蕩けるような味が広がる。

 好きよ、とロロが耳元で囁いた。俺もだよ、と笑い返す。


「熱々ですぅ! そんなんで私のスピードに勝てますかぁ!?」


 フィーちゃんが陽気に煽ってきた。

 本当に俺達のイチャイチャは気にしないようだ。


「ははっ、俺は安全運転だよ。ロロにケガさせたくないから」


「はわぁ、しゅ、しゅきぃ……ンチューッ」


 首筋にキスされた。

 お外でダメでしょうが!


「そうですね、安全は必要ですぅ。じゃあ、私は後ろからついて行きますので」


「了解、じゃあ行こうか」


 というわけで、移動開始だ。

 俺は右手から鎖を出し、30メートルほど先の地面に打っ刺す。

 20メートルくらい高速で移動し、鎖を消失させつつ大地に足を着ける。


「なんか凄く調子が良いな」


 俺は自分の手をニギニギしながら見る。

 この前も不意に調子が良くなったことがあったけど、その時以上だ。

 あの時は気づかなかったけど、どうやらこの現象は魔力交換の能力補正のようだ。かなり凄い補正だな。


「私も良い感じよ。今までで一番力が強くなってるかも。やっぱり愛し合ったから補正が強くなったのかな」


「え、魂の双子って好き合うと補正が強くなるの?」


「うん、知らなかったの?」


「ああ、俺のゼットに細工した可愛い子がいてな。調べられなかったんだ」


「なにその可愛い子。そういう子は大切にしないとダメよ?」


「やっぱりそうだよな。絶対に大切にする」


「ふふっ、しゅきぃ」


「俺も好きだよ」


「あ、あのあの、さすがに戦場のど真ん中でそれは不味いと思いますぅ」


 ハッ!?

 常識妖精のフィーちゃんに言われてハタとした。

 周りを見れば、ほぼ全員が遠い目で空を見上げている。

 いかん、絶対に爆散しないかなとか思われてる。


「い、行こうか」


「う、うん。あ、ねっ、もっとスピード出しても大丈夫そうだよ」


「そう? お前が大丈夫なら少しスピード上げるけど、本当に大丈夫そうか?」


「うん、がっちり掴まってるから大丈夫」


 ロロから力強い答えが返ってきたので、俺はいつもより頑張ってみることにした。

 とは言え、やはり安全運転は心掛ける。


 40メートルまで鎖を放ち、30メートル高速移動。

 それを両手で1回ずつ繰り返す。


「大丈夫そう?」


「全然平気、行け行けぇ!」


 ロロは運動神経がアレな可愛い子だが、力は普通に強い。

 掴まっているだけな本当に大丈夫なのだろう。


「無理ならいつでも言ってね」


 俺は念を押してから連続高速移動を開始した。

 その結果、1分足らずで2キロを移動した。クッソ速いな。

 しかも、俺のヴァルドナの鎖は覚醒モデルなので、鎖の回りに出る円環魔法陣が俺にぶつかり光の粒子となって尾を引くものだから、端から見ると相当にカッコいいはず。


「さすが私の彼氏ね!」


 ゼットのその結果を調べたロロが嬉しそうに言って腕に抱き着いてきた。

 俺はその頭をめっちゃ撫でた。


「コウヤさん速いですねぇ。普通に私よりも速いかもしれないですぅ」


 フィーちゃんも褒めてくれる。

 こんなに女の子に褒められたのはちょっと記憶にないな。滅茶苦茶嬉しい。


「ありがとう。えっと、じゃあこの辺りで狩りをしようか。今日はどうやって狩る?」


「まずはこの前みたいに三人で一回ずつ様子を見ましょうか。それで普通に狩れるようなら手分けしてって感じでどう?」


 むむっ、ロロはここら辺はちゃんとするみたいだな。

 個人的にはベタベタしながら狩りたいのだが、ロロの言う通りにするべきだな。節度を持たなくてはダメだ。


 というわけで、戦闘開始。

 まずは、俺が相手をすることになった。


 相手は青いエレクリ。

 レベル教育で見た奴よりも3倍はでかいな。レベル教育のは復活させたエレクリらしいから、小さいのかもしれない。

 青いエレクリは、喰らえば大人でも吹っ飛ぶくらいの威力の水弾をぶつけてくる。マシルドがギリギリ張られる威力らしい。


 さて、魔力を交換している俺は、本当に調子が良かった。


 青エレクリの撃ってきた水弾を鎖移動で回避。

 回避したポイントはエレクリのすぐ近くで、着地と同時に身体を回転させ、別の手から出現させておいた鎖を叩きつける。

 その鎖は見事にエレクリを粉砕した。

 一瞬でエレクリを討伐してしまった。


 エレクリの残骸を集めて亜空間収納へ仕舞い、二人の下へ戻る。


「コウヤさん凄くカッコ良かったですぅ! 魔法陣の光を纏って流星みたいでしたよ!」


 フィーちゃんが手をパタパタしながら言った。

 これはオスとしてカッコいいというより、ゲームキャラの奥義ムービーを見て興奮している感じだ。

 ねっロロちゃん、とフィーちゃんが問いかけると。


「はぅうう……超カッコ良かった。しゅきすぎる」


 真っ赤な顔でそう言った。完全にメスの顔であった。


 さっきよりも強烈な賛辞を受けた俺は、てれてれもじもじした。


 ロロがしばし使い物にならなくなったので、次はフィーちゃんだ。

 相手は黄エレクリ。青エレクリの土バージョンだ。


 それじゃあ行きますよぅ、とにこやかに言ったフィーちゃんは、ふぅっと息吹を吐く。

 たぶん、長い前髪の奥で目を閉じているんじゃないかな。

 そして、今、カッと開いたんじゃないかな。


「お花さん、力を貸してぇ! なぁあああっ!」


 頭の花冠から一本の花を抜き出し、それを頭上に掲げる。

 お花魔法が行使されると、お花が光り、フィーちゃんの身体から赤い闘気が噴出した。

 かはーっ、と息を吐いたフィーちゃん。


「押忍ぅ! 押忍押忍押忍ぅ! タンポポ真拳トットコ道場門下生フィー、推して参るですぅ!」


 ふわっ、凄い殺気。

 スイッチ入ると武闘派になるのはどうしてなんだろう。


「タンポポ真拳奥義 綿毛漂流」


 フィーちゃんはふわりと浮かぶと、ベ○立ちのような構えで飛んでいく。

 タンポポ真拳が謎過ぎる件。


 頭おかしい感じの妖精の接近に恐怖したのか、黄エレクリは土弾で先制攻撃。

 それをベガ立ちのままふわりと避けるフィーちゃん。物凄く柔らかな回避だった。

 さらにエレクリは土弾を飛ばし続けるが、それを全てふわり、ふわりと回避していくフィーちゃん。とても優しい動きなのに、可愛い妖精さんなのに、どうしてだろう。なんか怖い。


 そして、エレクリのすぐそばまで近づいたフィーちゃんは。


「タンポポ真拳 壱の拳 綿毛流し!」


 バキンッ!


 綺麗な正拳突きにより、エレクリは粉々に割れた。

 フィーちゃんは頭上に両手を上げて、「押忍ぅ!」と十字を切る。


「妖精さんて全部あんななの?」


「コウヤしゅきぃ」


「お、俺も好きだよ」


 まだ呆けてやがる。可愛い奴め。

 で、えっとなんだっけ。

 そうそうフィーちゃん。


「やっぱりフィーちゃんの攻撃力は凄いね!」


「うふふふっ、タンポポ真拳は最強ですぅ!」


 エレクリの残骸を集めるフィーちゃんの下へ行くと、きゃわわモードに戻っていた。 

 落差が凄い子だ。


「それじゃあ最後にロロだな」


 ようやっと正気の戻ったロロは、ふんすと気合を入れた。

 ネコミミがピンと立ち、やる気を示す。超可愛い。


 ロロの獲物は、赤エレクリ。

 コイツは火弾を使うエレクリだ。他のエレクリより強いとされている。まあ火だし、怖い。


 だが、基本的にロロは魔法頼りの敵と相性が滅茶苦茶良い。

 いや、というよりロロの魔導装具とだな。


 ロロのビットオーブは、魔法を吸収して打ち出す武器なのだが、吸収するのは自分の魔法だけではなく、相手の魔法も吸収できるのだ。


「おいで、ララ、リリ、ルル」


 ロロは3体のビットオーブ(人形)を具現化させる。

 すぐに2体に魔法を浴びせて別々の方向へ飛ばし、もう1体はそばに待機させる。


 ロロも相手の攻撃をまずは体験したいのか、先制を譲った。

 これは別に舐めプというわけではなく、初心者向けクエストの段階で攻撃に慣れるために推奨されている行為だ。

 魔導装具の圧倒的な攻撃力でバッタバッタと敵を倒していくと、戦闘が巧みな敵と対峙した時に困ることになるからである。


 ロロの下へ火弾が迫る。

 その光景を見た俺は、身を挺して守りたい気持ちを抑え込んだ。

 ロロは自分のそばに配置した人形でその火弾をしっかりと吸収した。俺はホッと息を吐いた。


 その火弾を数割増しの大きさにして人形が打ち返す。

 しかし、このエレクリと言う奴は、自分の属性は効かないようで、これといってダメージはない。


 ロロもそれは分かっているので、事前に飛ばしておいた2体の人形から土の槍を放出させて決着をつけた。


「カッコ良かったよ、ロロ」


「でしょーっ!? んふふふふっ」


 俺は賛辞と共にロロの頭を撫でた。


「ロロちゃん、ふぅーっ!」


「にゃふーっ! ありがとうフィーちゃん!」


 ハッ!?

 そうだった、ハイタッチしてなかった。


「ロロ、ふぅーふぅー!」


「にゃふふーっ!」


 ロロははにかんだ様子でハイタッチしてくれた。

 最高にリア充してるぜ!


 余裕で勝てたので、その後は以前のように全員でバラバラに2体ずつ倒してロロの下へ集合という作戦でいくことに。

 一気に残りを倒してしまわないのは、結界の無いフィールドだと不測の事態があり得るからだ。長時間別々に行動したり、敵を探して単独で奥まで行ってしまうとそのリスクは当然跳ね上がる。


 ロロと魔力交換している俺は、ものすごく調子が良かった。

 鎖移動で敵の近くに移動して倒したり、敵に鎖を巻きつけて絞め殺したりとバッタバッタとエレクリを倒していく。


 しかし、だからといって調子には乗らない。

 俺よりも強い奴はテフィナじゃそれこそ星の数ほどいるし、そんな彼らを以てしてもガチでヤバい魔獣は一人では倒せないのだという。その中には遠隔兵器に頼るしか倒す術がない奴らだっているそうだし。それなのに調子に乗れって方が無理だ。


 後半にはロロと合体して、移動しながら魔法を撃つ訓練もしてみた。

 どうもこれは難しいらしく、ガリオン教官のおっしゃった通り、自主練が必要みたいだ。まあ余裕をもって倒せる敵で練習している今も自主練の一種だけどな。


 この前のような事件も起こらず、討伐は完了した。

 今回のクエストに参加した連中は本当に意識が高いようで、討伐が終わって町へ帰る道すがらで見る彼ら……特に女子は凄い頑張っていた。


「しまってこー!」


「斧投げぇーファイ、オッ!」


「憎しみを力に変えてぇ行くよぉ!」


 憎しみを力に変えるとか完全に中二さんな発言だけど、意識が高い中二さんなのだろうな。あと、最近斧投げという単語を凄く聞く。そういう魔導装具があるのだろうか?


 さて、そんなこんなで。

 合計30匹討伐、さらに合計15キロのエレクリの残骸を納品して、高評価でクエスト達成だ。

 一人頭10000テスの報酬が身分証に入金されているのを確認。


 今回は割と早く終わり、実働4時間だ。良い稼ぎなんじゃないだろうか?


 さて、今日はまだ少し用事があるからな。

 それを済ませて、はやくイチャコラしよう!

読んでくださりありがとうございます。

ブクマありがとうございます。励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ