1-43 一人で行けるもん ※エロい意味ではない
よろしくお願いします。
フィーちゃんが仲間になり、翌日も三人で一緒に討伐クエストを受けに行った。
草原での活動が思いのほか楽だったので、またギルタウでの討伐クエストだ。
ステップマウスとか言う小型犬くらいのネズミを討伐するクエストだったのだが、これといって苦労もなくクリアできた。
思うに、ルシェ近隣の森林は少し難易度が高いんじゃないかな? ロロだってこの草原ならルファードをもう少しうまく使えたと思う。まあ、結局のところは合ってなかったので早々に武器変更出来て良かったと思うけど。
俺達のイチャイチャ具合にフィーちゃんは辟易しないだろうか、と心配だったが、妖精さんは空気を読めるがイチャイチャに関してはこれと言って思うところはないらしく、仲良しなのは良い事だとばかりに楽しそうにしていた。
そんなこんなで、その次の日だ。
テフィナは、2日仕事したら1日か2日休むクソイージーな文明なので、今日はお休み。
目標通りに自分の力でお金を得ることが出来たので、このお金でロロにプレゼントを買おうと思う。
「ロロ、今日はちょっと一人でお出かけしたいんだけど、良いか?」
朝食の席でロロに尋ねた。
するとロロは、菓子パンを口に当てたまましばしフリーズ。
「えっとどこ行くの? 仕方がないから私も一緒に行って上げても良いけど?」
寂しがり屋さんかよ。
「いや、ちょっと一人で行きたいんだよ」
「へぅ!? え、えっと、一緒に行ってもいいんだよ?」
上目遣い。
しかも炬燵の中で足を延ばして俺の足にちょんちょんと触ってきた。
グラつく。
だけど、ロロへのプレゼントを買うためのお買い物だし、本人がいるのはなぁ。サプライズ狙いだしさ。
「ごめんね。今日だけ、お願い」
俺が曲げずにいると、ロロはしゅんと項垂れる。
項垂れつつもチラッチラッ。
炬燵の中では、さわさわっ。
「あ、あのね、実を言うと私、今日暇なの。だから一緒に行けるけど、どうする?」
どうする、じゃねえよ。
一人で行くっつってんじゃん。
「ロロ、今度一緒に出掛けよう? 今日はどうしても一人が良いんだ。ごめん」
「た、魂の双子なのに?」
「魂の双子なのに」
「……出かけるって15分くらい?」
「俺の風呂より短いじゃねえか」
「じゃあどれくらい?」
「全力で交換して今だと3時間だよな? それくらい」
俺が告げると、ロロは目をかっぴろげてから、しゅんと項垂れた。
チラッ。
「ま、マッサージしよっか?」
唐突っ!
しかし、こんなに引き留めるとかどうなんだこれ。
完全に調教が済んでいるとみて間違いないんじゃないだろうか?
「いや、それはまた夜にやって? 今日は家で待ってて。な?」
ぷくぅっ!
ロロが頬プクモードを始めた。
「あーあっ! じゃあ私、一人で暇してよ! あーあ! 暇だなぁ! あーあ!」
ぷくぅっ!
おっと、ロロちゃんはヤンデレさんの素質があるのかな?
「じゃあ、俺、準備するから魔力交換して?」
「……」
プイッ!
「ま、魔力交換してくれる?」
「……」
プイッ!
メンドくさっ!?
しかし、初めて見る可愛い態度を楽しんでいる自分も発見。チョロイ。
俺はロロの手をモミモミし始めた。
準備を始めるのに1時間を要した。
目的地までの行き方はちゃんと確認済み。
初めての一人行動だが、俺はやれるっ、頑張れ!
ふと考えたが、ロロがあんな調子だったし、この先こうやって一人でお出かけする機会はどれくらい訪れるのだろうか。
一生で数えられるくらいしかない、なんて事になったらそれはたぶん凄く幸せなのではないだろうか。それともずっと一緒に居て疲れちゃうだろうか?
家を出て数分。
俺は来た道を引き返した。
引き返した先では、ハンチング帽子とでかいサングラスをした女が唇を窄めて息を吹く謎の行動をしながら、余所のお宅の庭先を見ている。
「あれ? どこかでお会いしたことありませんか?」
「え、にゃんの事でしょう? 勘違いじゃありませんか?」
「あれ、気のせいだったみたいですね。すみません、人違いでした」
「あはははっ、良くあることですよ。ところでおんぶします?」
「しねえよ!? だから今日は一人で出かけるんだって!」
「にゃによぉ、一緒に行っても良いじゃない!」
「寂しがり屋さんかよ!?」
「寂しくなんてありませんーっ。暇だからついて行ってあげるだけですぅ!」
「んんーん……はぁー。分かったよ。じゃあ、行くぞ」
「はんっ、最初っから不安だから一緒に来てって言えばいいのよ。ったく、意地張ってバッカみたい。これだから大人ぶりたい年頃は」
ロロはぐちぐち言いながら、やれやれと首を振る。
そんなロロを引き連れて、やってきましたクーファ家。
そしてクーファ家の庭では、眠たげ幼女が芝生をじぃーっと見つめる作業をしていた。
「よっ、クリスちゃんおはよう!」
眠たげ幼女が俺の声に反応して顔を上げる。
そして次の瞬間、片手を上げた俺をスルーしてロロのツルツルデルタにピットイン。
俺は陽気に上げた手をそっと下ろした。
「おねえちゃ!」
「クリスちゃんおはよう!」
「おはよっ!」
股座から顔を上げてアイドルを見る少女にように眠たげな眼をキラつかせるクリスちゃん。
そんな彼女が、はたとしてロロから離れる。
「いつもとちぁう?」
ロロの服装を見て、いつもと違う事に気づいた。
今日のロロは黒とか白でカッコよく決めた格好ではなく、明るい色のチェック柄の服と縞のハイソックスを穿いている。変装なのだろう。
「今日はこういう気分なのよ、似合う?」
「しゅてき」
クリスちゃんのロロ崇拝がヤバい件。
「なに、今日はレオニードさんに用だったの?」
「いや? だけど、お前は今日クリスちゃんと午前中遊んでるんだよ?」
俺の言葉に、ロロが謀られたみたいな顔をした。
一方で、クリスちゃんは遊んでもらえると聞いて目をキラキラさせだす。
お前はこのキラキラ幼女をしょんぼりさせられるのか?
「あと、フィーちゃんにもさっき連絡入れといたから、もうじき」
「ロロちゃーん!」
言ってるそばからフィーちゃんが飛んできた。
ちなみに、連絡はロロが後をつけていると知ってすぐに入れた。
「ふぃ、フィー!?」
「今日は遊んでくれるそうで、ありがとうございます! あ、この子は?」
「フィーちゃん、おはよう」
「あ、コウヤさんおはようございます」
「この子はクリスちゃん。クリスちゃん、彼女はフィーちゃんっていうんだ」
口を『0』の字にして妖精さんを見つめる眠たげ幼女の耳に、俺の紹介は果たして届いていたかどうか。
そんな俺達の騒ぎが聞こえたのか、レオニードさんが家から出てきた。
いつも通り挨拶から始め、レオニードさんはにこやかに俺に言った。
「それじゃあコウヤ君。確かに」
「はい、いつもご迷惑かけてすみません」
「はははっ! ロロちゃんにはクリスの遊び相手してもらうんだから、迷惑だなんて思ってないよ」
とまあ、フィーちゃんの他にもレオニードさんへ連絡していたわけである。
「それじゃあ、ロロ。行ってくるから」
キッと睨まれた。
縮地とか使いそうなクールビューティなロロなので、眼光鋭く睨まれると煌めく刃を連想して鳥肌が立つ。
睨んだ後、ロロのクリスちゃんの目線まで屈み、ぎゅぅっと抱きしめた。
クリスちゃんも、んーっ! と言った感じで抱きしめ返す。
癒しの光景である。
さて、レッツお買い物。
目的地は、他の世界にある、女の子の街メロー。
今回はリードしてくれるロロがいないので、経路をゼットで再確認しながらの行程だ。
魔力交換は3時間しか持たないから、早いところ行動しよう。
まずはサークのワールドタワーへ行き、そこからゼウナスという世界へ。
さらに、ゼウナスのワールドタワーからメローのターミナルへ。
ゼウナスのワールドタワー内で、メロー方面に向かっていると、なるほど俺が今から足を踏み入れるのがどういう場所なのか否が応にも分かるというもの。
女子女子女子、たまに男連れた女子。9割くらいは女子かな?
ビビることに、男子一人で向かっている奴が一人もいないという。
やっちまった感が胸の内に沸き上がる。
ロロへのプレゼントを選ぶから女子の町メローを選んだわけだが、普通に違う街でも良かったかもしれん。それこそルシェのアクセサリー屋とかさ。
え、ええーい、しかしもはや賽は投げられたのだ。行くっきゃねえ。
俺はメロー行きのでっかいゲートへ並んだ。
前後が女子。まるで女性専用車両に迷い込んだような気分になった。めっちゃ良い匂いがする。
しかも、前の二人組の女子がめっちゃ俺のことを見てくるのだ。
ひそひそ、ひそひそ、きゃー、ひそひそ、きゃー!
女子のひそひそ話は男子の精神にダメージを与えると知らんのか女子共め。
ロロ成分を補給したくなってきた俺は、舌の上に残るロロちゃん風味の魔力を口の中で味わった。
すんごい苦くてすんごい甘い。これが普通の料理の味なら、身体の心配する味わいだ。
と、そんな風に俺がやや現実逃避していると、前の女の子が真っ赤な顔で手を出してきた。
「あのあの、握手してください!」
「はぇ!?」
あ、握手……とな?
全くもって意味が分からない申し出だが、差し出された手がずっとそのままなので、俺は思わずその手を握った。
「はわぁああ」
超嬉しそうな顔をされた。
どういうこと? 2日前に助けたシルフィーナさんの件と言い、もしやモテ期に入った?
こういっちゃなんだが、モテ期とかいらんのだが。ロロだけで良いのだ。
「え、えっと、握手し終わって言うのもなんだけど、誰かと勘違いしてませんか? 俺は有名人でも何でもないですよ?」
「あっ、そ、そうだったんですね。か、勘違いだったかも、えへ、えへへへっ」
女子は真っ赤な顔でてれてれする。テフィナ女子だけあり、顔も可愛けりゃ仕草も可愛い。
まあ俺は一応、シャッドきゅんには似ているらしいけど、シャッドきゅんは大昔の人だ。とっくに死んでる。
「あ、あの、私も握手してください」
「話聞いてた!? 有名人じゃないけど良いの!?」
とは言ったものの、新たに申し出てきた友達の女の子も手を差し出してきたので握手。
めっちゃ嬉しそうな顔をされた。
「えっと、これからメローですか?」
列は長いので、待っている間質問が来た。
その質問に対して、俺は予防線を含ませて答えた。
「はい。好きな女の子にプレゼントを上げたいと思いまして」
「「にゃふぇええ!?」」
「おわっ!?」
唐突にテンションが上がった女子たち。
その予想外な反応に、俺の居心地の悪さレベルが跳ねあがった。か、帰ろっかなぁ?
っていうか……
女子たちのさらに一つ前の女子たちもなんかひそひそし始めたんだが。
「え、えーっと、もしかして俺は君たちが勘違いした有名人にそんなに似てるんですか?」
「「「「そっくり」」」」
「ひぇ……っ」
デジャビュ。
俺の脳裏にミファンでの集団リンチが蘇った。みんな酷いこと言うんだ……っ!
「あ、あの、前進んでます」
俺が言うと、前の前のさらに前のグループの女子が慌てて前に進んだ。
「えっとえっと、何をプレゼントするつもりですか?」
「うーん……もしあり得ないセンスだったら言って欲しいんですけど、ケモノセットをプレゼントしたいなって」
「素敵です!」
女子が目をキラキラさせて言った。
ここら辺がテフィナの感性だ。ケモミミは普通のファッションなのである。良い文化だ。
「良かった。プレゼントしてガッカリさせちゃったら悲しいですからね」
俺はそう言って笑った。
女子からするとこんなヘタレた事を言う男は減点だろうか、なんてチラリと思いつつ。
「大丈夫です! 絶対に喜びます!」
「喜ばなかったら、斧投げます! っていうか喜んでも斧投げます!」
「斧投げるの!?」
物騒な事を言う近場の女子。
さらに前の女子たちも何やら言っているが、喧騒にかき消されて聞こえない。『コーティング』という単語は聞こえたが、俺と関係がない単語なので、すでに違う話題になっているのだろう。
そんな事を話している内に、ゲートが近づいてきた。
「あのあの、お話ししてくれてありがとうございました!」
「いや、俺の方こそ君たちのおかげで自信が付きました。ありがとうございます」
ケモノセットは喜んでもらえるのだ。
こうして、ちょっとした出会いと別れを終え、俺はメローに降り立った。
各町のターミナルは、ワールドタワーから降りると大体が屋上へ出る。
そこは町が訪れる者を歓迎し、去り行く者に思い出を掘り起こさせる場所だ。
そんな場所なので、各町の特徴や風景が盛り込まれていることが多い。
ピンク。
わたわた。
ハートや星。
キラキラ。
瞬時に、帰りたいゲージが沸点に届きそうになった。
右を向いても、女子女子してる。
左を向いても、女子女子してる。
空を見上げても……おい嘘だろ、雲がハートや星型だぞ?
女子に連れてこさせられた男子もいる。
そいつはもはや何もかも諦めた顔をして、これからショッピングへ赴くようだ。
おっと目があった。お前もか、みたいな仲間意識が伝わってきた。
だが、残念。俺は単騎駆けだ。俺の方が高レベル。
帰りたい……っ。
サプライズとか良いから、ロロを連れてくれば良かった。
お前にプレゼントしたいから一緒に選ぼう、とか言えば良かったじゃないか。それだってアイツは絶対に喜んだはずだ。今日だってあんなに一緒に行きたがったのだから。
くそ、俺は大馬鹿だ。
とりあえず、俺はベンチに座った。
10秒で立ち上がり移動。
男一人でこの空間でベンチに座るとかないわ。
えー、やだー何あの人ー、一人で座ってるぅ、きもー、とか言われそうで無理。
常に移動していた方が気がまぎれる。
俺はゼットを片手に、ターミナル内を移動する。
ターミナル内は、女の子の町というだけあり、女性向けのポスターやらホログラムがそこら中に飾られている。
あと、色。凄いキラキラしてる。精神に来る。
っていうかブラジャーのホログラムを公共の場に展示しないでくれますかねぇ!?
テフィナのブラジャーは紐がなく、自然、ホログラムは肌色多め。っていうか肌色に近いブラジャーなので一見すると裸。
俺はなるべく見ないようにしてその横を通り過ぎた。
ふいに甘ったるい香りがした。
お菓子CMのホログラムから匂いが出てるようだ。ハイテクである。
甘い匂いに吐きそうになるぜ!
俺は日本で暮らしていた頃、前を歩く女子を抜かすのが苦手な少年だった。
だけど、後ろを歩くのも苦手な少年だった。
女子の制空権に侵入すると、言葉や仕草の刃でぶった切られそうで怖かったのだ。
そんな俺がフィールド属性・女子のエリアで息をしている。
ぶっちゃけ泣きそうであった。
もちろん、え、別に何も気にしてませんけど、とばかりにポーカーフェイスは貫いている。それがお年頃の少年の見栄だ。薄っぺらい装甲だ。
俺は精神をごりごり削りながら、お目当てのゲートを潜った。
女子女子女子。
ニャー、超可愛いー、キャッキャキャッキャ。
女子女子女子。
えーやだー、うそー、キャッキャキャッキャ。
女の子向けのオシャレな店が軒を連ね、町行く人々は当然の如くお洒落な女子。
俺の冒険は始まったばかり……っ!
読んでくださりありがとうございます。




