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1-37 魔導装具の町 ブレイヤ

よろしくお願いします。

「さようなら、ルファード……」


 ロロは、レジに置かれたルファード鎖バージョンを一つ撫で、悲しそうに別れを告げる。

 好きな武器を使わせてあげたいけど、それをさせてあげるには相棒である俺が弱すぎるので涙を呑んでもらいたい。


「またお金が溜まって余裕が出来たら買おうぜ」


「うん……」


 ルファードとお別れするに当たり、昨晩に何枚か写真を撮らされた。

 もちろんルファード装備のロロのカッコいいポーズ集だ。ロロの写真を撮るのは好きなので俺もノリノリで撮ったが。


 さて、ルファードとイージスをお店に返品だ。

 買ってから30日間1度だけ全額キャッシュバック返品が可能というキャンペーンを利用したので、満額返ってきた。

 魔導装具は、基本的に15日以内なら8割キャッシュバックの返品が可能だ。今回俺達が使った全額返金は義務冒険者応援サービスみたいなもんだな。

 前述した通り、1度だけしか全額返金は出来ない。次回から返品する場合は8割返金になるので今度の武器選びは慎重にしたい。


 お店を出た俺達は、その足でお出かけだ。

 今日はなんと世界を超えるぞ。

 目的地は、魔導装具の町ブレイヤ。

 そこは、ルシェの町があるサークとは異なる世界に存在するのだ。


 もちろん目的は、俺達の魔導装具を買うためのお出かけだ。

 ロロがルファード以外を買うならブレイヤに行きたいと言うので、ブレイヤに行くことになった。

 ちなみに、ロロ曰く、ルファードはシャーリーが使っているノーマルモデルこそが至高らしい。


 ルシェとの時差はブレイヤが+3時間ということなので、ブレイヤは今12時ごろ。

 さらに、ブレイヤの現在の季節は春。本日の天気は快晴。


 とまあ、別世界への移動が日常の一部になっているロロが手際よく調べてくれた。

 日本を離れたことなんてなかった俺は、時差がある事すらすっかり忘れていた。その上に、世界を越えれば季節や天気も変わるので、世界を移動する時はちゃんと調べないとダメらしい。


 さて、二回目の世界転移だ。


 ルシェターミナルから、サークのワールドタワーへ。


 ちょっとおさらいすると。

『町内ゲート→ターミナル→ワールドタワー』の順に移動していく事になる。

 他の世界に移動したら、今度はその逆の手順で現地へ行く。

 地球で例えるなら、距離に応じて、バス、電車、飛行機の順に乗り継ぐようなものと思えばいい。尤も、それぞれが一瞬で目的地に届けてくれる違いはあるけどな。


 ワールドタワーは、同世界の別の町と、他世界のワールドタワーに行くゲートがあるので、超でかい。

 ただし、人はけが良くなるようにお土産屋さんとか飲食店とかは一切ない。そんなものがあったらただでさえ交通の要所であるタワーが人でごった返してしまうからだ。早い話、見所は皆無。

 それ以外にも何らかの対処がなされているのか、人口が300億人いるにも関わらず、そこまで酷い混雑はしていないな。


「迷子にならないでよ?」


「バカにしないでよ!」


 ロロのおちょくりに言い返しつつも、実は不安だ。

 まあ最悪、魔力交換切れで強制転移するので再会は難しくないが。


 ロロにリードされつつ、サークのワールドタワーの54階へ。

 そこに俺達の目的の世界行きのゲートがあるらしい。そういうのは事前に調べてから来るらしい。


 そんなこんなで別の世界へ。

 世界の名前は『フィーズ』というらしい。

 フィーズのワールドタワーも、これと言って見所はなく。

 俺達は一路、ブレイヤ行きのゲートへ向かった。


 ゲートへ向かっている途中で、俺はふと違和感を覚えた。

 なんだろう……何かが……


 俺は同方面に向かう人々を見回して、首を傾げる。

 気のせいか?

 ロロは何か感じたりしていないだろうか? 俺は隣を歩くロロを見た。


 眼帯をつけてた。


「ちょっ、え?」


 しかもその眼帯は、縁から瘴気のような黒い靄がわずかに放出されている。


「どしたの?」


「どしたのじゃねえよ。一緒に歩いてる子がいきなり眼帯つけたら誰だって戸惑うわ!」


 そうツッこんだ俺をロロは顔を赤くしてぽかぁと殴ってきた。


「なにが!? なんでぶった!?」


 ロロはもじもじしながら言う。


「だって、アンタが大声で変なこと言うから」


「変な事言いましたか!?」


「しぃーっ! もうもう! 私が眼帯初心者だってバレちゃうじゃない!」


「眼帯初心者ってなに!?」


「ばかばか! だから、しぃーっ! しぃーっ!」


 ロロの『しぃーっ』は空気を歯に当てるのではなく、『し』の音を口で言うやり方だ。

 とりあえず、本当に止めてほしそうなので落ち着こう。


 俺は改めてロロティレッタ眼帯バージョンを見た。

 うっ、なんだコイツ。眼帯付けた途端に、悲しい過去属性をぶわりと顔面に帯びやがった。俺には及びもつかない凄い運命を背負ってそう。超可愛い。


「で、なんで眼帯なの?」


「だってせっかくブレイヤに行くんだし。私もオシャレしようかなって……似合う?」


「意味が分からないけど超似合う」


 もじもじしながら問うてきたロロに正直に答えてあげると、もじもじが加速してローキックが飛んできた。


 しかし、眼帯がオシャレって一体どういうことだ?

 俺は改めて周りを見回した。

 そして、はたとする。


 ブレイヤゲートに向かう奴らの多くが、オーラを放出させているのだ。

 ある者は腕に巻きつけられた包帯から、ある者は眼帯の周りから、ある者はロングコートのボロボロの裾から……


「ま、まさかブレイヤってのは……?」


「魔導装具と血の契約を結ぶための町だよ?」


「……っ!」


 遠きに日に完全封印したはずの腕が疼きだした。




 前に並んでいた少年が、『懐かしい気配だ……やはりこの先にお前はいるんだな……』と言って遠い目で見上げていた転移ゲートを俺達も潜り抜け、いざブレイヤへ。


 ロロが先にゲートを潜り、すぐに俺もゲートを潜ったのだが。


『もうすぐ会えるね……』


 ゲートを潜った瞬間に、俺の耳に女の子の声が酷く明瞭に届いた。

 ハッとして周りを見回すと、そこはすでにブレイヤターミナルだった。


「コウヤ、後ろ来ちゃう!」


 すでにゲート周りの柵の外に出ていたロロが慌てたように言う。

 ゲートは青いゲートから入って赤いゲートから出る。赤いゲートの中で立ち止まらない。それが、ゲートを使用する上での注意点だ。


 俺は慌ててその場から移動した。

 しかし、頭の中は今の声の事で一杯だった。


「なによ、どうしたの? いつもちゃんと出来てるのに」


 立ち止まってしまった事について、ロロが問うてくる。

 口元が笑っているのは、ブレイヤに来れて嬉しいからだろうか。


「ごめんごめん。今さ、ゲートを潜った時に不思議な事が起こったんだ」


「ふ、不思議な事って? ふっ、んふふっ」


「お前、なんか凄く楽しそうだな。ニコニコじゃん」


 激しく可愛い。緩んだ大きなお口に俺のどの部分でも良いからねじ込みたい。


「ゴホン。それより、不思議な事って?」


「ああ、そうだった。いやな、女の子の声が『もうすぐ会えるね』って言ってきたんだ。なんだろう、もしかして俺を待ってる魔導装具があるのかも」


「ぐひゅす」


「笑うなよ。本当なんだって」


 ううむ、なんだか眼帯付けてる奴に痛い人みたいな扱い受けているんだが。

 まあ、笑顔が可愛いから良いんだけどさ。


 しかし、本当に何だったんだろうか。

 もしかして、女の子に変形する魔導装具とかゲットしちゃったり!?

 ヤバいな、それ。三角関係の始まりか?

 ……ぶっちゃけロロで手一杯、お腹も一杯、心も一杯なんだけど。


 そんなことを真剣に考える俺の耳に、周囲の会話が届いた。


「やっぱりルリータたんの声は良いですなぁ」


「いつ聞いてもゾクッてするよな。本当にもうすぐ会えそうな気がしてくるよな」


「ああ、なんで僕は600年前に生まれなかったのですかな。生ルリータたんのライブに行きたかったですぞ」


 ……ん?

 本当にもうすぐ会えそうな気がしてくる?

 んん?

 ………………

 ……ま、まさか。


 俺がその可能性に行き当たったのを察したのか、ロロが俺の顔を指さして、ひぃーと白い歯を見せて笑い顔を見せてきた。超可愛いっていうか、おのれぇっ!


「いや、もちろん分かってたよ? 知らないふりをしたら面白いだろうなぁって」


「顔真っ赤すぎ……っ!」


「ぐぅっ!」




「ブレイヤゲートの演出は私らの界隈じゃ有名なのよ。声を当てたのは、なんとあの伝説の声優ルリータたん! 本当にもうすぐ会えちゃうかもって気になる人は大勢いるわ。だから大丈夫、誰もコウヤのこと笑わないわ、ぶひゅすすっ!」


「笑ってんじゃん!?」


「笑うわよ! 本気にしてんだもの!」


「お前だって眼帯初心」


「ニャーッ! しぃーッ! しぃーッ!」


 ターミナルを移動しながら、ロロがからかい混じりに教えてくれた。


 そう、『もうすぐ会えるね』という女の子はただの演出だった。

 魔法がある文明だけに完全に信じたわ。


 純粋な心を弄ばれた俺はロロが眼帯初心者だと周囲にばらしてやろうと試みたが、必死に止められた。

 そんな俺達の様子を黒尽くめの少年が、俗物め、みたいな冷めた目でチラ見して通り過ぎて行った。

 そうだった。ここは女子とイチャコラする類の軟弱者の町ではなかったな。気を引き締めなければ呑まれる。


「それで、俺達はどこに向かうんだ?」


「とりあえず、ターミナル前広場に出ましょうか」


 というわけで、ターミナル前広場に移動。

 ロロ曰く、知らない町へ遊びに訪れた時、これと言って目的地がない場合はターミナル前広場に出てみるのが丸みたい。

 もちろん、目的地があるのなら、事前に最寄りの町内ゲートの名称を調べるなりして、そのまま直行だ。

 今回は、魔導装具を探すためのお店巡りなので、とりあえずターミナル前広場ってわけだな。


 ターミナルの正面入り口を出ると、そこには異様の光景が待っていた。


 まず、地面がヤバい。

 崩壊した世界を髣髴とさせる浮遊する大地と星の煌めきを散りばめた宇宙空間、そんなものが広場中の床に広がっているのだ。

 しかし、実際に崩壊しているわけではなく、床の柄である。普通にみなさん浮遊する大地ではなく、宇宙空間の部分を歩いている。床の柄がぬるぬると動くのはさすが超文明だなぁとは思う。


「そんな世界はもう終わってしまったの……」


「いいや、まだだ。絶対に終わりにさせるもんか」


 ロロが愕然とした声で言うので、乗ってやった。


 広場はそのやべぇ柄の床に相反して、待ち合わせやら休憩やらの人で賑わっていた。

 床の柄に合わせて作られたベンチは、崩れた建物の石をモチーフにしていたりと手が込んでいて、みんな楽しんでそういったオブジェを利用している。


 そんな彼らの恰好は、コスプレチックな服装が割と普通のテフィナにあってなお、ガチ勢と分かる中二ファッションだ。

 眼帯は当たり前。ボロボロな腕包帯も当たり前。

 ヤバいな、この街、すげぇ楽しい。


 広場の回りを囲う建物は、お土産屋さんや飲食店が多いみたい。武器屋さんは見当たらないな。

 そんな店舗の建築様式は、これぞ中世ファンタジーと言わんばかりの煉瓦造りの建物だった。ただ、外観の見た目に反して、外から見える厨房などはとても綺麗なので、たぶんわざとそういう見た目にしているのだろう。


「ねっ、朝ごはん食べよ」


「ああ、何食べる?」


 遊ぶために朝から世界を移動する時は、現地で朝ご飯を食べる。それが流儀みたい。旅行に行くときに、朝飯をパーキングエリアで済ませる感じだろうか。

 俺達はクレープをもう少しもちっとさせたようなお菓子を朝食にした。


 ちょっと頂戴、と俺の食べかけにかじりつくロロ。

 眼帯を付けた顔で、んふふ美味しい、と微笑む様は、どう考えても恋人のソレだ。


 というか、告白してないけど、もしかして俺達はもう付き合っているのだろうか?

 そう思わずにはいられないくらい、俺達は仲良しだと思う。


「じゃあ、適当に見て回りましょうか」


「そうだな」


 俺達は広場を中心に十字に形成されている大通りの一本へ向かった。


 通りに入ると、魔導装具の町というだけあり武器屋が多くなった。

 だけど、それに混じって中二アクセサリー店も多い。ロロ曰く、何らかの効果があるアクセサリーらしい。ケモミミとかと同じスキルアクセサリーってやつだ。

 ルシェの町に比べると、どの店も随分と雑多な商品の陳列方法だ。その光景は秋葉原のゴチャゴチャした感じに似ていて、ワクワクする。


 俺は店先に釣る下がっているアクセサリーを眺めながら考えた。

 告白するにあたって、ロロに何かプレゼントを買ってあげたい。


 昨日、ガリオン教官のアドバイスでレオニードさんに『テフィナ人の恋愛作法』について教えてもらったのだが、告白と一緒にプレゼントを渡すのは大変に良い事だと推奨してくれた。


 じゃあ、どんなものが嬉しいんだろう。

 自分で決めたいと思ってそれはレオニードさんに聞かなかったんだけど、ちょっと後悔だ。普通に参考程度に聞いとけばよかった。

 うーむ、ケモミミとかケモ尻尾だろうか? うん、それって完全に俺得だ。


「あっ!」


 ロロが何かを見つけてお店に近づいた。


 ロロが駆け寄った場所には、横に尾を引く赤い燐光を目に纏わした少女のポスターと、その前にカッコいい形をした手だけのマネキンがあった。

 その手のマネキンには銀の装飾が施された黒い指貫手袋が。ポスターとマネキンが合体することで完全無欠の中二さんを演出している。指貫手袋とかガチな奴じゃないですか。


「買うの?」


「うん。前から欲しかったのよね。ちょっと見ていくわ」


 どうやらこの店は手袋専門のお店のようで、様々な手袋が売っていた。

 ロロは早速お店に入り、指貫手袋を物色し始める。


 俺が買おうと思っているヴァルドナの鎖は、本体が手袋型の魔導装具だから俺はいらないかな。

 と思いつつもロロの隣で指貫手袋を眺める。


 指貫手袋のくせして、スマホのオプショングッズみたいにたくさん種類がある。

 説明を読んでみると、手袋に何かしらの魔法的な機能がついているみたいだな。

 全体的にカラーバリエーションも豊富なんだけど、とにかく黒がめっちゃ少ない。白と赤も人気。青と黄色はまだまだ残っている。


「これとこれ、どっちが良いかな?」


 おっと、唐突な試験入ります。

 一説には、こういう質問を訪ねてくる女性というのは、すでに自分の中でどっちが良いか決まっているのだとか。

 自分と同じ方を相手に選んでもらうことで、『賛同された』『理解してくれている』そんなような満足感を得るんだって。


 さて、ロロが提示したのは二つの手袋。

 どちらも黒を基調とした手袋で、片方は銀の装飾、片方は翡翠色の装飾が施されている。

 俺はロロがよく着ているお気に入りのコーデを思い浮かべて、翡翠色の装飾を指さした。


「お前の髪の色と一緒だしこっちの方が似合うと思う」


 ロロは、満面の笑顔で、「じゃあ、こっちにしよっ!」と俺が選んだ方を買った。

 黒尽くめの女にまた一つ黒い装備が付与されたぞ。


 ロロの指貫手袋の特殊効果は、擦り傷防止、防寒機能、手荒れ自動ケア、やわぷにお手々維持、等盛りだくさん。しかも、指貫手袋の『指先の保護が脆弱』という最大の弱点を克服した一品らしい。

 さらに、特定の手順を踏むと、翡翠の装飾が赤く光って炎のように蠢くらしい。


 これでお値段15000テス。指部分が欠損してるくせに、陳列されている普通の手袋よりも高かった。

 だけど、ずっと使う物だし高くても良い物を買った方が良いだろう。


 ちなみに、やわぷにお手々維持機能は、冒険のアレコレで手の皮が厚くならないようにする機能らしい。

 この文明が如何に冒険を舐めているかよく分かるが、ロロの手がやわぷにを維持してくれるのなら文句はない。以前の苛烈な親指シュコシュコでそれは確信している。あのヌクヌクプニプニ感は宝だ。


 ロロは買ったばかりの手袋を早速、顔の前でギュッと嵌めた。

 翡翠色の装飾がまるで炎のように蠢いた。


 やってることは完全に中二病患者だが、見た目からして只者じゃない感じの女なので、眼帯付けて指貫手袋を嵌めていても全然中二病っぽくない。

 この女に『やっと見つけ出したぞ、我が眷属よ』とか言われたら、たぶん、ほとんどの高校生なら自分の物語が始まったと思うはずだ。少なからず俺だったら絶対に信じる。そんな説得力がこの女の顔からは出ている。


 魔導装具に出会うためのショッピングは始まったばかり。

 とりあえず、ロロの手袋を見ていたら俺も欲しくなってきた。さすがに我慢するが。

読んでくださりありがとうございます。


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