1-34 捕縛師訓練 2
よろしくお願いします。
「午後からはロッテと一緒に訓練だ」
昼休みが終わり、俺とロロがガリオン教官の前で気を付け。
フィーちゃんはすでに別室で訓練を再開しているぞ。
「午前中にやった移動術の主眼はロッテを守るためのものだ。守られる側も高速移動に慣れなければならない」
ふんふん、確かにその通りだ。
鎖での高速移動はいきなりやれば鞭打ち必至の速度だし。いや、マシルドが張られるからそこら辺は大丈夫か。
「まずは見本、といきたいところだが……」
ガリオン教官はロロを見てから俺を見る。
そうしてから少し瞠目すると、俺を前に出させた。
「それじゃあコウヤ。その身で覚えろよ」
その言葉が終わると、前方10メートルほどの場所にでかい狼のホログラムが現れた。
すぐさまホログラムが俺に向かって駆けてくる。
「ちょ、マジかよ!?」
ホログラムの攻撃はそんなに痛くないけれど、単純にでっかい狼に迫られる恐怖が腹の底から込みあがってくる。
そんな風におろおろする俺の身体が不意に包み込まれた。
圧倒的な肉感。これは、胸……筋?
女子みたいに腕を畳んで縮こまる俺の身体をたくましい腕ががっしりと抱き込んだ。
「あ……っ」
俺の口から出ちゃいけない声色が零れる。
全てを委ねられそうな力強さに下半身は思わずひゅん。
「いくぞ」
包容力と獰猛さが混在した男の声が頭上から降り注ぎ、その瞬間、太い腕から見える景色が加速する。
狼が俺の居た場所へ突撃をかました頃には、すでに俺達は別の場所に立っていた。
狼は俺達だけ狙うようにプログラムされているのか、すぐ近くにいるロロには目もくれない。
そしてそのロロだが、何故か真っ赤な顔であわあわしながらも、ゼットでガリオン教官に抱かれる俺を激写しまくっている。
「本来ならこの隙に一、二発魔法をぶち込むんだが、まあまずは慣れることだ」
いや、そんな冷静な説明の前に、あの女をどうにかしませんかね?
完全にBL的な感じで見られますよ、俺達。
ガリオン教官にリリースされ、俺はロロの下へ行く。
ひぅううう、怖かったよぅ……なんか自分が自分じゃなくなったんだ。
ガリオン教官の前じゃなかったら、絶対に手をムニムニしているはずだ。そのくらいロロ成分を補給したい。
「それじゃあお前ら二人で今のを練習だ」
……はっ!?
そ、そうだよ、今のを練習するんだから、これからスーパーお触りタイムデラックスじゃないか!
一昨日の親指シュコシュコからなんだかヤバいな。
完全に確変入ってる。パチンコやれる年齢じゃないから確変がどういう物か知らんけど、出るんでしょ? じゃあ俺も確変で間違いない。QED。
「まずはゆっくりやれ。俺はフィーを見てくるから、ちゃんとやれよ。そうそう、そのホログラムは命じれば襲いかかってくるから、上手く使えよ」
ガリオン教官はそう言うと、さっさとフィーちゃんの下へ行った。
……まあ、俺があのおっさんの立場なら、こんな若い奴らの青春イチャつき映像見たくないだろう。口から砂出るわ。
「こ、コウヤ」
ロロが顔を赤らめてもじもじチラチラ。
くっ、なんだよその可愛い反応は……っ! 俺もドキドキが止まらない!
「コウヤってさ、その、あの、もしかして受けなの?」
「……えぇ!?」
「違うのよ。別に私はそういうの全然興味ないの。ただ、コウヤってレオニードさんと凄く仲良いし、今もガリオンさんに抱きしめられて涙目になってたし。もしかしてそうなのかなって。ううん、違うのよ、ホントに私は別に興味はないのよ? 所謂一般論ってやつ」
「どんな一般論だよ!?」
顔を赤らめている内容が見当はずれ過ぎて泣けてくる。
これから己の身に降りかかるお触りタイムを気にしろよ!
くそ、くそっ!
BL疑惑を掛けられた俺は、一泡吹かせたい気持ちでロロに近寄った。
ロロは、一歩後ずさり、コテンを首を傾げた。
「バカな事言ってないで練習するぞ」
「練習?」
「ガリオン教官の話聞いてた?」
「……アンタがいきなりあんなことしたから気が散ったんだし」
聞いてなかったと。
っていうか、どちらかと言うとガリオン教官が無理やり俺を……ハッ、う、受けだ!?
「え、ええい。とにかく練習するよ!」
俺はもう一歩先に進み、ロロの腰を抱いた。
「にゃふぇええ!? にゃにゃにゃ、にゃんっ!?」
先ほどの俺のように、自身と俺の間に腕を畳む女子女子したロロが目を白黒させる。
「狼さんお願いします!」
有無は言わさぬ。
俺の命令で狼が動き出した。
「にゃらぁッ!」
しかし、その途端、ドンッと俺の身体が押しのけられた。
尻もちを着いた俺は、ロロを見上げる。
ロロは真っ赤な顔で目をザブンザブン泳がせ、横合いから狼に猛烈なタックルを喰らった。
ロロは脇腹を押さえながらよろよろとカニ歩きをし、座り込む。
そんなロロを見下ろした狼さんはホログラムなのにどこか満足そうに頷くと、律義に数メートル離れた。
「ロロ、午後は、狼の攻撃を二人一緒に回避する訓練だよ。ただの回避じゃなく、鎖を使った回避な」
「うぐふっ……つ、つまり?」
「あーうん、つまり抱き合う形になる」
「……そそそそそんな訓練ってある!?」
うん、普通はない。
「魂の双子なんだから戦闘方法も特殊なんだよ。嫌かもしれないけど、我慢して」
言外に、がっついてはいませんよ、と匂わせる。
女の子座りをするロロは、太ももの間に手を突っ込み、さっきよりももじもじチラチラしてきた。
お昼休みにイケメンにもじもじする様を見て、思ったより好感度高くない感じ!? と恐れを抱いていた俺の心が癒されていく。
「じゃ、じゃーあ? そそ、そう言う事ならぁ? 仕方がない、かなっ?」
「あ、ああ、仕方がないよ! ほら立って立って!」
俺は急かした。
ロロは、股の前で手を組み、もじもじと身体を揺する。
はわっ、可愛すぎる……っ!
その視覚効果と遅まきながらやってきた先ほど抱きしめた時の感触が、俺に片膝を着かせた。
「ど、どうしたの?」
し、思春期の毒が……っ!
どうしてこうお前はキカン棒なんだよっ!
心配そうに駆け寄って俺の背中を撫でるその行為すらも刺激的。ロロの手の動きに合わせて、ビクンビクンしてやがる。
こうなると話が変わってくる。
密着すれば絶対にバレる。俺のは友人やレオニードさんを驚愕させる類の物だ。全力全開は相応にヤバいのだ。
しかし、抱きしめたい。だけど、そうするとロロの柔肌をぐにぃってしちゃうのは間違いなし。
あっちを立てればこっちに刺さる。人生とはかくもままならぬものなのか。
「私、ガリオンさん呼んでくる! 魔力交換して!」
「ままま待て! 大丈夫だからまず落ち着け」
ロロが謎の使命感を出し始めてきやがったので、俺は慌てて止めた。
ガリオン教官は不味いだろうがよ。同じ男だし怒られはしないと思うけど、恥ずかしさはマッハである。
俺は冷静に考えた。
もはや、これは治らん。
一回トイレに行ったとしても17歳はそんなやわじゃないのだ。
ロロと練習し始めればコイツは100%復活する。何度だって復活する。
ならばこのまま行くしかあるまい。
「ロロ、顔を見られるの恥ずかしいから後ろ向いて?」
「そそそ、そうね!」
ロロがあせあせと後ろを向いた。
俺はすぐさまズボンの中にタオルをねじ込んだ。さらに、ジャケットを脱いで腰に巻く。完☆璧!
前で結ばれたジャケットの腕部分が懸念していたもっこり感をぼやかす。良い仕事してるぜ。
最大のピンチは乗り越えたが、最高のドキドキタイムはまだ始まってもいない。
俺はロロの背中を見て、ゴクリと喉を鳴らした。
確かに昨日マッサージはしたさ。
ええ、ええ、お尻こそ触れなかったが、背中や腰は触りまくった。
だけど、それは所詮、手だけの事だ。
自身の体の大部分で触るとなると、もはや別次元の話となる。
「驚かないでね?」
俺の前置きにロロは、にゃい、と上擦った声で答えた。
そんなロロの身体を俺は両腕で抱きしめる。
「「っっっ」」
こ、これは思っていたよりも遥かに良い物だ。
今まで2回抱きしめてた事があるけど、それは全部ハプニング。言わば試食。ちょっと味わう程度。
しかし、今回はお互いの合意の上なので、しっかりと抱きしめる。たっぷりと味わえる。
するとどうだろう。心の隅から隅まで満たされていくのが分かる。
ともすれば涙が出そうなくらい幸せな気分になる一方で、胸の鼓動は際限を忘れたように早さを増していく。
背中に当たる胸板と、肩とお腹に回した腕がやけどしそうなほど熱い。
俯き加減のロロの髪から覗く可愛らしい耳は真っ赤になっており、ふにゅ、にゃぅ、などと小さく呻く可愛い声が聞こえてくる。
緊張からか、ロロの足はかくかくと震え、俺の支えが無くなれば座り込んでしまいそうである。
諸々がそんなだから、思春期さんが臨界点を越えてしまったのは仕方がない事なのだ。
俺は賢者になれそうな解放感と果てしないやっちまった感で胸がいっぱいになった。
狼さんがそんな俺を、ねえ襲撃まだぁ、と見つめ続けていた。
「ロロ、魔力交換してくれる? ちょっとおトイレ」
「しょ、しょうね! 私もおトイレ行きたくなっちゃった!」
二人でおトイレ休憩にした。
読んでくださりありがとうございます。




