表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/171

1-33 恐怖の世界

よろしくお願いします。


 ロロが行ってみたいと言ったお店は、冒険者学校からほど近い場所にあった。

 中々繁盛している店のようで、俺達が到着した時には一組のお客さんが並んでいた。女性の二人組で、キャッキャッと楽しそう。


 ほどなくして、店から帰りのお客さんが出てきた。人数からして二席分空きそうな気配。

 出てきたお客さんは全員女性で、みんな一様に満足そうな笑顔を咲かせていた。


「良さそうなお店だね」


「でしょ?」


 一緒に暮らしているのにこの情報力の差。

 グルメサイトとか活用してるのかな?


 その後、すぐに俺達も店内へご案内。

 テフィナ特有のイケメンがベルのついたドアを開ける。


「お待たせいたしました。本日は素敵なお時間をお過ごしください」


「へ?」


 恭しく下げた頭を上げ、爽やかな笑顔を見せるイケメンを前にして、俺はフリーズした。

 いや、気障ったらしいセリフだが、言ってる事自体はそこまでおかしくはないけど……なんだろう、このそこはかとない……乙女ゲー感。


 戸惑う俺を、もうもうダメじゃない、とロロが押しのけて前に出る。

 そして、腕組みしてツンとやや顎を上げた。


「お、お出迎えご苦労様れすっ!」


「噛みっ噛みじゃねえか。なんで前に出てきちゃったんだよ」


「だ、だまらっしゃい!」


 ロロは、ほんのり顔を赤らめ、ポカァッと俺の肩を殴ってきた。

 しかし、イケメンがそんなロロに満点のイケメンスマイル。

 ロロはもじもじした。


 おいおいおい、ロロさん?

 俺達、良い感じに魂の双子ライフをしているなぁ、と思っていた矢先になんですかそれは?

 昨日なんてイチャラブマッサージしたじゃないっすか。

 それなのに他の男の前でもじもじって……お兄さん吐くよ?


「本日は私リアンがご奉仕させていただきます。それではお席にご案内致します。足元にご注意ください」


 イケメンの歯がキラリと光り、俺の奥歯がギリリと鳴る。


「……どうも」


 何がご奉仕か。

 そんなの頼んだ覚えないんですけどねっ!




 ロロの提案でやってきた今人気のお食事処『ミファン』。

 丁寧な対応と美味しい料理が楽しめるのが売りだと道すがらロロが解説していたが、ふたを開けてみればこれである。


 右を向けば恥美的なイケメン。左を向けばショタが入ったイケメン。黒と白の清潔感ある制服を完璧に着こなす、甘ったるいマスクのイケメン共。そんな奴らがケモ耳等の萌え属性アクセサリーを引っさげてドンッ!

 ミファンは乙女ゲーの世界に迷い込んでしまったんじゃないかと勘違いするレベルのイケメン屋さんであった。


 この店が何を売りにしているかって?

 そんなもの客層を見れば分かる。俺以外、全・員、女性! それが答えだ!


 リアンの案内を受けて、俺達は用意されたテーブルに向かう。

 男が入店してきた事で乙女達の視線が俺に集まるが、すぐに興味を失ったかのようにイケメンウォッチングを再開する。

 丁寧に腰を折るイケメン。背筋を伸ばして給仕をするイケメン。笑顔を振りまくイケメン。その仕草一つ一つをうっとりと眺めるテフィナ産の雌豚達。俺と言う男が入店した事実などすでに忘れているはずだ。ふぬぬぬぬっ!


 そして、用意された席は店のど真ん中。衆目に晒される特等席である。

 イケメンを見て俺を見る。俺を見てイケメンを見る。ふふっ、まるで蝶と便所コオロギね。ふわっ、なんでこんな酷いことが出来るのか……っ。

 指先で埃でも掬い集めてクレームつけてやろうかとチラリと思うも、それをしたら女性陣に路地裏でボコられる危険性がガチで高いので止めておく。

 まあ、イケメン共も悪意があってやったのではないはずだ。実際に店内で空いている席はここだけだし。


「こちらがメニューになります。お決まりになりましたらお呼びください」


 重厚な皮の装丁の御品書きが、俺達一人ひとりの前にそっと置かれる。

 ちなみに、フィーちゃんは妖精さん用の椅子に着席。可愛い。


 イケメンは一つお辞儀をすると、少し離れた場所で待機した。

 お薦めの紅茶がどうたらこうたら言い始めたら俺のボルテージがマックスになるところだったが、そういうのはなかった。出しゃばらず、されど蔑にもせず。非常に程よい距離感。くっ、褒めたくないのに……っ。


 向かい側に座るロロと視線が合う。

 ロロは、大きな口をニンマリさせて、んふふぅと上機嫌に笑った。


 イケメン屋さんに来てイケメンのスマイルで顔を赤らめたと思ったら、今度は俺に屈託ない笑顔を向けてくる……もしかして弄ばれてる感じか?


 俺が内心でモヤモヤしている前で、女子二人が早速メニューを開いた。


「わあ、美味しそうですぅ」


「ねぇーっ! どれにしようかなぁ」


 ……まあなんにしてもメシを選ぶか。


 ふむふむ。女子が好きそうなラインナップのメニューだな。

 たくさん食うと訓練で動けなくなるから、ほどほどにしておこう。元々大食いではないし、俺の身体は燃費が良いのだ。


「二人とも決まったか?」


「はい。決まりました」


「え、えとえと……ちょっと待って」


 決まったフィーちゃんと、決まらないロロ。


「どれと迷ってんだ?」


 これとこれ、とロロは料理の写真を指さす。

 片方は海鮮クリームパスタ。片方は焼肉と卵と野菜のホットサンド。

 俺はすでに頼む物を決めていたが、まあ変えても良いか。


「じゃあ、そのホットサンドは俺が頼むよ。お前はクリームパスタな」


「あっ。う、うん、わかった」


 俺の言いたい事が分かったのだろう。ロロは満面の笑みを浮かべて頷いた。俺はプイッと横を向いた。

 フィーちゃんは俺とロロの顔を交互に見て、首を傾げる。ふふっ、フィーちゃんよ、俺の優しさを見たら度肝抜かすぜ?


「私はホットケーキですぅ!」


 フィーちゃんはホットケーキらしい。昼飯だよね?


 それらをリアンに注文し、料理が来るのを待っている間、フィーちゃんと会話。


「フィーちゃんは妖精なんだよね?」


「え? あ、はい」


 疑問符が浮いたような顔で頷くフィーちゃん。

 まあそうなるよな。だってわざわざ聞くまでもなく彼女は妖精してるし。

 しかし、これは次に続ける会話の触りだ。


「ははっ、ごめんね。俺は妖精が居ない世界から来た迷い人なんだ。だから妖精族は遠目に見るくらいで、実際に話したのはフィーちゃんが初めてなんだよ」


「ほへぇ、迷い人さんですか。私、迷い人さんに会ったのは初めてですぅ」


「だから、まだテフィナについてはあまりよく分かっていないところがあるから、気に障ることを言ったらごめんね。言ってくれたら直すよ」


「い、いえ。気に障るなんてありません。大丈夫ですぅ」


 わたわたしながら言うフィーちゃん。

 この子は見た目通りの内気っ子なのかな?

 それともガリオン教官に見せるような体育会系なのかな?


 と、ここでわたわたしていたフィーちゃんの手がピタリと止まり、コテンと首を傾げる。


「あれ? 迷い人さん? だけどお二人は魂の双子ですよね? え、っていうことは……まままま、まさか、お二人はフェーディ型なんですか!?」


「そういうらしいね。俺が異世界からテフィナに流れ着いた理由って言うのが、コイツと魂の双子だったからなんだ」


「す、凄いですぅ」


 フィーちゃんはブンブンと手を動かして興奮した。

 もしかして全然内気っ子じゃないのかな?


 しかし、やっぱりフェーディ型の魂の双子って珍しいんだな。

 というのも、どういうわけか俺のゼットは、魂の双子関連を検索しても出てこないのだ。ロロの話だと、機人が何やら裏で操作して検索結果に出てこないようにしているみたいなんだけど……。

 テフィナ人を見守る機人がやる事には何かしら深い意味があるみたいなので、きっとこれも意味があるのだろうけど。ちょっとよく分からない連中だ。


 一応、レオニードさんから聞いた話だと、現在のテフィナだと魂の双子は10年に一組現れるくらいの確率なんだとか。

 フェーディ型については過去に4組現れたそうだけど、出現率が低すぎるために何年に一組とかは明確に出来ないそうだ。早い話、伝説的超レアリティってことだな。


 それはともかく。


「あっ、す、すみません。一人ではしゃいじゃって。えへへ」


 フィーちゃんは頬を赤く染め、もじもじ。可愛い。


「ははっ、お互い初めてだらけだね。まあそう言うわけでちょっと特殊な感じだけど、良かったら俺達と仲良くしてね」


「はい、こちらこそ仲良くしてください! ロロティレッタさんも仲良くしてくださいね」


「うん。よろしくね」


 フィーちゃんの言葉に、ロロはにこりと笑って返す。


 と、そこで俺はふと視線を向けられていることに気づいた。

 周りの女達からだ。うるさくし過ぎただろうか?


 ふと隣のテーブル席の女性と目が合った。

 彼女は俺を驚愕の眼差しで見つめたかと思うと。


「ホントに似てる!」


「へ?」


 よく分からん事を言ってきた。

 初対面過ぎる関係の人にいきなり誰かに似てるとか驚かれれば、そりゃ、へ? ってなるわ。

 さらに、その女性と一緒に来ていた女性が席を立って、ロロの下へやってきた。


「あ、あの、もしかしてアナタ、ルゥサマもがぁ」


「ちょ、ちょっとあっち行きましょうか」


 喋っている途中の女性の口を塞いだロロは、女性の肩に腕を回して女性たちの席に行った。一瞬で仲良しさんになるとか凄い女だぜ。


「な、何が起こってるか分かる?」


「い、いえ。ただ、さっき私が大きな声で言っちゃったからかもしれません。本当にすみません」


「ははっ、いや、気にしなくてもいいよ」


 しゅんとするフィーちゃんに、俺は笑って応える。

 治安が良いのか、気質なのか、テフィナ人は顔バレ余裕な人達だ。動画配信している冒険者とか、普通に自宅まで経路を撮影するからね。日本じゃ考えられない。

 だからフェーディだとバレても、酷いことにはならないと思う。レオニードさんもこれと言って注意勧告とかしなかったしな。


 隣の席のロロを見ると、何やらコソコソ話している。

 時折、ニャーッと聞き手の女性達が騒いでいるが、どういう会合なんだろうか?


「ふぅ。ただいま」


「一つ聞きたいんだけど、あの人たち初対面だよね?」


「そうだけど」


「初対面の人の口塞ぐとかお前すげぇな」


 中々出来る事じゃない。


「で、何話してたの?」


「……秘密」


「ええ? まあ良いけど。ところで俺って誰かに似てるの?」


「「「シャッドきゅん」」」


「っっっ!?」


 ロロ及び周りの女性達が口を揃えてそう言った。軽いホラーであった。


 今までは関わりない他のお客さんだったが、すでに俺の認識の中にある女性陣。

 テフィナ人はみんな凄い美形だ。

 ロロとの同棲生活で衰退していった俺の童貞力がここに来て復活しつつあった。もじもじが止まらない。

 俺は癒し系キャラの妖精さんに助けを求めた。


「本当に似てますぅ!」


 フィーちゃんも女性陣の仲間だった。


 話がさっぱり分からないので、とりあえず俺はゼットでシャッドきゅんを検索してみた。

 画像を見ると、そこにはこの世の物とは思えないイケメンのイラストがあった。確かに俺に似ている。


「ガキっぽいところとかそっくり」


「子犬系男子」


「なんか背伸びしてそう」


「伝説の脇役」


「え、これって集団リンチとかそういう現場?」


 ロロを筆頭に、周りの女子が口々に言う。それに応えるようにうんうんと相槌を打つオーディエンス。

 褒め言葉とは思えない言葉の嵐に、俺は恐怖した。


「お待たせいたしました」


 と、リアンが料理を運んできた。

 場の会話が一時途切れ、配膳されるのを待つ俺達はお膝に手を置いてステイ。

 女性の注目を集めてしまった俺は、何故か敵と思っていたリアンの登場にホッとしてしまった。今ならリアンとハグできる程度には彼の存在が頼もしかった。


 まずはロロのパスタから置かれるが、ロロは食べ始めない。

 ロロは必ず俺の料理が来るまで待ってくれるのだ。俺への好感度云々というより、たぶんそういう家庭で育ったんだろう。


 フィーちゃんも料理はホットケーキ。

 フィーちゃんの身体に合わせて少し小さめだ。それに伴い、お値段も安い。なんでも、妖精さんの外食の値段は3分の1になるらしい。

 料理ってのは小さければ簡単に作れるとは限らないので、この値段設定はきっとテフィナ人の優しさなのだろう。まあ、妖精さんの姿を見てむしり取れるかといえば俺だって無理だがな。


 最後に俺のホットサンドが配膳される。

 ちなみに、全部のメニューにドリンクがセットでついてくるぞ。


「ごゆっくりお楽しみください」


 リアンは胸に手を置いて一礼すると、またさっきと同じ位置に戻った。

 途端に戻ってくる女性達の好奇の視線。めっちゃ居心地が悪い。


 こんな事ならさっきまでの路傍の石ころ状態の方が良かったとすら思える。

 なんというか所作一つ一つに点数をつけられているんじゃないかという被害妄想が胸中に湧くのだ。

 ひぅうう、リアンさん。一緒にご飯食べない?


 2人がいただきます、したのにわずかに遅れて、俺もいただきますと意識を料理へ強引に向けた。

 ホットサンドは食べやすいように切り分けられていたので、俺はそれを半分取り皿に移すとロロに渡した。


「ロロ、はい」


「あ、うん、ありがとう。はい、アンタの分」


 俺達はいつものように料理をシェアする。

 それに対して反応を起こしたのは、フィーちゃんではなく周りの女性陣だった。


「斧投げ案件」


「羨ましい羨ましい羨ましい……」


「あんないい子を水溶液に……最高かよ……」


「今もコーティングされて……」


 よく分からない文言の嵐に、俺はガクブルしながらホットサンドを食べた。


「あ、あーっと。フィーちゃんもちょっと食べる?」


「え、い、良いんですか!?」


「ああ、いいよ」


「じゃあじゃあ、私のもどうぞ!」


 むむっ。

 フィーちゃんのホットケーキは妖精サイズで小さい。俺が食べたら二口でなくなるくらいだ。

 しかし、ここで断るのは古い洸也だ。新しい洸也は出来る男なのである。


「ありがとう。でも俺は良いからロロに上げてくれる? ロロはお菓子が大好きだからさ」


 ざわっ。

 またしても女性陣がざわめく。

 俺はフィーちゃんにあげるクリームパスタを取り分ける作業へ逃避した。


「わぁ、ありがとうございますぅ! あのあの、ロロちゃん食べて下さい。あっ、ご、ごめんなさい、馴れ馴れしかったですよね」


「ううん、大丈夫よ。コイツがつけた変なあだ名だけど、ロロちゃんって呼んで。フィーちゃん」


「は、はい! ロロちゃん!」


「美味しいね、フィーちゃん!」


「えへへ、ロロちゃん! 美味しいですぅ!」


「なんだこれ」


 俺は冷や汗ものなのに、フィーちゃんとロロは物凄いマイペースだ。


 そんな風にして、世にも恐ろしい昼食の時間が過ぎていく。


 同じ釜の飯を食べた仲、という言葉があるように、ご飯を食べた後のフィーちゃんはリラックスした笑顔を見せるようになった。

 個人的には二度と来たくない空間ではあるが、フィーちゃんが元気を取り戻してくれたのなら来たかいがあったな。


 とりあえず、一つの教訓。

 フェーディ型とはあまり外で口にしない方がいいだろう。


読んでくださりありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 会社の休憩時間に読んでんだけど・・・ 超お口がムニュったわ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ