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1-32 捕縛師訓練 1

遅くなりました。

よろしくお願いします。


 それから、二日間。

 俺達はガリオン教官にみっちり鍛えられた。


 俺は捕縛師として、ロロは魔法アタッカーとして。

 フィーちゃんも訓練していたようだけど、彼女は別のお部屋だったのでよく分からない。


 さて、捕縛師とはそもそも何か。


 捕縛師の主な役割は、鎖や罠を駆使して魔獣の動きを封じることだ。

 封じた後は遊撃的な役割を担い、時に攻撃に参加し、時に後衛に迫る新手を封じたりする。


 その役割上、捕縛師はまず先陣を切る。

 彼らの捕縛技を皮切りに、技の成否で作戦が展開していく。

 成功だったら一斉攻撃、失敗だったら次善の作戦案で、みたいな感じだ。


「義務冒険が始まってすぐに捕縛師を始めるヤツは少ないんだ。正直に言えば地味だからな。だが、その有用性を知っている者からは引っ張りだこになるんだぞ」


 とはガリオン教官の弁。


 そんな感じの捕縛師入門編序章をちょろっと教わった後、実地が始まった。


 剣士の戦闘テクニック、なんて講義はまず剣をちゃんと扱えなければ話にもならない。

 捕縛師も同じだ。まず捕縛師が使う魔導装具で普通に戦闘できなければ話にならない。


 まずは戦闘学教授の肩書を持つガリオン教官が見本を見せてくれた。

 使うのはヴァルドナの鎖。


「捕縛師の主な攻撃手段は、鎖での打撃だ」


 現れた中型トラックぐらいのクマのホログラムへ鎖をぶん回して叩きつける。


「このように普通に叩きつけてよし」


 通常は薄い黄色の光を発する鎖が紫の紫電を纏う。それを無慈悲に叩きつけ、肩から逆側の脇の下を一周させて巻きつけると、鎖を切り離す。


「属性を付与した鎖を叩きつけたり、このように巻きつけて切り離し継続ダメージを狙ってもいい」


 たぶん、今の俺は目をキラキラさせて見ていることだろう。

 鎖とか個人的に胸熱な武器だからな。


「今みたいに捕縛師は原則として中距離からの攻撃が主となる。しかし、近づかれてしまった時は、回避行動にも使える」


 クマのホログラムの突進をガリオン教官は、真横へ凄まじいスピードで回避する。

 その手からは鎖が伸びており、離れた場所の地面に突き刺さっている。


「お前の場合は、ロッテを守るという役割があるからこの回避術は高い水準で求められる。この訓練が終わった後も、自主練するように」


「分かりました」


 俺が答える傍らで、ロロがもじもじしている。

 守ってもらえるというのが嬉しいのだろうか? そうだったら可愛い奴だな。


「今説明したのは、攻撃に参加できる程度の相手であった場合だ。基本的に捕縛師は攻撃力があまり強くない。強力な魔獣との戦闘の場合は捕縛師としての本来の戦い方をすることになる。すなわち、相手の捕縛だ」


 ガリオン教官はそう言うと、片手から出した鎖を地面に打ち込み、もう片手から出した鎖をクマに巻き付ける。そうしてから、未だ鎖がくっついている両手をパンと叩くと二本の鎖が一本になった。

 クマは地面に突き刺さった鎖により、行動範囲が極端に狭くなる。


「行動範囲の制限」


 その鎖を消して、次にクマが腕を下ろした隙を狙って、両腕を胴もろともふん縛る。


「攻撃の制限」


 また鎖を消し、今度は両足を縛り付ける。


「移動の制限」


 また鎖を消し、今度は顔に鎖を巻きつける。


「視覚や嗅覚、噛みつきの制限」


 また鎖を消し、最後に両手から数本ずつ鎖を出現させ、何本もの鎖でクマの顔、四肢、胴、を大地に繋ぎ止める。


「全ての制限。封縛だ」


 中二病臭いセリフなのに。

 スキンヘッドの強面なのに。

 なにこの人、超カッコいい。 


「アンタ、あんなこと出来そう?」


「が、頑張る!」


 ロロがおちょくる感じで聞いてきたが、俺はひねりもなくフンスと答えた。


「敵の姿形によって、どこを封じるのが効果的か変わってくる。鳥なら片翼を封じれば飛ぶことが出来なくなるし、四足獣ならば片方の前足を封じると後ろ足以上に移動が制限される。よく考えて使っていくと良い」


「はい、わかりました」


「まあ何にしても基本だ。まずは回避術を徹底的にやっていく」


 俺の捕縛師としての大きな役割は。

 1にも2にもロロだ。

 ロロを守り、ロロの攻撃補助をする。

 3、4もロロロロで、5に攻撃って感じ。


 それから、回避術の訓練に入った。


 ロロとは別々に訓練するので魔力交換。

 ちなみに、最近のロロちゃんの味は、コゲコゲのフレンチトーストにハチミツをぶっかけたような、かなり苦くて滅茶苦茶甘いという変な味になっている。


 手袋から鎖を2メートル先の土柱に巻き付ける。

 手袋から巻き戻るように命じると、固定した部分に向けてグンと腕が引っ張られた。


 その動きは自身の足で横っ飛びするのと比較にならないほど速い動きだ。

 最初は、これ脱臼するんじゃないかな、と思えるくらい身体が急加速で持っていかれたけど、コツを掴むとそうでもなくなった。

 要は加速の瞬間にその方向へちょっとジャンプするのだ。


 一方のロロは、昨日最後に使ったビットオーブを練習中だ。

 空中に浮かぶビットオーブへ魔法を撃ち込み、モグラ叩きみたいに出現するマスコットキャラ的な可愛い生物のホログラムを撃ち抜いている。

 マスコットキャラには種類があり、何かしら当てるルールがあるみたいだ。


 さて、1時間くらいで上手い事移動できるようになり、次のステップに入る。


 俺の前には土の柱が乱立して聳え立っていた。


「次は、両手から鎖を出し、あれらの柱に巻き付けて高速移動を連続で行ってもらう。まずは見本を見せよう」


 ガリオン教官はそう言うと、一つ目の柱に鎖を巻き付け、高速移動。

 身体が柱に衝突しそうになるが、柱を片足で蹴りつけ、止まる。

 そして、次の柱へも同じように移動する。それを両手から鎖を出して実践した。


「これを極めるとこうなる」


 次の瞬間、ガリオン教官は俺の前から消え、そうかと思えば各柱がグワングワン揺れ始める。気づけばガリオン教官は柱の終わりに立っていた。

 何も参考にならなかった件。


 まあ、とにかく最初に見せてくれたゆっくり目のヤツをやればいいんだよな。

 素人の俺は無理せず、最初に見せてくれたヤツを丁寧に身体へ覚えさせていく。


 今回の要点は、両手から素早く鎖を出すことと、柱を蹴るタイミングだ。後は文字を読むが如く、次の地点へ先に先に視線を向けていく事。


「中々筋が良いな。しばらくやってろ。ちょっとフィーを見てくる」


 フィーちゃんは別室で訓練中なので、ガリオン教官はそっちへ行くみたい。

 ガリオン教官が居なくなると、ロロがてててっと俺の方へ来た。


「頑張ってる?」


 うーん、ロロは構ってちゃんの気質があるのかな?

 何にしても、俺のところに駆け寄ってくる女の子がいるという現実が、女っ気のなかった数か月前からは考えられないレボリューションである。


「ああ、頑張ってるよ。お前も頑張ってるね」


「そりゃね! 超頑張ってる。あーあ、これは今日も疲れちゃうかもなぁ」


 んーっと腕を頭上で伸ばしてロロは言う。


「ははっ、そうだな。今日も疲れちゃうな」


「ねーっ!?」


「あ、ああ。そうだね」


 コイツのねーっは可愛いんだよなぁ。

 目を大きく開いて、大きな口を楽しそうに開いて。

 だけど、なにこのテンション。あれか、昨日と同じで疲れすぎてテンション上がってるのか?


「……」


「えっと……どうしたの?」


 ロロとお話しするのは好きだけど、ガリオン教官が目を離したすきに話始めるのは少し違うと思う。俺はそういうの真面目なんだよ。


「はぁー、これは今日も疲れちゃうかもしれないわぁ」


 ロロは肩を押さえながら腕をぐるんぐるん回して言った。

 え、いや、それはさっき……はっ!?

 そ、そういうこと!?


「えっと、もし昨日くらい疲れてたら、またマッサージしてあげるよ。だから頑張ってね」


「別に大丈夫だし」


「えぇえええ、意味分かんねえよ!? 完全に今のそういうフリだったよね!?」


「そういうんじゃないし。だけど、どうしてもマッサージしたいならさせてあげても良いけどぉ?」


「じゃあ、どうしてもマッサージしたいわ。頼む、させて?」


「そこまで言うならいいけど。じゃあ、私練習するから、またね?」


「ああ、うん。またね」


「うー……っ、フシャニャギャー! ドーンッ!」


 何故か会話の終わりに、ダブルロケットパンチみたいな攻撃が飛んできた。

 何にしても、今日のお風呂も捗りそうである。


 それから休憩を挟みつつ同訓練を続けること2時間。


「それじゃあお前ら、1時30分に集合だ」


「はい!」


「はーい」


「押忍ぅ!」


 ガリオン教官の号令にそれぞれが返事を返して、休憩に入る。


「ねえねえ、コウヤコウヤ。私、行ってみたいお店あるんだけど」


 早速ロロが俺に言ってきた。

 まったく可愛い奴だ。


「いいよ。そんなに遠くないだろ?」


「うん、近いよ」


 そこでふと思いつく。


「そうだ、フィーちゃんも一緒に行かない? それともご飯は持参してたりする?」


 一緒のグループなのも何かの縁だ。

 俺は絶賛ホバリング中のフィーちゃんに提案した。

 フィーちゃんは、前髪で隠れた眼で俺とロロを交互に見る。


「あ、あの、お邪魔じゃないですか?」


「大丈夫だよ、な、ロロ?」


「うん、一緒に食べに行こう?」


「えとえと、それじゃあご一緒させてください!」


 目を隠す前髪の下で、フィーちゃんの頬が嬉しそうに上気した。

 こんな顔をされると誘ったかいがあるってもんだな。


「じゃあロロ、その行きたいって店に案内して」


「よぉしっ、行くわよ!」


 というわけで、フィーちゃんと一緒にご飯を食べに行くことになったぞ。

読んでくださりありがとうございます。

ブクマありがとうございます。

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