1-28 強化訓練 4
よろしくお願いします。
《レベル2》
休憩が終わると、訓練のレベルが一つ上がった。
フィールドはまた草原だ。
俺は槍をそれっぽく構えてみた。
槍先を下段にして、利き手を後方にして半身の構え。それっぽいだろ?
まあ、プロからすると噴き出しちゃうようなダメダメな構えかもしれないが。
気を引き締め……たいところなんだが、どうにもロロが気になって仕方がない。
抱きしめた余韻が残っているのでその極上ボディにも当然興味津々だが、それ以上に今はその手に持つ武器に注目中だ。
直径30センチくらいの丸い輪。刃はついていない。
ロロ曰く、『これ? これはぴゅーんって投げるのよ』とのこと。
つまるところ、円月輪の親戚である。
円月輪×運動音痴……味方のはずなのに、どう考えてもコノハスライムよりも厄介な敵ではないだろうか? っていうか、ボールを片手で投げる自信がない子なのに、なぜ投擲武器を選ぶのだ。
しかし、ルファード以外の武器を前向きに検討し始めているので、ここで否定するのは可哀想だ。
とにかく、予期せぬ攻撃が来る可能性が高いということだけ念頭において訓練しよう。VF用の魔導装具には殺傷力がないみたいだし、そこら辺は安心だ。
そんなこんなで、レベル2が始まる。
レベル2になると、一度に出てくるコノハスライムが3匹に増えた。
しかし、所詮はコノハスライム。テレフォンパンチみたいな攻撃しかしてこないので、触手にさえ当たらなければどうってことない。
だが、俺の敵はコノハスライムだけではない。
まずはもう一人の敵の動向を観察しよう。
ロロは、円月輪に魔力を込めた。
すると、握っている場所以外の外縁から、ギュァンと回転のこぎりみたいな音を出して魔法で造られた光のブレードが出てくる。
「おぉう! ちょっとカッコいいかも」
ロロはぶんぶんと振るって嬉しそう。
俺はイージスが欲しくなった。
「コウヤ、見てなさいよ。これが魔法ってもんよ! いっけーっ!」
ロロは気合一番、円月輪を投げた。
上からの片手投げだ。だが、これは断じてオーバースローなんてカッコいい名称の投げ方ではない。言うなれば幼女投法。ていっなんて掛け声が似合いそう。っていうか、目を瞑っちゃってる。
ロロの手からリリースされた円月輪は、綺麗に1メートル先へ突き刺さった。
いつだったかロロはドッヂボールが出来なさそうと思ったが、本当にその通りの結末になった。
ロロの性能はダメだったが、テフィナの円月輪は凄かった。
ホログラムの草原に突き刺さった円月輪はその場でギュオーンと回り続け、自転車のタイヤが泥を撥ねるように、ロロへ向かってキラキラしたホログラムの残骸をぶっかけまくる。
「や、やだっ! て、停止停止!」
ロロの命令で、円月輪が止まる。
なるほど、それが魔法ってものか。
自爆するための行動なのかな?
さて、ロロはもうダメだ。
うかうかしているとコノハスライムにマーキングされてしまう。マーキングされれば、他のコノハスライムからもすぐさま攻撃が飛んでくる。
俺は一番近いコノハスライムに向かって駆け出した。
だが、ここで問題が生じた。
槍の使い方が全く分からないのだ。
俺はそれっぽく槍を使ってみる。
半身の構えのまま突いてみたり、後ろ足を前に出しながら槍を突き出してみたり。
ミス、ミス、ミス、ヒット。
「あ、これはあかんやつだ」
一匹のコノハスライムを相手してみて、俺は槍の欠点に気づいた。
コイツ、地面すれすれの最下段攻撃に全然向いてないのだ。
グングニルは長さ2メートルほどの槍なので、俺の間合いは腕の長さを合わせて、最大で槍の長さと同じ2メートルくらい。
2メートル先の最下段に居る生物の核を貫くとか、素人には相当に難しい。穂先がブレブレで当たらないのだ。
「ロロ、撤退だ! 槍が使えない!」
「待って! 何かが掴めそうなの!」
「それ絶対に錯覚だよ!? ほら来なさい!」
円月輪を両手で持って、あーだこーだポージングを取っている時点で、彼女の頭上に豆電球は出現しないだろう。もしかしたら凄い技を閃く可能性は微レ存だが、それに期待するわけにもいかない。
というわけでロロの腕を引っ張ってロッカーへ。
コノハスライムが触手をスタンバっていたので、危なかったぜ。
「槍はダメだ。想像以上に難しかった。うーん、じゃあ次はこれで。ルビカンテ」
ルビカンテはでかい斧だ。
CMが結構やっているので俺でも知っている。アマゾネスみたいな恰好をした褐色肌の姉ちゃんがルビカンテをぶん回しまくるちょっとエッチなCMであり、俺の好きなCMランキング上位。
「ルビカンテっ」
ロロが草生やしたような顔で言った。
「悪いの?」
「別に。だけど足は引っ張らないでね?」
「おまいう」
次はロロの番だ。
ロロはお尻をフリフリ物色し始める。
視線の吸引力が凄いが、別にここはセーフティゾーンではない。わらわら集まってきたらことだ。
俺は一人でコノハスライム退治に向かう。
とはいえ、魔力交換をしていないのでロロから5メートル離れずに防衛体勢。
俺は早速ルビカンテを展開した。
ズンと腕に負荷が掛かる。
レベルアップやトレーニングで地球に居た頃に比べて相当に筋力が増えたが、それでいてなお重い。
これ、コノハスライムには絶対にオーバーキルだよな。
当のコノハスライムは、もぞもぞ動きながらこちらに向かってきていた。
一匹倒したが、いつの間にか3匹に戻っている。どんどん補充されるのか。
「お待たせ!」
ロロが武器選びを終えてやってきた。
その手には、筒はなく、手袋が嵌められている。
おお、なんだか魔法重視型っぽい。
「それは?」
「見てのお楽しみ!」
「……」
楽しみに出来ない件。
なにはともあれ、まずはコノハスライムの倒そう。
先ほど触手を出したので、すでに2匹は触手が出た状態だ。1匹はまだだな。
「ロロ、触手が出てる奴倒せるか?」
「任せて!」
本当に大丈夫、そう言葉が口から出る前にロロはダッと駆け出した。
よく見れば、手袋だけでなく足にも魔導装具がくっついている。
あれ完全に近接武器だぉ……
「近接に憧れがあるのかアイツ?」
いや、だけど前回は投擲か。
なんにしてもチェンジ案件だな。
俺は呟きながら触手が出ていない一匹に接近し、斧を振り下ろした。
爆散というにふさわしい一撃がコノハスライムを消しとばす。
それどころかホログラムの草原が半径50センチくらい消失している。
「オーバーキルすぎるだろ」
ルビカンテは一撃がヤバいと聞いていたけど、ド素人が使ってこの威力はすげぇな。
とはいえ、こういう魔導武装を開発しなければまともに戦えない魔獣が存在するという証でもある。義務冒険の終わりごろには、その一端と戦うことになるのだろうか。
「さて、ロロは……」
ロロを見ると、両手両足に暗黒の炎を宿し、お馬さんの恰好でえいっとコノハスライムを叩いていた。
そんなロロのお尻をもう一体のコノハスライムが、ペンッと叩く。あの恰好で触手尻叩きはいかんだろ。
にゃんっ! と鳴いたロロだったが、どうやらマーキング前提の特攻をしたようで、土球を作り出したコノハスライムにすぐさま狙いを変えて、同じようにわざわざお馬さんの恰好でべしッと叩いて倒した。
顔を上げたロロは、俺が見ているのを知ると嬉しそうに口角を上げた。
「見てた!? 2匹も倒したのよ!」
「ああ。中々早かったね」
ルファードじゃこうは行かない。
大鎌の振り下ろし攻撃は、斬撃と見せかけて点攻撃だ。プロが使えば斬撃になるかもしれないが、ド素人は点である。故に、マジで当たらない。
その点、今ロロが使っているのは自分の手での攻撃なのでそりゃ当たる。
「足は使わないの?」
「さっきやったけど、上手くいかなかったから手にしたわ」
「そうか……」
コノハスライムに蹴りが当たらないとかヤバいぞ。
そんな話をしているとリポップが始まる。
また3匹だな。レベル2は3匹固定なのかな。
「ロロ、お尻に気を付けろよ」
「はっ、そうだった! ぬぅ……」
以前、本物のコノハスライムにお尻を弄ばれた記憶が蘇ったのか、ロロは、死ニャー、と叫んで一匹のコノハスライムに襲いかかった。
しかし、気合とは裏腹に至って冷静にコノハスライムの前で膝をつき、テシッと叩き潰す。
他のコノハスライムが土球を放ったので、俺はルビカンテをお尻の前に出してガードしてやった。なにせロロはお馬さんの体勢なので、俺の予約に割り込みされてしまうからな。ちゃんと守ってやらなくては。
「ナイスアシスト!」
ロロは楽しそうに笑い、同じようにコノハスライムを倒していく。
基本、コノハスライムは雑魚なのでやっていけている。だけど、これはいけない。
しばらくロロの無双を超攻撃特化のルビカンテで援護していると、休憩のお知らせが入った。
ロロは蒸気した顔をしながら、漆黒の炎を纏う自分の手を見つめる。
「これ良いかも」
「ロロ。コノハスライムはすぐに倒せても、もっと早い敵には対応できないだろ?」
「だけど! あぅ……うん。そうかも」
自分でもお馬さん攻撃が何か違うと思ったのか、ロロは手足の魔導装具を筒に戻した。
「大丈夫。お前に合う魔導装具が絶対にあるから。訓練中に見つけてみよう」
「うん。コウヤは見つかりそう?」
おや? 今、うん、と素直に返事したな。
今の回でコノハスライムがスムーズに倒せて、ルファード熱がちょっと下がったのか?
非常に良い傾向だ。
「俺は今のところ剣が一番良かったかな。まあ、保留で」
俺も何だかんだ、魔法に未練があった。
剣は、京都土産の木刀で散々、敵(布団)を叩いたからな。
槍はさっき初めて使ったけど、クソだった。
斧は、うーん、爆散は気持ち良かったけどもっさりしてんだよな。
魔法。
今まで自分になかった力で敵を倒すのは、さぞ気持ちが良いだろう。
何か魔法っぽい感じの魔導装具はないだろうか。
俺達は、恐らくさらに厳しくなるであろうレベル3訓練に向けて、ロッカーへ向かった。
読んでくださりありがとうございます。




