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1-27 強化訓練 3

よろしくお願いします。

ストック切れのため、短いです。

 まず、フィールドが変化する。

 そこは森ではなく、平原だった。

 青い空から太陽、果ては吹きすさぶ風まで再現されている。ただ、香りだけは自然の中のそれではない。


 ピコンとインフォメーションマークのようなものが空中に浮かぶ。

 ナビゲーションボイスがどこからともなく聞こえてきた。


『魔法もしくはVF専用の魔導装具を使用し、出てくる敵を倒してください。敵は攻撃をしてきます。どちらかが敵からの有効打を10回受けると敗北です。有効打とは、現実で受けた場合マシルドが働くであろう攻撃を指します』


 なるほど、負けもあるのか。


 それでは始めます、との言葉の後に、《レベル1》と空中に文字が浮かび、訓練が始まった。


 背の低い草の上に、スライムが現れる。

 レモンティー色のそいつはそう、我らが宿敵コノハスライムだ。プルプルしておるわ。

 なお、コイツらは地面に落ちた木の葉が好物なので、普通草原には居ない。


 コノハスライムを視認したロロは、フカーッと威嚇し、持っていた偽魔導装具を展開する。

 果たして、ロロが選んだ武器は。


「来なさい、ルファード!」


 やっぱりルファードだった。

 ブォンと展開した大鎌を上段に構え、ロロはコノハスライムへ向けて駆け出す。


 コノハスライムもロロの接近を察知したようだが、コノハスライムは行動が遅い。

 まずは意地でも触手でマーキングし、マーキングした箇所に魔法を放ってくる習性があるのだが、触手を伸ばすまでがかなり遅い。伸ばした後にペチッと叩くのは割と早いのだが。


 そんなだから、ロロは危なげなくコノハスライムを間合いに入れる。


「死ニャーッ!」


 猫っ気が出てしまうほどに興奮したロロの振り下ろし攻撃は、しかし、ミス!

 大鎌の先端がコノハスライムから10センチほど後方の地面にぶっ刺さった。剣や斧ならあまり見ない光景だが、大鎌という武器の形状上、下手くそに持たせるとこういうことが割と起こる。少なくとも先日行った森では飽きるほど見た。


 その間にコノハスライムの触手が準備完了となり、ペシッとロロのお腹を叩いた。大鎌振り回す系のクールビューティの身体を触手で叩くとか熱い展開だ。


「ひぅうう、ぬ、抜けないよぅ!」


 魔導武装を解除すれば良いものを、ぐいぐいと柄を引っ張るロロ。こういうところがホントにザコい。


 いやいや、それよりも助けなきゃ。

 俺は駆け寄りながら偽エクスカリバーを展開し、コノハスライムの核に打っ刺した。

 それだけでコノハスライムは呆気なく息絶えた。


 どう考えても楽勝である。倒そうと思って10秒も掛かっていない。

 こうなると改めて武器選びを間違えたことを実感する。


「あ、あう、ありがと」


「いいよ。それよりも頭上に障害物がないんだから落ち着いてね」


「う、うん」


 本当は早くルファードが難しい武器だと理解してくれるのが一番良いんだけどね。


「あっ、また出てきた!」


 ロロはそう言ってルファードの柄をギュッと握る。

 その視線を追うと、確かにいつの間にか出現していた。


 しかも、すでに土球の魔法を構築し終わっている。


 雑魚なコノハスライムだが、一つだけ厄介な能力がある。

 それは、他のコノハスライムがマーキングした場所を、それとは別のコノハスライムが使用するという点だ。マーキング効果自体は3分ほどで終わるで脅威度はそこまででもないが、もしもその間に何匹も出現すると弱魔法の一斉砲火を浴びることになる。


 コノハスライムから土球が放たれる。

 どこを狙われたのか分かっているので、俺はロロの腕を引っ張って自分の方へ引き寄せて、斜線上から退かす。

 土球はロロのコートを掠めて背後へ飛んでいった。訓練なので攻撃を受けてもあまり痛くないらしいけど、当たらないに越したことはない。


 コノハスライムはすぐさま次弾を構築し始めるが、今はそれどころじゃない。

 攻撃から庇う事も出来るので自分の方へ引き寄せたが、力が強すぎたのかほぼ抱き留めるような体勢になっているのだ。

 ロロは俺と身長がほぼ変わらないので、自然、顔が超近い。カップルのキス準備態勢みたいな距離である。


 ロロが目をまん丸にして、俺の顔を見る。

 俺もはわはわしてロロの顔を見る。


 思い出すのは、出会った当初に転移ゲートで起こったラッキースケベ。


 あ、ヤバい。

 俺は慌てて腰を少し引いた。

 その拍子に、何かが俺の腰にヒットした感触。


『イクサキさんに、有効打が入りました』


 どうやら俺は攻撃を受けたらしい。痛さとしてはロロの肩鉄槌くらい。甘噛みみたいなものだ。

 位置関係を見ると、なるほどロロのお腹とコノハスライムの斜線上に俺がいた。


「く、訓練っ」


 上擦った声で出した俺の提案にロロはコクコク頷く。

 しかし、ロロは一向に俺から離れる様子がない。


「にゃぅ……ふ、ふぐぅ……」


 何で離れない。


『イクサキさんに有効打が入りました』


 ねえ、普通に攻撃受けているんだけど。


「く、訓練しないの?」


 ロロが言う。

 いや、そう言うなら離れ……なるほど、俺が離さなければロロは離れられないのか。

 脇の下から背中に回された自身の片腕の存在に初めて気づいた俺は、魅惑の温もりを振り切ってロロをリリース。


 状態異常・思春期の血流を喰らっている俺はそのまま片膝をついて素数を数え始めた。

 この状態異常に掛かると男の子は歩行が満足に出来なくなるのだ。人によっては起立すら簡単で難しい。まるでとんち。

 一方のロロは何やらさっさっと髪の毛に手櫛を入れたり、目をぎゅっと閉じたり、コノハスライムの土球を腹にめり込ませたり忙しそうだ。


「うげぇ」


『ロマさんに有効打が入りました』


 今まで俺の腕の中でヒロインしていた女とは思えない声を漏らして、ロロはお腹を押さえて蹲る。 

 俺はそんなに痛くなかったが、ロロにとってはそこそこ痛いようだ。防御力の差とかがあるのだろうか。


 ロロが蹲って見ていないので、俺は剣を拾って瞬時にコノハスライムを切り伏せ、また膝を着いた。今回はいつも以上に荒ぶっていた。


 と、ここで放送が入った。


『あー、その、なんだ。お前ら、仲良しなのは良いことだとさっきは言ったが、さすがに訓練は真面目にやれ』


 ひぁっ。

 ガリオン教官に全部見られていた模様。

 すんごい気まずそうな感じで注意されてしまった。


 気を取り直して。


 さすがに二回目の注意が入ったら怒鳴られかねないので、状態異常を回復した俺は真面目に訓練に取り組んだ。

 コノハスライム?

 見つけ次第切り伏せてるわ。


 っていうか、エクスカリバーの威力がヤバい。

 本物を再現した攻撃力になっているんだと思うけど、こういう普通の魔導装具を持っていれば確かにコノハスライム討伐とかクエストレベル3ですわ。


 一方でロロはミスを続発させているが、たまにヒットもさせている。

 やはり魔導装具の攻撃力が高いので当たれば一撃だ。


『お疲れさまでした。10分間の休憩に入ります』


 30分ほどコノハスライムを倒していると、ナビボイスが入った。

 フィールドはそのままなので、非常に気持ちが良い休憩時間だ。


「や、やるじゃない」


 ロロが俺の隣に座って褒めてくれた。

 その顔はほんのり赤い。熱か、なんてアホな事は言わない。抱き留めたことを少なからず意識してくれているようだ。……そうだよね?


「ああ、やっぱり俺は前衛向きなのかな。魔法でバッタバッタと倒すのは憧れるけど、今のところ無理そうだし」


 俺はほんのりと魔法推しする。

 すると、ロロはもじもじしながら聞いてきた。


「そんなに魔法使ってるのカッコいいと思う?」


「うん。凄くカッコいいと思う」


「ふ、ふーん?」


 そんな事を話していると、ナビボイスが流れた。


『5分後に訓練を再開します。魔導装具を変更する場合はお早めにお願います』


 しまった。

 そうだよ、こういう時間を利用して他に試したい魔導装具を選ぶんだよ。なにをまったりしている俺。


 俺は偽魔導装具入れのロッカーを漁り始めた。

 お、槍だ。全くもって槍とか使いたいと思わないけど、試すだけ試してみよう。もしかしたら凄く良い感じかもしれないし。


 俺は、グングニルという槍を手にした。

 投げると戻ってくるんだろうか?


 ロロに目を向けると、ロロは後ろで手を組み、つま先をトントンしながらそっぽを向いて言った。


「せ、せっかくだしぃ? 他の魔導装具も使ってようかな? だけどルファードが一番よ? それは間違いないから、勘違いしないでね?」


 おお、ついに……っ!

 だけど、そのツンデレみたいなセリフ意味わかんないぞ。


 お尻をふりふりロッカーを漁っていたロロ。

 このお尻に不意打ちで腰を打ち付けたらキレられるだろうか?

 いや、万が一その瞬間をガリオン教官に見られていたら、普通に殴られるかもしれんな。色々と怖いから当然やらない。


 果たして、ロロが選んだ武器はいかに。



読んでくださりありがとうございます。


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