1-26 強化訓練 2
よろしくお願いします。
ガリオン教授……改め、ガリオン教官の背中を追いかけて、俺達は粛々と廊下を進む。
背中がでけえ。
彼の人生経験の豊富さがそう感じさせるのか……いや、違うな。そんな詩的な話ではなく単純に物理的にそう見えるのだ。なにせ身長が俺の顔一つ分以上違うし。背中の筋肉とかムッキムキやがな。
たぶん、マシルドとか無かったら、パンチ一発で俺の顔がはじけ飛ぶくらいの膂力があるんだろうな。
そんな人に指導される俺は、一体どうなっちゃうんだろうか。
死ぬことはないだろうけど、めっちゃキツイ訓練になるんじゃなかろうか。
泣き虫のロロは泣いちゃわないだろうか。
妖精さんはガチで死なないだろうか。
……不安しかねえぜ。
そんな俺の心中を知ってか知らずか、ロロが俺の背筋をもにゅと揉んできた。
「ひゃぁん!」
俺の口の中に女子が降臨した。
「プフーッ、何その声」
「いや、その前にいきなり何すんだよ」
「ちょっと気になって。コウヤもガリオンさんみたいに背中の筋肉凄いのかなって」
なるほど、このドスケベ女は筋肉に興味が出てしまったようだ。
「家に帰ったら見せてやるから、今はそういうのマジでやめてね?」
「べ、別に見せてくれなくてもいいし」
ロロはプイッと横を向いた。
この反応は……
よし、今日はお風呂上り上半身裸でリビングに出てみよう。
女子が筋肉に弱いという話を聞いた事がある。
これでもちょっとは筋肉がついたのだ。メス堕ちさせてやんからな!
「お前ら仲良しだな」
俺達の会話が聞こえたのか、ガリオン教官が歩調を緩めて言ってきた。
それに対してロロがすぐさま反応する。
「別に仲良しじゃないですし! 仕方が無く面倒見てるだけですし!」
手を触りあいっこする男女は俺の認識だとすんごい仲良しな関係だと思うんだけど、テフィナだと違うのだろうか?
これが日本人女子との間に起こっている事なら、俺は100%いけると確信してとっくの昔に告白してるわ。
「俺は仲良しだと思っています」
「にゃっ、にゃにおぅ!?」
ロロは顔を赤らめてポカァッと肩パンしてきた。いや、肩鉄槌だな。ロロは未だに拳が作れないから、普通にパンチすると手首がぐねって嫌みたいなのだ。
「嬢ちゃん、仲良しなのは恥ずかしい事でも悪い事でもないんだぞ。魂の双子は仲良しが一番だからな」
ガリオン教官が凄く良い事を言う。
そうだ、もっと言ってやってください!
俺の願いが通じたのか、ガリオン教官は続ける。
「俺は職業柄数組の魂の双子を見てきたが、全員が仲良しだったもんだ」
「俺達の他にも魂の双子のお知り合いがいらっしゃるんですね」
確か、10年に一組程度の確率で現れるんだっけ。
「ああ。魂の双子は冒険者稼業と親和性が高いんだよ。だから戦闘学の教授なんてやってると教える機会が増えるわけだな」
「え、魂の双子は戦闘向きなんですか?」
「知らんのか? 魔力交換をすることで手軽にステータスブーストを掛けられるし、計算して魔力交換切れを起こすことで強制転移で瞬時に敵から離れることも出来る。初代フェーディであるルゥとリーゼルナが生み出した魂の双子の戦闘術なんだが、これが非常に強いんだよ」
ガリオン教官の話を聞き、俺は驚愕した。
それってチートじゃないですか。凄まじいチートってわけではなさそうだけど。
「こういうことはゼットで簡単に調べられるんだが……コウヤはゼットが苦手なのか?」
「あ、いえ、なんか機人さんから情報規制をされているみたいで」
俺が答えると、ガリオン教官はピクッと眉を動かした。
「そ、そうか。情報規制されているのか。なるほど、じゃあ仕方ないな」
なんだろう。何か変な雰囲気だ。
俺はふと背後を振り返る。
すると、俺の背後にいたロロが何やらわたわたして、ぷひゅひゅーと口笛らしき息を吹く。
「ロロ、ガリオン教授と話してるんだから、悪戯しないでね?」
「ば、バレたか」
ロロは素直に悪戯を認めて、俺の横を歩き出した。すぐにちょっかいかけてくるとか完全に仲良しじゃんね。
「ゴホン。まあ、今のお前らにはこの技術は早すぎる。まずは普通に義務冒険をやっていける技術を得ることから始めるぞ」
そう言って、ガリオン教官は前を向いてしまった。
「ほへぇ、お二人は魂の双子だったんですね。私、魂の双子の人達は初めて会いました」
話が途切れたのを機に、今まで黙っていた妖精さんが目を丸くして言ってきた。
彼女の雰囲気は、押忍ぅと言っていた子とは思えない普通の少女のような感じだった。
「そうなんだよ。あ、俺は生咲洸也って言うんだ。よろしくね。コイツはロロティレッタ。ほら、ロロ、ご挨拶しなさい」
「ちょっとなんで挨拶出来ない子みたいな扱いなのよ。出来るわよ!」
「ふふふっ、ホントに仲良しさんですぅ。私はフィーです。よろしくお願いします」
「フィーちゃんか、改めてよろしくね」
「ロ、ロロティレッタ・ロマです。よ、よろしくね」
そんな自己紹介をしている内に、目的の場所についた模様。
『第4格技室』と書かれている。
ガリオン教官の後に続いて中に入ると、そこは学校にある柔道場程度の大きさの部屋だった。
少し変わった部屋で、地面は土になっており、さらに入口側以外の3面の壁に扉がいくつもくっついている。
「コウヤはバーチャルフィールド(以下、VF)は知っているか?」
「いえ、知りません」
強面のオッサンに不勉強を曝け出す事に少しビビる俺。
しかし、ガリオン教官は特段不快に思う素振りもなく、普通に説明を始めた。
「VFはホログラムと魔素スキンを使用した施設だ。ホログラムにより様々なフィールドを視覚的に再現し、そのホログラムを魔素スキンが覆うことで触れる事も出来る。まあ、見てみればどんなものかすぐに分かるだろう」
百聞は一見に如かずとばかりに、ガリオン教官は壁にあるタッチパネルを操作する。
すると、格技場の風景が激変した。
そこは森の中だった。
森を構築しているのは、本当に森の中にいるように錯覚してしまいそうなほど精密なホログラムだ。
ふと、足に違和感。
ホログラムなのに、草が脛を撫でているのだ。
屈んで触ってみると、ある程度力を入れると透過してしまった。
「魔素スキンが感触をある程度再現してるだけだから、ちょっと力を入れると透過しちゃうのよ。草だけじゃなく木とか本来硬い物も同様にね」
「なるほど」
ロロが俺の前にちょこんと屈んで説明してくれる。
目の前で屈んだものだから、俺の目は太もも及びその奥にあるショートパンツをマッハチラ見だ。
「大体どういうものか分かったな」
室内の風景が元に戻ると同時にガリオン教官がそばに来たので、俺達は立ち上がり耳を傾ける。
「それじゃあロッテとコウヤはここで訓練を行うぞ。まずはロッテとコウヤ。お前らはひたすら敵を倒せ」
おっと、何のひねりもなく見た目通りの脳筋訓練!?
ワックスで車の窓拭くような凄い訓練を若干期待していたのだが、そんなことなかった。
ちなみに、『ロッテ』とは、テフィナにおけるロロティレッタの普通の愛称らしい。もしくは『ティタ』になるみたい。よく分からん。
「武器はこれらを使え」
ガリオン教授はそう言うと、壁一体型のロッカーを開けた。
そこには、たくさんの筒が並べられており、その筒には『モデル・エクスカリバー』やら『モデル・ルファード』やら書かれている。
「これらはVF専用の魔導装具だ。VF以外ではなんら攻撃力は無いが、VF内では魔素スキンに反応して現実に即した手ごたえを再現してくれる。いくらでも変更していい。これらの武器を使って、とにかく敵を倒しまくれ」
「分かりました」
「はい!」
元気に答えるロロに対して、俺はこれはチャンスだと思った。
武器を色々試せるのなら、ルファード以外の武器の素晴らしさをロロに教えられるはずだ。
「それじゃあ武器を選んでおいてくれ。俺はフィーの訓練の説明をしてくるからな。フィー、お前はこっちだ」
「押忍!」
先ほどまで普通の女の子っぽかったのに、ガリオン教官に返事をする時はこうなるのかな? 体育会系である。
ガリオン教官はフィーちゃんを伴って、壁にずらりと並ぶ扉の一つに入っていった。事案である。嘘。
早速武器を選ぼうとロッカーを見ると、ロロがお尻をフリフリ武器を見ていた。
ロロのコートはセンターベントは、お尻が見えるか見えないかギリギリの場所まで切れているので、前屈みになると太ももがチラチラ、ショートパンツもチラチラ。とても素敵な眺めになる。
「あっ、あった」
そして、お目当ての偽魔導装具を発見したよう。偽魔導装具は全部が筒状なので確かではないが、恐らくルファード。
現に、ロロは俺の視線を受けて、ササッと筒を背後に隠した。
「あ、アンタはどうするの?」
「俺はとりあえず剣かな。武器交換をしていいみたいだし、色々試してみるよ。そっちの方が面白そうだろ?」
「……うん。色々試すのは面白いかも」
よし来た!
前向きな言葉を頂いたが、まずはルファードから試すのか変更はなし。
俺が適当に剣を選び終わったところで、ガリオン教官が帰ってきた。
「武器は選べたみたいだな。そうしたら、部屋の中央に行け。コウヤは初めてだから注意しておくが、VFはあくまで室内での訓練だからな。壁がある事に気を付けろよ」
「分かりました」
最終確認をして、ガリオン教官は一つだけ趣の違うドアの中に入っていった。
ロロに尋ねると、全部の部屋の操作をする制御室らしい。っていうか、ここにある扉のほとんどがVF専用の部屋って初めて知った。
というわけで、訓練が始まる。
読んでくださりありがとうございます。
ストックが切れました。申し訳ありませんが、更新頻度が少なくなると思います。
筆が遅いので、頻度は未定です。
とにかく頑張ります。




