0-3 ロロティレッタとの出会い 3
3話目。
今日はここまでです。
「君の名前は何て言うのかニャ?」
そう言った猫ちゃんことルーラさんの手には一枚の写真とサインペンが握られていた。フィギュア女のリクエストで、つい今しがたルーラさんと女が写真を撮り、その上にサインを書いてあげようとしているのだ。
なお、カメラはフィギュア女がどこからともなく取り出した。
「ロロティレッタです! ロロティレッタ・ロマ! ふわっふわっ、あのルーラ様と写真撮ってその上サインまで貰えるなんて……感激です!」
どこぞの巷ではルーラさんは有名人らしい。
泣いたカラスがもう笑った状態のフィギュア女ことロロティレッタは、受け取った写真を掲げ見て、目をキラキラさせて喜ぶ。
猫ちゃんはルーラ。
女はロロティレッタ・ロマ。
覚えたぞ。
さて、じゃあ次は俺の番だな。
場の会話が止まったのを確認した俺は、自己紹介することにした。
「えっと、俺の自己紹介良いですかね?」
「どうぞニャ」
そう言ったのはルーラさん。
一方でロロティレッタは感激していた表情をストンと無に還し、ふいっと視線を横に向けた。好感度がゲージを下限突破して地面にめり込む勢いである。
くそっ、確かに先ほど約束した通り、コイツはフィギュアの件で俺にグダグダ言ってないが……
ムカついたのでとりあえず、威嚇しておいた。
「キシャー!」
「んにぇ!? な、な、ふ、フシャニャー!」
唐突な俺の威嚇にロロティレッタは盛大にビクつき、慌てて威嚇をし返す。
結果的に彼女はやり返してくれたが、これで真顔を貫き通されたら俺はどうしただろうか。ノリでやっちゃったけど危なかったぜ。……俺も非日常に浮かれポンチなのかもな。
「ゴホン。俺の名前は生咲洸也です。よろしくお願いします」
簡潔な自己紹介を終えてチラリとロロティレッタを見ると、彼女は頬を膨らませ、両耳に手を添えてそっぽを向いていた。徹底しているな。
はぁー。
こんな場所で出会った女の子だし、絶対に俺のヒロインだと思ったんだけどなぁ。
どうやら違うらしい。それともツンデレ系なのだろうか。
まあ、これから非日常が始まるのだと思うし、すんごい可愛いヒロインが登場するはずだ。
俺は気を取り直して、ルーラさんに向き直った。
「それじゃあ説明をお願いします」
俺の要望を受けて、ルーラさんはニャと頷く。
どうやらルーラさんは俺達の確執にあまり興味がないらしい。
こうして、ルーラさんによる説明が始まった。
「ここは次元の狭間に揺蕩う島々、導きの群島ニャ。僕はここで次元の狭間に落ちてしまった人や物を他の世界に導く仕事をしているニャ。なぜ他の世界に導いているかと言えば、次元間移動は直前にいた世界へ直接引き返せないというルールがあるからニャ。ここまでは良いかニャ?」
理解しているか問いつつ、鰹節紅茶で舌を湿らせるルーラさん。
頷くことで理解を示す俺。
用意されたケーキをもむもむ食べながら、眉だけキリリとさせて聞くロロティレッタ。よくこんな状況でもしゃもしゃ食えるな、と俺は密かに感心した。
「まず、これからお前らが行く世界はエトナという世界ニャ。この世界はロロティレッタちゃんの生まれたテフィナの世界ニャ」
「ど、どゆこと?」
世界・エトナはテフィナの世界? ちょっと意味が分からない。
そんな俺の反応に、ほっぺに生菓子のカスをつけたロロティレッタはやれやれと言った仕草をする。引っ叩きたい。
「そもそもテフィナってのはなんですか?」
「テフィナは文明の名称ニャ。正確にはテフィナ文明世界群というニャ。次元間移動を可能にし、次元を越えた300の世界で繁栄する文明ニャ」
「300!? それはまた……」
俺は驚きを抑え込み、今の話を咀嚼する。
テフィナというのは世界が300個ある文明なのね。つまり、エトナはその世界の中の一つと。
で、ロロティレッタはその文明の出身者と。
……マジか。
「お前そんな凄い文明の人だったの?」
俺の質問にほっぺにカスをつけながらぷいっと横を向くロロティレッタ。
続けるニャとルーラさんが言うので、ほっぺのカスが気になるも俺は視線を戻した。
「さっきも言ったように次元間移動には直前に居た世界には直接戻れない、というルールがあるニャ。だからロロティレッタちゃんの事情に合わせて、エトナ行きが決定したニャ」
「なるほど、つまりエトナからなら彼女が元いた世界へ普通に帰れるという事ですか」
「そうニャ」
あー、なるほどな、だからか。
ロロティレッタは目覚めた当初こそ不安そうにしていたけど、ルーラさんの正体が判ったらケーキをもしゃつけるくらい余裕になった。俺とのいざこざで情緒不安定なのはまた別の要因なので、除外する。
つまり、コイツはこの後どういう展開になるのか予想がついていたのだ。
さしずめ、彼女にとって現状はサプライズ小旅行みたいなものなのだろう。なお、小旅行のオプションとして、大切なフィギュアはぶっ壊れ、嫌いな男が一人できます。
そんなロロティレッタは、早々にケーキを平らげて、後に残った皿を見つめてしょんぼり。
その視線がチラッと俺の未だ手付かずなケーキに向けられる。
マジかよ、コイツ。決して親しくない……むしろ敵対関係である俺のケーキを欲しがるの?
女子のお菓子に対する情熱に俺は戦慄した。
次元の狭間なんていう場所で出されたケーキだ。プレミアム感は尋常じゃない。
食ってみたい気持ちは当然あるけど、しかし、これで好感度を上げるのも一つの手ではある。
うーむ。
「食うか?」
ケーキの皿を押し出して問うと、ロロティレッタは頬をプクッと膨らませてプイッと横を向いた。しかし、その手はしっかりと皿の端を握り、俺のケーキは強奪された。お礼はなかった。
俺は肩を竦めて、ルーラさんに向き直る。
「うーん、だけど、そんな凄い文明で俺はやっていけるんでしょうか? 出来れば、まだ発展途上な剣と魔法のファンタジー世界に行きたいんですけど」
今、この要望を言わなければ後悔するかもしれない。俺は遠慮がちな口ぶりで図々しい事を言った。旅の恥はかき捨てだ。
「テフィナにも魔法や剣、冒険はあるニャ」
「え、そうなんですか? なら……いや、うーん、でもほら、超文明なんですよね?」
「お前が魔法世界をどういう風に考えているか知らないけど、ぶっちゃけ地球人の小僧が活躍できる魔法世界なんて存在しないニャ」
「え」
「魔法世界はその特性上、魔獣というとても強い生物が居るんだけどニャ、原始時代から魔獣の脅威に対して真摯に向き合ってきた彼らの文明は、お前が想像するより凄い文明になるニャ。付け焼刃な知識しか持っていない小僧が介入できる余地なんてないのニャ」
おーっとと、聞いてた話と違うぞ?
魔法があるから文明が停滞するとかなんとか専ら巷では噂だったんだが。
しゅん……
そんなふうに盛大にしょぼくれている俺に、フォークの先を向けてプギャーする女が一人。
これにはさすがの俺もムカついたのでケーキの皿を取ろうとすると、彼女は慌てて皿を遠ざけた。
「じゃあ……エトナでいいです」
俺はなんだか無性に悔しい気持ちになり、若干不貞腐れながら言った。
しかし、すぐに思い直す。この態度はダメだ。
俺は内心のもやもやを抑え込んで、ルーラさんに頭を下げた。
「すみません。失礼な態度を取りました」
「おお、お前は見所がある男だニャ。中にはゴネる奴もいるからニャ。そう言う奴はヤバい世界に送ることにしてるニャ。ニャハハハハッ」
俺の人生が猫さんの胸先三寸な件。
危なすぎる。
「まあテフィナに行ったら魔法世界の人類史を調べてみると良いニャ。地球との違いがよく分かると思うからニャ」
ルーラさんはここまで説明すると鰹節紅茶で口を湿らせ、一息吐く。
俺もつられて鰹節紅茶に口をつけた。不味くはないが美味くもないし、クセにもならない味である。
「さて、ここからが本題ニャ」
むむっ、なんだなんだ!?
散々な事を言っておきながら、もしかしてチートをくれる感じか!?
行き先が告げられた後はチート贈呈タイムの始まりってのは恒例みたいなものだし。
落としてから上げる、なかなかいい性格してるぜ猫ちゃん!
俺はそわそわした。
一方、もむもむ口を動かすロロティレッタは、眉毛だけキリリとさせ、もむっと頷く。なるほど、コイツはアホなのかもしれないな。
俺達が居住まいを正したのを確認したルーラさんは、先を続けた。
「お前たちが次元の狭間に落ちた原因は、ちょっと特殊な事情があるニャ。ロロティレッタちゃんなら聞いた事があると思うけど、お前たちは魂の双子ニャ」
魂の双子。
そう言えば、そんな単語出てきたね。ロロティレッタとのバトルですっかり忘れてたわ。
魂の双子とは何なんだろうか? 世界の命運を背負った凄い存在とか? 滾るぜ。
魂の双子がなんであるかロロティレッタは知っているらしい。さすが異世界っ娘。
と、その当人はキリリ眉から一変し、酷く戸惑った様子をみせる。
「も、もむぐす……っ。た、たま……ぇふっ!? だだ、誰と誰が?」
予想外の言葉だったのか、口の中のケーキを慌てて飲み下すと、困惑した様子でルーラさんに尋ねる。
「だから、ロロティレッタちゃんと……」
ルーラさんはそう言って猫の手を彼女に向け、その手をそのまま俺に向ける。
「洸也がニャ」
その手を追うようにこちらに顔を向けたロロティレッタは、しかし、すぐにまたルーラさんへ顔を向ける。
どうでもいいが、俺は呼び捨てでロロティレッタはちゃん付けか。俺の扱いの方がフレンドリーだな。
「じょじょじょ冗談ですよね!?」
「本当ニャ。お前たちは別々の世界で生まれた魂の双子だからこの場所に落ちてきたのニャ。テフィナで言うところのフェーディ型って奴ニャ」
サラッと事実だというルーラさんの顔から、油の切れたロボットみたいに首を回して再びこちらを見てくるロロティレッタ。
な、なんだよ、そんなに見るなよ。
ほっぺにカスつけやがってぇっ。
くそっくそっ、やっぱりコイツ超可愛いな。余裕でチューしたい。
美少女に見つめられる俺は、自分だけドキドキしているのが悔しいので、怪訝な素振りを見せたりしてみた。俺氏、精一杯のリアクション。
それに対してロロティレッタは、あはははははっ、と狂ったように笑い出した。
しかし、その目は笑っていない。
こんな様子で手にはケーキを食べていた名残でフォークが握られているのだから怖さは倍増だ。
俺は軽くビビりながらルーラさんを見ると、猫ちゃんは鰹節紅茶を飲んで風流にしていた。血の涙を流して世界を呪いそうな狂気じみた笑いの前にしてなんたる余裕。これが強者か。
ロロティレッタは一頻り笑うと、その笑いをピタリと止める。
しばしの静寂。しかし、嵐の前の静けさであることは明白だ。
彼女は顔を俯かせ、フォークを持った手でダンッとテーブルを叩いた。テーブルの上で食器が躍り、来ると分かっていたのに俺はビクついた。
「嘘よ!」
彼女はそう叫ぶと、フォークをテーブルに投げ出しながら勢いよく椅子から立ち上がり、島にある階段目掛けて走り出した……のだが。その途中で何を思ったのか急停止した。
怪訝にする俺とは対照的に、ロロティレッタは絶望の浮かんだ表情で俺とルーラさんを見た。
「これで分かったニャ? 君たちは魂の双子なのニャ」
「う、嘘よ!」
「??」
俺を置き去りにして二人だけの会話が再び始まる。
俺は疑問符を頭の上に浮かべながら声を出す方へ忙しなく顔を向けた。
「ふぬぬぬぬぅ! はぁーはぁー……どうして……どうして離れられないのよ!」
ロロティレッタはそう言っているが、俺から見ると彼女はただ突っ立っているだけだ。
「無駄ニャ。お前たちはすでに出会ってしまっているニャ」
「み、認めにゃい! ひっく、しょんなの認めにゃぁ! ひぅ、ひぅうっく!」
「君が認めなかろうと、現実は変わらないニャ」
「ふぇ、ふぇえええ、やぁあああ……ふっふぐぅ……やだーっ! そんなのやだやだやだやだやらぁああああああんあんあんあんあん!」
ロロティレッタはその場に仰向けで寝転がると、手足をジタバタしながら泣き始めた。
ロングコートからチラチラ見える生唾を飲みたくなるような太ももとガキみたいな泣き方が実にミスマッチした光景だ。
さて、もうそろそろ良いかな?
「あの、話に全然ついて行けないんですが、アイツはどうしちゃったんですか?」
ロロティレッタの行動は何も知らない俺からすると謎としか言えなかった。
キレて席を立ち、少女漫画の傷心ヒロインみたいにこの場から逃げ出そうとしたかと思えば、その場で立ち尽くしてゴチャゴチャ文句を言った後、わんわん泣き出す始末。意味が分からない。
「あれは魂の双子の特徴ニャ。ロロティレッタちゃんはお前から遠くに離れられないのニャ」
ふんふん、なるほどなるほ、ど……?
「ど、どういうことですか?」
「どういう事も何も今言った通りニャ。ロロティレッタちゃんはお前から遠くに離れられないのニャ」
言葉の意味を理解しつつも口から出た質問に、ルーラさんは同じ答えを口にした。
「マジかよ。えっと、それは俺もですか?」
「そうニャ。自分で確かめてみればいいニャ」
そう言われたので、俺は席から立ってロロティレッタから離れようと試みた。
すると、彼女の方へ行く場合は足がすんなり動くのに、離れようとするとどうやっても足が動かなくなってしまう。
なにこれ気持ちわるっ!
「す、すみません。魂の双子について最初から教えてもらえますか?」
ちょっと俺の思い描いていた魂の双子と違うな。世界の命運を担っているとかそう言うんじゃなさそう。
席に戻った俺がそうお願いすると、ルーラさんはニャっと快諾する。
話を始める前にルーラさんはポムッと手を鳴らす。すると、ロロティレッタの泣き声がふっと消えた。しかし、見ればロロティレッタは相変わらずジタバタしながら泣いている。
防音の魔術ですね、分かります。
正直コイツの泣き声をBGMにして、説明なんて聞けっこないので助かる処置だ。
一方のロロティレッタには堪らないだろうな。おもちゃ売り場のガキにしても、ジタバタギャン泣きは可哀想な己の運命を捻じ曲げるための最終手段なのだから。それを封殺されたロロティレッタとかいう女ワロス。
雑音が消えたところで、改めてルーラさんの説明が始まった。
「魂の双子は、同じ瞬間に生れ落ち、必ず18歳になるまでに出会う宿命にある男女のことを言うニャ。この出会いは次元の壁すら超えてしまうほどの強い引力を持っているニャ。普通は同じ世界内で二人は生まれるものだから何かしらの必然で出会うけれど、極まれにお前らみたいに別々の世界で生まれることがあるニャ。そういう場合は無意識に次元の裂け目を自分で作り出してこの導きの群島で出会うニャ。つまり現状のことだニャ」
「ふむふむ、ディスティニーな二人ってわけか」
こいつぁもう理論的に結婚が大正解だ。俺好みに調教するからお前も諦めて結婚しようぜ、なあロロティレッタ。
俺の心のうちなど知るはずのないのに、ヤダヤダヤダヤダぁああ、とサイレントな俺の嫁がジタバタ。太ももが最高に綺麗である。
「そして、魂の双子は一度出会うと、本人の意思と関係なく身体が相手から離れるのを拒んでしまうニャ。お前たちが経験したのはそれニャ」
「この距離が限界ということですか?」
大体5メートル程度だろうか。
「そうニャ。あとこれも重要なんだけど、魂の双子は間接的な力で距離が離れると空間跳躍を起こすニャ。仮にお前が乗り物に乗せられて離れてしまった場合、どちらかがいる場所に転移してしまうニャ。高所から落ちた場合も同じニャ。また、5メートル以内でも壁などに遮られると同じ現象が起こるニャ」
「なにそれ凄い」
「ただし、長距離を離れる手段もあるニャ。お互いに魔力を交換するのニャ。交換した魔力が本人の物に変換されるまでの間なら、どれだけの距離を離れても大丈夫ニャ。ちなみに、今のお前の魔力量だと30分が限界ニャ。ロロティレッタちゃんの魔力量はもっと多いけど、魔力を交換する都合上、魔力が低い方に合わせる必要があるニャ」
「魔力!」
魔力というフレーズに俺のテンションが上がるも、それは一先ず置いといて。
「つまり魔力交換をしても、どちらか一方の制限時間が切れれば転移が始まるわけですね?」
「そうニャ。制限時間が切れた方が切れていない方へ転移するニャ。それ以外で転移した場合は完全に2分の1のランダムニャ」
ふむふむ、なるほど。
この法則は覚えておこう。
「しっかし……魂の双子……ね」
俺は背もたれに寄りかかり、息を吐いた。
俺とロロティレッタの現在の距離は5メートル程度。生涯この距離が俺達のデフォルトになるらしい。
美少女と生涯一緒な事を喜べばいいのか、性格も人間関係も分からない女の子とそう言う関係になり不安に思えばいいのか。微妙なところだ。
気分的にはとんでもなく嬉しいが、現実的に考えれば超不安。そんな感じ。
男の俺でさえ不安が大きいのに、女の子のロロティレッタともなれば猶更だろう。
絶世の美女と言って過言でない彼女なら男なんて選り取り見取りだろうし、じっくり選んだ超イケメンと結ばれたいと思うだろう。
それなのに好きでも何でもない、むしろ大嫌いな男と常に行動することが確定されてしまったのだ。そりゃ泣くわ。自分で言ってて悲しくなるな、へへっ!
あるいは、すでにそんなイケメンな恋人がいるかもしれない。そのパターンは俺も泣いて良いはずだ。
……いや、だけど待てよ?
「次元を越えてまで出会う運命的な二人なんだし、相性は凄く良いんですよね?」
「この状況でそれを言えるお前は中々大物ニャ。見ての通り、別にそんなことはないニャ。生涯ギスギスして暮らした二人も居るし、相方が嫌すぎて心を病んでしまった人もいるニャ。もちろん、最高の親友となったり、結婚して幸せを築いた二人も居るニャ。離れたくないのは体なだけで意思はあまり関係ないニャ。早い話、頑張れってことニャ」
「こんなに凄い出会いなんだから、そこは問答無用で一目惚れ確定、相性抜群、結婚不可避で良いじゃない……っ」
くそっ、この女を俺に御せるのか?
めっちゃ嫌がってるんだけど。
いや、だけどやるしかねえ。
俺は嫌だぜ? 今日彼氏が来るからアンタは魔力注入したらどっか行ってね、とか言われるの。
そんで俺は一人町で時間を潰し、良い頃合いで帰ると妙にツヤツヤしたロロティレッタと彼氏がががが……血を吐くわっ!
「た、魂の双子は治らないんですか?」
たった今やるしかないと覚悟を決めた男の口から、速攻でチキンな発言が流れ出る。
だ、だけど、ほら、ねっ。選択肢は多いに越したことはないし。
「魂の双子は治らないニャ。少なくとも僕は知らないし、これからお前らが行くテフィナでも治療法は発見されてないニャ」
「くっ、そうですよね。ロロティレッタのこの反応を見ればわかります。くそ、死に物狂いで頑張るしかないってことか……っ」
「まあ、頑張るニャ」
ジタバタし疲れて現在はうつぶせで泣いているロロティレッタ。
そんな彼女の姿を見る俺の胸中には不安しかない。
「じゃあ、説明も終えたし。そろそろお別れニャ」
「え、も、もうですか? 異世界に行くわけだし、何かチート的な能力とか貰えないんですか?」
「そんなもんあげないニャ。というより、僕はすでにお前をテフィナ人と同じ身体にしてあげてるニャ。それだけでも破格の仕事ニャ。これがなかったらお前は魔法世界の環境に適応できないで10分も経たずに死ぬニャ。それでもグダグダ言うならぶっ飛ばすニャ!」
凄い剣幕。
きっと過去に、それでもチートくれとごねた奴がいるのだろう。
俺は素直に謝った。
「まあ、テフィナは優しい文明だから安心すると良いニャ。そうそう、テフィナについたらお役所に行くニャ。お前みたいな迷い人を保護してくれるからそれを利用するニャ」
そんな事してくれるのか。
まあね、300の世界で繁栄する文明なら今更迷い込んできた異世界人をとっ捕まえて、知識を絞り出したりモルモットにしたりはしないよな。それをやるんだったら捕獲部隊を他世界に送り込んだ方が遥かに効率的なのだから。
門番さんを筆頭にいろんな人に出自を誤魔化すテンプレはなし、と。
さて、とルーラさんが一息吐く。
すると、ロロティレッタがフワフワと浮いて俺の隣にやってきた。
音声も元に戻り、今はひっくひっくとえづいている。
ルーラさんはお茶で口を湿らせると、それじゃあ、最後になるけど、と別れの言葉を切り出した。
薄く開けられたキャットアイが、俺達を見つめる。
「魂の双子は当人同士の気持ち次第で祝福にも呪いにもなるニャ。その事を努々忘れてはいけないニャ。もう二度と会うこともないだろうけど、二人とも達者で頑張るニャ!」
その言葉を告げると同時に、ルーラさんの姿と次元の狭間に揺蕩う導きの群島が、俺とロロティレッタをその場に残したようにぐわりと遠ざかっていった。それはさながら、SFもののアニメに出てくるワープ航行のようである。
なんというさっぱりとしたお別れだろうか。
きっと猫ちゃんにとっては俺達など星の数ほど導いてきた者たちの一組でしかないのだろう。
だけど、それじゃあ俺の気が納まらねえ! 一時間程度の出来事だったけれど、俺なんて一生忘れない経験をしたんだ! 超文明での暮らしや魂の双子への不安はあるけれど、今はそんなの関係ねえ。
「ありがとうございました! さようなら!」
とりあえず、なんか良い感じのお別れをしたかった俺は、別れの言葉と共に大きく手を振った。テンションはバカ高だった。
遥か遠くでルーラさんがニャッと手を振る姿を見届けると同時に、俺の視界が柔らかな光に包み込まれる。
俺、大満足。
そして、次の瞬間、俺達は大嵐と呼ぶにふさわしい豪雨の中に放り出されたのだった。
読んでくださり、ありがとうございます。