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1-23 反省会が行われる炬燵の中で

よろしくお願いします。

 記念すべき、初クエストは失敗に終わった。


 一応、コノハスライム討伐クエストは失敗しても討伐した数によって報酬が支払われる。

 大規模駆除クエストだからというのが理由みたい。さすが初心者推奨タグがついているだけあって優しい仕様だ。

 尤も、クエストを達成するには10匹ちゃんと狩らないとダメなんだけどな。義務冒険者ランクを上げるなら、達成を心掛けなくてはならない。残念ながらテモチャミッションで『クエストを失敗せよ』なんていうのはないからな。


 で、報酬は一匹あたり700テス。

 俺達は9匹狩れたので、6300テス。

 クエスト達成で8000テスなので、達成者にはボーナスがちょろっと出るのだろう。


 しかし、失敗したけどお金が貰えて嬉しいなどと浮かれてはいられない。

 満額なら二人で16000テス貰えたのがこの有様なのだ。幸先が悪すぎる。

 それに、このクエストを実際にやってみて思ったのだが、これは絶対にボーナスクエストだった。

 俺がエクスカリバーでも持っていれば確実にクリアできたし、ロロが魔法を使っていても同じく余裕でクリアできただろう。


 その程度のクエストをクリアできなかったのに、ボーナスではない普通のクエストがクリアできるのだろうか?

 そこらへんのことを、ちゃんと考えなくてはならないかもしれない。


 今はまだ援助金や支度金の残りで余裕があるけど、クエスト達成率が悪ければ近い将来貧困に喘ぐことになる。ロロと同棲しているわけだし、男としてそれはカッコ悪い。ちゃんと稼がなければ。


 そんな意気込みと共に次のクエストに出向いた。

 クエストの内容は前回と同じコノハスライムの討伐だ。

 前回はルシェルート1から3までを討伐範囲にしていたため、今回は4から6まで。


 しかし、これもまた失敗に終わる。


 失敗の原因は何だったのか。

 俺の魔法が下手というのは、原因の一つとして反省すべき点だろう。

 しかし、最大の戦犯はやっぱりロロだ。

 この女、運動音痴という事実を突きつけたら意固地になりやがった。

 だけど、泣きそうな顔で、っていうかメソメソしながら大鎌を振るう姿を見ると、可哀想になっちゃって強く言えない。


 こうして、俺達はクエストを連続2回失敗した。


 そんな俺達の元にレオニードさんが来たのは、意気消沈しながら家に帰ってすぐだった。

 ピョンピョピョピョピョピョン、と自分の家ながら謎のインターホン音に玄関を開けてみれば、そこにいたは光の勇者みたいなイケメン面を引っさげたレオニードさん。


「やっほー」


「こんにちは、レオニードさん。あれ、今日は勉強の日じゃなかったですよね?」


 俺はレオニードさんからちょいちょいテフィナのことを教わっている。

 マナネットに繋がるゼットがあるとはいえ、生身の人から教わる方が確実な場合もあるのだ。

 レオニードさんとの授業は雑談を交えながら日本人とテフィナ人の価値観の相違点を探していく感じのラフなもので、ガッチガチな授業ではない。

 同じようなことをロロともやっているので、俺の知識はどんどん増えている。


「今日はちょっと用事があってね。ロロちゃんと一緒に聞いて欲しいから上がって良いかい? はっ!? もしかしてまた邪魔しちゃったかな?」


 レオニードさんはセリフの最後の方で口に手を添える。

『また』というのはこの前の微エロ動画撮影会もとい、魔法参考資料の撮影をしていた時のことだろう。

 そんな冗談を言ってくるくらい、最近の俺とレオニードさんは仲が良い。

 ご飯にお呼ばれしたりしてるけど、何よりも体毛事件でグッと好感度が上昇した気がする。


「今日はエッチなのはお休みです」


「なるほど。確かにお休みは必要だ」


 レオニードさんの冗談に俺は苦笑いで応え、入ってください、と招き入れる。


「ロロ、レオニードさんが来たから起きて」


 先じてリビングに戻った俺は、ロロに声を掛けた。

 しょんぼりをそのまま脱力に変換したように炬燵の中に下半身だけ入れて寝転がるロロは、うん、と力無く返事して起き上がる。


「こんにちは、ロロちゃん。お疲れのようだね」


「こんにちは」


 ロロは立てた膝に掛かる炬燵布団をもぞっと動かし、元気なく挨拶する。


「すみません。クエストに失敗しちゃって、俺もコイツも意気消沈中なんです」


 俺は苦笑いしながら、ロロの態度をフォローした。

 レオニードさんは別段気にした風でもなく、いつも通りの爽やかな顔だ。


「うん、実はそのことでお話があってきたんだ」


 レオニードさんは俺の担当官だし、仕事が上手くいっているか報告が上がっていても別段不思議ではない。


「そうですか……あ、座ってください」


 レオニードさんに俺がいつも座っているロロの正面を勧め、俺はロロの斜め横に座る。

 炬燵の中でロロの足に自分の足を軽くぶつけて触り、『人が見てる前でこっそり背徳プレイ~ソフト編~』を楽しむ。ふふふっ。


 炬燵の中でそんなアホなことをしつつ、炬燵の上ではお客様をおもてなし。人間誰しも二面性を持っているものなのだ。

 お茶なんて洒落た物は無いので、果物のジュースを出す。レオニードさんの好感度が+1したような気がした。


 レオニードさんはジュースで舌を湿らせ、一息ついてから話を始めた。


「クエスト、上手くいかなかったんだってね」


「はい、実は今日と昨日、2回連続で失敗しちゃいました。すみません」


 俺が謝罪すると、ロロは泣きそうな顔で項垂れた。

 そんなしょぼくれた顔するなよ。

 俺は炬燵の中でロロの足をこちょこちょした。もちろん、触りた……励ますためだ。

 ロロは頬を膨らませて、ベシッとその手を叩いた。


 そんな俺達のソフトプレイを知ってか知らずか、レオニードさんは少し笑ってから、言った。


「いやいや、君が謝る事じゃないよ。異なる世界に来て日も浅く、まだまだ不慣れなコウヤ君にいきなり冒険と自活をしてみろ、なんて無茶振りしたのは僕らなんだから。もちろん、ロロちゃんのせいでもないんだよ。君もコウヤ君の面倒を見つつ、頑張っているんだからね」


 いえ、大体はロロのせいです。

 コイツが魔法オンリーで戦えば、コノハスライムとか発見次第5秒でデストロイです。

 それをダークネスルファードで倒すことにこだわって……バカなの!?


「と言っても、義務冒険は続けてもらうんだけどね! あっはっはっ!」


 若干湿っぽくなった場の空気をレオニードさんが冗談めかした陽気な声で破壊する。

 俺も気まずい空気は嫌なので、笑って応えた。

 俺は、最大の戦犯者であるロロにも元気を与えようと笑いかける。ロロは唇を尖らせて俯き、炬燵の中で俺の足に一瞬だけ振動魔法を掛けてきた。

 ビクンッと俺の身体が跳ねる。


「だけど、このままだと苦労しちゃうかと思ってね。で、今日来たのはレオニードさんのなんでも相談所って感じかな」


「相談所ですか?」


 俺はビクンしたのを流し、レオニードさんの話に耳を傾ける。

 一方、ロロは俺がビクンしたのが面白かったのか、炬燵の中で俺の膝小僧をさわっと摩る。ちょっ、お前!? 膝さわっは卑怯だろうがよ! さすがに少年キャラの乳首を連打タップするスケベさんだけあるぜ。


 俺はそんないけない手を捕まえ、片手で手のマッサージを始める。

 毎晩お風呂上りに足や手をモミモミしているので、ロロは俺から手や足の裏を触られる事に対して嫌がる様子がない。調教は順調であった。


 時間外に計らずしも始まった手モミモミタイムに、俺の幸福指数がグングンと上がっていく。

 ロロは俯いて大人しくなった。


「うん、相談所。まあ、端的に言えば反省会だね。どうして失敗しちゃったか。その内容如何で、いくつかプランもあるよ。本当は二人で解決するのがベストかもしれないけど、コウヤ君はまだテフィナに来て日が浅いからね。解決するための糸口が少ないでしょ」


「確かにアドバイスを頂けると助かります」


 そうなると……ここは正直に言っとくか。

 第三者がいるなら、ロロも意固地になることもあるまい。


「一番の原因は、武器選びが悪かったことだと思います。俺もロロ」


 俺はロロの反応を見ながら言った。

 ところがロロはこれと言って何も反応を示さない。

 もぞもぞと立てた膝に掛かる炬燵布団を動かすばかり。


「えーと何を使ってるんだい?」


「俺はイージス・フロンティアで、ロロはダークネス・ルファードです」


「ふひゃい!?」


 自分の話題が出たからか、ロロがびっくりしたように上擦った声を上げた。

 それと同時に飛び跳ねるように両手を炬燵から出し、天板の端っこにちょこんと指をかける。そうして、注目する俺とレオニードさんの顔を交互に見た。

 もみもみタイムが終了したせいで、俺の指先の喪失感が酷い。


「にゃ、にゃんの話だったっけ?」


 大人しくしていると思ったら聞いてなかったんかーい。

 そんなふざけた態度取って、レオニードさんに失礼だとは思わないのかコイツは、まったく。


「聞いてなかったのか? 俺達の武器の話だよ」


「ぶき。武器ね。ああうん。私はルファードで、コウヤは草よね」


「イージスだ」


 ロロはそう言いながら、炬燵の中におずおずと手を入れ、俺の膝をこしょこしょとしてきた。

 はわっ! 俺はまたビクンとして、慌ててその手を掴まえる。もみもみタイム☆継続!


「なるほど、ルファードとイージスか。一見するとバランスが取れているように思えるけど……コウヤ君の魔法はまだ――」


「ゴミクズです」


 レオニードさんの言葉を拾って、ロロが言う。

 おのれぇ。まあ事実なのでモミモミして落ち着こう。この手は凄い。猫の肉球に通ずる癒しの揉み心地だ。


「はは、辛辣だね。だけど、それだとイージスは性能が全く引き出せないかもしれないね。……ちなみにロロちゃんは運動の方は――」


「ゴミクズですイータタタタタタタタッ!」


 俺が言うと、これに対してロロは丁度自分の手をもみもみしている俺の親指を握り、そのままエビぞりにすることで報復。おかしいじゃん!?


「待って待って。お前だって酷いこと言ったよね!?」


「アンタの魔法がダメダメなのは事実じゃない。私の運動神経が悪いっていうのはアンタが言ってるだけでしょ? 私、自分の運動神経が悪いなんて思ってないもの!」


「だからどっから来るのその自信!?」


「だって私、小学校の先生にロッテちゃんはボール投げが上手ねぇ、って言われたもの!」


「……片手投げ?」


「?? 両手投げだけど?」


「もしかして今も両手投げ?」


「今は……どうだろう。だけどだけど、片手で投げると、投げる前に地面に落ちちゃうじゃない?」


「運動神経息してねえじゃねえかぁぃいいたいいたいたい!」


 エビぞり!


「まあまあ、そこら辺にして」


 レオニードさんが取りなし、エビぞりタイムは終了。

 ただし、いつでも俺を痛めつけられるように、俺の親指は炬燵の中でロロの柔らかい手に握られ続ける。幸福と恐怖の振り子人形、それが今の俺だ。


「じゃあ、なんというか……二人とも武器を使いこなせてないわけだね?」


 レオニードさんのオブラートに包んだ言葉に、ロロがぷくっと頬を膨らませて、俺の親指がちょっとエビぞる。


 親指が柔らかい手筒に納まっている現状にそこはかとないエロさを覚え始めた俺は、ほじくる様にちょっともぞもぞさせてみた。ギュッギュッされた。

 ちょっとツイストしてみた。ギュッギュッされた。

 はわっ凄い絞まり……っ!


「はい。実はイージスは変えようかなって思っています。確か返品出来るんですよね?」


「うん。この時期だと買ってから30日以内の返品が無料だね。一回きりだけどね。何か目当ての武器があるのかい?」


「いえ、特に。ただ俺は魔法が上手くないので、魔法技術にあまり頼らない物にしたいです」


 そう俺が答えると、親指がソフトにニギニギされた。

 しかし、手汗で滑ったのか、ちょっとシュッシュッと擦られる。

 ……おいロロ、それは不味くないか? 親指が切なくなっちゃうぞ。


「なるほど。となると君たちの悩みの解決に役立ちそうなプランは……これだね」


 そう言って、レオニードさんはゼットを操作する。

 すると、俺達の目の前にホロウインドウが飛んできた。ゼットはこういう事も出来るのか。


 ホロウインドウに書かれている内容を見て、俺は首を傾げた。


「特別強化訓練ですか?」


 ホロウインドウに書かれているのは、その告知画面だった。


 一緒にホロウインドウを眺めるロロも知らないようで首を傾げている。一方炬燵の中では、ピストン運動が気にいったのか、激しくシュコシュコ。

 ちょロロ、そんな激しくしちゃらめぇ! 親指のことしか考えられなくなっちゃうよぉ!


 俺は、第三者の前で男の棒を高速で扱くドスケベな女の手技に意識が持っていかれそうになるも、レオニードさんが目の前にいるんだから我慢しなくちゃと必死で耐える。

 涎が垂れそうだった。


「二人とも知らないみたいだね。説明しようか」


「お願いしましゅ」


 俺は調教中の女子みたいな呂律をなんとか回避して答えた。


「特別強化訓練っていうのはね、クエストがいまいち上手くいかない子に参加してもらって、どこがいけないのか一緒に考える行事なんだ」


「俺達以外にもクエストが上手くいっていない奴がいるんですね」


「テフィナは人口が人口だからね。毎年、そこそこの人数は出てくるかな」


 テフィナは人口300億だからな。毎年のこととは言え、その中で17歳になった人数はさぞ多いだろう。


 親指をシュコシュコされながらレオニードさんの話を聞きつつ、ホロビューに書かれている日程を見る。忙しい。


 特別強化訓練は、3日間行われ、それが15日間の内に全5回行われるみたい。すでに1回目が今日で終了しており、俺達が参加するなら2回目以降になるようだ。


「武器選びで失敗しちゃう子は多いんだ。だから、その指導もしてくれるよ」


「なるほど」


 レベル教育が終わり、ようやっと義務冒険が始まったのに、訓練。

 ぶっちゃけ面倒くさいという気持ちはある。

 だけど、初心者推奨タグのクエストをクリアできなかった以上は、他のクエストをやっても手こずる可能性は高い。となると参加した方が良さそうだな。


「タメになりそうだし、俺は参加したいです。ロロ、お前はどうだ?」


「え、べ、別に良いですけどぉ? それに、魂の双子なんだし一緒じゃなきゃダメなんでしょ?」


 俺の視線を受けたロロはプイッとそっぽを向きながら、シュコシュコギュッギュッ! シュコシュコギュッギュッ!

 もうそろそろ俺の親指は果てそうだった。


「くっははっ! くくっ、そうだね。魂の双子は一緒じゃなきゃダメだね、一番大事なことだ」


 レオニードさんは何やらツボったように肩を震わす。

 この人はたまにロロの発言にツボる。俺の発言にはあまりこういう感じにはならないんだが。


「ゴホン。よし、それじゃあ参加するって事で良いね」


「「はい」」


「じゃあ、これから冒険者協会に行こうか」


「冒険者協会ですか?」


「うん、普通は申込みをすれば受けられるんだけど、君たちはちょっと特殊な事例だからね。顔見せしておこうかと思って。もしかして何か用事があったかい?」


「いえ、俺は特に」


「私も大丈夫です」


 今日はさっきまでクエストに行っていたので、ロロが疲れてないかな、とちらりと思ったけど、人の親指をシュコシュコする元気があるなら大丈夫だろう。


「じゃあ、早速行こうか」


 というわけで、冒険者協会に行くことになったぞ!

 だけど、ちょっと待とうか……


「レオニードさん。ちょっとだけ、ちょっとだけで良いんで待ってください」


 今炬燵バリアを失うのは不味すぎる。


「むむっ、それは確かに待った方が良さそうだ。あっジュース貰うね」


 レオニードさんの察しは神掛かっていて大変助かる。

 まあ、普通に恥ずかしいので俺は顔を赤らめてもじもじ。だってロロがぁ、シュコシュコってぇ……


 それから3分。

 一向に収まる気配なし。なぜなら未だシュコシュコされているから。


 まず根本から対処しなくてはダメだと気づいた俺は快楽の筒から指を振りほどき、手持無沙汰になったロロからの膝こちょこちょなどを喰らいつつ、さらに10分してようやっと出発できるようになった。


 レオニードさんにポンッと肩を叩かれた。


「若さだね」


「ひぅううう……」


読んでくださりありがとうございます。

面白かったと思った方は、ブクマや評価を頂けると幸いです。

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