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1-22 初クエスト2

よろしくお願いします。

 討伐目標は事前に分かっていたので、標的については昨晩の内にゼットで調べておいた。

 ゲームだったら戦う前に敵情報を閲覧する行為は物議の対象だが、これはゲームじゃない。ちゃんとしたお仕事だし、調べて分かるならしっかり調べるのが丸である。


<<<<<<<<<<<<<<<<<<<


 コノハスライムは、その名前が示す通り木の葉を食べるスライムだ。

 木の葉の中でも地面に落ちた枯れ葉を好んで食べる。


 腐葉土になるはずの落ち葉を食べるだけ食べ、これと言って森に還元したりはしない害獣でもある。

 さらに、枯れ葉が無くなると仕方がないので樹に這い上り、まだ樹に茂っている葉っぱを食べ始めてしまう害獣のガチ勢だ。


 森には還元しないと言ったが、レベル教育の時に相手取ったグリーンスライム同様に、倒した時に残るスライムゼリーは栄養たっぷりで、土地を豊かにする作用がある。

 早い話、死ねという事だな。


 問題の戦闘能力だが、グリーンスライムと違い、そこそこ強い。


 食事の邪魔をされると身体の一部を鞭のような触手に変形させ、それで攻撃してくる。

 その攻撃自体は何ら強くないのだが、触手に触れた場所はマーキング状態になり、その箇所目掛けて魔法を放ってくるらしい。

 魔法は、ストーンボールという石礫だ。威力が微妙なためマシルドも張られず、結構痛いそうだ。尤も、数回喰らうと身体が危機意識を覚えてマシルドを張るようになるみたいだけど。


 弱点はスライムゼリーに包まれた核。これを壊せば死ぬ。

 ちなみに、大体のスライムは共通して核が弱点だ。

 しかし、レベル教育中に使ったスライム絶対殺すロッドは使用できないので、自分の持っている魔導装具や魔法で戦わなくてはならないぞ。


>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 大量に発生したというだけあり、俺達も落ち葉を一生懸命食べているコノハスライムとエンカウントした。1匹だ、丁度いいぞ。


 俺はロロにアイコンタクト送る。


『やるぞ。まずは俺から行く』


『分かったわ』


 ロロは走り出した。

 全く意思の疎通が出来てないぜ!


「喰らうがいい! デッドリー・ヴァイあぁああっ!?」


 初めて聞く必殺名らしきものを叫びながら大鎌を真上から降り降ろそうとしたロロだが、でかすぎる大鎌は頭上を覆う木々の枝に引っかかる。

 ロロティレッタよ、お前の邪な力は森に拒まれたのだ……


「ふぁあああ、取れないよぉ!」


 ロロは目に涙を浮かべて、一生懸命引っ張る。

 大鎌はレの字型だ。枝に引っかかれば割と取れにくい。


 バッサバッサ!

 バッサバッサ!

 こいつぁ、ひでぇ有様だぜ!


「おい、ロロ。大鎌形態を解除しろ」


「天才現る!」


 俺の言葉に、ロロがそんなことを宣いながら大鎌形態を解除した。


 危うく買ったばかりのルファードを大いなる大自然に取り上げられるところだったロロは、ホッと一息。

 そんなロロが唐突にお尻を片手で押さえて悲鳴を上げた。


「ひゃあん!?」


 そして、慌てて背後を見る。


「どうしたんだ?」


「ふぁああ、何かがお尻触った!」


「なんだと俺だってま……っっっ! バリア展開!」


 激昂の言葉の途中で何が起こったのか気づいた俺は、すぐさまイージスを地面に突き立て、叫んだ。

 ブォンッと俺を中心にバリアが張られる。ロロも範囲内だ。

 その刹那、俺の予測通り、バリアに石礫がぶつかる。


 ギョッとした顔のロロだが、コノハスライムの攻撃特性を思い出したのか、獰猛な笑みを浮かべて俺に言い放った。


「ナイスアシスト!」


 クソ上から目線なセリフを口にしたロロは、まるでこれがチームワークだと言わんばかりに再び大鎌を出現させ、コノハスライム目掛けて大振りで振りかぶった。


 そして、バッサァと森の意思に阻まれる。


 本当にさ、俺のクエストレベルだけ絶対に20くらいあるよね、これ。


「にゃーっ!」


 ロロはまたしても攻撃を止められ、鎌の柄を左右に振り回して枝をバッサバッサ!

 大鎌形態解除を忘れたわけではなく、苛立ちから来た行動みたいで、気がすむと大鎌を解除した。


「コノハスライム強いんだけど」


 張られたバリアの中で、ロロがプクッと頬を膨らませて言う。

 どう考えてもお前がアホなだけだ、そう思うが、それは言わぬが花と心の中に留める生咲洸也であった。


 実際にコノハスライムはそこそこ強いみたいだが、倒せない相手ではない。

 一緒のグループの奴らだって、そこかしこで、「こっちにいたよ!」「これで4匹目!」「どんどん倒せ!」とか言ってるし。さくさく屠っている様子だ。


「とりあえず、もう少し落ち着け。なっ?」


「まあ、なんて言い草なんでしょう。まるで私が冷静じゃないから上手く行ってないみたいじゃない」


「そう言ってるが」


「はぁあああ!? じゃあアンタやってみなさいよ」


 おや、ちょっとイラつかれたか?

 難しい女だぜ。


「じゃあ見てろよ。所詮はランク3の仕事なんだから、冷静に対処すればどうってことないんだよ。こういうのは、慌てたり興奮したりするのが一番良くないんだ」


 俺はそう説明しながら、バリアに石礫をガンガン当ててくるコノハスライムに集中した。


 俺のイージスは守備専用なので、魔法で退治するしかない。

 というわけで魔法だ。

 幸いにしてコイツはこれと言って効かない属性はない。もちろん、ちゃんと殺傷能力がある攻撃をしなくちゃならないけどな。


 俺はまだロロほど魔法が上手くないので、本物の土を利用して土の矢を作り出す。

 魔法は、近くにない事象を作り上げるよりも、近くにある事象を利用した方が難易度が低いのだ。


「大いなる大地の怒りよ、その身、矢となりて我が仇敵を討て。アースアロー!」


「ふひゅっ」


 全く必要ない詠唱を口にしてから、俺はアースアローをコノハスライム目掛けて放った。

 そんな俺の姿を見てロロが小さく笑う。油断しやがって。今は戦闘中だぞ。


 アースアローが寸分違わずコノハスライムの核を捉える!


 バサァ!


 Q、やったか!?

 A、やってません。


 アースアローの強度が足りなさ過ぎて、スライムゼリーに触れた瞬間土の粒に戻ってしまった。ハイスピードカメラで見たらさぞ神秘的な壊れっぷりだっただろう。


 ロロが口をむにむにと動かして……いや、堪えきれないのか口元に添えた人差し指を噛んで、肩を震わす。

 く、くそっ。偉そうに倒し方の講釈を垂れただけに恥ずかしい。

 ぬぅ、ここはギャグに持ち込んではぐらかすしかない。


「ば、バカな……っ!? 俺の攻撃が効いてないだと! はっ、まさかユニーク種か!?」


「ひっ、ひっ、ひぅぐひゅひゅ、ゆ、ユニーク……っ」


 よしよし、楽しそうだな。


「ロロ、コイツは強敵だ。本気を出す。そこで見てろ」


「ぐにゅふっ、が、頑張って」


 道化師と化した俺は、密かに練習していた必殺技を繰り出した。


「行くぞ! 重滅光球連弾! はぁあああ、チャチャチャチャチャチャッ!」


「重滅……っ、くはっ!」


 高速で突き出される左右の手から、魔法で造られた光の玉が何発も打ち出される。

 その悉くがコノハスライムにヒットし、ヒットしたそばから消えていく。なんて儚い光なの。


 俺はその光景を見て、一つ頷くとロロへ振り返った。


「コノハスライム強いんだけど」


 しょんぼりしながら先ほどロロが言ったセリフを頂戴して、喜劇を完結させる。

 果たしてロロは。

 しょんぼりして報告する俺を指さして笑ってきた。


「あひゃーはははははははははっ! ぐ、ぐぅ……チャチャチャッ、うふっ……ふっ、ふふふ、あははははははははは!」


 ふぅ、俺はやり遂げたぜ。

 ロロは笑いすぎて、目に涙すら浮かべていた。


「え、偉そうにしてたくせに、くひゅひゅっ、よ、弱い……っ」


「う、うっさい、俺は魔法がまだうまくないんだから仕方がないだろ!」


「ふぇええ、怒ったぁ! ぐひゅっ、くっくっ……あはははははははっ!」


 ぐぬぬぬぬっ。


「いにゃーっ!?」


 そんな馬鹿をやっていると、唐突にロロがお尻を押さえて前方にジャンプした。


 一体何が……あっ、バリアが終わってる。


 ロロは地面に蹲って、まるでカンチョウをされた人みたいな感じでお尻を押さえている。いや、押さえているところはお肉の部分だな。セフセフ!


「うっぐぅううう、ひっひっ……くぅうううううう……っ」


 歯を食いしばって呻くロロ。完全に無防備な突き出されたお尻に向かってコノハスライムが次弾を装填し始めた。もはやそれは的当てのような絵面であった。

 しかし、その的は俺が予約済みだ、させねえよ!

 俺はもう一度バリアを張った。


「大丈夫か?」


 膝をついてロロに尋ねると、ロロは俺のジャケットを掴んで文句を言ってきた。


「ひぅううう、バカぁ、バカぁ、ちゃんとバリア張ってなさいよね!」


「ごめん。ほら、痛いところどこ? 摩ってあげる」


「うん、ありが……うん? だ、ダメに決まってるじゃない!」


 チッ。


 ロロはふぐぅと呻き声を上げながら、俺の補助を借りてのろのろと立ち上がった。

 痛さを確かめるように尻肉をちょっと揉んだりしている光景は中々にエロい。


 ぐずぅと鼻を鳴らし、目をゴシゴシと擦ると、お尻を痛めつけてきた仇敵を睨んだ。


「あのれぇ……乙女のお尻を傷つけるとかマジ畜生! 許さないかんなぁ! ルファード!」


「いや、いい加減魔法を使えよ」


「でやぁあああああ!」


 完全にキレたロロは、俺のツッコミをスルーして、全力で大鎌を振り下ろした。

 三度目の天丼にはならず、恨みの籠った一撃は枝をへし折り振り下ろされる。


 バシャンッ!


 枝の妨害を受けたにも関わらず、奇跡的にコノハスライムの核が両断される。

 水風船が破裂したような音を奏で、コノハスライムは絶命した。


 レベル教育のようなお膳立てバトルではない、本物の戦闘に勝利したロロは顔を上気させてピョンピョンと飛び跳ねた。


「やったわ! 大勝利! ひぎぃっっつぅ」


 が、お尻が痛いらしい。


「やるじゃん!」


 大勝利ではないが、勝利は勝利。俺は素直に褒めた。ついでにお尻も摩ってあげたいのだが。


 しかし、そんな俺達の勝利の余韻に水を差す者が現れた。


「こ、コラーッ!」


 冒険者協会のお姉さんがプンプンしながらこっちに来たのだ。


「必要もないのに木の枝を傷つけちゃダメですよぉ!」


 どうやら、つい今しがた放ったロロの一撃が問題らしい。

 まあ確かに、全く意味がない自然破壊だったな。

 訂正しよう。水を差す者じゃなく、非常に正しい注意勧告であった。これで文句を言うのはDQNの所業である。


 喜んでいたロロは一瞬でガクブルし始め、俺の背後にすすぅっとフェードアウト。

 矢面に立たされた俺は、お姉さんに5分くらい説教を喰らった。解せんのだが。




「ひぅうう、コノハスライム強いんだけど……」


 その後、俺達はコノハスライムを何とか倒しつつ、森を移動して回った。

 ロロは相変わらずルファード一択の攻撃方法で、このセリフが示す通り、攻撃ミスを多発させている。動かずとも攻撃が当たらないコノハスライムからすれば、え!? であろう。


 鎖鎌を使えば確実にヒットさせられそうだが、あんなちっちゃい鎌を持ってコノハスライムに接近するとか、俺でも怖い。無理だ。

 鎖鎌なんだから遠距離からやれと思うかもしれないが、それはどう考えても前述の方法より怖いのでこれも無理だ。一度やろうとしたロロを全力で止めたぞ。


 現在の討伐数は、6/20。

 俺達はコンビでの参加なので二人で20匹狩れば良いのだが、芳しくない。


 すでに開始から4時間くらいが経ち、同じグループの奴らはどんどん討伐数を満たして引き上げていく。


 さらに1時間が経過して、森に笛の音が鳴り響いた。

 終了の合図だ。


 結果、俺達の討伐数は9/20匹。

 討伐達成数には満たずに、初めてのクエストは終了してしまった。


 初めてのクエストに失敗し、しょんぼりするロロを引き連れて、俺はゼットで方向を確認しながらルシェの町を目指す。歩きやすい森なので、一度ルート1に出るよりもその方が早いのだ。


 しょぼくれるロロが転んだりしないように気をつかないながら、俺は今日の反省をすることにした。


「ロロ。ごめんな」


「え?」


「俺の武器選びが悪かったよ。剣とか槍とか、攻撃系にしておけば、もう少しさくさく行けたと思う」


「……たしかに」


「!?」


 え、えーっ!?

 ここは、私もロマン武器を買っちゃってごめん、とか言うところじゃないの!?


 クソ女っぷりをいかんなく発揮したセリフに慄きつつも、ここでそれを咎めれば、俺の謝罪が凄く薄っぺらくなってしまう。俺は呑み込んだ。


「あっ!」


「どうした?」


「考えてみれば、私達って魔力交換してない!」


「そうだな。だから?」


「バカね、魂の双子は魔力交換すればステータスに補正が掛かるのよ。前に言ったじゃない」


「あー。それな」


 ロロティレッタ覚醒モードか。調子に乗って土の柱にお腹ぶつけたね。


「あーあ。なんで忘れてたんだろ。もっと早く気づいてればちゃんと出来たのに」


 ロロは本日の失敗の原因をソレに定めて、しょんぼりするのを止めた。

 俺はため息を吐いて、立ち止まる。


「今日のはステータスに補正が掛かっても失敗したよ」


「そんなことないわ。絶対に成功してたもん」


 数歩先に行ったロロも立ち止まり、首を傾げる。


「ロロ、魔力交換」


「えっ、うん」


 唐突な申し出にロロは首を傾げるも、言う事を聞いて魔力を交換し合う。

 少し焦がし過ぎた甘いフレンチトーストのような味が口内に広がり、フレンチトーストが食いたくなった。

 最近のロロは辛さに慣れたのか、ほんのり顔を赤らめるくらいでつまらない。辛さのあまりにゃぎにゃぎ慌てていた頃の彼女はもういないのだ。


「ロロ、今の状態でコイツに大鎌を当ててみろよ」


 俺は魔力でバスケットボールくらいの光の球を作った。

 ロロは、簡単よ、と余裕の表情を見せ大鎌を振り回した。

 なるほど、確かに筋力が上がっているようで、刃の速度が心なしか速い。

 しかし。


 ミス!


 ミス!


 ミス!


 三回ぶん回し、全部ミス。


「ちょっとアンタ、動かしてるでしょ?」


「動かしてないよ」


「本当?」


「ホント。なあロロ、聞いて」


 俺はロロの顔を真剣な眼差しで見つめた。

 ロロは少し目を泳がせ、なに、と問う。


「前から、言おう言おうと思っていたんだ」


「う、うん」


 俺は真剣味を演出するために、たっぷりと間を置いた。


「お前、かなりの運動音痴だ」


「………………え?」


 ギョーギョーと鳥が飛び立った。

 風が葉を揺らし、さざ波のような音を鳴らす。

 自然の中特有の賑やかな静寂が俺達の間に舞い降りた。


 見つめ合う俺達。

 ロロは、翡翠色の瞳を揺らし、胸の前でギュッと大鎌の柄を握る。

 マジ可愛い。周りに人は居ないし、コイツが恋人だったら絶対にチューしてる。木に押し付けたりしちゃって。

 静寂を終わらせたのは、そんなロロだった。


「ソースは?」


「やっぱり」


「「ブルディアソース! 美味しいよ!」」


 俺とロロは息ぴったりに、テフィナのテレビでよく見かけるソースのCMのセリフを振り付け込みで口にした。


「真剣な話してんのにふざけないでよ!」


 手にしたエアソースを地面に叩きつけ、ロロがローキックを放ってきた。


「お、お前もがっつりノッたじゃねえか!」


「そんなの知らないわ。いいから、ソースを見せてみなさいよ」


「ソースソース言うけどお前。この案件で出典を求められるとはさすがの俺も思わねえぞ」


「はんっ、ほら見なさい。私が運動音痴だって証拠なんてないじゃない。適当なこと言わないでよね!」


 マジ心外、みたいな感じでロロはふぁさっと前髪を払う。


「あくまで認めないと。あーあー、そうかよ。じゃあ証拠を見せてやるよ」


 俺はゼットの動画サイトで、『運動音痴の女の子全力ダッシュ』と検索。

 おう、たくさんあるね。世の中にはアホなネタをアップする奴がいるもんだ。

 その中から適当に選び、ロロに見せた。


「ふひゅ、なによこの子。運動神経息してないじゃない。あーあ、転んじゃった、くやしいのうくやしいのう、んふふふふふっ」


 ロロはそんな事を宣いながら、ニヤニヤする。

 テフィナの女の子はみんな美人なだけあり、俺も目的を一時忘れて動画の女の子に萌えた。


「ゴホン、今のを目に焼き付けたところで……次はこれだ」


 俺は動画フォルダから、この前のレベル教育の自由時間に取った一本の動画を再生した。

 その動画では、スーパー足が速そうな女が走る姿が撮影されていた。俺の秘蔵の一品だ。


 一生懸命振られる腕、上がらない腿、進まない体。

 一直線に進んでいるようでよく見れば足がつく場所はブレブレで。

 どこを見れば良いのか分からないのか、顔は、んーっと上を向いたり、ぬぅーっと下を向いたり。

 挙句の果てに、芝生の上でボテッと転ぶ。パーフェクトッ!


「ニャーッ!? ど、動画は被写体に許可を得てから撮ってください!」


 被写体が顔を真っ赤にして言ってきた。

 その後、ポカポカ殴られ動画の削除を要求されたので俺は素直に消した。まあシークレットフォルダにコピー済みなんだがな。


「ふぬぬぅ、そんな動画見せて、何が言いたいのよ!」


「完全に一致」


 ローキックが飛んできた。

 なお、コイツのローキックはやはり運動音痴なローキックで、そこまで痛くない。たまにトゥキックが混じっているので、それだけは気を付けたい。


「というわけで。お前が魔力交換でブーストしても、運動音痴は治らないんだよ」


「認めないかんな! わ、私が運動音痴とか、絶対に認めないかんな!」


「いやいやいや、認めろよ。どこから来てんだよ、その自信」


「だって私、近所のおばちゃんから、ロッテちゃんはかけっこが上手ねぇ、って言われて育ったもの!」


「よく思い出せ。おばちゃんたちは生暖かい目をしてなかったか? もしくは笑いをかみ殺してなかったか?」


 俺の質問に、ロロは上を向いて思い出し中。


「……も、もうこの話は終わり! 帰るっ!」


 へそを曲げたロロは、そう言って強引に裁判を終え、街へ向けて歩き出した。


 これでルファードの呪いが解ければ良いのだが……

 そんなロロの後姿を見ながら、俺はそう思うのだった。



読んでくださりありがとうございます。

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