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1-19 テモチャ

よろしくお願いします。

 レベル教育が終わり、いよいよ義務冒険が始まる。

 それにあたって、クーファ家から帰った俺達は炬燵に入ってお話をしていた。


「じゃあ、とにもかくにもこのテモチャ? っていうサイトに登録するんだな?」


 俺はレオニードさんに以前貰った義務冒険についての小冊子を開いて、ロロに尋ねる。


「そっ、話はそれからよ」


 俺達が何を話しているかと言えば、義務冒険者のクエストの受け方についてだ。

 この文明の冒険者は、ラノベとかで出てくるような冒険者ギルドの掲示板などでクエストを受けるわけではない。

 異世界スマホ・ゼットで専用のサイトに行き、サイト内で検索してクエストを見つけ、受けるのである。


 で、そのサイトの名前が『テモチャ』というらしい。

 名前の由来はロロもよく分からないらしい。


 というわけで、早速やってみようかな。テモチャサイトへGO!


 サイトのページに飛び、新規登録をする。

 テフィナのこういう登録は、身分証をゼットにかざすだけで簡単に行うことが出来る。


 ネット犯罪の多い世界出身の俺からすると、お財布機能搭載の身分証から連動してネット会員になる行為はかなり恐怖を伴うのだが、それが当たり前の機能としてあるのだからセキュリティ面は信頼してしまおうと思っている。


 次にユーザー設定が始まった。

 サイトのマスコットキャラなのか、可愛らしいデフォルメキャラが設定の説明をしてくれる。テモちゃんというらしい。音声ありだ。

 そのナビに従って、ユーザー設定も終える。


『説明を聞きますか?』


 はい、を選択。


 そこから説明を聞き、実際に軽く触ってみて自分なりに使い方を消化する。

 あとは使いながら慣れて行けば良いだろう。


 じゃあ、少しテモチャを案内してみよう。


 まずホーム画面には、俺の義務冒険者としての情報が書かれていた。

 義務冒険者ランク、レベル、装備、所属パーティー、拠点地etc――ゲームのキャラになった気分である。

 実際、自分のアバターも作れる。色々なサイトと連動出来るアバターみたいだな。余裕が出来たらやってみようかな。


 テモチャで全ユーザーが共通して使うのは1つだけだ。

 それは、クエスト検索及び受諾を行うメニュー『クエスト』である。

 検索ソートも充実しており、自分に合ったクエストを探すことが出来る。


 必須なのはそれだけだが、他にも様々なメニューがあるぞ。

『図鑑』『フレンド』『冒険技術指南動画』『動画・ブログ投稿』……


 その中で必須級に重要なのが、『ミッション』というメニュー。

 義務冒険者は1~100のランクで管理されており、このランクによって受けられるクエストの上限が変わる。1がザコで100が凄い。

 で、そのランクってやつはミッションをクリアしていくと上がっていく仕組みだ。

 ミッションのあらかじめ公表されており、好きなタイミングで消化していく事になる。

 以下が一例。


『クエストを〇〇回達成』

『討伐クエストを○○回達成』

『居住世界以外でクエストを○○回達成』

『移動距離合計○○○キロ達成』

『レベルを○○にせよ!』

『フィールドでキャンプせよ!』

『機人を護衛せよ!』


 等々、たくさんあるみたいだ。遊びか。


 特に、『機人を護衛せよ』なんて完全にヤラセである。

 異世界生活初日に監視されていたので、少し前に機人についてはちょっと調べてみた。

 それによると、機人というのは陰に日向にテフィナ人をサポートしているのだが、万が一異世界人が侵略してきた時のための最大戦力にもなっているんだとか。

 つまりは、スーパー強いのだ。そんな連中を護衛って。


 とはいえランクが低いと受けられないクエストもたくさんあるので、頑張ってミッションをクリアしていく事を推奨されている。


 さて、サイト案内はこれくらいにして。


 じゃあ、実際に、義務冒険の仕事ってのはどんなものがあるのか。

 これについては、ロロ達テフィナっ子は学生の時分に教わるそうで、俺はレオニードさんがしてくれた授業で教わった。


 これを説明するためには、まずテフィナの自然について少し知る必要がある。


 テフィナは非常に発展している文明ではあるものの、各世界の自然はとんでもなく豊かである。それは地球の比ではない。

 これが何故かと言えば、魔法世界は魔獣が居るからこそ成り立っているからである。


 というのも、魔法の元となる魔力、そのさらに元となる魔素が、魔獣から生成されているである。魔獣に対抗するために魔法に着目して進化したテフィナ人には実に皮肉な話だ。

 つまり、次元を越えて居住世界を増やすに至ったテフィナ人は、新たな居住世界で魔物の生存圏を多く残しつつ町を作っているわけだ。


 居住世界に認定される前にはロロの家族のお仕事でもある『未開世界調査団』が、その世界に致命的な危険が存在しない事などを念入りに調査している。

 故に、居住世界は探索が完了した世界ということになるのだが、そこにある資源はサンプル以外にほぼ採取はされない。


 テフィナにおいて、そう言った資源地は何人にも土地の所有権が認められず、冒険の地として開放されている。

 テフィナはやろうと思えば資源地を一瞬で堀り尽くせる技術を保有しているが、それをやると文明が加速しすぎて制御が利かなくなる可能性が高いと昔から結論付けられているんだって。実際に、一度ニートを大量生産してしまうくらい便利な従者を作ってしまった事もあるし。

 もちろん、重要な薬になる資源などはその限りではなく全力で保護されているようだが。


 以上のことを踏まえて、義務冒険者の仕事内容についてだ。


 今ちょろっと出たが、そう、資源の採集である。

 資源を採取しに行くのが、上級冒険者あるいは義務冒険者の大きな仕事の一つとなっている。

 上級冒険者と義務冒険者は別物で、上級冒険者は義務冒険後に専門学校等を卒業した人達がなるお仕事である。

 この二つの違いは、踏み込める魔境の深度にある。当然、義務冒険者は浅い所で活動し、上級は深い所を探索する。また上級冒険者は義務冒険者の活動域を荒らしたりはしない。


 メインの仕事は他にも、魔獣の間引きがある。

 増えすぎた魔獣の群れや周辺地帯を焦土にしてしまうような個体を倒すのが目的である。

 これも上級冒険者と義務冒険者で相手取る魔獣の強さが変わってくる。

 基本的に魔獣はそれ以外で極力討伐してはいけない決まりになっており、仕方なく討伐した場合はちゃんと報告しなくてはならない。

 また、倒した魔獣は美味しく頂かれる。


 メインからは外れるが、昨日まで参加していたレベル教育の監督も義務冒険者のお仕事だ。

 遺伝子由来の引きこもり病とは別に、性格的にアクティブじゃない子には大人気の仕事らしい。

 大人のレベルアップジムなんてのもあるみたいだが、こっちはプロの冒険者の仕事になるみたいだな。


 他にもいろいろとあるみたいだが、基本は採取と間引きがメインになる感じだな。




「ロロ、終わったよ」


「んぇ」


 登録やらを終えた俺が声を掛けると、ロロはニヤニヤしながら適当な返事をした。

 コイツは……っ。


 何をそんなに夢中になってんだと首を伸ばして見てみると。

 ボディペイントみたいな服……みたいな何かを着た15歳くらいの少年キャラの乳首をペペペペッ! と連打したり、スゥーッと首筋を撫でたりしている。

 そのたびに、もじもじした少年の回りからハートが飛び出る。


「……」


 ロロちゃんはちょっとスケベなところがあるのかな?

 世界の命運を担っている巫女さんとかやっていてもおかしくない神秘系美少女なのに、少年の乳首責めに夢中とかどうなんだ。下手すると涎垂らしそうな顔してるぞ。


 っていうか、目の前に男がいるのにどうしてそんなプレイが出来るのだろうか?

 俺が12歳くらいの妹キャラのおっぱいを連打したり、股をこしょこしょ触っていたらどうだろう。普通にゴミクズを見る目を向けてくるんじゃないだろうか。


 そんなロロの様子をジーッと見ていると、ロロが俺をチラッと見てきた。

 そして、画面に視線を戻し、はたとした様子で綺麗に俺を2度見して、慌ててゼットを隠す。


「なな、何よ!?」


「いや、別に。テモチャの登録終わったよ」


「じゃ、じゃあ声かけてよ!」


「かけたよ。だけど楽しそうにゲームしてるし、ちょっとくらい待とうかなって思ってさ」


「べべべ、別に楽しくないわよ? 待ってる間暇だし、ちょっと育成しようかなって感じの流しプレイしてただけよ?」


「ふーん」


 そう言いつつ、ロロはふと何を考えたのかゼットを出して、シュッとスワイプして機能管理のショートカットページを出した。

 そして。


「っっっ!?」


 途端に顔を真っ赤にして涙目になる。

 その様子に、ちょっと思い当たる節があった。

 覗き見防止フィルターが解除されているのを知らずに、スマホでロリアニメキャラのパンツを見ていた友達の姿に酷似していたのだ。あれは酷かった。友人の隣の席の大和撫子系女子に、絶対零度な目で見られていたからな。友人はMとかではなかったので、今のロロみたいに真っ赤な顔で泣きそうになっていた。


 なお、ゼットの覗き見防止フィルターは凄い。

 持ち主以外の人の目にはあらゆる角度でフィルターが掛かるのだ。

 ただし、ちゃんと設定されていれば。


 ロロは真っ赤な顔のまま、俺に言った。


「え、えっとね? 私がやってるゲームは、ペッペッて色々なところをタップするとキャラが強くなるの。だからプレイヤーはみんな一生懸命タップするのよ?」


「あ、ああ」


 おお、凄く恥ずかしそうだ。

 見てるこっちが可哀想になってくる。


「そ、それでね、えとえと。そう、デイリーミッションなの。今日はここをタップしまくれ、って出てくるの。だから私も仕方なく付き合ってあげてるの。ね、ねーっ?」


 すげぇはぐらかし方だぜ。なにが、ねーっだ。

 とりあえず、これ以上は可哀想なので優しくしてあげよう。


 俺は立ち上がってロロの隣に座ると、ロロの手を取りモミモミし始めた。


「タップして疲れただろ」


「え、う、うん!」


「俺の世界でもソシャゲのタップ要求は苛烈だったよ。じっちゃんはよくそれで指を痛めてな。こうして手をモミモミしたもんだ。こういう媒体があるとゲームは似るのかな?」


「そうかも。マジ重労働よね!」


 重労働であれだけニヤニヤ出来るとは、幸せなやつだ。


 なお、これ以降、ロロはしっかり覗き見フィルターを設定してゲームをするようになった。

 まあ、ニヤニヤしている時は乳首をタップしているのだろう。




 そんなハプニングを挟み、やっと本題。

 俺達は、テモチャでパーティを組んだ。

 こうすると、受けるクエストの絞り込みが便利になるのだ。


 俺のホーム画面にあるパーティの欄にはロロの名前が載り、ロロの方には同じく俺の名前が載っている。

 パーティ名も登録できるみたいだが、それはじっくり考えようという事になった。


「じゃあ早速検索してみようか。俺達はまだランク1だから、6までしか受けられないんだよね?」


「そうね。ランク+5まで」


 今言ったように、クエストには難易度が設定されており、自分のランクから+5まで受けることが出来る。

 ちなみに、パーティを組んでいる場合はパーティ内で一番低いランクを参照する。なぜなら、低い奴が高いランクに合わせると、足を引っ張ることになるからだ。ただし、実力的に申し分ない場合は試験を受ければ制限が緩くなる。まあ、今のところ俺もロロもランク1なので関係ないけど。


「じゃあ、まずはあまり難しくなさそうなのが良いよな」


「え? 何言ってんのよ。最初から全力よ」


「……ふーむ、まずはあまり難しくなさそうなのが良いよな」


「っっ!? ……え? 何言ってんのよ。最初から全力よ」


 自分の事を何も知らないロロが俺の真っ当な意見を否定してきたので、俺は聞かないふりをして同じセリフを口にした。

 するとロロは驚くも、なるほどそういう遊びなのね、みたいな顔で同じセリフを言ってきた。全然、遊びじゃないんだが。心からそう思っているぞ。


「ふぅ。じゃあ、しょうがないな。……冒険性の違いでチーム解散っ!」


 俺が言うと、ロロは大きな口をムニムニと動かして笑いを堪える。


「ふひゅひゅ、始める前から……っ」


「まあ、冗談はさておき。とはいえ、俺もどんな仕事があるかよく分かってないから見ない事には始まらないか。検索してから考えようか?」


「うん」


 女の子が自分の提案に、うん、と同意する。

 もうすでに何回も同じような事が起こっているのに、未だに少し嬉しいのは俺が凄くチョロイからだろうな。


 俺達はゼットをテーブルの上に置き、テモチャのホーム画面から『クエスト』をタップ。すると検索ソートが出てきたので、希望を入力していく。


 ちなみに、義務冒険はどこの世界で仕事をしても良い。

 そもそも義務冒険の趣旨が故郷を離れて冒険することなので、他の世界へ積極的に行くのはむしろ推奨されている。


 で、俺が入力した希望はこんな感じ。


・採取依頼

・パーティ向け 2名

・報酬額 2万テス以上

・クエストレベル2まで

・最寄りの町サーク・ルシェ

・日帰り


 こんな感じ。

 他にもいろいろと絞り込めるが、『採取目標』とかよく分からん。

 草萌えの人じゃないし、日本でだって分からなかっただろう。


 以上の検索で出てきた件数は……0件!

 なんだと?


 テフィナ人は300億人もいるので、当然、義務冒険者である17、18歳の人数はとても多い。採取依頼がないとか絶対にありえない。

 絞り込みの金額が悪かったのか?

 じゃあ、これを『2千テス以上』にしてみようか。


 ひゃふー、5千件オーバー! 加減が分からん!


 軽く流し読んでみようか。


 ……なるほどなるほど。

 どうやら、採取系は数種類をセットで受けるのが普通のようだ。

 だから、単発で2万テスも稼げる仕事がクエストレベル2には全くないのである。


 さらに、同条件でクエストレベルだけ上げてみると、さらに件数は増えていく。

 クエストレベル50にもなると単発で2万テス以上稼げる採取依頼も出てくるようだ。

 うーむ、難しいな、これ。


「あ、見て見て、これなんて良さそう!」


 ロロが炬燵に身を乗り出して言う。

 煌めくような美少女の接近に思わず距離を離しそうになるも、俺はぐっと堪えて、どれどれとむしろ接近した。踏み出す勇気、活路は間合いの中にこそある。武道の極意だ。武道ではないが。


 すぐさまふわりと甘い香りが鼻腔を擽り、俺の脳を瞬時にピンク色に染め上げる。

 間合いの中に活路はなかったよ。


 って、いかんいかん、しっかりしろ。

 俺は頭を振って心地良い毒を振り払い、意識を戻す。


「え、えっと、なになに」


 しかし、画面は黒いまま。さっき覗き見防止フィルターをつけてそのままらしい。


「画面暗くて分からないよ」


「あっ」


 俺が言うと、ロロは手慣れた様子で解除。その間、5秒と掛かっていない。

 改めて、ロロが拾ってきたクエスト。


『コノハスライムの討伐。クエストレベル3。団体クエスト。

 ルシェ近隣の森の各所にコノハスライムが大量に発生。200名の義務冒険者を募集します。


 達成条件 コノハスライム10匹討伐。

 達成報酬 8千テス。

 依頼主 ルシェ冒険者協会』


 なるほどなるほど。

 草の採取とは違って冒険者っぽい仕事だ。


 このクエストは大人数が投入される依頼で、現在の受注者は54人。最大数は200人。

 クエストレベルはロロの言うところの『全力』ではなく、3だ。慎重派の俺に合わせてくれたのかな? 


 しかも、このクエストには『初心者推奨!』というタグがついている。こういうのだよ、こういうの!

 俺は良いクエストを見つけてきたロロの頭をよしよししたくなった。すぐ近くにあるし。

 さらに詳細を追ってみると、これが本当に良いクエストだと分かる。


「いいの見つけてきたね」


「でしょ!?」


「よし、じゃあこれにしようか!」


「うん! ほらほら、早く受注しましょう!」


 こうして、俺達は記念すべき最初のクエストを決めたのだった。



読んでくださり、ありがとうございます。

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