1-18 クーファ家との交流
よろしくお願いします。
「コウヤ君、ロロちゃん、お疲れ様!」
レベル教育の最終日。
15歳の少年少女に混ざっての最後のレベル教育が終わり、広場で解散となった俺達の下にレオニードさんがやってきた。相変わらず光と風を従えたような爽やかな笑顔である。
一緒についてきたクリスちゃんは、ロロを見るなりダッと駆け寄り、ロロの股にピットインした。クリスちゃんと会うと毎回そこに顔を突っ込んでいるけど、良い匂いなのかな? こっそり教えてくれないかな。
「おねちゃん」
「クリスちゃん、こんにちは」
「うん。こにちわ」
「うにゃうにゃうにゃー」
「っっっ」
ウェムの腕輪の効果で今日もかなり疲れているロロだが、そんな顔一つ見せずにクリスちゃんを撫で繰り回す。お姉ちゃんしてるなぁ。
「こんにちは、レオニードさん」
「うん、こんにちは。今日で最終日だったんだけど、首尾は上々かい?」
「レベルは7まで上がりました。どうですかね?」
「7なら良さそうだね。15歳でレベル教育は一先ず終わるんだけど、それから義務冒険が始まるまでに7くらいまで下がっちゃう子も割といるんだ。だからまあ、それだけあれば平気だよ」
ロロは6まで下がってたし、義務冒険はそこまで大変じゃないのかな?
いや、やる前から舐めてかかるのは危険か。しっかりやろう。
「今日はこの後予定あるかい?」
「いえ、ありません。いつもは少し街をぶらついてそのまま外食で済ましているんですけど」
「じゃあ、今日は僕の家でご飯にしないかい?」
「え、良いんですか?」
「ああ、いいとも。それにほら」
俺達の会話が聞こえていたようで、ロロに抱き着くクリスちゃんが眠たげな眼を驚愕と歓喜の色に染めてこちらを見ていた。
完全に賽は投げられているな。ここで取り消しは鬼の所業だ。
「それじゃあ、ご迷惑でなければご馳走になります」
「君は真面目だなぁっはっはっは!」
イケメンの好感度がまた上がったぞ。レオニードエンドも夢じゃないな。
そんなわけでクーファ家へ。
帰宅したレオニードさんは手慣れた様子で、庭先にあるランプシェードに魔法で明かりを灯す。
家人が通りを歩く人のために夜道を明るくしてあげる、送り蛍だ。
水色の光が暗くなり始めた通りをほんの10メートルほどふわりと明るく照らした。
玄関を開けると、香ばしくも甘い香りが。どうやら今日はお肉を食わしてくれるらしい。
女神系の奥さん、名前をステラさんというのだが、レオニードさんが帰宅するとパタパタとスリッパの音を響かせてお出迎え。
「コウヤ君、ロロちゃん、いらっしゃい。レベル教育お疲れさまでした」
ステラさんが言う。
他人の嫁だが癒し力が半端じゃない。体内に蓄積された疲れが背中からドシャーッと放出されたかのような錯覚を覚える。
「今日はお招き頂いて、ありがとうございます」
「へ? あ、あわ、え、えと、あ、ありがとうございます!」
俺が謝辞を口にすると、それを聞いたロロがギョッとしたように俺を見てから、慌てて頭を下げた。
ロロめ、さてはお主、大人慣れしてないな?
ロロはしっかり言えなかったのが恥ずかしかったのか、ステラさんに見えない位置で俺の腰を抓って八つ当たりしてきた。
そんな俺達ににこやかな微笑みを見せるステラさん。
「ふふっ、ご丁寧にありがとう。今日はたくさん食べて行ってくださいね。ささっ上がって。まだちょっと時間が掛かりそうだから、居間でお話しててください」
ステラさんに招かれ、俺達は靴を脱いで家に上がる。
その後で、レオニードさんとクリスちゃんの対応を始めるステラさん。
ただいまステラ、おかえりなさいアナタ、と熱にあてられそうな声色で挨拶が交わされる。続いて、ママたぁいま、おかえりなさいクリス、と。
ステラさんの愛妻力が半端じゃない件。
いつも玄関までお出迎えに来るのだろうか?
それだったら最高だなぁおいレオニードさん。これは俺達が居なかったらおかえりのチューまであるかもしれない。
クーファ家の居間は、高足テーブルのお食事スペースと、ソファがあるくつろぎスペースが別れているタイプ。
テフィナは元々、我が家にあるような低いテーブルを使用する文明だったらしいけど、それも今は昔。
超文明にまでなったテフィナでは様々な発想が生まれ、この高足テーブルもそんな中のひとつなのだとか。
それはともかく。
「それじゃあ、レベル教育も終わった事だし、ウェムの腕輪を外そうか」
「おお、ついにですね」
レベル教育初日につけられたウェムの腕輪。
コイツのおかげで、準備体操すらも筋トレレベルの疲労になっていた。
「つけててどうだった?」
「いやぁ凄く疲れました。おかげで夜は二人して泥のように寝る毎日でしたね。だけど効果は実感できるレベルでありました」
最近、お腹に6つのモリモリが出てきたんです。
脱衣所の鏡で見た時は、ふわってなったね。
今の俺は脱毛処理をしてツルツルなわけだけど、これがまあ筋肉とよくマッチするのだ。我ながら最高にエッチなボディであった。そこらのお姉さんに見せたら涎が出るかもわからんぜ?
わずかな期間でこれだけの効果をあげたのだから、正直、これと言って予定がないならもうしばらく装着していても良いんだけど、修行仕様で義務冒険をやるわけにもいかない。義務冒険に慣れればまた話は別だけど、今はその時じゃない。
「ははっ、それなら良かったよ。君は向上心が強そうだから、強くなりたいなら筋トレとか魔トレとかを生活に組み込むと良いかもしれないね」
「なるほど。やってみます」
肉体改造に対して俺はかなり前向きに検討した。
お腹に力を入れずとも腹筋が出る身体になり、結構嬉しかったのだ。
というわけで、ウェムの腕輪を外す。
どういう仕組みかわからないけど、レベル教育中はどうやっても取れなかった腕輪が普通にポロリと外れた。
途端、ふわりと身体が軽くなる。
すげぇ、悟○になった気分だぜ。
負荷の束縛から解き放たれた身体を全力で動かしたい衝動に駆られるが、ここは人ン家だ。はしゃげない。
「にゃん」
ふいにクリスちゃんがそんな声を上げた。
見れば、ロロが高い高いをしているのだ。
ロロもまたウェムの腕輪が外れて、筋力が上がったのだろう。俺とは違い、幼女を持ち上げてそれを確かめている。
「にゃん、うー、にゃん、うー、にゃん」
クリスちゃんは上に行くとにゃんと鳴き、下げるとうーと溜める。
萌えであった。
それを見て、俺は日頃から疑問に思っていた事をレオニードさんに尋ねた。
「テフィナの女の子は猫みたいな声を出しますよね? ロロもよく『にゃ』とか口にするんですけど、みんなそうなんですか?」
「あー、それは猫っ気って奴だね」
「ねこっけ?」
「そう。テフィナ人の遠い先祖は猫なんだよ。テフンアナホリ猫って猫が進化して人になったわけ」
「え? サルではなく?」
「君のところはサルから進化したのかい? へぇ面白いね」
いや、それはこっちのセリフなんだが。
まあ、進化元がサルだろうとネコだろうと、超絶可愛いおにゃのこ達へ最終進化したのだから万事オーケーだろう。
レオニードさんがゼットを俺に見せてきた。
そこには人類の進化図があった。地球でもある、猿から原始人、果てに現代人が一列に並んで描かれているアレだ。
テフィナだとそれの最初がサルの代わりにネコになっており、進化の途上も猫っぽい感じ。特徴的なのが、道具を持ち始める時代の人類が道具の代わりに手に炎を宿している点だ。なかなか面白い。
「テフィナ人は、テフンという穴倉でこんな風に進化したわけだね」
魔獣が強すぎたために、テフィナ人は世界のごく狭い地域で発生・進化したのは前に説明したと思う。
彼らは人類の増加に対して、平面的に生存圏を広げるのではなく、立体的に広げて問題を解消した。つまり魔法の力で地下に巨大な世界を作ったのだ。それがテフンだ。
「テフィナ人はその頃の名残で、少しだけネコっぽい仕草をすることがあるんだ。これは特に女性に顕著に現れる。大人になると精々口から猫みたいな声が出るくらいだけど、ちっちゃい頃は色々と可愛い行動をするね。あっほら」
と、言ってるそばから、高い高いされている眠たげ幼女のクリスちゃんがにゃんにゃんハンドで空中を掻く。
それはまさに子猫がやる仕草にそっくりだった。無意識の内にやっているっぽい。
「かわいっ!」
俺が感動している隣で、レオニードさんがゼットでめっちゃ撮影していた。
あー、イケメンだけど親なんだな、と俺は変な感想を抱いた。
そんな雑談をしているとご飯の支度が出来た。
レオニードさんが配膳を手伝いに行く姿に、俺の中で彼への好感度が上がる。
「ふっふっふっ、お主、ついに私たちの秘密を知ってしまったな?」
高い高いを終えたロロはソファに座り、お膝に乗せたクリスちゃんの手をにゃんにゃんと操りながら、俺に言ってきた。
先祖が猫の件だろう。
「ふふっ、なんだよそれ。だけど、猫っ気か。こんな可愛くて猫みたいな仕草するとか、テフィナ人の女の子は反則だな」
俺の視線を受けて、恥ずかしいのかクリスちゃんはロロの胸に顔を埋めた。ロロはスレンダーなくせしておっぱいは男を満足させる程度には大きいので、クリスちゃんのお顔がもにゅっとジャストフィット。くっそうらやま。
「私も昔は狭い所が大好きだったわね。ベッドと壁の隙間、机の下、布団カバーの中……意味もなくいろいろ収まったもんだわ」
クリスちゃんの頭をナデナデしながら、ロロは昔を懐かしむようにして言った。
「いや、お前、今も狭い所に入ってるじゃん」
俺が言うと、ロロは、え、そんなことしたかしらみたいな怪訝な顔をする。
「気づいてないの? お前、寝てる時にベッドとベッドの間の隙間に身体半分くらい突っ込んでる時あるよ?」
「うそでしょ!?」
「ああ、うそだ」
「フシャニャギャー!」
光球が飛んできた。
ステラさんの手料理は、魔獣肉を使ったローストビーフをメインにしたご馳走だった。
未だ舌が魔味を美味いと感じる俺は、お腹いっぱいご馳走になる。
「今日はありがとうございました」
夕食から一息吐き、俺達はお暇させてもらうことにした。
あまり長くいても悪いしな。
なにより、興奮したのか、眠たげ幼女はガチで眠たそうにしているし。
「またね、クリスちゃん」
「うん、おねちゃん。またあしょんでね?」
幼女の舌っ足らずな口から出た慕う言葉に、ロロはにへらと笑ってバイバイと手を振るう。
「また来てね」
「はい、ぜひ」
「お気をつけて」
そんな暖かいやりとりを終えて、俺達はクーファ家を後にした。
色とりどりの送り蛍が照らす夜道を我が家へ向けて歩き出す。
話題は、ステラさんの料理とクリスちゃんのこと。ロロは小さな友人にメロメロなご様子だ。
こうして、俺達のレベル教育は終わりを迎え、いよいよ義務冒険の本番が始まろうとしていた。
読んでくださりありがとうございます。




