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4-4 魂の双子

本日4話目です。

 食器を洗い、リビングに戻ると。


「え?」


 そこには目を疑う光景があった。


 淹れたての紅茶と、二つのケーキ。

 そして、テーブルの上に置かれた一枚の手紙。


 手紙を手に取り、目を通す。


『コウヤ、よく頑張ったニャ。

 ロロティレッタちゃん、幸せにおなりニャ。

 二人が育んだ1年間の絆を祝って、デザートを送るニャ。

 猫の気まぐれと思って食べるニャ。

 二人の未来に幸あれニャ!』


「ロロにゃん。これ、ルーラさんからだ!」


「ホントだわ!」


 俺とロロにゃんをこの場所に落とした導きの群島の案内猫ルーラ。


 一体どうしてそんな事が出来るのか分からないけど、あの猫は俺達のことを見ているのだろう。

 つーことはアレコレ見られているのかな?

 ま、まあ神っぽい猫だし、そこら辺を咎めても仕方ないか。見るなら見るがいいさ!


「にゃー! あの時のケーキだぁ!」


 ロロにゃんがいそいそとテーブルに着いた。


「食べよう、ねえ食べよう?」


 凄いぜ、ロロにゃん!

 得体のしれないケーキなのに簡単に食べようとするその純粋さ!

 まあ、テフィナじゃ毒物混入事件とか一切聞かないからな。そういう心配自体が思考の埒外なのかもしれないな。


「それじゃあ食べようか。その前に、ロロにゃん、お礼を言おう」


「はっ、そうね! ルーラ様見てますか!? お陰様でコウヤにゃんとラブラブです! ケーキありがとうございます!」


「ルーラさん、たぶん嵐の中に落としたのは偶然じゃなく導いてくれたんですよね? ありがとうございます。おかげで、ロロにゃんと結ばれる大きなきっかけとなりました」


 ニャハハハハッ!


 と、そんな声が聞こえた気がした。

 俺とロロにゃんは二人で笑い合い、ケーキを食べ始める。


 導きの群島では、ロロにゃんにあげて俺は食べていないケーキ。

 どういう由来のケーキかは知らないけど、これが大層に美味い。


 ほっぺにクリームをつけているロロにゃんは、美味しいね、と笑う。

 俺はそのほっぺにキスをして、クリームをぺろりと舐めた。

 んふふふぅ、とさらに上機嫌になるロロにゃん。

 前回は好感度上げのためにロロにゃんにあげちゃったけど、今回は二人で仲良く食べた。


 そう言えば、紅茶も一緒に贈られてきていた。


 見れば、紅茶の中には葉っぱのような鰹節がふよふよと浮かんでいる。

 鰹節紅茶か……ふふっ。


 俺はくいっと紅茶を煽る。

 ふわりと鼻に抜ける磯の香。


 うん、不味い!




 思わぬサプライズを貰い、幸せな気分がさらに増す。


 すっかり食べ終わると食器はふわりと消えていき、これが夢ではなかったことを証明するのは舌に残った甘い味だけだった。


「ルーラさんも嬉しいサプライズをするな」


「ねっ。あーそう言えば、ルゥ様とリーゼルナの時にもお手紙が来たって、フェーディの35巻に書いてあった」


 フェーディは長編過ぎるんだよなぁ。

 ロロにゃんが好きだから俺も読みたいとは思うのだが、長すぎて二の足を踏んでいる次第。


「へぇ、各世界に送った人の人生を見て、楽しんでいるのかな?」


「うん、そうなんじゃないかしら」


 そう言えば、レオニードさんも以前、俺達が来ることが事前にルーラさんから手紙として送られてきたと言っていた覚えがあるな。

 人を送れるくらいだから、手紙くらい送れるのだろうな。


「眠くなってない?」


「んふふっ、そんなところまで再現しません!」


「そっか、そりゃ良かった」


「にゃ、にゃにが良かったのよ。この後私をどうするつもり!?」


「滅茶苦茶にする」


「みゃー、滅茶苦茶にされりゅ!」


 ロロにゃんはいそいそと立ち上がって、俺の腕をぐいぐい引っ張る。

 お風呂で6回もしたのに、実に貪欲。だが、嫌いじゃない。っていうか大好き。


 俺は苦笑いを浮かべながら立ち上がり、ロロにゃんに寝室へ引っ張られていく。

 けれど、俺はその手を軽く振りほどいた。


 キョトンとしたロロにゃんが振り返った。

 リビングの中央で片膝をついた俺を、ロロにゃんは首を傾げて見つめた。


「ロロにゃん、いやロロティレッタ」


「にゃ、にゃに?」


 戸惑うように聞き返すロロ。


 朱色の混じった翡翠色の長髪に、キリリとした顔立ち。

 筋の通った鼻と、感情を現わしてよく動く大きな口。


 ああ、毎日見ているのにまた見惚れる。

 これが俺の運命の女の子。俺のたった一人のヒロイン。


 翡翠色に煌めく瞳を見つめ、俺は言葉を紡ぐ。


「1年前のあの日、君と出会い、世界がこれほど美しいものなんだって知ったよ。その世界の中心で最も色鮮やかに咲き誇る俺だけの女の子。ロロティレッタ。君に俺の人生の全てを捧げたい。結婚しよう」


 俺は婚約指輪を取り出して、ロロの前で箱を開いて見せる。

 お小遣いを貯め、この前こっそりと買った指輪だ。

 実際にはすぐに結婚式などは挙げられないのが心苦しいけれど。せめてペアの指輪だけでもプレゼントしたいと思ったのだ。


「は、う、にゃ、にゃー……」


 猫鳴きしたロロはポロポロと涙を流して、その光景を見つめた。


 ああ、可愛いなぁ。

 すぐにでもキスしたいけれど、それではあんまりだ。


 俺は左手を取り、小指に指輪をはめた。

 テフィナでも結婚指輪の習慣はあり、少し違うのは左手の小指に嵌めるところだ。


 指輪が嵌った指を掲げ見て、ロロは口を押えて涙を流し続ける。

 想いはすぐに決壊し、ロロは俺に抱き着いてワンワン泣いた。


「だいしゅきだよぅ! コウヤにゃん愛してぅー! ふわぁあああんあんあんあん!」


「俺も愛してるよ。誰よりも何よりも愛してる。ロロティレッタ」


 俺は嬉し泣きを続けるロロの涙にキスをして、抱きしめて。


 そうして、涙を流しながら笑顔を向けたロロに、俺は笑いかけた。


「ずっとずっと一緒だよ」


「何度生まれ変わっても、永遠の果てまでずっと一緒よ」


「ロロ、愛してるよ」


「コウヤ、愛してるわ。だいしゅきーっ!!」


 俺とロロは純魔力を纏ったキスをする。


 それは魂の双子だけが味わえる、この世で最も狂おしく甘美なる愛の味。


本編はこれで完結とさせていただきます。

応援してくださった方々、今まで読んでくださり本当にありがとうございます。

後日談などを書くかもしれませんが、その時はまた楽しんでいってください。

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