1-12 レベル教育2
よろしくお願いします。
魔獣体操を終えると子供達の緊張も解れたのか、各々の個性が見られ始めた。
俺の心配をしてくれた幼女みたいにな。
他にも大人しくしている子もいれば騒ぐ子もいる。多いのが、大人に興味津々な子供たちだ。ここら辺は地球の子供と変わらないのかもしれない。
俺のグループの二人と言えば。
レオニードさんの娘であるクリスちゃんは非常に大人しい娘だった。1時間くらい一緒に居るけど、未だ声が聞けていないほど大人しい。何故かロロが大変気になるようで、ずっと一緒にいる。可愛い。
もう一人の幼女ミィミちゃんは反対にお喋りが好きなようだ。義務冒険者のお姉さんにあのねあのねと一生懸命話しかけている。可愛い。お姉さんもメロメロである。
俺はと言えば、テフィナ人がどのような行事を重ねて大人になるのか気になるので割と楽しんで参加している。
ロロは意外にも面倒見が良いのか、懐いてきたクリスちゃんと手など繋いで頬を緩めていた。
さて、魔獣体操の次は紙芝居が始まった。
五歳児の教育なので、こんなものだろう。
紙芝居の題名は『お空から落っこちたスライムさん』という。
お空に浮かぶ雲は、実はスライムであり、その身に重たい核を宿してしまうと空から落ちてしまうという。
ある女の子がお空から落ちてしまった一匹のスライムさんに出会い、スライムさんをお空に帰すためにあの手この手で身体の中の邪魔な核を壊すという話だ。
さて、何故こんな紙芝居が始まったかというと。
それは紙芝居を終えた女性冒険者の締めの言葉で理解できるだろう。
「こんなスライムさんがたくさんいるから、今日はみんなも手伝ってね」
そう、紙芝居はスライムを殺す事への抵抗を失くすために行われたわけだ。
よく出来ている。
事実、うちのクリスちゃんとミィミちゃんは俄然殺る気まんまんになっていた。ふんす! と意気込むけれど、スライムからしたら傍迷惑この上ない話だ。
各々グループに分かれ、いざレベル教育開始。
まず、お姉さんが説明を始める。
「今日みんなが使うのはこれです! ちゅりるるん!」
謎の効果音を口で言いながら、お姉さんが一本のロッドをみんなに見せてきた。
基本、クリスちゃんとミィミちゃんが主役みたいなものだから説明も幼児向けで、そのロッドの姿もまた幼児向けアニメの魔法のロッドみたいで可愛らしい物だった。
「ふぉおお!」
「……っっ!」
幼女二人はそれを見て、わたわたと手を振る。
感嘆の声を上げるミィミちゃんと、無言だけど眠たげな眼をキラキラさせるクリスちゃん。可愛い。
なお、俺の相棒もめっちゃ目をキラキラさせて同じ動きをしている。
「見て見て、パニャパニャロッドだわ、可愛いっ」
「パニャパニャロッド?」
「光の日の朝9時からやってるアニメに出てくるロッドよ。知らないの?」
「勉強不足でした、すみません」
「もう、しっかりしてよね?」
「はい」
「まったく。次はないからね?」
「いや、次も許せよ。玄人向けすぎるわ。あ、すみません! 説明をお願いします!」
ロロの相手をしていたら、お姉さんと幼女二人にめっちゃ見られていた。
いかん、しっかりしないと。
お姉さんはにっこり笑ってから、説明を続ける。しかし、どこかイチャコラしてんじゃねえぞ、みたいな暗い目の輝きがあった。
「ゴホンッ! えーと、ロッドをスライムさんに近づけて、ここのスイッチを押すとスライムさんの核が壊れるからね。まずはお姉ちゃんが見本を見せるわね」
はーい、とミィミちゃん。コクコクとクリスちゃん。
そういうわけで手本。
地面に掘った小さな穴へ、袋に入ったスライムをトゥルンとリリース。
これが本日のレベル教育と言う名の大量虐殺の生贄、品種はグリーンスライム。
危険度は非常に低く、レベル教育で一番最初の生贄に抜擢されるほど弱い魔獣だ。
しかし、コイツは増やすのが簡単で、かつ身体のゼリーは大地を豊かにする効果がある非常に素晴らしい魔獣でもある。ゼットに書いてあった。
もはや処刑待ちとなったスライムに、お姉さんがパニャパニャロッドを近づける。
「みんな、見ててね。ほら、ここにあるスイッチを押すと……」
先ほど言ったことを再確認するように幼女たちにスイッチを見せながら、お姉さんはスイッチを押し込む。
すると、パニャーンと謎の効果音を出しながら、大小無数の星型とデフォルメされた猫のエフェクトが飛び散った。
原理は不明だが、それだけでゼリーの内部にあった核は呆気なく砕け、塵となった。ナニコレ怖い。
「ねっ、簡単でしょ?」
「「ふぉおおお!」」
「っっっ!」
にっこりと殺戮の手順を幼女に教えるお姉さん。
ミィミちゃんとロロ、クリスちゃんは大はしゃぎ。
と、ここでミィミちゃんが指を唇につけて、コテンと首を傾げる。
そして、ロロのコートの裾をくいくいと引っ張って質問した。幼女に人気あんなぁ。
「おねえちゃん、スライムさんおそらにいかないよ?」
なるほど、その疑問はもっともだ。
スライムは掘った穴の中で液体に変わっている。
ロロはまさかの質問に、すぐさま俺へ助けを求めるような視線を向けてきた。俺は面白そうなので、大仰に頷いておくだけにする。
さあどうする。ロロティレッタ!
「えぅ……えっと、そ、それは……そうそう! これからお日様の力でお空に帰るのよ。水溜まりも晴れた日だと乾くでしょ? それと同じなの!」
何を名案のように言っているのか。全くロマンの欠片もない平凡な答えだ。
ミィミちゃんは、そっかぁ、と空を見上げる。
快晴だ。
きっと数時間もすればスライムだった液体は蒸発する事だろう。いや、それよりも早く地面に吸収されるか。どちらにしてもスライムさんがいた痕跡は残らない。
「ふむ、34点だな」
妥当な採点だろう。だって普通過ぎるし。だが、最低限ネタバレしなかった事だけは評価できる。故の30点越え。
「待って、もう一回チャンスちょうだい。次は必ず成し遂げてみせます」
「いや、そんなのねえから」
「ぐぬぅ! ケチッ」
「ぐはッ!?」
「にゃぎぃ!?」
ロロも幼女への返答は一回きりだと理解できているようで、悔しさの籠った抜き手が俺の脇腹へ飛んできた。俺も痛かったが加害者のロロも涙目で指を押さえている。じゃあやるなよ。
「はいはーい。それじゃあまずはお兄さんの生咲君からやってみようか!」
「す、すみません、バカが抜き手を……いえ、やります。はい」
お姉さんに指名されて、俺は脇腹を摩りながら前に出るとロッドを受け取った。
17歳男子にこのフォルムのロッドは日本じゃ白眼視待った無しなんだが、ここは異世界、受け入れてもらえる。
ゼリーにロッドを近づけるだけ。
外れたらカッコ悪いし、しっかりと狙いを定めて俺はロッドのスイッチを押した。
パニャーン!
謎の効果音と星や猫のエフェクトと共にスライムさんは即死した。武器つえぇ。
パニャーンがよほどツボなのか、幼女たちとロロがすんごい興奮している。
初めて魔物を殺してしまったが、おんぶに抱っこどころではないお膳立ての内に終わった。
感慨も何もない。一方的な蹂躙。
しかし、嫌悪感があるわけでもない。
生きている魚にとどめを刺して捌いた経験だってあるし、今さら生きていくための殺生で気落ちはしない。俺は糧になったスライムに心の中でお礼を言って、お別れした。
次はミィミちゃんだ。
ロッドを握り、むふぅと殺る気を示す。
ちっちゃな両手でロッドを操り、パニャーン!
彼女はスライムさんの死体に、「早くお空に行けるといいなぁ」と優しい言葉をかける。将来、真実を知ったミィミちゃんがどうなってしまうのか心配だ。
クリスちゃんの番になり、彼女が初めてまともに喋った。
「クリシュ、がんばぅ……」
口の中で呟くような小さな声だった。
どうやら、彼女は舌っ足らずのようだ。もしかしたら、それが恥ずかしくて話をしないのかもしれない。
クリスちゃんもパニャーンして、遠くお空を流れる雲を見つめる。その眠たげな瞳は何を思うのか。
一応レベル6だけあり、ロロは問題なく終えた。
幼女の手前、ふざけた行為をすることもなく、パニャーン。
しかし、ロッドを持つ姿はめっちゃ嬉しそうであった。フィギュアを持っていた女だし、こういうグッズはかなり好きなのだろう。
こうして一巡回ってやり方の要領を得ると、俺達はスライムさんの虐殺を繰り返した。
1時間で一人あたり10匹の討伐。年長者が二人入っているだけあり、回転率が高いのだ。
みんなレベルが上がり、俺はレベル2に、ロロティレッタは7になった。
途中でカメラをファン〇ルみたいに飛ばすカメラマンの兄ちゃんがやってきた。幼女たちの奮闘をカメラに収めるらしい。
完全に遠足のノリである。きっと親御さんに写真が渡されるんだろう。
クリスちゃんは両手でロッドを持って、むふぅ、と気合を入れて、ミィミちゃんは満面の笑顔でポージング。これは親御さんも喜ぶわ。
「じゃあ次はそちらのお姉さん」
カメラマンがロロに言う。
俺達もなの!?
ロロは不敵に笑うと、ロッドを手にして。
「って、お、おい、ロロ。そんな世界の闇を打ち払う魔法少女みたいな壮大なポージングは……」
「ふぉおおおおおおおお!」
「っっっっっ!!」
え、何故か幼女たちにバカウケなんだが!?
風魔法でロングコートが捲れる演出とか、確かに滅茶苦茶絵になっているけどさ。
「はははっ、良い絵が撮れたよ! じゃ次は、お兄さんね!」
カメラマンが言う。
俺もらしい。マジで?
仕方がなく、俺は片手で顔の半分を香ばしい感じで隠し、ロッドを身体の前に押し出す体勢を取った。ロロに指さして笑われた。
その後は冒険者のお姉さんも含めて5人で写真を撮って休憩に入る。
15分の休憩を挟み、さらにもう一時間同じ事を繰り返すとレベル教育は終了した。
高校生の時間で生きてきた俺からすると都合2時間のレベル上げ作業はとても短く感じたが、5歳児の集中力ならこのくらいの時間が丁度良いのだろう。
「「「スライムさん、おそらにいってもげんきでね!」」」
声を揃えてお空に手を振る子供達。
弱い生き物を虐殺したという事実は残さない。これがテフィナクオリティ。
俺とロロは明日も他の子供に混じって参加するのだが、クリスちゃん達の次回のレベル教育は一ヶ月後になるらしい。
その一ヶ月後のレベル教育が待ち遠しく思ってもらえるように、レベリングが終わると自由時間が始まった。
まずはピクニック気分でお昼休憩。
公園の芝生にレジャーシートを敷き、各々が持ってきたお弁当を広げる。
俺とロロ、冒険者のお姉さんは店で買ってきた物だが、クリスちゃんとミィミちゃんは親に作ってもらったお弁当を持参してきた。
ミィミちゃんの家はパン屋を営んでいるそうで、一口サイズのパンをもむもむと食べていた。どうやらパンの中に色々と閉じ込めてあるようで、一つ貰ったパンの中にはミートボールのような物が入っていた。ミィミちゃん曰く、当たりらしい。なんかすまん。
クリスちゃんの弁当は、天使の外見に良く合った可愛らしい弁当だった。色とりどりのおかずにちっちゃなおにぎりである。可愛いお弁当だね、と俺が言うと嬉しそうに身体をよじっていた。可愛い。
なお、俺達大人組は示し合わせたように全員が同じサンドイッチセットだった。
さて、実のところ、昨晩は布団の中でエロい妄想の他にこんな事を考えていた。
レベル教育中に事故が起こり、一匹の魔獣の牙が新キャラの美少女に迫る! その瞬間、俺の隠された力が覚醒し、美少女をあわやのところで救う。そして、俺はみんなからちやほやされ、新キャラの美少女は俺に惚れてしまう。ロロはモテ始めた俺に焦りを覚えてツンデレ発動。な、なによ、アンタと魂の双子なのは私なんだからねっ!
みたいな。
そんな妄想をしてワクワクしたわけだ。
昨日時点ではまさか5歳児と混ざってレベル上げするとは思っていなかったので、美少女はちゃんと15歳くらいの娘に設定されていたのだが。
しかし、ふたを開けてみれば、まったく危険がない。
相手もスライムだし。牙とかないし。
そもそも結界の中で行う行事だから、人間様に牙を立てられるレベルの魔獣が迷い込んでくることも万に一つの確率で有り得ないそうだし。
幻想の世界に来たのに妄想はやっぱり妄想で終わるのだった。それとも俺のトラブル力が足りないのだろうか?
お昼が終わると遊びの時間だ。
男の子たちは公園内に流れる川で釣りに興じている。俺もこちらに混ざった。俺は割と釣りが好きなのだ。
一方で女の子はお花畑で花の飾りを作ってほのぼのとしていた。
俺と魔力交換したロロもお花遊びに混ざっており、女性ばかりのその空間はまるで精霊の園と言わんばかりに華やかであった。
さて、異世界の川にはどんな魚がいるのか。
などと期待していたけど、釣れた魚は特に珍しい形状をしている訳ではなかった。獰猛そうな口でもなければ、ましてや翼なども付いていない。十五センチほどのフナっぽい魚だ。リリース。
冒険者の話では、一定以上の力を持つ人以外の生物は魔獣も普通の動物も関係なく、結界に阻まれて街には侵入できないそうだ。
結界外に出れば、割と強い魔法を使う魚や一メートルを越える肉食の魚、ワニもいるのだとか。まあ、そこまで魚釣りが好きな訳ではないから、ワニとバトッてまで糸を垂らしたいとは思わない。強くなったらやってみても良いかもしれないけど。
日が暮れるころ、広場に戻って解散となった。
5歳児だけにみんな疲れ切っており、中には寝ちゃっている子もいた。
各々がお父さんやお母さんに引き取られ、今日の報告をしたり、腕の中で眠ったりしている。
俺達もクリスちゃんとミィミちゃんにお別れする。
その際、クリスちゃんとロロがじっと見つめ合っていた。無口なクリスちゃんと残念乙女なロロ、この二人の中でどういう化学反応が起こっているのだろうか。
ミィミちゃんは迎えに来た大好きなパパに抱っこされながら、こう報告していた。
「ミィミね、いっぱいスライムさんをおそらにかえしてあげたの!」
「ほほう! そうかそうか、ミィミは偉いなぁ!」
「ミィミね、おおきくなったらスライムさんをおそらにかえすしごとをするんだぁ」
スライム業者になりたいという事だろうか。
パン屋の娘の夢が決まった瞬間である。
クリスちゃんのお迎えはレオニードさんの奥さん。
慈愛の女神もかくやと言わんばかりの優しそうな美女である。とろんとした目元が、クリスちゃんの最終進化形態を彷彿とさせる。
軽くイケメンに殺意を抱きつつ、奥さんと少し世間話をして、俺達はクリスちゃんと別れた。
「お前、随分懐かれてたな」
ちっちゃな手で控えめなバイバイをするクリスちゃん。それに応えてこれまた控えめなバイバイをするロロ。
俺はそんな彼女に、言った。
「やっぱり、あのくらいの歳の子だと、頼りになるお姉さんオーラを感じ取っちゃうのね。めっちゃ可愛かったわ」
「めっちゃ可愛い件には同意だな」
「なによ、『には』同意って。全部同意しなさいよ」
「全部同意するにはここ三日でお前のことを知りすぎてしまったんだ。すまんな」
「はっ、これだからトーシローは。たった三日一緒に居ただけでこの奥深いロッテちゃんを理解したって勘違いしちゃってる。ちゃんちゃらワロロンもいいところね」
ロロは大げさな仕草でため息を吐く。
ああ、そうだろうな。俺はまだまだお前のことを知らなすぎる。差しあたってロロちゃんの奥まった深いところとかぜひとも知りたい。教えてください!
「じゃあ、今日の晩飯はお前のことを知るために、お前が好きな物食いに行こうぜ」
「肉! お肉食べたい!」
ロロは肉が好きらしい。
こうして、俺達のレベル教育1回目は無事に終わるのだった。
読んでくださりありがとうございます。
更新する場合は、仕事等の関係で19時以降になるかと思います。ご了承ください。




