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3-50 孤独なヒーロー

よろしくお願いします。

 2日目は、レオニードさんちも誘って観戦に向かう。


 クリスちゃんは、ククルさんとシルニャンに良く懐いているからな。

 2人がどういう活躍をするか分からないけど、見せて上げたかったのだ。


 ロロにゃんをクリスちゃんに取られ、俺はレオニードさんとソーマの男3人で話しながら、現地に向かう。

 ソーマにとってレオニードさんは初対面の大人なので、さすがに中二モードにはなっていない。


 さて、そんなこんなで2日目のイベントが始まった。


 前回は浜辺から伸びる緩やかで長い階段を走り抜けて魔王城へ乗り込んだが、今回は前日の第三ステージだった浮遊島から伸びる平らな橋を渡って魔王城に突入する。浮遊島までは送ってくれるみたい。


 橋は4本あり、それぞれがアミダ状になって繋がっていた。

 ゲームが始まる前からすでに橋は掛かっており、プレイヤーたちに重大なヒントを与えている。それは、赤く光った橋は10秒後に5秒間消えるというトラップのヒントだった。


 ゲーム前に見せてくれるのは優しいな。

 まあ、そうじゃなかったら初見殺し過ぎるからな。

 なお、告知まではされない。見てない方が悪いと。


 そうしてゲームが始まると、まず飛び出したのは学生のおんぶ鎖部隊。

 学生が2日目に行くのは、専ら防衛ゾーンで敵を倒しまくる子達と相場が決まっていたので、押せ押せで2日目に行った彼らは、実は凄かった。

 たぶん、週明けの学校ではヒーローだろう。それか、腐女子に的か。


 俺達がしたように、橋の下を使って移動なんて無茶はせず、機動力を生かしてガンガン進んでいる。

 彼らにとっては隣の橋には鎖で移動できるので、恐ろしく優位になっている。


 一方、ソーマはやや前傾姿勢のカッコいい走り方で、コートの裾をはためかせて走っている。黒い瘴気が尾を引いているぞ。


 当然、ただ走るだけのステージではない。

 魔王城からの魔法弾や、ワイバーンみたいな奴らの魔法弾がビシバシ飛んでくる。

 橋の上にはそう言った攻撃をやり過ごす壁もあり、みんな隠れつつも隙を見て先に進んでいく。


 そう言った壁に隠れ、タイミングを上手く見計れない奴は、先に挙げた橋の消失トラップで落下していく。落下したプレイヤーは、当然最後までは落下せずに途中で消えて、脱落となった。


「情けない奴らねぇ。私だったらシャシャーよ、シャシャー!」


「ずっとコウヤさんにおんぶしてた人がなんか言ってますぅ」


「フィーは何も分かってないわね。コウヤにゃんは私をおんぶしたくて堪らないのよ? だから私は、シャシャーって活躍したかったけど、仕方なくおんぶさせてあげてたの。そうよね、コウヤにゃん?」


「いや、違うけど」


「照れてぅー! 可愛いーっ!」


「彼女さん、もうそろそろ病院に連れて行った方が良いんじゃないですぅ?」


「いつも俺がお薬投与してるから平気」


 今朝もたっぷり投与しておいたから、ロロにゃんは万全のはずだ。

 俺もロロにゃんから飲み薬をたくさん貰ったので、元気いっぱいである。

 蜜技『三日月車』は、俺達にとってお薬タイムなのだ。だから、蜜月ラブチュッチュを行う仲になっても、三日月車だけは毎日欠かさずやっているぞ。ドラッグドラッグ!


「原因はその薬ですぅ! バカーッ!」


 テシィと頭を叩かれた。

 それに呼応したのか、クリスちゃんも俺にモモパンしてきた。幼女ーっ!


「うにゃうにゃうにゃーっ!」


「っっっ!」


 ロロにゃん達女子ズがよくやる幼女の構い方を俺もやってみる。

 頭をくしゃくしゃにして、頬をもみくちゃにして。

 クリスちゃんは溜まらず、パパンの股座に顔を埋めた。レオニードさんは、あっはっはっと楽し気に笑って、クリスちゃんの背中を撫でる。


 そんな事をやっていると、プチ事件。


 ソーマが落ちそうになったプレイヤーを助けたのだ。


『あ、ありがとうございます!』


『礼は良い。気を抜くな。死ぬぞ』


『は、はい!』


 人を助けたのに、スーパークールなソーマ君。

 それもそのはず、助けたのは男子だった。ちょっとショタ入った印象の男子だ。

 これが女子だったらこうはなっていないはずだ。


「おー、中二が禁断の扉を……」


「本当の自分を隠したクール系と乙女ショタですぅ」


 なんでコイツらは男と男をくっつけたがるんだ?

 俺でさえ、ロロにゃんと女子ズがお風呂で全裸マッサージをしてても、そこまで飛躍した想像はしないのに。

 ……いや、まあ、ちょっとはしたけど。ロロにゃんの指が、こう、ククルさんやシルニャンに、にゅるんと。


 魔王城へは多くのプレイヤーが突入した。

 そこら辺はまあね。ここでみんなして脱落したら白けるから、難易度もそこそこだし。


 魔王城は、内部の敵や細々としたイベントこそ違うみたいだけど、基本的に俺達の時と同じだ。

 中庭には意味深な小屋があり、前回はそこに卑劣なトラップがあった。


 魔王城は、エリアで別れており、廊下は雑兵が出現し、廊下にある部屋に入ると中ボスと戦える仕様だ。

 中ボスはスルー出来るが、半ば強制的に戦わされる場合もある。俺達の場合は、人形の群れに追いやられて中ボスと戦ったな。

 中ボスは高得点なので、出来ればたくさん倒した方が良いぞ。


 ソーマはそういったセオリーを無視して、脇目もふらずに廊下を突き進む。

 出てくる雑兵をバッタバッタとなぎ倒し、1階層目のボスを全スルーし、2階層目に突入。


 狙うは魔王ちゃんの首ただ一つ……ではなく、たぶんククルさんが目当て。


 2階層目に行くと、廊下がトラップだらけのエリアになった。

 俺達の時にシルニャンが脱落したトラップエリアと同じ場所にあるが、内容が一新されている。


『この程度の児戯で、我が歩みを止められると思うな!』


 ソーマがキリッと言い放つ。

 コイツはソロである。完全に独り言であった。


 しかし、前日の活躍からも分かる通りソーマは運動神経がとても良いので、言うだけあってシュバシュバとクリアしていく。


 ふと隣を見ると、クリスちゃんが口をOの字にして、目をキラキラさせている。

 なんだ、この気持ちは。まさかこれが嫉妬?


「く、クリスちゃん、飴ちゃん食うか?」


 が、ここでまさかのスルー!

 代わりにロロにゃんが、わぁーい、と俺の手から飴を取り上げ、口に放ってコロコロし始めた。


「んふふふぅ、おいひぃ」


 満面の笑顔。俺の機嫌はすぐさま直った。


『はぁっ! とぁ! 無駄!』


 落ちろ!


 はっ!? いかん、俺はなんて浅ましい事を考えているのだ。

 友人の活躍を応援しなくては。


「惜しい!」


 立体軌道で迫りくるレーザーをかいくぐるソーマを見て、ロロにゃんが悔しがる。

 俺はホッとした。

 そうだよな、ロロにゃんだってこう言っているんだ。俺だけじゃない。

 いつだって俺を勇気づけてくれるロロにゃんは、やっぱり最高の彼女だ。しゅきしゅきぃ!


「にゃん!? んふふ、どしたの?」


「なんでもない」


「んふふぅ、もうもう! 今は中二が脱落する瞬間を見逃せないの、あ・と・で、ね?」


 ツンと俺の鼻を人差し指でタッチするロロにゃん。


「クズですぅ」


 フィーちゃんが恐れ戦いている。

 クズ可愛いとフィーちゃんも理解しているようだな。


 しかし、ロロにゃんの期待に応えず、ソーマは割かしあっさりとトラップエリアを抜けてしまった。

 アイツは何も分かっていない。

 ハラハラドキドキを提供するのがエンターテイナーだろうが!

 そこは、紙一重でクリアしろよ! それかロロにゃんを楽しませるために落ちるんだよ!


『ふっ、造作もない。待っていろ、ククル』


 と、独り言をいうソーマ。


「アイツ、テンションが上がって、いらんこと口走ってるわね」


「確かに」


 絶対に面と向かってじゃアイツはあんなこと言わない。

 そもそも、ヤツは俺と同じで『ククルさん』と呼ぶし、もっと言えば高確率でどもる。


「こりゃ家に帰ったらゴロゴロするわね」


「でも、存外ククルさんがときめいている可能性はあるぞ」


「それはあるかも。アイツ、乙女だからなぁ。たぶん、私以上に乙女よ、ククルは」


 らしい。

 女子が言うならそうなのだろう。


 そうしてトラップ廊下を抜けた先にある扉を開くと、そこは研究所のような場所だった。

 魔王城の間取りが完全におかしいが、ゲームではありがちなので納得するしかない。


 研究所風のその巨大な部屋の壁には、たくさんのカプセルが埋まっていた。

 人が余裕で入れそうな大きく透明なカプセルで、中は培養液に満たされている。

 その一つ一つに、人が入っているのだけど。


 ここでこんな施設が出てくると言う事は、イコールすれば完全にあかんヤツと察せられる。


「ぐひゅふっ」


 ロロにゃんも笑いを噛み殺している。


 当然のことながら、盛り上がる場面なので会場の巨大スクリーンにはソーマのシーンが映されており、観客はゴクリと喉を鳴らしていた。


 そして、一つだけ凄く目立つ場所に置いてあるカプセルがあった。

 そのカプセルの中は真っ暗闇。


 そんなカプセルの上に、魔王ちゃんが足を組んで座っていた。


『よう来たの。なんぞ、お主はあの攫った小娘の知り合いか?』


『あ、ああ』


 魔王ちゃんの登場に、ソーマが戦う前から怯み出した。

 女子に免疫が無さ過ぎんだろ、アイツ。日本にいた頃の俺だって、あそこまでじゃなかったぞ、たぶん。


『くくっ、そうかそうか、連れ戻しに来たのじゃな。それはご苦労なことじゃの! それならば返してやらなくてはならんのじゃ』


 魔王ちゃんがパチンと指を鳴らす。

 サッとロロにゃんを見るが、今回は指パッチンどころじゃない様子。釘付けだ。

 っていうか、俺に肩車するフィーちゃんも夢中で、俺の髪の毛をむんずと掴んで離さない。痛いのだが。


 魔王ちゃんが指を鳴らすと、彼女の座るカプセルが闇色からいかにも培養液といった感じの緑色に変化する。

 そして、そこには、ククルさん魔改造バージョンが浮かんでいた。


「あ、あひゃっ! ふひゅひゅひゅ……っ!」


 ロロにゃん、楽しそうだなぁ。

 楽しさを共有したい表れか、密着過多のままスクリーンと俺の顔を交互に見て、ひーひーやっている。


「ロロにゃん、こう言うの好きだよね?」


「にゅひゅ、超好き、んふっふふふふ」


 ロロにゃんはアニメなどのネタ系の笑いが大好きなのである。

 俺はそういうのを見て笑うロロにゃんが大好きだ。WINWIN。


 フィーちゃんは、「グロ改造じゃなくて良かったですぅ」とほっとしている。


 一方、5歳児のクリスちゃんは真剣そのもの。

 現実とお芝居の境界が曖昧な年頃なので、この場で最も頼りになるパパンに助けを求めるように顔を向ける。


「大丈夫! きっとあのお兄ちゃんがククルちゃんを治してくれるさ!」


 クリスちゃんは、コクリと頷いてスクリーンに集中した。

 ソーマが負けられず、かつ倒しきることも出来なくなった瞬間である。


『最近の我は、ちと改造に凝っていてのっ。先の世界の戦いでも、良き素体を得たので改造してやったのじゃ。そこの小娘も然り。どうじゃ、喜んでくれたかの?』


 スクリーンの中でもお話は続く。

 怯んでいたソーマだが、一拍目を瞑り、カッと見開いた。


『貴様は、俺が……斬るっ!』


 やだカッコいい!


 女子が苦手なのを押し込めて、演技し始めたソーマ。

 呪いの大剣を構え、戦闘態勢に入った。


『そう急くでないわ。お主の相手は他におる。そう、コヤツが、のっ!』


 魔王ちゃんが言葉尻を強めると同時に、カプセルが内側から壊された。

 魔改造ククルさんが起動したのだ。


『そ、ソーマ君……殺して……ぐ、グァアアアアアアア!』


 ククルさんの迫真のアテレコに、ついにロロにゃんがコテンと俺のお膝の上に転がった。

 周りの人を考えてか、声を押さえて爆笑している。


 ソーマVS魔改造ククルさんの戦いが始まった。

読んでくださりありがとうございます。

誤字報告ありがとうございます。助かっています。

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