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3-38 彼女と女友達がネットスターな件

よろしくお願いします。

「うん、何から話せば良いかな」


 彼氏座椅子で俺に抱っこされながら語り始めようとしたロロにゃんは、大好きなイチャコラフォーメーションにも関わらず、どこか居心地が悪そうに身体を動かす。


「ねっ、聞いても怒らないよね?」


「いや、時と場合によっては怒るけど、別れるとかそういうことにはならないよ」


「へぅ!? お、怒るなら話さないし」


 ロロにゃんはこれはいかんとばかりに、俺の手を掴むと、自分の胸の上に誘導した。色仕掛けである。

 今のロロにゃんの恰好はネコ装備に加え、パンツの上にワイシャツ一枚という極めて挑発的な姿だ。まあオフの時はいつもこんな格好なのだが。

 俺はそんな魔性の誘惑から抜け出し、ロロにゃんをギュッと抱きしめた。


「さっきのレストランで、クリスちゃんと俺以外、全員何か知ってる感じだった。あまりロロにゃんと関わってないソーマですら。知りたいよ、ロロにゃん。ダメ?」


 俺は純魔力をロロにゃんに流し込みながら、首筋にキスをする。

 ロロにゃんの身体がポカポカし始めた。いかん、ロロにゃんのスイッチが入る。


「他の男の子が好きとかそういう話じゃないんでしょ?」


「バカぁ、そんなわけないじゃん! こんな風になるのはコウヤにゃんだけだもん!」


 ロロにゃんは証明とばかりに俺の手をガッと掴んで誘導し、強制的にハチミツ搾取をさせてきた。

 つい今しがたのポカポカが原因だろうか? 指にハチミツがたっぷりついている。


 しかし、真剣な話の最中にこんなものを搾取させて、どうすんだよこれ。

 ったく、仕方がない。俺はハチミツを舐め取り、再び会話に戻った。

 ロロにゃんはしゅんとした。少なからず再戦を期待していた模様。


「ごめんね。例え話でも変な事言って。ロロにゃん、俺も他の女の子になびく事なんてないから、安心してね?」


「うん。浮気なんてしたら二度と魔力交換しないから。トイレも何もかも、ずっとコウヤにゃんと一緒だから」


 おっとヤンデレ入りました。

 だけど、そうか。魔力交換を拒否すれば、ずっと一緒に居られるのか。俺ももし捨てられそうになったらそうしよ。

 強烈な愛の味に中毒性がある魔力交換を拒否することが愛を繋ぎとめる最終手段とは、なんとも皮肉な話である。


「恋人になる時、誓ったもんな? ずっと一緒に居るって」


「うん、ずっとずっと一緒。私だけのコウヤにゃん。誰にも渡さない。そう、誰にも誰にも誰にも誰にも……」


「俺だって誰にも渡すもんか。そうさ、誰にも誰にも誰にも誰にも……」


「「誰にも誰にも誰にも誰にも……」」


 なんだこれ。

 突如始まった合唱に、どちらからともなく噴き出し、キスをする。


 ふぅ、ヤンデレごっこは終わり。

 だからそのハイライトの消えた目は止めようね?

 クリスちゃんも稀にやるけど、それってどうなってんの?


「よし、それじゃあお話して?」


「……うん、分かった。あのね、ネットのことなの」


 その言葉でほぼ察した。

 テフィナは顔出しどころか自宅の場所まで晒すのが余裕な人が非常に多い文明だ。

 つまり、ロロにゃんは俺のことを晒していたのだ。


 まあ違うかもしれないから、黙って話を聞くとしよう。


「コウヤにゃん、前にさ、ネットに顔や本名を晒すテフィナの文化を心配してたでしょ?」


「うん」


 確かにそう言う話は以前した。

 まだ出会って間もない頃だ。ゼットを手に入れ、魔法の練習動画などを探すために徘徊した時に気づいたのだ。


「コウヤにゃんの故郷だと、そういうのダメなんだよね?」


「うん、そうだけど、ここはテフィナだしあまり気にしないかな? なに、ネット上で俺の情報を言っちゃったの?」


「う、うん。そう」


 やはりか。

 そりゃ地球だったらネットに個人情報を晒すなんてパル〇ンテみたいなものだし絶対に嫌だけど、テフィナだったら別にそんな事はない。みんなしてやってる上で、問題が起こらないのだから。


「あのね、ワワワッてサイト知ってる?」


「ワワワッ? あー、うん。テモチャの提携サイトで目にするな」


 義務冒険者サイト『テモチャ』には、お勧めサイトの紹介もしている。ワワワッてのもその中でよく見た。


「ワワワッはテフィナで一番人気のコミュニティサイトなの。そこでね、コウヤにゃんのことを相談したのが始まり」


「相談? それっていつの話?」


「コウヤにゃんと出会って2日目」


「ほぼ最初からじゃん」


「うん。ここから先は、ワワワッの過去動画を見た方が早いかも。あのね、コウヤにゃん、好きよ」


 ロロにゃんが好きと言う時には、3パターンある。

 ラブニャーで気持ちが盛り上がっている時、何の気なしに言う時。

 そして、怒られたくない時や話をはぐらかそうとする時だ。

 今回の『しゅき』は、3番目に当て嵌まる。


 こういう時のロロにゃんは、悪戯がバレそうになって飼い主に媚を売る犬や猫に通じる可愛さがある。


 俺は少し笑い、こめかみにキスをする。

 ロロにゃんは花が咲いたように笑った。


 さて、すぐさま再戦としゃれこみたいところだけど、まずはワワワッとやらを見てみるか。


 俺に抱っこされたまま、ロロにゃんはゼットを弄る。

 アイコンをタップして、アプリを起動。


 すると、俺達の前に3面のホログラムウインドウが出現した。

 横2面は斜めになっており、上から見ると台形の下底がない形に見えるはずだ。


 中央のウインドウには、コロポックルみたいな可愛らしい女の子が立っている。

 黒髪で、金色の目をした女の子だ。

 どうやらこれがロロにゃんのアバターらしい。


 マイルームっぽい雰囲気なのだが背景に『コウヤにゃんラブ』という掛け軸が掛かっていた。

 その掛け軸をロロにゃんはサッと手で隠した。


「ロロにゃんはゲームの中でも俺の事ばっかりなんだな?」


 ロロにゃんは顔を赤くした。


「わ、若気の至りってやつよ」


 相手にそのまま伝えるならともかく、ひっそりこういうことをしているのは確かに恥ずかしいかもしれない。


「それにこのアバターネームはなんですか?」


「わ、私の最高レアリティのお名前」


 愛され猫ロロ、と。

 もうこの時点、この先何を見てもロロにゃんを怒る気にはなれなくなっていた。


「ご、ゴホン! 私のアバターネームはどうでも良いのよ。それより説明します!」


「はい」


 俺はロロにゃんのこめかみにキスして、説明を聞くことにした。

 ロロにゃんはよほど恥ずかしかったのか、やーめーろーとジタバタした。可愛い。


 さて、ロロにゃんの説明によると。




 ワワワッは、お喋りアプリだ。

 コロポックルみたいなアバターを操作して、様々な場所でお喋りをすることが出来る。


 画面には様々なモードがあり、今のような画面を使用するノーマルモード、CVFを使うモード、専用のコンタクトレンズを使うモード、等ニーズによって切り替えることが出来る。

 ロロにゃんの場合は俺と暮らしているので、コンタクトレンズを使っていたらしい。これは自分だけ見れるCVFみたいなものらしい。


 操作は、『手動入力』と『表層思考入力』の二種類があり、表層思考入力は極めて速いやりとりが可能となっている。ただし、慣れていないと扱いが難しいのだとか。


 お喋りの場は規模により、町、村に分類される。

 町になるとそれぞれが好きな話の場を作るのだが、村では村全体で同じ系統の話題の場となりやすい。


『〇〇の話題』『人気急沸中の村』などと検索を掛けることも可能だ。

 町や村への移動は、フィールドなどは介さず、選択すればすぐに行える。


 普通にお喋りすることが主な目的だが、大多数の人達にお話を聞いてもらう『公演』という場が用意されている。

 公演は動画に保存され、ワワワッユーザーであればいつでも見ることが出来る。


 さて、ロロにゃんとククルさんに関わるその出来事は、その『公演』によるものだった。


 動画一覧にあるタイトルを見ると、『斧投げパーリィ』というものが並んでいた。

 それも結構な量だ。

 ほとんどが30分前後の動画時間だ。

 タイトルにはナンバリングの他に副題もついているぞ。


「斧投げ……斧投げな。テフィナに来てからどういうわけかよく聞くと思ったら、全部ロロにゃんのせいじゃねえか」


「ち、違うし。私、斧投げなんて物騒なことほとんどしないし。ククルがよくやるのよ、アイツはまったく」


 ロロにゃんは媚びるように俺の顎の下にキスをする。

 別に怒ってはいないんだけどな。とりあえず舌を突っ込んでおこう。


 さて、問題はその視聴者数。


「は? 生放送で1200万人も視聴したの?」


「うん、凄いでしょ! いつも大体が満員なの! 突然行われる回はそこまでいかないけどね」


 しかもこれは生放送での数だ。

 動画保管庫から再生している閲覧数は、とんでもない数になっている。

 一番最初の回なんて、750億回再生だぞ? 冗談だろ?

 テフィナの人口を余裕で越えてるじゃん。


「え、もしかして、ロロにゃんって凄い子?」


「うーん、コウヤにゃんと出会って凄くなった感じかな? ルゥ様とリーゼルナの活躍でフェーディは凄く特別視されてるから、5番目のフェーディがどんな人たちなのか、みんな興味があったのよ。特に女の子ね」


 なるほど、ロロにゃんというよりフェーディの片割れを見に来たって事か。


 そんなわけで、記念すべき第一回目の公演を見てみることにする。


 タイトルは『斧投げパーリィ 1投擲 ~コイツはダメなヒロインだ~』である。

 ロロにゃん、一体どんな活動をしていたんだよ……


 画面に映し出されたのは、3人の男女と背景になっている大勢のアバターだった。

 画面の視点は最前列の席みたいだな。


 これじゃあ臨場感がないわね、とロロにゃんがCVFモードに切り替える。

 その瞬間、室内に映像が広がり、辺り一面を埋め尽くす大観衆が現れた。


「なにこれ、凄い人なんだけど」


「初回だし規模も普通のアリーナだったから、全然少ないわね。2回目から凄まじい人の数になるから」


「ふぇええ……ロロにゃんが大スターな件」


「んふふ。で、あの銀髪のちんちくりんがククルのアバター。もう一人の学者っぽいのがアンゼ氏」


 ロロにゃんは紹介を終えると、動画を再生した。


 まだ『ルゥサマシュキー』と名乗る俺と出会って2日目のロロにゃんの分身。

 そこには、過去のロロにゃんの考えや気持ちが映し出されていた。


 ルゥ様のフィギュアが壊れて悲しかったこと。

 喧嘩して酷い事をしてしまって罪悪感を抱いたこと。

 俺の純魔力の味がとんでもなく甘くて、戸惑ったこと。

 一緒にお風呂へ入ったり同じベッドで寝て、緊張したこと。

 手をマッサージをされて、満更でもないような様子もあった。


 俺は舞台で語る3人のコロポックルのお話を、いつしか夢中で見ていた。

 主役である女の子の未来の姿をギュッと抱きしめながら。


 ククルさんや観衆の女子たちを羨ましがらせた辺りから、話は次第に自慢話っぽくなり、ロロにゃんは調子に乗りはじめる。

 ルゥサマシュキーの口調は、付き合い始めてからはあまり俺にしなくなったちょっと生意気な感じの喋り方で、凄く懐かしい気分になる。

 そして最終的に、ルゥサマシュキーは自分の口から自慢に来ただけと暴露した。


 そうして、動画を見終わってCVFが解除されると。


「こ、こういう活動をしてます」


 ロロにゃんがもじもじしながら言った。


「ロロにゃん凄いな」


「そっかな? ふふっ」


「ロロにゃん、次のお話みせて」


「うん!」


 それから、一話ずつ『斧投げパーリィ』を視聴していく。

 2話目から場所が変わり、本当に凄まじい聴衆の中でロロにゃんは俺との暮らしを語って聞かせた。俺との生活を楽しんでいることが透けて見えるような、二人の出来事を。


 それらの公演は、決まって俺がお風呂から出るのを察知したロロにゃんが、嬉しそうな声で終わりを宣言することでお終いとなる。

 場合によってはその後にククルさんやアンゼって言う人の二次会が始まるけど、個人的にはロロにゃんが帰っちゃったならもう良いかなって感じである。


 次第に斧を投げる行為が目立つように、ロロにゃんに嫉妬の斧がガンガン飛んで行く。

 一見すれば酷い扱いだけど、そういうネタなのだろう。


 3話目を見終わって次をねだると、ロロにゃんが拗ねた。


「ねーえ、昔の私じゃなくて、今の私を構って?」


 見れば、すでに時間は夜中の1時近くだ。

 途中からなんかキスが多くなってきたなとは思っていたけど、どうやらイチャコラしたいらしい。


「ごめんごめん。ロロにゃんが可愛いって再確認出来て嬉しくて」


「怒ってない?」


「こんなことで怒らないよ。それに2話目でロロにゃん言ってたでしょ? 俺に視聴されるのが恥ずかしかったんだもんな?」


「うん。最初の内は恥ずかしかっただけだけど、だんだんね、コウヤにゃんの事が好きになって、もしかしてこれを見せたら嫌われちゃうかもって思うようになったの。コウヤにゃんの故郷だとこういうのはダメだっていうから。知られないように隠してたの、ごめんね?」


「出会った頃に言っただろ。テフィナの習慣に合わせるって。だから、故郷との違いは口にするけど、違うからってロロにゃんを怒ったりしないよ。ロロにゃん、俺の方こそ心配にさせちゃってごめんね」


「ううん。だけど無理しないでね? 私も前に言ったよね、ありのままのコウヤにゃんが好きなのよ。無理に変えずに、少しずつ二人で成長して、素敵な夫婦になりましょう?」


「う、く……う、うぁあああ、ロロにゃん!」


「にゃん!」


「そういう可愛い事言われると我慢できなくなります」


「つまり!?」


「ラブニャーします!」


「夢みたいっ!」


 俺の言葉に、ロロにゃんがネコミミをピコンと嬉しそうに振った。


 ロロにゃんはササッと俺の腕から抜け出すと、シュババとワイシャツと下着を脱ぎ捨て、コロンと寝転がって降参のポーズ。


「にゃん! んふふぅ、コウヤにゃん大好き!」


「俺も大大大大好きだ!」


「んふふぅ! ならば証明してみるがいい!」


 ロロにゃんはニャンハンドを解除して、その2つの手で大大大大好きを証明できそうな場所をオープンしてみせた。


 ビターン!


「刻み込む!」


「にゃー、んふふふふっ、だけど残念、とっくの昔に刻み込まれちゃってましゅー!」


 このあと滅茶苦茶ラブニャーした。


 なお、過去のロロにゃんにキュンキュンし過ぎてすっかり忘れていたけど、ククルさんが有名人な理由もちゃんと理解したぞ。

 魔王ちゃんは、この公演のククルさんのファンだったわけだな。

 そして、テフィナ中に割とそういう子がいるみたい。

 ククルさん、やりおるな。


読んでくださりありがとうございます。

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