3-37 大事な話の前にいつものヤツ
よろしくお願いします。
アニメジアはアニメの町なので、そのまま町を散策することになった。
まずは魔王ちゃんの事務所の隣でやっている魔王ちゃん系のグッズ屋さんへ。
その名もヴァンガード商店。
魔王ちゃんになると、芸名の苗字がヴァンガードになるらしいので、お店の名前もそうなっている。
魔王ちゃんは各代がそれぞれアニメにもなっているらしく、かなり充実したラインナップのお店になっている。
もちろんステリーナも同じなのだが、当代ということもあって売り場スペースの良いところにコーナーが出来ていた。
ステリーナは歌と踊りが上手な魔王なので、ゼットなどの端末に読み込んで音楽や映像を取得できるカードが多く売られている。日本で売っている魔法のカードみたいな感じだな。
ロロにゃんが、並んだフィギュアを職人の眼差しで見つめる。
その隣で同じく職人の顔つきのククルさんが、ロロにゃんとあーだこーだ意見を交わし合っていた。
……話を聞く限り、フィギュアの出来の良さを論じているわけではないみたいだ。
フィギュアの出来が良いのはテフィナでは当たり前。
彼女たちは、このフィギュアならケース内の装飾をどうするべきか考えているらしい。
ガチである。
シルニャンはクリスちゃんの面倒を見ている。
迷子にならないようにお手々を繋ぎ、魔王ちゃんのぬいぐるみを見ていた。
クリスちゃんの肩にはフィーちゃんもおり、迷子対策は万全である。偉いな、この二人は。
俺はソーマの下へ行った。
ソーマは、ちっちゃなフィギュアがついたキーホルダーを見ていた。
ガチャガチャとかで売ってそうなやつだ。
「へー、いっぱいあんな」
「え? あ、あー、コウヤか」
「これ全部魔王ちゃん?」
恐らく歴代の魔王ちゃんが全部あるんだと思うけど、顔は同じだけどネコの着ぐるみ来ていたりとバージョン違いみたいなのも多数ある。
「ああ、そうだ。記念に何か買っていこうかと思ってな」
「なるほど。まあゆっくり見てくれよ。俺は他のところ見てくる」
「ああ」
というわけで店内を回る。
何か記念に買おうかなと思っていたんだけど。
うーん、あまり欲しいのがない。
というのも、ここのグッズは基本魔王ちゃんを前面に推したグッズなので、ロロにゃん命な俺としてはあまり魅力的ではないのだ。
よく中二病の人がつけている『闇の瘴気エフェクト発生バッチ・魔王バージョン』なんかもあり、それはちょっと欲しかったけど、高かったのでやめておいた。
うーむ、これと言ってほしいものがないけど……よし、それじゃあ。
俺はステリーナコーナーに行き、ソーマが見ているようなキーホルダーを一つ買った。
しばらくしてみんなで店を出ると、俺はクリスちゃんにキーホルダーを上げた。
「クリスちゃん、これやるよ」
すでにクリスちゃんはステリーナのぬいぐるみを胸に抱えている。たぶん、シルニャンかフィーちゃんが買ってあげたのだろう。
そんなクリスちゃんは俺からキーホルダーを受け取ると、口をOの字にして眠たげな目をキラつかせた。
「あぃがとう」
そうお礼を言いながらソフトなモモパンをして、シルニャンの後ろに隠れる。チラッと見て、ささっと隠れる。照れておるわ!
アニメジアは15時くらいだが、俺達の体内時間はお昼なので昼飯にする。
レストランに入ってソファ席に座って、それぞれがメニューを開いた。
「クリスちゃん、どうする?」
「んーっと……」
「お昼ですからホットケーキなんかのデザードでもいいかもしれませんねー」
シルニャンとフィーちゃんがすっかり保護者だ。
各々を注文し、俺は気になっていたことを聞いてみた。
「そう言えばさ、ククルさんはどうして魔王ちゃんに気に入られたんだ?」
思えば、キャンプしてた時もククルさんに近寄ってキャッキャする女子が居たような気がする。
女子高生と写真を撮った時も、ククルさんのところに女子高生が割と集まっていたし。
俺の質問に、ククルさんは口にコップをつけたまま固まった。
コップを置いたククルさんは、言う。
「そ、そりゃコウヤ君、私が可愛いからだよ!」
ビシィッと逆ピーズ付きウインク。
「ふぇーい、可愛いよククル、可愛いよ」
「う、うるさい!」
すかさずロロにゃんが冷やかし、自分でやっときながらククルさんは恥ずかしがった。
しかし、こう言われてしまうと、俺としては非常に反論しづらい。
そっか、と俺は引き下がったのだが、ロロにゃんが小さくため息を吐いた。
「コウヤにゃん。そろそろコウヤにゃんにもお話しする時が来たようね」
真剣な顔で口にしたロロにゃんに、なんと俺とクリスちゃん以外の全員が何かしら想ったような顔をした。
クリスちゃんは仕方ないにしても、ロロにゃんとあまり接点のないソーマまで。
俺、彼氏なんだけど?
「ろ、ロロ、良いのか?」
「私とコウヤにゃんの愛はこれくらいじゃ壊れないわ。そうよね、コウヤにゃん?」
「もちろん!」
よく分からんけど、こんな極上の彼女を手放すことはあり得ない。
「それじゃあ、お家に帰ったら教えてあげる」
「分かった」
ロロにゃんは俺の手をギュッと握ってきた。
その手からは温もりと強い信頼の味が伝わってきた。
「あー、これ別れるヤツだー」
ククルさんが絶望したとばかりに両手で顔を隠した。
「もうロロはダメだわー。魔力タンクルートだー」
シルニャンもわっと両手で顔を隠した。
「あんなに仲良かったのに終わりの時が来ちゃいましたー」
フィーちゃんも以下略。
「う、うわー」
ソーマも無理した。
「あー」
クリスちゃんも乗っかった。
「ふ、ふん、大丈夫だしぃ! コウヤにゃんはもう私抜きじゃ生きられない身体になってるもん。ねーっ!?」
「それは間違いないな」
「んふふふぅ! 私もー」
ムニュズンと太ももが俺の太ももに乗っかってきた。自然、いつもの如くベタベタモードに突入。
「っていうかシルニャン! 魔力タンクルートとか言うのはマジでやめなさいよ、縁起でもない!」
シルニャンはテレペロコッツンコした。
「あれ? だけどククルさんの話なのに、なんでロロにゃんと別れる可能性をみんなして危惧してるの?」
もちろん別れる気なんてさらさらないけど。
俺の質問にクリスちゃん以外の全員が、サッと目を逸らした。
これまたソーマまで。なんでソーマが知ってて俺が知らないんだよ!?
こちとら彼氏やぞ!?
「ま、まあアレだ。ロロが全部教えてくれるよ」
ククルさんがそう締め括った。
うーむ、一体、何を隠しているのだろうか?
その後は、わいわいと賑やかな昼飯になる。
話題はシルニャンとククルさんの魔王軍入隊についてだ。
パーティメンバーとはいえそれぞれの活動を束縛するもんじゃないので、今回は俺達は見学だな。
昼飯を食べ、アニメジアで有名店巡りをして遊んでから帰路につく。
クリスちゃんはお姉ちゃんズに遊んでもらえて疲れちゃったのか、今はロロにゃんがおんぶしている。
こういう時は俺がおんぶするのが正解だと思うけど、クリスちゃんに嫌がられた。て、照れておるわ……そうだよな?
みんなと別れ、クリスちゃんを家まで送り届ける。
いっぱいお土産をゲットして帰ってきた娘の姿に、クーファ夫妻は申し訳なさそうにしていた。
また今度お礼をするよ、とレオニードさん。
クリスちゃんは可愛いからな、仕方ない。
そして、最後にフィーちゃんとも別れて、帰宅。
外との境界を越えた瞬間に、お互いの熱を求めるように荒々しく抱きしめ、唇を重ね合う。こうなることはあらかじめ分かっていたので、玄関のドアノブを握りながらの帰宅だ。
魔力交換の伴うキスに、お互いの身体が一気に熱を帯びていく。
甘い息を吐きながら、ロロにゃんが言った。
「お話はあとでね?」
「うん」
鼓膜にネトリと絡みつくような妖艶な声色に、俺はとても素直に頷いた。
そのままロロにゃんはすすぅと俺の目線から下の方へ外れていき、ホットな玄関業務に着手した。
脳と足腰がふにゃふにゃになりそうなBGMを聞きながら、俺はロロにゃんの温かな頭を撫で続ける。
こんな最高の女の子と別れるはずがないじゃないか。
ロロにゃんの方から別れようと言ってきたら、泣いて縋りつく自信がある。ダメなところがあれば直すし、ロロにゃん好みの男にだって変わってみせる。幸い、ありのままの俺が好きだと言ってくれるので、そういう心配は今のところないけれど。
今回の場合は、ロロにゃんが振られる可能性があるって話だけど……あり得ない話である。
「ロロにゃん……っ!」
「もごっ!」
頑張ってくれたロロにゃんを抱きしめる。
すぐさまチューが始まる。色々と問題のあるチューだが、結構な頻度で喰らっているのでもう慣れた。今では忌避感よりも頑張ってくれた証を伴うこのチューに愛おしさすら感じる。
「コウヤにゃん! 私、もう限界です! 40秒後に始めましょう! スタート!」
ロロにゃんはそう宣言して離れると、急いでブーツを脱ぎ始めた。
「ぼやぼやしないで!」
「はい!」
良い返事をして、俺もすぐに靴を脱ぐ。
宣言通り、40秒後に灼熱のバトルが始まった。
ら、ラブシードォ! んみゃー植わちゃうーっ!
17時から始まった激戦。
別れる別れないの話があった今日は、もう勉強や筋トレとかする気分ではなかった。
夕飯すらまともに取らず、ロロにゃん殺しとコウヤにゃん殺しが熱戦を繰り広げる。
そして、やっと落ち着いたのは22時。
この前買った素敵椅子の背もたれを少し斜めにして、俺は寄りかかりながら、ロロにゃんを抱きしめる。ロロにゃんの足は床につかずプラーンとしていた。
落ち着いたというより、ロロにゃんが気絶しているだけである。
俺はひとまずロロにゃんを洗う事にした。
そのままお風呂に連れて行って、泡泡にして洗う。
「んにゃわぁ!? ってお風呂だ!? あっ、にゃふー洗って洗ってぇ! コウヤにゃんコウヤにゃん、んふふふぅ!」
気絶から目覚めたロロにゃんは自動で洗われていたことに驚くも、すぐさま適応した。
ロロにゃんを隅々まで洗い、今度はロロにゃんが俺を隅々まで洗っていく。
お互いに泡泡になってから、抱きしめ合ってシャワーを浴びる。
「よぉし、それじゃあ再開しましょうか!」
ピカピカになったロロにゃんは、肩幅に足を開き、腰に手を置いて元気に言った。
「元気だなぁ、ロロにゃんは」
「コウヤにゃんに言われたくないんですけど!」
ビターン!
「論より証拠か、そう犯人は俺だ」
「やはりアナタが犯人だったのね。それじゃあ取り調べするから座りなさい!」
俺は正座した。
すぐさまロロにゃん刑事がころんと寝転がって俺の太ももに頭を乗っける。
ゴロニャンと洗ったばかりの顔を頬と言わず眉間と言わず擦りつけてから、俺の顔を見上げてきた。
「んふふ、凄い光景。どっちがコウヤにゃんだったかな? 近くにあるこの子かな? 遠くにいるあの子かな? ねえどっち?」
やはりロロにゃん殺しの威力は凄い。完全にロロにゃんがバカになっている。
「うっ、俺は一体どっちが本物なんだ……?」
「任せて、恋人である私が本物を見抜く! 間違いようもない、こっちがコウヤにゃんだ!」
ビターン!
「ロロにゃん、本物を見抜いてくれてありがとう、愛してるよ!」
「う、うわぁあああ、ビクンビクンしながら喋ったぁー!」
ビターン!
再☆開!
23時。
ようやっと俺達は落ち着いて話すことにした。
常に一緒にいるというのは、裏を返せばいくらでも時間があることと同義。
だから俺達の会話は時として遅々と進まない時がある。決して色に溺れているわけではないのである。
居間の座椅子に座った俺は、ロロにゃんを股の間に座らせて、抱きしめた。
「ロロにゃん、お話聞かせて?」
「うん。何から話せば良いかな」
ククルさんの謎のスカウト。
ロロにゃんと別れる可能性が微レ存の秘密。
果たしてそれは一体何なのか……
読んでくださりありがとうございます。




