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3-28 レベル教育補助

よろしくお願いします。

 義務冒険者たちは、高校生に先んじてレベル教育の準備に取り掛かる。

 そうしてすっかり準備が整うと、あとは高校生の自由時間が終わるのを待った。


 少し、レベル教育についておさらいしよう。

 レベル教育は、5歳から15歳まで行われ、その間にレベル10くらいまで少しずつ上げていく。

 ここにいる高校3年生は16歳になっているけど、合宿キャンプは例外となっている。


 義務冒険が始まる前の高校3年生は、ほとんどレベル教育がないので、サボった奴はレベルダウンしたまま義務冒険を始めることになる。


 戦う魔獣は、倒しても血が出ない、何を考えているのか分からない魔獣がほとんどだ。スライムとかミニエレメントクリスタルとかな。


 魔獣の倒し方は、基本的にテフィナのチート武器を使う。

 スライムやエレクリを即死させる武器だな。

 しかし、高校生になると一部魔法を使って倒す訓練も行われる。まあこれはオマケだ。魔法の訓練は学校の授業でやるため、月一程度の頻度で実施されるレベル教育で教えるようなことではないわけだな。


 レベル教育のおさらいは以上だ。


 さて、それを踏まえた上で。

 本日はキャンプ合宿である。

 いつもと同じレベル教育ではないのである!


 一番大きな違いは、血が出る魔獣をぶっ殺すことにある。

 魔獣と闘争を続けてきたテフィナ人は、魔獣を殺すことにあまり忌避感を抱かない連中みたいだけど、何も感じないわけではない。

 だから少しずつ慣れるために、そういう機会を作っているのだろう。

 とはいえ、ナマモノの出番はまだだ。


 まずはレクリエーションで、スライムやミニエレクリを倒すぞ。

 しかも、いつもの即死武器は使用せずに。

 やはりキャンプ合宿なので、魔獣討伐にもゲーム性を持たせているのだ。……テフィナ人はスライムとエレクリに結構厳しい。




 自由時間を終えた高校生が、スタート地点に並ぶ。

 彼らの前にはかなり広大な広場がある。


 俺達が振り分けられた義務冒険者Aチームは、高校生を横手に見る離れた場所で散開して待機している。

 義務冒険者Bチームは、さらに離れた場所で別のことをするために待機している。


『スタート1分前です。みんな、頑張ってね!』


 拡声器を使って、女性教師が生徒たちにエールを送る。

 優しそうで美しい女教師は、男子にも女子にも人気があるようで、はーい、と元気な返事が起こる。

 高校時代にあんな先生がいたら、きっと俺は資料室で二人っきりシチュエーションとか想像した事だろうな。


 ととっ、そろそろだな。


 Aチームの部隊リーダーが、手を上げる。

 俺とソーマが、それぞれバズーカー砲を担いだ。

 他のパーティも、同じように2名がバズーカー砲を担いでいる。


 部隊リーダーが手を下ろすと同時に、俺達は一斉にバズーカーを斜め上方へ発射した。


 バズーカーの射出口から、小さな球が散弾銃のように飛び出した。

 撃った球は、空中で弾け、たくさんのグリーンスライムとなって地面に落下していく。


 そんな光景が義務冒険者のパーティの分だけ見られた。


『それではスタートです! みんな、気をつけてねぇ! 頭の上からスライムが降ってくるからねぇ!』


 今一締まらない女教師のスタートの声に、生徒たちが、わぁーと駆けだした。


 これがこのキャンプ最初のレクリエーションだ。

 クソ雑魚のスライムとミニエレクリを自分の魔法で倒す、という趣旨。


 スライムは反撃はしてこないし、正真正銘の雑魚。

 しかも地面に這っているので、フレンドリーファイアの心配が少ない。


 テフィナの高校生はレベルの恩恵を受けているので、足が非常に速い。

 多くの生徒がスライムポイントに到達して、土魔法を使って倒しまくる。


 しかしながら、ロロにゃん同様に運動音痴の子もチラホラいる。


「あーあー、転んじゃったよぅ。みゃー、置いて行かれちゃう置いて行かれちゃう、クッソウケる!」


 スタート地点で転んだ女子を見て、ロロにゃんが嬉しそうに言う。

 ロロにゃんはちょっとクズなところがあるからな。可愛い。お仕置きしたい。


「お前、自分のこと棚に上げんなよ」


「アンタだってあんなもんでしょうが」


 ククルさんとシルニャンが呆れたように言う。


「ほらー、コウヤにゃんが誤情報バラまくからコイツら信じちゃってるぅ!」


「俺の所為!?」


「もうもう!」


 ロロにゃんは俺の背中に圧しかかり、ほっぺにほっぺをむぎゅすりしてきた。


「「働けー!」」


 ククルさんとシルニャンに叱られた。

 まったくの正論なので、俺はロロにゃんを窘めて仕事をさせる。


「ロロにゃん、次はロロにゃんが発射する番だよ? 気をつけてね」


「おっ、はぐらかし。仕方ない乗ってやろう」


 ロロにゃんはおふざけを止め、バズーカーを肩に担いだ。

 そうして足を曲げて膝を着き、構えるのだが。


「この女、こういうのやらせるとすげぇ様になるよな」


「ムカつくことにね」


 確かにロロにゃんは足が長いので、膝を曲げたりするポーズを取らせると凄く様になる。

 服を着てれば凄くカッコいいポーズになるし、服を脱げば足の角度一つに魔性が宿るほどに色っぽくなる。最高の彼女なのである。


「行け、我が僕たちよ! 発射!」


 ロロにゃんが追加のスライム弾を上空に打ち上げる。

 上空でスライムとなった弾は、地表で活動している生徒たちの頭に降り注いだ。

 ギャーッとそこかしこで叫び声が聞こえるがご安心。グリーンスライムは髪一本溶かせる強さすらない。まあネチャネチャしているので精神的ダメージは強いが。


「ひゃっはー! ネチョネチョは風呂場だけにしときな!」


 ロロにゃんが決めセリフらしきものを言って、仕事を終えた。

 ククルさんとシルニャンとフィーちゃんが、途端にもじもじし始める。きっとロロにゃんのオイルマッサージを思い出したんだろう。

 初心系男子のソーマも顔が真っ赤だ。ぞ、俗物め、などとポツリと反抗的なことを言っている。すまん、ドスケベな彼女で。


「お、おい、フィー。お目付け役だ。ロロがアホなこと言い出したらぶっていいぞ」


「ラジャ―ですぅ! 合体!」


 ククルさんの指令で、フィーちゃんがロロにゃんの肩に合体した。

 うわーやめろー! やめないですぅ! とロロにゃんとフィーちゃんがキャッキャし始める。


「よし、仕事再開だ」


 その後もみんなで変わり番っこでスライムを放出し、高校生たちを接待する。

 ロロにゃんは2回ぐらいぶたれた。


 広場には2つのステージがある。

 俺達Aチームがやっているスライム討伐ステージと、義務冒険者Bチームがやっているミニエレクリ討伐ステージだ。


 ミニエレクリ討伐は、20メートルほど離れた場所で放逐されたミニエレクリに魔法を当てるゲームである。

 遠目にその様子を見ると、100人くらいが楽しそうに魔法を放っている。


 エレメントクリスタル種は魔法が得意なのだが、ミニエレクリもその特性を持っている。

 だから普通に反撃が飛んでくるのだが、ミニエレクリの魔法は極めて弱く当たっても痛くない。間違いなくスタートで転んだ女の子の方がダメージが上のはずだ。


 レクリエーションはホイッスルの音で終了した。


 高校生たちはみんな満足そうに笑っている。

 まあ中にはスライム雨にべちょべちょにされている子もいるのだが。

 女子がそんな有様だと、男子は凄く意識している。しかし、ご安心。テフィナの思春期男子はみんな紳士の下着を買うらしいからな。


 高校生は先にお昼休憩なのだが、俺達は魔獣の残党狩り。

 俺達がゼットにインストールしている探索アプリで、スライムやミニエレクリの所在を確認し、始末していく。


 元々それほど多く残っていなかったので、全員で手分けしてやり、ものの5分程度で終わる。


 俺達もキャンプエリアに戻り、昼飯だ。

 高校生のご飯を見ると、どうやら最初の昼飯は自宅から持ってきたお弁当のようだ。

 俺達も自分で用意した食事を取り始める。


 俺達が飯を食っていると、また女子高校生がやってきた。

 キャッキャと5人ほど。


「あのあの、一緒に食べて良いですか?」


 先ほどとはまた違う女子たちだ。

 しかし、今回は俺達が有名だからではなく、義務冒険者全体に高校生が話しかけている感じである。

 他の義務冒険者は喜んで受け入れているので、断るのも憚れる。


「あ、ああ、別に構わないけど。ただお仕事があるからそれまでだけど」


「はい、大丈夫です。みんなー大丈夫だってぇ!」


「え」


 30人くらい追加された。

 なんという後出し。


 キャッキャキャッキャ、キャッキャキャッキャ!


 俺達のシートにくっつけるようにシートを並べ始め、女子たちが座っていく。

 一瞬にしてフィールド属性が女子になった。



『フィールド属性・女子』

~甘い香りを放つ様はまさに花園。男子が迷い込めば瞬く間に精神に異常を来すだろう~

 効果

・場にコウヤがいる場合、ロロにゃん袋からロロにゃん成分が大放出される。放っておくとコウヤはガクブルし始める。

・場にロロにゃんがいる場合、コウヤが受けるダメージを無効化する。

・場にソーマがいる場合、ソーマの顔面の筋肉が操作不能となる場合があり、高確率で行動が不自然になる。



「ろ、ロロにゃん、こっちおいで」


 俺はロロにゃんを召喚した。


 ロロにゃんは、俺に呼ばれて嬉しかったのかニコニコしながら俺の隣に座った。

 そうして、女の子座りする足の先を俺の足へくっつけた。

 接続完了。これよりロロにゃん成分を補給する。


 ふとソーマを見ると、片膝を立てて、片目を閉じ、興味ない素振りでパンを食べている。

 パンに歯を立ててから、ピッと食いちぎるようなワイルドな食べ方だ。

 しかし、その手が密かに震えていることを俺は知っている。


 ククルさんとシルニャンは、ぴっとりくっついてご飯を食べ始めた。

『こ、これ美味しいな』『そ、そうね。美味しいわね』などとクレソンを食べて言っている。


 フィーちゃんはククルさんのお膝の上で借りてきた猫状態。


「私たち、3年生なんです。来年から義務冒険者なんですよ!」


 女子が話しかけてきた。

 果てしなくどうでもいい情報なのだが、きっと会話の切り口なのだろう。


 すでに俺のパーティメンバーが使い物にならんことは知っている。

 俺は覚悟を決めて会話することにした。


 なあロロにゃん、もうちょっと密着率高くしてくれない?

 あーそうそう、良い感じ。

 敏感に察してくれるロロにゃんのエスパーっぷりに脱帽だぜ。


「そうなんだ。拠点にする世界はどうするの?」


 その質問に、女子たちが嵐のようにそれぞれの住みたい町を言い始める。

 くっ、ロロにゃんに触れてるのにロロにゃん成分が抜け落ちていく……っ!


 シートの別のところでは、ククルさん達が質問攻めに会い、ソーマも3人くらいに絡まれている。

 ソーマが泣きそうな顔で俺を見てくるが、すまんけど自分でどうにかしてくれ。俺のところ全体の半分くらいいるし。


 どうやら、この義務冒険者達との触れ合いは、これから義務冒険者になる高校生たちにとって良い勉強になるようで、先生たちもニコニコして交流を眺めている。助けてください。


 他の義務冒険者のシートでも、割とグイグイ質問しているな。

 これはある種、伝統的なことなのかもしれない。


 基本的に、男子のところには男子生徒が行き、女子のところには女子生徒が行くようだ。

 ソーマはかなり特殊である。フィールド属性女子が構築されてしまっているので、男子生徒が入り込む余地が微塵もないのである。


 そうしてやっぱり俺とロロにゃんは有名で、写真撮影を求められる。

 後ろではシルニャンとククルさんも同じように写真撮影を求められていた。


 そんな恐ろしい時間も30分程度で終わった。

 俺達はお仕事という大義名分があるので、強制的に終わらせられるのだ。


 そうして最後にやっぱり記念撮影。

 さっき写真撮ったじゃないか。


 シートを片付け、みんなでおトイレの建物まで行く。

 女子の群れから離れ、俺達はドッと息を吐いた。


「ごめん、コウヤ。このクエスト、想像以上に大変だった」


 ソーマが謝ってきた。

 さらに、ククルさん達にも向き直って、言う。


「みんなも、苦労を掛けてごめん」


 ククルさん達は、面食らったような顔をする。

 俺は笑って返した。


「何言ってんだよ。ソーマのメールにも書いてあったじゃないか。手間取る相手と戦うクエストだったんだろ? まさにその通りだっただけじゃないか。気にすんな」


「っっ! あ、ははっ。そうかも。手間取る相手だったな」


「そうだよ。ソーマ君が謝る必要はないぞ。いきなりグイグイ来られて確かに驚くけど、それは私たちの気質の所為だし」


「まあね。女子は集まるとうるさいのよね。にゃーにゃーにゃーにゃー。ホント煩わしいわ」


 ククルさんとシルニャンが続く。

 シルニャンは自分のことを棚に上げてるぞ。


「私も大丈夫ですぅ。ちょっと奴らの侵食速度に面食らっちゃいましたけど、次は行けますぅ」


 フィーちゃんも優しい言葉をかける。

 確かに奴らの侵食速度はクソ早かったな。まさか先兵を出した後に本隊が来るとは思わなかった。


 最後にロロにゃんが腕組みしながら言う。


「反省してんなら次からはコウヤにゃんとイチャコラ出来るクエスト持って来いよ」


「お前、ブレねえな」


 ククルさんが呆れながら言った。


「まあそう言うわけだし。気にすんなって。それにクエストはまだ始まったばかりだ。頑張ろうぜ」


「あ、ああ! 頑張る!」


 ソーマは若干目を赤くして、大きく頷いた。

読んでくださりありがとうございます。

■ラブニャーを一撃で終わらせる技術の名称が、話の前後で異なっていましたので変更しました。以降、『賢者法』で統一。間違えて申し訳ないです■

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