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3-23 妖精の結婚式

よろしくお願いします。

 その後もタンポポ拳士たちの演技は続く。

 これからフィーちゃんが覚え、俺にグロ画像を見せるであろう知らない技がどんどん出てくる。


 ある程度までプログラムが進むと、フィーちゃんに声をかけてくる妖精が何人か現れた。

 きっと、自分のプログラムやテフィナ人との語らいが一段落ついたのだろう。


 みんなミニチュア美少女中学生みたいな外見をしており、癒し度が極めて高い。

 しかし、誰もが時折劇画調になるのは解せん。

 タンポポ真拳特有のアレかと思ったが、開催式で見たマーチングバンド衣装を着ている妖精も同じだった。


 午後3時くらいだろうか。

 食後のポカポカ陽気に包まれて、朝から大はしゃぎだったクリスちゃんが疲れて寝てしまった。


 ミルクと砂糖で作られたお菓子のような幼児特有の寝顔を、超絶美少女なテフィナっ娘がするものだから、それは一種の神聖ささえ纏って見える。


 さらに、クリスちゃんが枕にしているのがロロにゃんの太ももなもんだから。

 そして、自分に甘えて眠るクリスちゃんの胸を、ロロにゃんが優しいリズムでポンポンと叩くものだから。

 もうね。

 宗教画と見紛うような神々しさがそこにあった。


 人ん家のお子さんとのペアですら、俺の心に感動を呼び起こすのだから、これが自分の子供だったらどうなんだろう。

 いつか必ずロロにゃんに子供を作ってもらおう。俺は改めて心に決めた。


「ん?」


 神聖なる決意を心に宿していると、クリスちゃんがおかしな現象を起こした。

 胸の辺りからふわふわとシャボン玉のような物を無数に出し始めたのだ。


「なにこ」


「「シーッ!」」


 問おうとした俺をククルさんとシルニャンがシンクロして、黙らせる。

 他の人の顔を見てみれば、全員がこの現象の正体を知っているらしく、物音を立てないようにしている。


 ステラさんが亜空間収納から、先端がスポイト状になっている透明な筒を取り出した。

 それをそっと近づけ、シャボン玉を筒の中に入れていく。


「凄い量」


「うん」


 シルニャンが呟いた言葉に、ククルさんが頷く。二人ともその光景をじぃっと見つめている。

 あっという間に筒はいっぱいになり、おかわりが続いて5本分の虹色に輝く筒が出来上がった。


「ありがたいね」


 ふいにそんな言葉が隣のシートから聞こえた。

 そちらを見れば、初老の夫婦と目があった。テフィナ人は80歳くらいから20歳前半の見た目に老化が始まるので、恐らく120歳くらいではないだろうか。

 ナイスミドルと美魔女である。


 穏やかな顔で会釈をされたので、俺も会釈し返す。

 可愛いわね、そうだね、なんて会話を聞きながら、俺は視線をレオニードさんに移す。


「レオニードさん、これなんなんですか?」


 俺はこそこそっと尋ねた。


「これはヨウジョニウムだよ」


「よ、ヨウジョニウム?」


「うん。テフィナ人女性が幼少期に発生させる特殊な魔法物質なんだ。非常に限定的な状況でないと発生しないんだよ」


「今がその限定的な状況なんですか?」


「うん。うららかな太陽光を浴びながら、大好きな人物にくっついて眠ると発生するんだ」


「なにそのメルヘン物質」


 美幼女で、猫みたいな仕草をしたり、胸からシャボン玉飛ばしたり。テフィナっ娘はなんなんだ?


「ヨウジョニウムはテフィナの技術を以てしても生成不可能な物質なんだよ。これを使い、脳の老化を完全に予防する薬が生成されるんだ。だから女の子が生まれた家庭は、極力ヨウジョニウムを採取するようにお願いされるんだ」


「すげぇ」


 そうか、だから隣のシートの夫婦は、ありがたいと言っていたのか。


「くぅ、悔しい。やはりロロが良いのか、クリスちゃんは」


「まあいっぱい遊んでもらってるし、仕方がないでしょ」


「ちげぇねえ」


 ククルさんとシルニャンがそんな事を言っている。

 一見冷静そうなシルニャンだが、その顔は少しばかり悔しそうだ。




 そんな穏やかな午後を過ごし、タンポポ真拳の演技も終わり、やがて夜が来た。


 タンポポ郷は様々な色の光を放つ花で彩られ、濃厚な食べ物の香りが通りを満たす。

 お祭りのためかコスプレ度合が高くなったテフィナ人や、綺麗に着飾った妖精たちが空を飛ぶさまは異世界情緒に溢れていた。


 俺達は昼と同じように屋台飯を食べ、大春華祭の大きなイベントへ向かう。

 場所は再びタンポポ畑を見下ろす土手なのだが。


 空を見上げると、そこには蒼い月が二つある。

 フェアリアムは月が二つあるのだ。

 二つの月に照らされたタンポポ畑は、その色を失った代わりに神秘さを増して思える。


 リンッと鈴の音が鳴った。


 草花を連想させる衣装をまとったたくさんの妖精が、土手の左右から鈴を鳴らして緩やかに飛んでくる。

 鈴の音を奏で、羽から光の粉を振りまく妖精達の列は、参列客から喧騒を奪うほどの美しさがあった。


 フィーちゃんも妖精の列に入っているはずだが、残念ながらどこにいるのかは分からない。


 二方向からやってきた妖精たちが合流すると、二重螺旋を描くように天へ向かって緩やかに飛んで行く。


 妖精が螺旋の塔を作り上げる。

 その塔は妖精の羽から零れる光の粉で、キラキラと光り輝いていた。


 ふいに手が握られた。

 誰であるか見なくても分かるその温かで華奢な手を俺も握り返す。

 その手から純魔力が流れ込んできて、あなたとこの光景を見れて幸せよ、と伝えてくる。

 俺も同じように純魔力を流し込むと、手を繋ぐだけでは満足できないとばかりに腰に腕を回して身を寄せてきた。


 一組の妖精が塔の前へ飛んでいった。

 他の妖精とは違い、大輪の花を想わせる衣装だ。

 二人は青く光るキャベツを大切そうに持っていた。


 彼女たちは妖精の塔の中に入ると、キャベツを二人で抱え、キスをする。

 その瞬間、キャベツが優しい赤色に変化する。


 リンリンリンッと、妖精たちが祝福するように鈴を鳴らした。


 二人の妖精は赤く光るキャベツを大切そうに抱えて、妖精の塔を上昇していく。

 嬉しそうに誇らしそうに、ありがとうありがとうと、塔を作る妖精たちにお礼を言う。


 再び、一組の妖精が飛んできて、同じように儀式を行っていく。


 ―――これは妖精の結婚式であった。

 女子高生や女子中学生程度の見た目の彼女たちが行うものだから、果てしなく百合百合しい光景だけど。


 そして、あの光る赤いキャベツ。

 名を妖精キャベツというのだが。

 あれから妖精が生まれるのである。


 妖精2人が妖精キャベツを抱えてお花魔法を発動すると、妖精キャベツから新たな命が誕生するのである。

 ちなみに、キスは何ら関係ない。テフィナ人がチュッチュするのが妖精的に素敵に見えるので、テフィナ人と出会ってから妖精たちが取り入れているのである。


 なんにしても、メルヘンな生き物だ。


 10組の結ばれると、万来の拍手と共に結婚式は終わった。

 塔を作っていた妖精たちが、一番上から順に散開していく。


 散開した妖精たちは、先ほどの厳かさはどこに行ったのか、ふぅーふぅーとばかりに鈴を鳴らして参列客の頭上を飛ぶ。


 妖精から零れる光の粉を浴びた女性が、キャーキャーと嬉しそうな声を上げる。


 俺達のところにはフィーちゃんがやってきて、リリリリリン! と鈴を鳴らしながらククルさんの上で踊る。


「よぉし! これで彼氏が出来るぞ!」


「フィー! 私も私も!」


 ククルさんとシルニャンがそんなことを言ってはしゃいだ。

 たぶんブーケトスみたいなものなんだろう。

 と、思いきや、フィーちゃんは2人だけではなく、クーファ家の面々にもぶっかけ、最後に俺達にもかけてくれた。

 幸せになぁれ的な感じなのかな?


 タンポポ畑に一陣の風が吹き、大地から綿毛が月夜に待った。




 大春華祭は、これから1週間続けて行われるそうで、フィーちゃんは一週間お休みだ。

 毎日行くわけにもいかないので、俺達は今日だけにし、フィーちゃん抜きでクエストを行う事になる。


 まあそれはともかく。


 祭りの熱、結婚式の熱、そんなものに浮かされて帰宅した俺は、最高に火照っていた。

 ロロにゃんも最高に火照っていた。


 玄関から激烈にラブニャーし続け、お風呂で彼氏座椅子で一息。

 風呂場特有の湿った静寂に、俺とロロにゃんの息遣いや会話が溶けていく。


「結婚式みたから、結婚したくなっちゃった」


「俺も。ロロにゃん、絶対結婚しようね」


「うん。約束よ? 結婚しようね?」


「ああ、もちろん」


 まだ18歳だけど、ロロにゃんしかいない。

 他は考えられない。


 っていうか、この約束は事ある毎にしている。

 本来なら俺の方が不安に思うような美少女だが、テフィナにおいてはロロにゃんは普通の女の子で、不安になっちゃうらしい。

 俺の方こそ、捨てられたら、ただの魔力タンクに見られたら、絶望して病んでしまうんだけどな。


「それでね、クリスちゃんが可愛くって、子供も欲しくなっちゃった」


「分かる。だけど、それはしばらく待ってね?」


「うん、それは分かってる。ちゃんとしなくちゃダメだし、コウヤにゃんとイチャイチャし足りないし。だけどね、お腹がね、キュンキュンするの。ねえ、お腹撫でて?」


「今日はお腹撫でて欲しい日なんだね」


「うん。しゅきしゅきの日なの」


 ロロにゃんは、たまにお腹を撫でて欲しがる日があった。

 そう言う日は、決まって苛烈さが極まる。


 俺はお腹をなでなでした。

 お湯の中でなお温かいロロにゃんの肌。その至福の温もりを前半身と手に神経を集中して堪能する。


「あっ、あんまり押さないで?」


 おっといけない。

 風呂が汚れる。


「あのね、明日ってお休みでしょ? ちょっとやりたいことがあるの。協力してくれる?」


「いいよ。どんなこと?」


「ちょっと特殊なラブニャー」


「ほぅ、興味深い。ぜひやろう」


「ホント!? んふふふぅ、楽しみ!」


 しかし、このラブニャーがまさかあんなことだったとは、この時の俺は知る由もなかった。


読んでくださりありがとうございます。

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