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3-23 フィーちゃんの哲学

よろしくお願いします。

■本日2話目です、ご注意ください■

『セーフ・オア・アウト? タンポポ真拳名物、爆散水風船が始まります。タンポポ拳士は緑帯の中級者。彼女たちはパートナーを無事に返せるでしょうか!? それでは拍手でお出迎えください!』


 そんなアナウンスが流れると共に、係りの人が俺達を入場させていく。


 俺はフィーちゃんと共に拍手を浴びながら土手の下にやってきた。


「コウヤにゃーん、かっこいーぞー!」


 あ、ロロにゃんだ!

 俺は手を振った。


 んちゅーんちゅーと投げキッスがたくさん飛んできて、俺の身体の中に入り込む。

 むくむくむくぅ、元気いっぱいっ!


 なお、ロロにゃんは同じシートの仲間から他人のふりをされていた。


「コウヤさん、マジどキツイ女がいますねぇ。なんなんでしょうあの人、知り合いですかー?」


「あの超可愛い子は、俺の彼女なのれす! しゅきしゅきー!」


「ふひゃー! 彼女が彼女なら彼氏も彼氏ですぅ!」


 フィーちゃんが嬉しそうに言う。

 本当に俺とロロにゃんのアホな感じが好きだな、フィーちゃんは。


 土手の下には椅子が等間隔で置いてあり、どうやらパートナーは椅子に座るらしい。

 俺はロロにゃん達に良く見える椅子へ座った。


「見て見て、ククル、シルニャン! あれあれ! あれが私の彼氏! 一番カッコいい! ふにゃー、んふふふふぅ! コーヤにゃーん!」


「うるせぇよ! わかっとるわ!」


「恥ずかしいから座りなさいよ! バカじゃないの!?」


「にゃー、やめろー! コウヤにゃんを応援しないとー!」


 めっちゃハイテンションなロロにゃんを、恥ずかしさに耐え切れなくなったククルさんとシルニャンが押え込む。押さえ込まれたロロにゃんを、クリスちゃんがぽかぁっとぶった。大変だな、アイツら。


 考えてみれば、ロロにゃんと出会ってからこういうシチュエーションはなかったな。

 俺がステージに立つと、ロロにゃんはあんな感じになるのか。可愛い過ぎる。


『それではまず、ミュー師範による模範演技を行います』


 それは助かる。

 こんな椅子に座らされて、どうなるのか不安だったのだ。


「ミュー師範ですぅ!」


 フィーちゃんが真剣な顔で、師範を見つめる。

 師範は、黒髪の妖精さんだった。身長は50センチ程度とフィーちゃんと変わらず、顔は高校生くらいの若々しさ。それなのになぜか白く長いひげを顎につけている。あっ、取れて慌てて付け直した。つけヒゲなことが一瞬でバレた。


 椅子に座ったテフィナ人の頭上3メートルほどの場所に、直径1メートルくらいのでっかい水風船が配置された。


『爆裂水風船は、タンポポ真拳参の拳、侵食・岩穿ちを使用します。失敗すると当然下の人は水浸しになってしまいます。しかし、これが成功するとー』


 そんな説明のタメを受け、師範が岩穿ちを打ち込んだ。

 するとどうでしょう。


 巨大水風船に入っていた水が完全な霧状になって爆散した。

 霧は魔法の風に運ばれて、タンポポ畑の方へ流れていく。


『このように、下にいる人は一切濡れないのです!』


 わぁーっと拍手が巻き起こる。

 確かに、すげぇ。

 以前、ロロにゃんが妖精はガチで強い種族だと言っていたけれど、確かに滅茶苦茶強いのかもしれない。


 それにしても、午前と違ってバラエティみたいなアナウンスになったなぁ。


『それでは、タンポポ拳士による演技に移りたいと思います。水風船セット!』


 水風船がセットされた。

 上を見上げると……おー、でけぇ。

 失敗したら確かにビッショビショになるな。


「コウヤにゃん頑張ってぇ!」


 俺が頑張るんじゃないんだけど、俺はロロにゃんに手を振った。まるで有名人に手を振られた女の子みたいにめっちゃ嬉しそうな顔をした。


「それじゃあフィーちゃん、頼むぜ?」


「まーかされよー」


 フィーちゃんはいつの間にか劇画調に変わり、腕を組んでふわりと水風船の辺りまで高度を上げた。

 どうやらこの演技は、端っこから順番に行うようだ。俺達はちょうど真ん中あたり。


 隣にはリリィちゃんの組がおり、椅子に座る女子はガクブルしていた。


 わぁあああ、と拍手が巻き起こるのは成功したからだろう。

 失敗したヤツにも惜しみない拍手が送られている。


 そしてリリィちゃんの番になった。

 真っ赤なオーラを纏ったリリィちゃんは、両腕をグルングルン回し、エネルギーを凝縮するように右腰へと両手を置いた。


「愛注入・岩穿ち!」


 侵食・岩穿ちと何も変わらない一撃が、水風船に叩きこまれた。


 不完全。

 俺の目にも明らかな結果が、下に座る女子をびしょびしょにする。

 ふぇええ、などと言っている女子だが、君、たぶん男子の注目集めてるぜ? おっぱいが大きい上に、スケスケだもの。


 師範が『6割』と判定。

 爆散6割らしい。

 しかし、これは失敗ではなく、5割を超せば昇級らしい。完全な霧状に爆破するのは、師範代クラスにならないと無理らしい。


「ひゃー、すみませーん!」


 そう謝るリリィちゃんだが、女子はむしろ良い判定を貰えて我がことのように喜んでいる。凄く良い子である。しかもスケスケ。


「笑止、ですぅ。それが愛などと言う耳障りの良い力の限界ですぅ」


 完全に悪役のセリフなんだよなぁ。

 そんなフィーちゃんに、リリィさんが聖属性に満ちた瞳を向けた。


「不完全でも良いんだよ」


「なんだとぅ?」


「だって、タンポポ真拳はまた一つ、シャリーさんとの思い出をくれたもの。やっぱりタンポポは愛を運ぶのよ」


 びしょ濡れ女子との思い出ゲット。

 良い話だなぁ、とチラリと思った俺だが、フィーちゃんが反論する。


「リリィ、お前の拳は何のためにあるですぅ」


「愛を育むために」


「愚かなりですぅ! 戦闘中に絆を深めることもあるでしょうが、愛を育む主戦場はオフの時ですぅ。拳とは、オフの時に育んだ愛を守るためにあるですぅ!」


「っっっ!」


「故に、タンポポ拳士は強さを欲し、侵食力を極めるのですぅ」


 お、おー……これは本当にフィーちゃんかな?

 爆散厨とは思えないしっかりとした考えだ。

 これには、キリリと持論を述べたリリィちゃんもグラつく。


「何より、お前が使った技は、浸食・岩穿ちと何も変わらないですぅ! 名前を変えるだけで、愛などと片腹痛いですぅ!」


 ピシャゴーン! とフィーちゃんは人差し指を突きつけた。

 リリィちゃんは狼狽した。


「良いから早うせい」


 ミュー師範が横から注意した。

 何を隠そう、イベントはフィーちゃんの爆散待ちなのだ。


「す、すみませんですぅ! とにかく、我が侵食の力、とくと見るが良いですぅ!」


 フィーちゃんはそう言い捨てて、準備に入った。


 不安な俺は頭上を見上げる。

 はわぁ、水風船でけぇ。


 ロロにゃん成分が急激に失われていくので、ロロにゃんを見た。

 ロロにゃんは必死に、んちゅーんちゅーと遠隔キッスでロロにゃん成分を飛ばしてくる。ありがてぇ、これで頑張れる。


 そんなロロにゃんは野放しで、ククルさんとシルニャンはゼットで俺達を撮影していた。レオニードさんはすげぇ楽しそうに笑っている。


 俺は再び頭上を見た。

 真っ赤なオーラを纏ったフィーちゃんが、グルングルン腕を回す。

 心なしか、回し練っている空間が陽炎のように揺らめいているように見える。


「み、見事な侵食力……っ」


 ミュー師範がそう呟き、白いつけヒゲがずれた。


 準備が整いつつあるのを察した俺は、こういう系のバラエティ番組で芸能人がそうするように、視線を前に向けて身体を強張らせた。ここに座れば、奴らの気持ちもよく分かる。上なんて怖くて向いてられない。


 そして、その時が来た。


「浸・食ぁ☆いぅっっチィイヤァアア!」


 裂帛の奇声と共に、ドゥウンと頭上から音が聞こえる。

 しかし、割れた音は聞こえない。


 恐る恐る頭上を見れば、水風船は変わらずそこにあった。

 失敗か? きっと観客たちはそう思った事だろう。


 しかし、俺は知っている。

 この技は遅れてくる。


 フィーちゃんは劇画調で残心すると、くるりと背後のミュー師範へ向き直り、押忍ぅと十字を切った。


 その瞬間、水風船が爆散した。


 周りの膜が綺麗に破れ、中から霧がぶわりと現れる。

 瞬時に魔法の風に煽られて、俺の背後にあるタンポポ畑に流れていく。


 俺に掛かった水は……


「見事……っ!」


 ミュー師範が、『9割』の札を提示した。

 爆散9割。


 つまり、俺に掛かった水は1割。

 ……十分な量であった。一斗缶1杯分はあるぞ。

 これ、緑帯の妖精さんがやると、ほぼ確実に水浸しになるんじゃないかな?


 リリィちゃんが恐れ慄いたように言った。


「ど、どうしてそれほどの力を……っ」


 フィーちゃんは劇画調のまま俺の方に飛んでくると、濡れた上半身に構わず、俺の肩に合体した。

 そうして、俺の額に腕を回し、キリッと答えた。


「魔獣を倒しまくってればこうなるですぅ」


「おい、思わせぶりに仲間に肩車したのにそれかよ」


「コウヤさん、仲間は仲間、タンポポ真拳はタンポポ真拳ですぅ。私がタンポポ拳士でなくても、コウヤさんは私を仲間にしてくれたでしょー?」


「それはな」


「そういうことですぅ。仲間との絆とタンポポ真拳に関連性なんてほとんどないんですぅ」


 故に、タンポポ真拳に愛などいらぬと。


「だ、だけど、それじゃあこんなに綺麗なタンポポは……生命溢れるタンポポは……邪悪なものなの?」


「想像するがいいですぅ、リリィ。タンポポが世界を満たした姿をー。誰もが笑顔でタンポポコーヒーを飲む姿をー」


 嫌だよそんな世界、とは口が裂けても言えぬ。

 リリィちゃんのパートナーの女子も微妙な顔だ。

 しかし、リリィちゃんの心は打ってしまった模様。


「そ、そっか……侵食の果てに、極大の愛があったのね」


 これについては同意できた。

 俺とロロにゃんは、愛の過程で侵食し合い、極大の愛へと姿を変えた。侵食ラブチュッチュは重要なファクターだったのだ。


「ピキーン! 私もそう思います!」


 エスパーロロにゃんが叫んだ。最近の俺達の繋がりっぷりが凄い件。

 おかげで、ククルさん達がポカンと口を開けている。


「私の負けだわ……」


「リリィ……」


 しょんぼりするリリィちゃんを女子が優しく抱きしめる。びしょ濡れのまま。


「精進するですぅ。お前が好きな愛を守るために拳へ修羅を宿すのも、一つの愛の形ですぅ!」


「ふぃ、フィー……っ!」


 緑帯が偉そうなことを言い、中二病患者の琴線に直撃した。


「涙を拭くですぅ。泣き虫は礫岩に咲くタンポポに見下されるですぅ」


「っっっ、ち、違うわ。これは目に綿毛が入っただけ」


「ならば良し、ですぅ」


 2人の会話に、俺と女子の困惑度が急上昇である。

 シリアスなのか、ギャグなのか判別に困る。


 ミュー師範もなんかおかしな感じだったし、妖精はマジでこんな奴らばっかりなのだろうか。

読んでくださりありがとうございます。

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