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1-9 援助と買い物

 よろしくお願いします。

「それじゃあ、やらなくちゃならない事を済ましちゃおうか」


 そう言って、レオニードさんが説明を交えて各種手続きを始める。

 手続きに必要な書類や機材は、レオニードさんがどこからともなく出した。


 まずは身分証の作成。

 仮の身分証を借りていたけど、それの本物バージョンだ。


 この身分証がまた凄かった。

 身分証は魔力で本人認証をするカードだ。

 魔力を通す前は中央にテフィナの文字で『身分証』と書かれた柄の入った簡素な板なのだが、魔力を通すと柄が無くなり、身分証本来の姿を現す。


 トップページには、俺の名前や年齢、生年月日、住所等の情報が書かれている。


 ちなみに、俺の生年月日はテフィナに来て変わってしまった。

 魂の双子は同じ瞬間にこの世に生を受けるので、俺とロロティレッタは同じ誕生日となる。

 しかし、生まれた瞬間は一緒でも、地球とテフィナでは現在の日付自体がそもそも違うのでこういう事態になったわけだ。


 身分証は個人証明だけの物でなく、テフィナで生きていくなら必須とも言える機能が3つついている。

 それらの機能はトップページをスライドすることで各項目の詳細を見ることが出来る。


 一つは、ゲートを使用できるようになる。

 この機能を使うために俺は仮の身分証を借りていたわけだが、本物をゲットできたので返却だ。


 一つは、お財布機能。

 テフィナはすでに貨幣が廃れており、全てデジタルマネーで決済をする。

 しかも、多通貨社会ではなく、『テス』と言う一つの通貨しか存在しない。

 それでどうやって経済が回るのだろうか、と偉そうなことをチラッと思ったが、考えてみれば地球の経済がどうやって回っているかもよく分かっていないので、すぐにどうでもよくなった。

 また身分証では、所持金や支出履歴などを見ることが出来る。


 もう一つは、鍵機能。

 身分証は鍵にもなるのだ。

 先ほど、ロロティレッタがこの家の開錠した時も身分証を使っていたわけだな。

 もちろん、ドアや箱にそういう機能が元々ついていなければ意味がないのだが、ついているなら登録すれば鍵となる。家などにはほぼついているそうだ。


 当然、俺達の家にもついているので早速登録し、俺の身分証の『登録している鍵のページ』にこの家の住所が先頭に載った。

 また、その住所の隣にはハートの中に1と数字が入ったアイコンがあった。それが何かと言えば、自分と同じ鍵を登録している人の人数を意味しているらしい。つまり、ロロティレッタさんと同じ鍵を持っていますよ、と告げている訳である。密かにテンションが上がった。


 他にも、日記・メモ機能がついているみたいだ。

 あとロロティレッタの身分証は魔力を通す前の絵がただの模様ではなく、デフォルメされたアニメキャラの絵だった。そういうのも変えることができるらしい。


 そんな身分証をゲットだぜ!

 身分証についてはこんなところだ。


 だが、身分証はお財布にもなっているので、早速登場だ。

 その身分証の中に援助金として50万テスも入金されたのである。


 すげぇ大金だ、と喜んだのもつかの間、どうやらこれは迷い人の援助としては安い金額らしい。


 なんでも、普通の迷い人だと、技能教習生や学生をやっている間は月々で15万テス程度の援助を受けられるらしいのだ。

 さらに、初回に支度金としてちょっと多めに貰えたりもする。迷い人は大体の場合何も持ってないからだろう。


 俺はその月々の援助金が貰えないのである。


 それは何故か。

 義務冒険に参加するからである。


 義務冒険に参加するテフィナっ子は全員、支度金として行政から20万テスが給付される。

 その後の援助は基本的になく、働いてお金を稼がなければならない。

 もちろん、ロロティレッタも例外ではない。


 そんなロロティレッタと運命共同体ともいえる俺が月々の援助金を貰えば、ロロティレッタの義務冒険はイージーモードになってしまう。

 そういうわけで、俺の月々の援助金は無しだ!

 その代わりに、義務冒険者なら誰でも貰える最初の支度金がちょっと多めになっているみたい。大切に使おう。


 ちなみに、義務冒険のイージーモード化を防ぐために、親からの仕送り等は認められていないらしい。

 結構ちゃんと社会生活能力を育ませようとしているんだな、と思った。


 話を戻そう。


 また、迷い人は、技能教習生や学生の間の居住費が無料だったりするのだが、それも無しだ!

 そう、ロロティレッタがイージーモードになってしまうからである。


 ロロティレッタのイージーモードを防止するために、俺がハードモードになっている気がしないでもないが、いきなりスラム生活を余儀なくされるようなブラック異世界生活を想像すれば、天国待遇だろう。


 また、どうしても生活が苦しいという事態に陥ったら、相談に乗ってくれるそうだ。


 実を言うと、俺はかなり特殊なのだという。

 異なる世界で生まれる魂の双子『フェーディ型』はテフィナで過去に3組いたそうだが、その当時に義務冒険制度はなかったんだとか。

 つまり、フェーディであり、かつテフィナ人の片割れが義務冒険をスタートしてしまっているという前例がテフィナにはなかったのだ。

 故に、テフィナ行政も俺にどれだけ援助して良いか匙加減が分からないらしい。


 まあ、支度金で20万、援助金で30万貰っているのだし、たぶん何とかなるだろう。

 何とかならなくても、取り返しのつく期間に失敗するのもそれはそれで経験だ。


 さて、お金の話はこれくらいで。


 援助はお金だけではない。

 教育プログラムも援助内容に盛り込まれている。


 色々な教育プログラムが用意されているけど、特に重要なのは2つ。

 常識の勉強とレベル教育への参加である。


 レベル教育というワクワクする響きのあるプログラムは明日から参加するので、その説明はその時するとして、常識の勉強について。


 ところ変われば人の価値観は変わる。価値観が変われば常識も変わる。常識が変われば法も変わる。当然のことだ。

 そういうわけで、テフィナで生きていく上で必要なことを少しずつ教えてもらえることになった。

 

 常識の教育に先んじてアンケートをやらされた。

 ルーラさんに送られてきたので悪人ではないと判断されているようだけど、ルーラさんは別にテフィナの守護者というわけではないので、全面的に信頼するわけにはいかないのだろう。


 テフィナ語で書かれている問題を、時に即答し、時にその状況を思い浮かべて答えていく。


 次元すら超えた先にある文明が出した思考調査なので、答えなんて分からない。

 だから、正直に答えた。

 いや、正直に答えた理由はそれだけではないな。

 一つ、懸念があるのだ。


 もしかしたら、この文明は思考を読むことすらできるのではないか、と。

 ロロティレッタの昔話に出てきて、さらに俺を観察していた『機人』というのは、早い話ロボだと思う。半ロボかもしれないけど。

 そんな技術を持っている連中が、嘘発見器や思考透視術を開発していないとなぜ言い切れる。魔法もあるしな。

 そういうわけで、嘘を吐くのは得策ではないと判断。


 尤も、幸いにして嘘を吐くほどの問題は出てこなかった。

 いや、答えが分からないので致命的な回答をしてないとも限らないけど、たぶん平気。

 だって、見る限り、逆の答えを書いたら人格を疑うような問題ばっかりだもの。完全に小学校の道徳レベルだ。


 レオニードさんは俺の答案を見て、大丈夫だね、とニッコリ。

 俺もニッコリ。


 そんなアンケートが終わり、最後に、2つ貰った物がある。


 一つは、『スケープゴート』という物だ。


 テフィナ人は魔力で重大なダメージを肩代わりするマシルドという生態機能を持っているのだが、これはそのマシルドを張れない状態に陥ると強制的に発動して近隣の町へ転移させる魔道具である。


 スケープゴートは一度発動すれば壊れてしまうのだが、すぐに配布して貰える。

 ただし、回数を重ねるごとにスケープゴート税が高くなるので注意が必要だ。


 スケープゴートがあり、かつ医療技術が発展しているため、テフィナは大体の人が寿命で死ぬみたいだな。

 たぶん、子供に義務冒険をさせるのもこれらが原因だろう。


 スケープゴートは体内埋め込み式で、小さな筒状の物を専用の道具で手の中にニュルリと入れた。


 もう一つは、亜空間収納を貰えた。


 ベーシックサイズで10立法メートル程度の亜空間で、中に色々な物を入れることができ、持ち運ぶ際に重さは一切感じないという便利な代物。ぶっちゃけ、異世界ラノベでよくあるアイテムボックスである。

 ベーシックサイズの物は誰でも無料で貰えるのだが、これ以上のサイズになると有料となるそうだ。


 しかし、この亜空間収納だが、貰えるのはあくまで亜空間だけであり、実際に使うには亜空間と繋げる媒体が必要となる。ロロティレッタのコートみたいな物だな。レオニードさんは腕輪だ。

 媒体に接続するにはコードナンバーが必要で、それは身分証に記載されている。


 貰ったものは以上だ。


 あー、そうそう。

 健康診断の検査結果も貰ったんだ。


 まったく心当たりのない健康診断だったのだが、実は例の機人という連中が昨日の内に俺の毛髪を採取して遺伝子レベルで調べていたらしい。

 というのも、俺は未知の世界の生まれだ。地球なら防護服を着て接触する類の存在である。

 ルーラさんが歩く細菌兵器をテフィナに送り込む事なんてないらしいのでそこまで心配はしてなかったらしいけど、何かあってからでは遅いからな。


 検査の結果、俺は遺伝子レベルで完全にテフィナ人となっており、テフィナ人との間に子孫を残すことも普通に可能らしい。当然、未知のウイルス等のキャリアでもなかった。

 また、魔力に属性を帯びさせられない俺だが、第二次魔力覚醒期が数日中に来るだろうということも診断された。

 いろいろとホッと安心しつつ、クリスマスが来るのを指折り待つ子供の如く、俺は魔法が使えるようになるその日の到来を心待ちにすることにした。


「ふぅ、これで終わりだね。お疲れ様」


 レオニードさんがニッコリと笑って言う。

 俺が男で良かったな。日本人の女子なら、アンタに見惚れてあと5時間は余計にかかったと思うぞ。


 俺も釣られて頬を緩め、ありがとうございます、とお礼を言う。


 一方、俺の相棒は途中から炬燵で寝ている。

 お金の話の途中で光熱費等の話になったのだが、その頃に目をしょぼしょぼさせ始め、義務冒険の保険加入の話になった頃には完全に落ちていた。


 まさか、右も左も分からない異世界出身者が、現地人の面倒を見ることになるのだろうか。

 顔だけ見ると、ロロティレッタはそりゃもう親に決して甘えない超自立ガールに見える。父上には甘えられません、と父上泣かせのセリフを口にしそうな顔をしている。

 しかし、実際にはどうだろうか。めっちゃ甘えて生きてそう。

 大丈夫だろうか? 一緒に協力して生きてくれるよな? マジで頼むぜ?


「この後はお買い物の予定だったんだけど、大丈夫かな?」


 この後は件の亜空間収納の触媒と、異世界版スマホであるゼットを買いに行く予定だ。他にも生活用品諸々もな。


「ロロティレッタ、起きろ。出かけるぞ」


 肩を揺すって起こすと、ロロティレッタは目を開けた。とろんとしている。

 はわぁ、やっぱり可愛い。


「んぇ? あぇ? お話終わったの?」


「ああ。で、これから買い物に行くんだよ。ゼットも買いに行くから、お前のも直してもらおう」


「行く!」


 まあ来ないという選択肢はないんだけどね。

 魔力交換は現状で30分程度しか持たないから、時間が掛かることをするなら一緒に行動しなくちゃならない。


 ちなみに、魔力は普通に使っている分には枯渇することはないらしい。自分の意思で体力をゼロまで使い切るのが難しいように、魔力もまたゼロまで使い切るのは難しいのだ。

 故に、魔力交換でスケープゴートが発動することはないそうだ。




 町内ゲートを潜り、ショッピングだ。


 ルシェの町はお洒落さと可愛らしさが合わさった建物で統一されているため、商店街に並ぶお店もまたそれに合わせられている。

 むしろ、デザイン性の高い木枠造りの建物に大きなショッピングウインドウやひさしがついたことで、お洒落で可愛いお店が上品さを纏ったように見える。

 そこだけ見れば、量販店でしか服を買った事がない小僧を気後れさせるには十分だったのだが、ここは魔法が当たり前に存在する文明だ。

 そう、商店街のあちらこちらで魔法っぽい物が使われていて、気後れする暇などなかったのである。


 噴水の水が見えないスロープを流れて空中で流動するアートを作っていたり。

 カフェのオープンテラスにいるカップルが、お互いのジュースに色付きの光球を入れて液体の色を変えてイチャコラしていたり。とりあえず爆ぜろ。

 土魔法で包んだ肉を火魔法で加熱する料理法をパフォーマンスしていたり。


 魔法技術が根付いた生活の様子に、俺の視線はあっちへふらふらこっちへふらふら。

 しかし、ウェルクまでの道中と違って、ここには大勢の人が居る。さすがに大はしゃぎはできない。

 そんなわけで、なんだあれぇ!? と内心で叫びつつ、俺は面白い光景に吸い寄せられる。


「首輪でもつけた方が良いかしらね?」


 そんな俺の様子に、ロロティレッタが呆れた感じで言う。


「安心しろ、魔力交換してないから5メートル以上離れられない。首輪つけてるようなもんだ」


「紐を引っ張る用の首輪よ」


「わ、わんわん!」


「ハウス! まったくバカ犬めぇ」


 ふむ、かなり良い感じで冗談を言えるようになったかな?

 まだ全然時間が経っていないから、時折観察する視線が飛んでくるけどな。


「ほらほら、二人とも日が暮れちゃうよ」


 バカやっている俺達にレオニードさんが言う。

 ウェルクでは16時になっていないくらいだったが、時差があるためにルシェはまだ昼ちょっと過ぎだ。しかし、時間はあるけど、色々とお店を回らなくてはならないので、余裕があるかは微妙なところだろう。


 さて、全くのゼロというなかなか体験できない新生活なので、買う物は結構ある。


 まずは、亜空間収納の媒体からだ。

 もちろん、荷物を持ち運ぶ手間を省くためである。


 媒体専門のお店に行くと、色々なタイプがあって驚く。

 アクセサリーやカバンやコート等が種類毎においてある。スケープゴートみたいに身体の中に埋め込む物もあるみたいだ。


 俺は考えた末に、衣類タイプにした。


「衣類タイプにするなら、変形するのじゃないと不便よ」


 ロロティレッタが教えてくれる。

 なんでも、部屋等で脱いだ時は服をぐるっと回すとリストバンドに変形するんだって。リストバンド時も変わらず媒体として使用できる。

 この機能はロロティレッタのコートにも付いているみたいだ。


 俺が買ったのはジャケット。色は黒。

 買った後に気づいたのだが、ロロティレッタとペアルックみたいになった。

 まあ、いいや。俺も黒が好きだし。


 店員さんのサポートで、ジャケットに俺の亜空間収納のコードナンバーを入力して亜空間と接続。

 これで俺も、夢にまで見たアイテムボックス持ちである。

 亜空間収納のコードナンバーを入力すれば他の媒体と接続することもできるそうなので、もしジャケットが使いにくかったらその時はまた考えよう。


 とりあえず意味もなく財布を収納してみる。


「おお!」


 出してみる。


「おお!」


 すげぇ、これがファンタジー!

 って、ヤバいみんなにめっちゃ見られてる。


 レオニードさんと店員さんは生暖かい目。

 ロロティレッタは何やら唇をムニュムニュ動かしてチラチラ。


 笑ってごまかして置いた。


 その後は日用雑貨や衣類などを揃える。

 日用雑貨はともかくとして、今着ている制服以外に持っている服が何もない事態なんて経験したことが無いので、服を何着買えば良いのか少し悩んだ。

 とりあえず、ジャケットに合うパンツだけちょっとお高いのを買い、他に買った数着は安い物にした。あまりお金を使いたくないしな。


 さて、その次は異世界版スマホ・ゼットである。

 テフィナは個人宅に固定電話を置く文化がとっくの昔に廃れてしまっているので、コイツがないと不便なのだそうだ。


 ゼットは板タイプだけではなく、丸型や棒型と色々あった。

 板タイプは普通にスマホみたいな感じだが、丸型や棒型はキーパッドや画面にホログラム技術を使うらしい。ホログラムには憧れるが、正直、自分が使いこなしているビジョンが湧かない。

 慣れ親しんだ板タイプで。


 ゼットは異世界版のスマホと形容したが、本当にそれに近かった。

 相応に知識がないと使いこなせないということも同じ。故に、俺は使いこなせないだろう。まあ、浅く広く使えれば良いんだ。


 お店の中で、レオニードさんのゼットを見せてもらうと待ち受け画面に女神と天使がいた。

 奥さんと娘らしい。

 俺の中で、ロロティレッタに纏わるレオニードさんへの警戒レベルが物凄く下がった瞬間であった。


 とりあえずよく分からないので、ロロティレッタに、彼女自身とレオニードさんの連絡先を登録してもらった。

 いや、俺も自分でやりたかったのだが、俺がまごついているのを見て、彼女に取られたのだ。

 普段の俺なら、バカにしないでよ、と反発しただろうが、相手は美少女。何の文句もなく手渡した。男って奴は美少女が関わる場合、全く別の生物になると思って間違いないのである。

 それになんか画面を弄りながらチラチラこっちを見てくるし。構って欲しいのだろうか? そうだったら可愛すぎるだろ。


 その後は生活用品を買い揃え、終了。

 ……ではない。


 ベッドを買わなくてはならないのだ。

 いざ、家具屋さん!


 しかし、ここで問題が発生。

 ひとえにベッドと言っても、足の高さやマットレスの硬さが違うのである。

 これではロロティレッタのベッドと合体できない。俺のベッドの方が高かったら寝ぼけて俺に抱き着いてくるというハプニングが起り難くなるではないか。低ければありそうではあるが。

 え、部屋の端と端にするんじゃないのかって? ははっ。


「生咲君、このベッドが絶対に良いよ」


 ここでレオニードさんが一つのベッドを猛プッシュしてきた。

 むむっ。

 俺もそのベッドに何か感じるものがあった。


 足の高さも、マットレスの硬さも、こいつぁ……どうだろう?


「こっそり調べてきたから間違いないよ」


 出来るイケメンだ!

 俺は真っ赤な顔でサッと視線を逸らした。同じ男子故に、完全に思考が読まれていた模様。


 そんなこんなで今度こそ買い物は終了だ。


 時刻は夕暮れ時になっており、レオニードさんにパスタを奢ってもらう。

 俺はクリーム系、ロロティレッタもクリーム系、レオニードさんもクリーム系、見事に全員被った。クリームだけしかないわけではないぞ。

 異世界感は皆無であったが、かなり美味しいパスタであった。


 そして、帰宅。


 レオニードさんは本日最後の仕事を始めた。


「じゃあベッドを出すね」


 俺とロロティレッタに確認を取ると、レオニードさんは寝室に亜空間収納から先ほど買ったベッドを取り出した。

 僕が持って行ってあげるよ、と何故か提案されたので、全く意味が分からなかったものの、まだレオニードさんとの距離を測りかねていた俺はそれに甘えることにしたのだ。

 しかし、これにはイケメン独自の深い深い理由があったということをこの瞬間に気づかされた。


 レオニードさんは10畳ほどの寝室にベッドを出現させる。

 そのベッドを、元々置いてあったロロティレッタのベッドに……ドッキング!


「ふぅ!」


 汗を拭う振りをして、レオニードさんはこっそり俺にウインク。

 この人は良いイケメンだ!

 俺の中でレオニードさんの好感度がどんどん上がっている。メインヒロインはもしや……うぅう、頭が……っ。


 しかし、本当にこれは助かるぜ。

 なぜなら、俺がやるのと第三者がやるのでは話が全然違ってくるのだ。

 もし、ロロティレッタに嫌がられたら全部レオニードさんのせいにすればいいのだから。いや、俺だってベッドをくっつけるのはおかしいなって思ったんだよ、とか言って。最低である。


 さて、注目のロロティレッタの反応は……プクッと頬を膨らませて赤面している。

 だが、俺や恐らくレオニードさんが想定していた文句は飛んでこない。普通はいちゃもんをつけてくると思うのだが。いや、出てくるとしたらいちゃもんではなく正論だが。


 割と満更でもない?

 あるいは魂の双子が一緒の空間に寝るという大前提に気を取られて、ベッドを離しても問題ないことに気づいてないのだろうか?


 ロロティレッタの内心は分からないが、文句が出ないならそれに越したことがない。しめしめ。

 読んでくださりありがとうございます。

 次話は本日12時予定です。


 評価やブクマしてくれた方がいてくれて、とても嬉しいです。ありがとうございます。

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