表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/171

1-7 レオニードさんとラッキースケベ

 よろしくお願いします。


 そんなこんなで町に到着だ。

 俺の中でファンタジーの街と言えば、外壁に囲まれていて大門の前に門番がいる印象が強かったが、この街にはそのいずれもなかった。結界なんぞあるわけだし、外壁なんていらないのかもしれない。

 しかし、境界は必要なのでアーチは存在する。


 アーチを潜るといよいよ街が始まる……とおもいきや。

 臨海公園が広がっていた。

 左手に海水浴場、右手に芝生公園とスポーツ広場。道なりに行けばお店が軒を連ねている。


 しかし、昨日は大嵐だった。

 その影響で波は高く海水浴場は進入禁止となっているらしく人っ子一人いない。同じく芝生公園も水気が酷くて誰も居ない。


 そんな寂しい公園を遠目にロロティレッタに案内されたのはアーチを潜ってすぐそばにある装置だった。


 台風の影響で寂しい様子の公園なのだが、その装置の前にぽつんと凄まじいイケメンが立って居た。王子とか勇者とかしてそうな金髪碧眼の爽やか系男子である。

 なんだろうか、コイツ。

 ようこそ、ここはウェルクの街だよ、というだけの役柄とは到底思えない煌びやかさなんだが……


「こんにちは」


 イケメンが爽やかな笑顔を振りまいて話しかけてきた。


 すわっ、敵襲ナンパか!

 俺は咄嗟にロロティレッタを背後に隠した。

 しかし、ロロティレッタはなんだコイツみたいな怪訝そうな顔を他でもない俺に向けながら、俺の背後から出てくる。

 こんな事ってあるんだなぁ。

 俺は遠い目をしてから、再びロロティレッタを背後に隠す。ほらっいいから守ってやんからさ!


「ちょ、な、なんでいきなり意地悪するのよ!」


「あーーーーーーーーーーっ!」


 背後からまさかの裏切り振動魔法。

 いや、待て待て。お前はもうちょっと自分が綺麗だと自覚を持てや。


「仲が良さそうだね」


 と、イケメンが笑って言う。


「そんな事ないですし!」


 すかさずロロティレッタが噛みついたが、俺は割と仲良くやれていると思うよ?


「ははっ、そうなのかい? まあ、そこら辺の事は一先ず置いておいて。ロロティレッタ・ロマさんと生咲洸也君だね?」


 むむっ、俺達の名前を知っているのか。

 ナンパではない?

 考えてみればこの人っ子一人いない公園にナンパ師がいるのは不自然だ。

 つまり、俺達に用があってここで待ってたのか。

 なんにしても名乗ってない名前を知られている以上、少し警戒しておこう。


「はい、そうです」


「僕はルシェの役場で働いているレオニード・クーファと言います」


「あ、お役所の方ですか。ん? ルシェ? あれ、ここってウェルクでは……」


 ナンパではなかったようなので、俺の中で警戒レベルが少し下がった。


「ルシェはロマさんが義務冒険の拠点に選んだ街だね。サークのルシェ。ここはエトナのウェルク。おっと、義務冒険はロマさんに教えてもらったかい?」


「はい。さっき教えてもらいました」


 俺は漠然とこの街から冒険がスタートするのかと思っていたのだけど、どうやら違うらしい。っていうか世界すらも違うみたいだ。


 しかし、ちょっとややこしいな。

 いや、そんな事もないか?

 日本の東京都千代田区秋葉原。

 アメリカのニューヨーク州マンハッタンほにゃらら地区。

 サークのルシェほにゃらら地区。エトナのウェルクほにゃらら地区。

 うーん、こう考えると、聞きなれない地名だからややこしいと思うだけか。なお、テフィナも外国も細かな区分けは知らん。


「さて、早速だけど本題に入りたいんだけど、良いかい?」


「あ、はい。お願いします」


「昨晩、テフィナにルーラ様から一通の手紙が届いたんだ。テフィナに迷い人を送るけど、その子はテフィナ人の女の子と魂の双子だからよろしくねって、生咲君のプロフィールと共にね。それと同時に次元観測局でもエトナで非正規の次元の揺らぎを感知してね。そこから現れた君たちが該当者だと認識しました。大嵐の中だったから観測者もびっくりしたみたいだね」


 ルーラさんはそんな事をしていたのか。

 まあ、テフィナに他の世界の住人を押し付けるわけだから、可能なら手紙くらい送るか。


「それに付随して謝罪を。生咲君には申し訳ないけど、昨晩からの出来事は全て機人の方々に監視してもらってます。ルーラ様の手紙には君が良い子だと書かれていたけど、我々はそれを鵜呑みにするわけにはいかないからね」


 機人というのは、ご主人のニートを強制するために反乱を起こした人たちだな。

 彼らに監視されていたらしい。


「え、マジですか……いえ、だけど、それは仕方がないと思います。ロロティレッタは女の子だし、その近くにどんな思考か分からない男が一緒にいるんですから」


「そう言ってくれるとありがたいよ」


 仕方がないと口では言ったけど、局地的にとても恥ずかしい事になっていたんだが。

 だけど、彼らが俺を監視した必要性も理解できてしまう。


 今、口でも少し言ったが、テフィナにおいて俺という存在は未知すぎるのだ。

 話は外国人が来日したとかそんなレベルじゃない。外国人なら他にもたくさん前例がある。けれど、俺はこのテフィナで恐らくたった一人の日本人である。前例は皆無だ。

 姿形は似ているけど、思考から習性まで何もかもわからないのだから、ロロティレッタの安全を考えれば監視するのは当たり前である。


 例えば、美人と出会ったらすぐさまエロいことをしないのは極めて失礼という文化から来た人間だったらどうだろう?

 例えば、女性が口を開いただけで力いっぱい顔面をぶん殴るようなスーパー男尊女卑の文化から来た人間だったら?

 例えば、室内ではソックスだけ履いて全裸で過ごすことがごく当たり前の文化を持っていたら?


 ルーラさんが俺を良い子だと太鼓判を押したとは言え、自分たちでそれを確認しないのはロロティレッタの安全を放棄したのと同じだ。万が一はあり得るのだから。

 事実、昨晩の俺は割と紙一重なくらい悶々していたからな。特にドライヤー室の中でとか。セフセフッ!


 昨晩、俺はロロティレッタと仲良くなるチャンスと思っていたけど、一方、俺の知らないところで謎の少年Aを観察するチャンスと思われていたらしい。改めて、マジでロロティレッタに手を出さないで良かったぜ!


 しかし、そうなると現在進行形で俺は見極められている可能性が高い。

 俺は良い子ぶることにした。


「あの、挨拶が遅れてすみません。生咲洸也です。改めてよろしくお願いします」


「ははっ、礼儀正しい子だね。いやぁ良いんだよ。僕も突然話しかけたからね、びっくりしちゃうのも仕方がない。じゃあ改めて僕も名乗ろうかな。僕は生咲君の担当をすることになったレオニード・クーファです。改めてよろしくね」


 そう言って爽やかな笑顔で手が差し出されたので、俺はその手を握った。

 この文明も握手ってあるんだな。


「えっと、担当ってどういう事でしょう」


「ルーラさんは稀にこうやって次元の裂け目に落ちた人を送ってくることがあるんだ。そういう人たちは『迷い人』なんて呼ばれたりするんだけど、彼らには、生活のサポートをする担当官がつくんだ。色々な事を教えたり、相談に乗ったり、学習プランを一緒に考えたりね。で、ロマさんが拠点に選んだルシェの町の役所に勤める僕が担当官になったわけだよ」


「そうだったんですか」


 イケメンだけど敵じゃなかったようだ。

 だが、俺の担当官とロロティレッタが恋に堕ちるみたいな展開はノーサンキューなのでなるべく距離を置こう。


「じゃあ早速だけど、これからルシェに移動しようか」


「分かりました。えーと、ということは僕もロロティレッタと一緒に義務冒険をするんでしょうか?」


 俺は知らない大人の前だと一人称が僕になる人間である。私って年齢でもないし、おかしくはないだろう。


「そうだね。僕らテフィナ人にとって、義務冒険はとても重要な行事なんだよ。身体が出来上がる頃に冒険の遺伝子を覚醒させとかないとならないんだ。異世界に来て混乱している最中に、いきなりそんな行事に付き合わされて大変かもしれないけど、参加してくれないかな?」


「あー、いえ。義務冒険に参加すること自体は全く問題ないです。楽しそうですし、テフィナの文化に触れるのには絶好の機会だと思います」


「おお、ルーラ様の手紙にもあったけど君は好青年だね。ありがとう」


 生咲洸也はイケメンの好感度を上げた!


「義務冒険中にも学ぶことはできるし、勉強会とかも開けるからそこら辺は相談して決めていこうね」





「それじゃあ、早速サークに移動しようか」


 レオニードさんはそう言うと、目の前の装置に視線を移す。

 そこにはゲートが二つあり、それぞれ赤と青の枠で造られている。ゲートの境界には枠と同じ色の膜のような物が張られており水面のように揺れている。


「テフィナの移動は、このゲートを多く使うんだ。これは転移ゲートでね、これを潜ると別の場所に出ることが出来るんだ。このゲートは町内移動用の短距離ゲートだね」


 え、マジか。次元を越えた先にある300の世界で繁栄しているという話は聞いていたけど、町内移動にすら転移装置を使うのかよ。


「青いゲートから入ると、赤いゲートに出るようになっているんだ。赤いゲートからは入れないから、気をつけてね。あとは赤いゲートの前で立ち止まったり、遊ばないこと。怒られちゃうからね」


「分かりました」


「じゃあ、これを」


 説明が終わると、レオニードさんが首掛け紐がついた一枚のカードを俺に渡してきた。


「それは仮の身分証。あとで本物の身分証を作るけど、とりあえずそれを使ってね。このゲートは、身分証がないと使用できないんだよ」


 なるほど。

 俺はカードを首からかけた。


「それじゃあ行こうか」


 まずはレオニードさんがゲートの中に入った。


「おお!」


「おっさきぃ」


 感嘆の声を漏らす俺にロロティレッタがそう言って、ゲートに入っていく。

 なるほどなるほど、割と普通なんだな。


「よし、行ってみようか」


 ワクワクしながら足を踏み出した俺はすっかり忘れていた。魂の双子の特性と言うものを。


 魂の双子は、魔力交換をしなければ長距離を離れられない。

 何らかの原因で強制的に離れてしまった場合は、転移が発動する。


 そのルールに乗っ取り、俺の目の前にいきなりロロティレッタがパッと現れた。


「おあっ!?」


「にゃえっ!?」


 歩いていたロロティレッタは目を見開きながら、俺にぶつかってきた。

 俺は慌ててその身体を抱き留めつつ、片足を半歩引いて踏ん張る。

 キスしちゃうような軌道の顔の接近に、ロロティレッタがすんでのところで顔をササッと俺の耳元の方へ緊急回避。その回避は紙一重過ぎて俺の頬にロロティレッタの柔らかな頬がこすれて行った。


 俺は右手でロロティレッタの腰を抱き、左手を彼女の後方で宙に彷徨わせる。

 その場に残された俺の脚の付け根がロロティレッタのロングコートの中に突っ込み、中に隠れていた太ももにむにゅりとくっついている。


 一方でロロティレッタは、どうにかこうにかストップしようとした結果、俺の背中に腕を回してがっちりとホールド。自然、俺の胸板にロロティレッタの胸がむにゅりと押し付けられた。


「「……っ」」


 突然の抱擁に、息が止まる。


 真っ白になっていた俺の脳へ一気に押し寄せてきた圧倒的多幸感。

 抱き枕じゃどうやったって再現できない柔らかな感触と服の上からわずかに感じる女の子の熱。

 未だ納まる場所が定まらない左手が理性と本能の狭間で彷徨い続ける。思い出したように息を吸えば、クラリとしそうな甘い香りが鼻腔をくすぐってくる。


「ひゃにゃー!」


「はぅ……」


 よく分からない奇声と共に ハッピータイムはものの数秒で終了を迎えた。ロロティレッタが俺を突き飛ばしたのだ。


 半ば腰砕けだった童貞野郎はその突き飛ばし攻撃に耐えきれるはずもなく、自分でも信じられないほどふにゃっとした声を出してその場に尻もちをついた。


 そんな俺の目に映ったのは、鼻から下をクロスした腕で隠すロロティレッタの姿。

 目を左右にザッブンザッブン泳がせる彼女はその場にいるのが耐え切れなかったのか、身を翻して転移ゲートの中へ逃げ込んでいった。


 未だ身体に残る抱擁の名残りに脳がピンク色に染まる俺は、その後に起こった出来事に何も対処できなかった。


 全力でゲートの中へ駆け込んだロロティレッタ。

 そんな彼女が俺の目の前に再び現れた。そう、俺達はまだ魔力交換をしていなかった。


 しかし、今度の俺達は先ほどとちょっと体勢が違う。

 俺は未だ床にお尻をつけてほわほわと夢見心地。

 対してロロティレッタは長い四肢を躍動させつつ、混乱しながら走っている。

 気づいた時にはロロティレッタの膝が俺の目の前にあった。


 ラッキースケベの後にはお仕置きがあるのが世の常だ。

 ロロティレッタはきっとお仕置きなど考えていなかっただろうけど、世界がそれを許さない。

 俺の鼻っ面に、ロロティレッタの膝が突き刺さった。


「ぐはぁ!」


「んにゃーっっほげぇっ!」


 その瞬間、俺の身体の奥でヴォンと何かが灯る感覚と共に魔力がごそっと抜け落ちる。

 そのまま後ろ倒しで転倒する俺と、慣性に従って俺を飛び越えてゴロゴロと転がるロロティレッタ。


「ぐ、ぐぅうう……あ、あれ?」


 全然痛くない。

 確実に鼻血コース、最悪鼻や前歯が折れてもおかしくない凶悪な一撃だったのに顔面は何も痛くないのだ。むしろ転倒した時に打った肘や肩の方が痛いくらいだ。


「なんで……あ、これがマシルドってやつか?」


 ふと思い至る。

 魔法世界の生物が常備している身体防衛機能。ガチでヤバい衝撃が身体に加わった際に、魔力で肩代わりする本能だ。ロロティレッタが土の柱へ腹を打ち付けたのにケロっとしていたのは記憶に新しい。

 そのマシルドが働いたとしか思えない。

 逆を返せば、今の一撃は鼻が折れていてもおかしくない一撃だったという事実。


 その一撃を加えてきた女は俺から少し離れた場所で蹲っている。

 ふ、ふぐっくぅ、と耳を澄ませば聞こえてくる嗚咽。


 俺はやれやれと起き上がり、ロロティレッタの近くへ移動する。

 先ほどの抱擁の余韻がまだ残っていた俺は、地面に突っ伏すロロティレッタの見てゴクリと喉を鳴らした。めっちゃ覆いかぶさりてぇ……っ。


 当然そんな事できるはずもないので、ここはよし、ちょっとボディタッチ多めで慰めよう。だって左手さんはあの時彷徨わせるばかりでボディタッチしてなかったからさぁ!

 俺はそれらしい言葉を並べて適当に慰めつつ美少女の背中を撫で繰り回した。美少女の背中はぽかぽか温かいぜ!


 まあ、そんな事をしていればレオニードさんが心配して見に来るのは道理で。

 数分の間に一体何があったのか、さすがの爽やかイケメンも困惑顔だった。




>>>>>>>>>>>>>>>>>>>


 ロロティレッタの文化案内


【町】


 え、これ説明するの? まあいいけど。


 テフィナで人が住んでいる場所。

 全ての町が強力な結界に守られているわ。


 一つの町は人口10万~100万人程度ね。

 そんな町が、一つの世界に100~1000個程度あるわ。

 歴史が古い世界ほどこの二つの数値は大きくて、新しい世界ほど小さくなるわね。これは単純に、技術の進歩と共に未開世界の開拓スピードが速くなったから、昔みたいに一つの町にぎゅうぎゅうに住む必要がなくなったからよ。例外はあるけどね。


 各施設や町の仕組みはおいおいね。


 読んでくださりありがとうございます。

 次話は本日12時予定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ