境目
「う━━……喉乾いた。」
渦流の国を出てから数日。
快晴の日が続くため、年中湿気で覆われた環境で生活してきた律にとっては堪えるものがあった。
肌はピリピリと乾燥し、持参してきた飲み水も直に無くなりそうである。
(国にいた時はこんな事で困らなかったなぁ……。)
水害で悩まされているとはいっても、“ ことだま ”を使えばどんなに濁った水でも条件さえ満たしさえすれば浄化することが出来た。そのため生活用水には困ったことがない。
自国の良さを改めて噛みしめながら長い道のりを歩く。
目的地は渦包の国━━
渦流の国と同様、独立国家を形成している国と聞いている。
その国の民は他国と敵対している、という話を聞いたことも無ければ物資や人の交流も一切無いため情報がこれといって何もない。
まだ距離は大分あるものの、渦包国の国境は越えたようだ。そのことを表すように律の目先には山々が立ち塞がるように連なっている。中心にはその中でも一際大きな山がそびえ立っていた。
「え……これを登れって?」
あともう少し━━と気を抜いた瞬間にこれだ。
山の中腹あたり、といっても良いのだろうか。山の麓を見ると一見ただの山である。
ところが、目線を上にもっていくにつれて霧がかっており、そのためか山の頂上を窺うことが出来ない。それほどまでに標高の高い山が律の目の前にある。
嘘でしょう、と誰に言うでもなく呟き呆然とする。
足は長時間歩き続けてもうへとへとである。それに加えて今もなお、太陽は元気にお勤めを果たしているようだ。身体中の水分が抜けきっていくように感じる。
ぼ━━っ、と意識が遠のく。
(だめだ!)
パチン、と乾いた音が響く。
ぼんやりと視界が歪みかけた時に脳裏にあったのは渦流の国の人々の顔━━
律は遠のきそうであった意識を自身の頬を叩くことで去なすと、ゆっくり深呼吸をする。
“ きりりと ”
ことだまをそう呟き、自らを律して物事に立ち向かう姿勢をつくる。すると律の周りに生じる淡い光。赤茶にも見えるそれは檜皮色をしていた。
「さて、行きますか。」
そうして山を登り始めた時であった。
「……った!」
バチッ、と静電気のような電流が走る。その軽い衝撃にわずかに顔をしかめる。
しかし何かに当たった覚えはなく、気のせいだろうか。
(なに?いまの……。)
首をかしげて暫し考える。若干気にはなるが、今は目の前の壁を切り抜けることで頭がいっぱいだ。おおかた、ただの摩擦によるものだろうと思うことにし、何事も無かったかのよう律は山を登り始める。
そして、そんな律の様子を監視する一人の青年━━
「……あれが神祓。流れが遂に来たのか。」
渦包の国。
そこはあらゆる渦を包み込む、陰の国。