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旋律の神祓  作者: フグリ
第一章
2/5

雨の石

渦流(かりゅう)の国━━



そこは、年中雨が降ることで有名な独立国。

古来より水の神を祀る信仰心の篤い民が暮らしている。


水の恩恵を受けている豊かな国。かつてはそう呼ばれていた大国であったが、近年は水害に悩まされる日々が続き国力は低迷するばかりであった。



「………やはり、開国をこちらから申し出るべきであろうか。」


「なにを言う、戸日(トビ)の爺さん。渦流の民である誇りを捨て去るような真似などできるものか。」



月初めに行われる国の定例会議。

今日もまた、六人掛けの円卓には皆どこか憂鬱な影を纏う面々が薄暗い部屋の中央に鎮座していた。


部屋の外では屋根を叩きつけるような激しい豪雨が降り続いている。


重苦しい雰囲気の中、最初に口を開いた気弱そうな老人は自国の安保のために、他国との協力体制を提案する。そして、それに対し嵩にかかった口調で反論の意を示す男は鋭い威圧感を放ち独立国家の姿勢を貫こうとする。


どうかしている、そう言って腕を組んだまま静かに吐き捨てる男。


場は静まり沈黙が続くと思われた。

そんな折、女性のよく通る声が響く。


「阿呆ねぇ、開国したところで誇りが失うと思い込んでる主の方がどうかしているわ。」


「……なんだと?」


会議場を覆う威圧感をものともせずに、余裕綽々といった様子で笑みを湛えていた女性は顎の下で手を組み、開国に反対する男を挑発するかのようにせせら笑う。


そしてそんな挑発に目つきをより一層鋭くさせ、怒気を含ませた声で女性に言い返す。


「私の思い込みがよくないと、そう聞こえるが?」


「ええ、そう言ったわ」

だってほんとのことじゃない、と女性が言う。


自身の考えを上からの物言いで否定される。苛立ちを抑えきれずに男はガタリ、と腰をあげて女性に掴みかかろうとする━━


しかし、それはまた別の人物によって遮られた。



「これ、巣和(スワ)。その辺にしておきなさい。……吹蒼(フソウ)も少し落ち着きなさい。」

「はあい、あなた。」


「……チッ、繰土(クグト)。」



巣和、と呼ばれた女性は先程までの高慢な態度とは一変、ころりと甘い声色で返事をする。


一方、吹蒼と呼ばれた男も納得はいかないものの渋々といった様子で上げかけた腰を元に戻す。



そうして、落ち着いた間延びする口調でその場を制した人物━━繰土(クグト)は、未だ発言していない残る二人の青年にも意見を求める。



「これからの我等、渦流国の民はどうあるべきだろうか、屋添(ヤソ)風間(カザマ)。」


主らの意見も聞きたい、そう優しく言葉を投げかける。



すると、屋添がぽつりと呟く。

「……………陰鏡石(いんきょうせき)。」


たった一言。それだけであったが、その場にいる皆皆の視線が一斉に屋添(やそ)に集まる。


「ああ、あれか!確か……独裁者が出ないようもう何年も使われてないんだっけか、神に選ばれる者。そりゃ逆らえねえわ。」


あっはっは、と陽気に笑う。物静かな屋添(やそ)とはまるで対、屋添の一言の意味を汲み取り話すのは風間(かざま)

彼は屋添の意見に賛同するように首を何度か縦に動かす。



それを確認すると、繰土はそうじゃな、と顎に片手を当て悩むそぶりを見せながら目線をちらりと外に向ける。


(もう、避けることは出来ぬか……。)


外はいつの間にか雨が止み始めて日の光が空から差し込んでいる━━“ 卯の時雨 ”今日の雨はそれのようだった。



視線の先には雨の滴が光に反射している美しい髪。銀色や虹色にも見える幻想的な水鏡(みずかがみ)色。その髪色をもつ女性が弓を射ている様子が伺える。



それを目の端で捉えて優しくも儚げな表情を見せる繰土(くぐと)


しかしそれは一瞬のことで、彼は目を伏せるとすぐに会議場に目線を戻す。

そして迷いのない決断の言葉を紡ぐ。



陰鏡石(いんきょうせき)をここへ、神祓(かみはらえ)の選抜を開始する━━」

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