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エルフの旦那と魔法剣士の嫁  作者: さつき けい


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猟師と剣士 2


 長老の世話をしている熊の獣人が、家の中からいくつか椅子を持ち出して来て、ギード達にも勧めてくれた。


ありがとうとお礼を言い、ギードはその椅子を長老の椅子の隣に置いて座る。その後ろにエンが立つ。


井戸のある広場はまるで闘技場のように、観客の村人がぐるりと円を描いている。


 タミリアは鍛錬用の動きやすい軽装備で、防御は薄く見えるが、エンでも彼女にはかすり傷ひとつ負わせることは出来ていない。


「いいんですか、あの、ほんとに?」


ハシクはまだジタバタとしている。熊の獣人のフュヤンの方はのんびり構えているのに。


「ハシクさん。落ち着いて。大丈夫だから」


「え、え、なんでそんなに落ち着いていられるんですか?。奥さんでしょ?」


ギードとエンは顔を見合わせて笑う。


そして、ちょっと長老の方に顔を寄せて、小さな声で話す。


「実はうちの中で一番強いのが彼女なんです」


長老だけでなく、ハシク達も目を剥いて驚いていた。若者よ、君達、丘の家での、あの鍛錬見てたでしょうに。




 タミリアの欲求不満が溜まり始めていたので、ちょうどいいと思ったのは事実だ。猟師の皆さんには悪いが、また地下室の酒が減るのは眷属達にも申し訳ないし、タミリアの身体にも悪い。


山犬の獣人が仕方ないという顔で審判を務めてくれることになった。


「勝敗は、どちらかが降参したら、でいいかな」


「お任せします」


タミリアの声を初めて聞く村人も多かった。静かな女性らしい声に、本当に戦えるのかと不安になっている。


(タミちゃん。のどつぶして降参って言えなくするのはダメだからね)


(ちっ)


全く。ギードがくすっと笑ったのを見て、猟師達はあおられたと思ったのか、目が厳しくなっている。


山犬の獣人がタミリアにしつこく防具の装備がそのままでいいのかと聞いている。タミリアは問題ないと微笑んでいる。


あの微笑みに騙されちゃいけないんだよー、とギードはハシク達を脅す。




 「ぎどちゃー」「ぎーどー」


双子がやって来た。もちろん、白い子獣人も一緒だ。


「すいません。どうしてもヴィキサちゃんが行くと言って聞かなくて」


コンはうちの双子だけなら魔法でどうにでも静かにさせられるが、村の子供であるヴィキサには魔法をかけるのをためらったようだ。


「ああ、仕方ないね。おいでー、三人とも」


ギードは万が一、何かあった場合に、すぐ結界が張れるようにちびっこ達を自分の近くに置いた。


ヴィキサの父親の山犬の獣人も気がついたようだが、もう始まるのでこちらには来られない。


ハシク達も子供達が飛び出さないように注意してくれていた。


「ヴィキサ。ヴィー」


狐の獣人の女性、ヴィキサの母親が申し訳なさそうにやって来た。


ギードは一緒にどうぞと彼女にも椅子を勧めたが、遠慮してヴィキサを抱いて、他の村人と同じように地面に座っていた。




「はじめ!」


この辺りは王国と変わらないんだなあと思いながら、ギードはぼんやり見つめていた。


いや、そう見えるだけで、ギードは目の前の戦いではなく、他のことに集中していたのだ。


(商隊に知らせる者が必ずいるはずだ)


手段は分からない。だが、村の異変を知らせる者を確認しておきたかった。


(この先、何があるか分からないからな)


村の外に情報を流す者がいるなら警戒が必要だ。




 木剣の打ち合う音よりも、獣人の猟師の「うおー」だの「いやー」だの、掛け声ばかりが聞こえた。


タミリアはただ立っている。


(打ち込みにくいだろうな)


微笑む、か弱そうな女性。大男が切りかかるのはまるで虐待のようだ。


「来ないなら、こちらからいきます」 


タミリアは、一度木剣をぶんっと振り、一歩一歩近付いていく。


「く、くそぉ」


訳の分からないタミリアの自然な構えに、切りこめない虎の獣人は、追い詰められる。




 勝負は一瞬だった。


業を煮やした獣人が一気に駆け寄り、剣を振り下ろした。が、タミリアはすでに剣を振った後だった。


どぅっと倒れる獣人に、何が起きたか分からず、村人がざわざわとしている。


「審判」


タミリアの声に、呆気にとられていた山犬の獣人が、慌てて勝利を宣言する。


「ばかな!、なんだ今のは」


虎の獣人と一緒にいた豹の獣人が、インチキだとタミリアに文句を付け始めた。


「あなたもどうぞ」


にっこり微笑んだタミリアは、倒れた虎の獣人から木剣を拾い、豹の獣人に投げた。


 剣を持った豹の獣人が、奇声を上げてタミリアに向かって行った。


ひらりと身をかわし、タミリアは自分に向かって来る獣人と違う方向に剣を振った。


カン!


高い音がして、タミリアの足下に何かが落ちた。


「吹き矢!、まさか毒針か」


山犬の獣人が叫んだ。村人の中から誰かが逃げ出すのが見えたが、じきに捕まるだろう。こんな小さな村の中でよくやるなとギードは思った。


豹の獣人の方は、いつの間にかやはり地面に倒れていた。




 村人に解散するように村長が声を上げ、後味の悪い結果に、すごすごと皆が引き揚げて行った。


「申し訳ない」


村長と山犬の獣人が頭を下げていた。


ギード達は村長の家の中に入り、貴重であるはずのお茶を飲んでいた。


「あー、お気になさらず。これくらいは想定していましたから」


タミリアと子供達を先に帰し、今、この家にはギードとエン、そしてハシク達と山犬の獣人がいた。


「……さすがにすごかった」


ハシクが呟いた。


「とりあえず勝って良かったです」


ギードの言葉に、思い出したように「ありがとうございます」とハシクとフュヤンが頭を下げた。




 虎の獣人はともかく、卑怯な事をしようとした猟師は、この後きつく叱られ、罰を受けることになる。


「おそらく彼ら二人だけで狩りに出すことになるでしょう」


それできちんとした猟の成果を持ち帰らなければ許しを得られない。


「獣人だけの村はここしかありません。どこか他所の土地で暮らすことはないと思いますので、帰ってくるとは思いますが」


「しかしその間、猟はどうなさるのですか?」


ギードは村の大切な収入である狩猟が出来ないのは困るのではないかと思った。


「あー、まあ、若い者を連れて行くしかないですね」


慣れない者を連れて行く場合は、近い場所しか行けない。山犬の獣人が顔を曇らせている。


「それでしたら」


ギードがエンを見る。


「妻とこの護衛をお連れ下さい。彼らも暇してるので」


あの二人の猟師より腕はいいはずですよーとギードはにっこり笑った。




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