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春姫物語  作者: 番茶
9/11

春姫の帰還







大地の神の森は酷く静かで、それでいてとても涼しい道のりでした。










「ここが…」



古びた石碑がある奥に、少しばかり開けた広場がありました。

石碑は苔にまみれ、とてもまともに読める状態ではありません。しかし、春姫にはこれに何が書いてあるのかがわかっていました。



『世界温暖化対策研究機構』



ここはかつての研究所の跡地なのです。

広間の中央奥にはこの森の中でも最も太く、大樹が生えていました。

春姫がその根元を見ると、そこには小さな岩があり、その上にまだ幼い女の子が一人にこにことこちらを見ながら座っていました。








「お姉ちゃん、ご用件はなぁに?」



小さな少女はまるで遊んで、というような明るい声色で春姫に尋ねました。

春姫は少女の前まで歩み、膝をついて頭を下げました。



「キーが破損し、春の操作が出来ません。どうかキーを、歯車を直していただきたく思い参りました。」



少女はこの春姫の畏まった態度にも表情を崩すこと無く答えました。


「パスワードをここへ」


少女の言葉に春姫は袋から不死鳥の尾羽、不死亀の涙、不死カエルの油、不死オオトカゲの尻尾を差し出しました。

少女の前に置かれたその品々は眩い光とともに消えて行きました。





少女は天を仰ぎ、うわ言のように言いました。また、彼女の声は先ほどとは全く異なるものでした。



『認証データ確認、全て本物です。コードα1192ファイルを開きます』



春姫はそれらの様子を黙って見守ります。

幼い少女はおもむろに立ち上がり、一番の大樹に手を添えました。



大樹の根元が淡く光ったと思うと、次の瞬間には彼女は春姫の目の前にいました。



「お姉ちゃん、これあげる」



にこにこと嬉しそうに言う彼女の手の中には、キラキラと輝く新たな歯車のネックレスがありました。




「強度、強くしといたよ。」



少女が春姫にそう言い、春姫が美しい歯車な目を奪われ、お礼を言おうとした時にはもう少女は岩の上に戻っており、そしてすぅっと消えていく所だった。



誰もいなくなった神殿で春姫は誰にということもなく大きな声で「ありがとうございました!!」と言って元来た道を帰って行った。






胸が踊り、走らずにはいられない。

森を抜けると、それを待っていたかのように青年が腕を広げて立っていた。

春姫は迷うこと無くその胸に飛び込んだ。



「やった!!やったわ!!これで帰れる!」


青年は春姫を抱きしめ喜びを分かち合いました。


「うん、帰ろう。一緒に。」








春姫はとうとう帰ったのです。








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