王様のご命令
春姫が旅に出てからしばらく。
とうに冬が始まり、また終わらなければならない時期に来ていました。
冬姫は季節の塔で酷く焦っていました。
「今日は粉雪を昼まで、午後は晴れにしましょう。」
カチリカチリ、と歯車を機械に重ね合わせるとモニターに映し出された国の地図に雪だるまのマークがそこここに広がりを見せました。
「ふぅ、春姫様…まだかしら…」
(早くしないと…。)
冬姫の心配をよそに、その日はやって来てしまいました。
「おい、どうなっている!!!何故冬姫は塔を出ない!!?何故春姫は塔に行かぬのだ!!」
苛だたしげに王は臣下を責め立てました。
臣下も困り果てたように頭を下げ、「わかりかねます…」と呟くだけだった。季節の塔や姫達の屋敷には姫達の連れて来たものしか入れないのが決まりでした。
そのため王様もその臣下たちも調べることができず、ただただ長引く冬に恐れを抱いていたのです。
そこで王様は御触れを出しました。
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない。』
この御触れが出されるとすぐにそれは冬姫の耳にも入りました。
「冬姫、今は耐えてくれ。国民の理解を得るには秘密を話さなくてはならないがそんなことはできない…」
扉越しに夏姫が言いました。
「ええ、わかっております。」
冬姫も同じ思いなので夏姫の言いたいことは十分にわかりました。
“長引く冬で国民から恨まれるかもしれないが耐えてくれ”夏姫の言葉の裏にはそういう意図があったのです。
「にしても、“冬姫が冬の力で国を乗っ取ろうとしている”だなんて酷い言いがかりですわ!!」
夏姫の隣にいる秋姫は怒りました。
冬姫の気落ちしたため息がドア越しに聞こえて来ました。
「仕方ないことですわ。せめて夏姫の後が春姫なら食料問題もどうにかなりましたのに…よりによって私が長引いてしまったのですもの…国民の意見は真っ当ですわ。」
「ふ、冬姫様!そんなことありません!!冬が来なければ土は休めず、せっかくの落ち葉の栄養も得ることが出来ずに翌春から大変なことになるのですもの!!冬姫が落ち込むことはありません!!お、お姉様が早くにお戻りになってくださらないから…!!うぅ、ひっく…」
「ああ、シェリー泣かないで。貴方も春姫の身代わりとして過ごすのは楽ではないでしょうに…」
夏姫はシェリーの頭を撫でてやりました。
泣き出すシェリーの胸には国を想う気持ちと冬姫を哀れに想う気持ちと姉を心配する気持ちが入り混じっていました。
複雑なのも当然です。
姫たちの心配をよそに、春姫と青年の旅は順調でした。
「ここが、大地の神の神殿…」
春姫は小さく青年に聞こえないように呟くと馬を降りました。
そこは鬱蒼とした大木がいつくもいくつも並び、一本残された隙間が道となっていました。
「すこし待っていてください。私はこれから一人で行かねばなりません。」
青年は頷き貢物を取り出し春姫に持たせました。
「わかった。私はここで待つんだね。」
「はい。お願いします。」
決意に満ちた目をする春姫を青年は愛おしげに見つめました。
そして青年は言います。
「おまじない、していい?」
「え…?は、はい。」
戸惑いながらそう言う春姫に青年は近づき、春姫の額に口付けをしました。
春姫は顔を真っ赤にさせ、貢物を持っていない方の手で額を抑えました。
「行ってらっしゃい。気をつけてね。」
青年の美しい微笑みに春姫は何も言えなくなりコクコクと何度も頷き森の中に入って行きました。