二つの貢物
残り二つの貢物は割と順調に手に入りました。
とは言っても青年は常に肝を冷やし、守ろうと思っていた春姫が毒蛇に噛まれた時には本当に生きた心地がしませんでした。
二つの貢物は『不死カエルの油』、そして『不死オオトカゲの尻尾』でした。
カエルに会った時、彼は蛇と一触即発の場面でした。
春姫が飛び出さなければ恐らくカエルは蛇の毒にやられていたのでは、と思います。
春姫が蛇に噛まれ、青年は青ざめました。蛇を返り討ちにしてやろうと持っていたナイフで立ち向かううちに蛇は逃げて行ってしまいました。
カエルはとても驚き、冷や汗をダラダラかいていました。
それをなんともないようにむくり、と起き上がった春姫が瓶に集めだしたのだからカエルは更に驚き冷や汗をダラダラかきました。
春姫は最後の一滴を自分の傷口につけると、噛まれた傷口はみるみる治ってしまい、青年はもう何度目になるかわからない驚きの表情になりました。
カエルもカエルで「そうか、そうだった」と姫の無事に納得して去って行きました。
青年が大活躍したのはそれからでした。
長く日にちはかかりましたが、二人はいくつかのオアシスによりながらも砂漠のような大地を駆けて不死オオトカゲの巣に辿り着きました。
オオトカゲは非常に機嫌悪そうな顔で二人に言いました。
「タダで尻尾やる訳にはいかない。そうだな、オレはどうせなら“人間”と戦ってみたかったんだ。」
そう言うと青年は立ち上がり言いました。
「私が相手になろう。」
そうして二人は剣を持ち、数時間に及ぶ死闘の末、青年はオオトカゲの剣を弾き飛ばし追い詰めたのです。
「つ、強いじゃないか“人間”のくせに…でも、オレの硬い尻尾は取れていやしない!それにこの硬い皮膚にはそんな剣も歯が立ちはしないぜ!」
そう言ったオオトカゲに青年は迷うことなく剣を振り上げました。
その剣がオオトカゲの唯一柔らかな首の皮膚を狙っていることは春姫の目に見ても明らかでした。そして青年は剣を振り下ろしました。
「な、ヤメ、ヤメテーー!!」
オオトカゲはギュッと目を瞑りましたが、痛みはやって来ませんでした。
ゆっくり目を開けてみると眉を下げた青年の優しげな顔。その手にはオオトカゲの尻尾がありました。
「脅すようなことをして申し訳ありません。しかし、これは約束通り貰って行きます。お怪我、ありませんか?」
オオトカゲはようやっと理解しました。
青年はオオトカゲを驚かせて尻尾が取れるように仕向けたのです。
「ハハ、オレもまだまだだな。行きなよ、大地の神が待ってるさ…」
「ありがとう、オオトカゲさん」
「ありがとうございます!」
オオトカゲは巣に帰り、二人はお礼を言って大地の神の元へ行く準備をしました。
「あの、ありがとうございました。剣を扱えない私では出来なかった試練です。」
春姫は恥ずかしそうに俯きながら青年にお礼を言いました。
「私はこんなに楽しい旅は初めてです。貴方と出会えたことを神に感謝しなくては。」
青年は照れ臭そうに、そしてにこやかに答えました。
二人の頬が赤いのは、暑さのせいでないことも二人は気づいていました。
「国に帰ったら、何かお礼をさせてください」
春姫は言いました。
「いやいや、そんな…私の方こそお礼をさせてください。」
青年も言いました。
旅の終わりはもうすぐそこのようです。