青年と貢物
最初の貢物からしばらく、旅は難航しました。走っても走っても見晴らしの良すぎる大地が広がるばかり。
しかし春姫は止まりません。まるでどこに何があるのかを知っているようでした。
フェニックスにあってから半月ほど経ったある日、それは突然現れました。
生い茂った木々、どこからか響く水の音。
青年は目を凝らしました。
幻覚でも見ているのでは、と思ったのです。
「オアシスだ…」
そう、目の前に現れたのは紛れもなくオアシスでした。春姫は馬を木に繋ぎ、森の中へ進みました。
迷いなく進む春姫に追いつく中で、青年は低い茂みの塊からあるものを見つけました。
「おーい、お嬢さん!なんかここにいるみたいだよ!」
青年が呼び止めると春姫ハスがやって来ました。青年が見つけたものに近づきました。
「んん?どうやら体調が悪いみたいだね。苦しそうに唸っているよ。」
そこに居たのは大きな亀でした。
山のように盛り上がった甲羅を待ち、足はどっしりと太く逞しい、それでいて目はとても優しげな亀です。
しかし、今その亀は優しげな目を痛みに耐えるようにぱちぱちと瞬かせ、涙を零していました。
春姫は目を丸くして驚き、荷物から瓶を取り出すとその亀の涙を「すいません、こんな時に…」と言いながら数滴おさめていた。
瓶に涙を溜め終えた姫は急いで青年に言いました。
「すみません、この方を向こうの砂浜に移します!手伝ってください!」
青年は訳もわからず頷き、二人で亀を砂浜にまで運んだ。
少し広めの湖はこちらで初めて見る水だった。
亀は呻き声をあげながら今も泣いている。
しかし、泣きながらも後ろ足で一生懸命穴を掘っていた。
しばらくして、亀はいくつもの卵を産んだ。
産み終えると安心したように目を閉じ、今度はしっかりと春姫生を見つめたのです。
「ありがとう、助かりました。」
「いえ、お産の時に先に涙を頂いてしまって…申し訳ありません…」
「いいのいいの、私滅多に泣かないからよかったわ。子供たちも無事だし本当にありがとう。そちらの坊やもね。」
亀はそう言うと湖の方に帰っていった。
春姫はホッと息をついて「あと二つ」と呟いた。
青年はまたしても話す動物に驚いていたが、約束どうり姫には何も聞きませんでした。