大人げない人
徒然なるもふもふな日常。郡が初めてゆま家に来た日のこと。
扉を開けると、そこには大きなもふもふが待っていました。
言わずもがなおじいちゃんです。
郡くんはまだ不安定で、私が少し離れるだけで心細そうにしているのに、おじいちゃんはお母さんに半ば無理矢理話を通して私を一室に拉致ってしまったのです。
『ゆまにはまだ早い』
部屋の中で私を待ち構えていたおじいちゃんはそう言うと、なでなでを催促するようにぐいぐい頭を私に擦りつけてきました。いや、かわいいんですけど…。かわいいんですけど郡くんが…。
『ゆまには私がいるだろう』
いや、どういう意味ですか。
取りあえず頭をなでなでしたら機嫌は直ったようですが、なぜか今日はやけにすりすりしてきます。一体どうしたというのでしょう…。
「お父様。ゆまちゃんを郡くんに返してあげてくださいな」
『仕方ない。今日は譲ってやろう』
おじいちゃんは少し不満そうでしたが、最後にめいっぱいすりすりした後私を離しました。部屋を退室する時にきゅんきゅん鳴かれたのが非常に罪悪感を掻き立てましたが。
多少の疑問を抱きつつお母さんにくっついて、おじいちゃんに呼ばれる前にいた部屋に戻ると、郡くんが涙目になりながら飛びついてきました。
「わっ」
私は驚いて思わず声をあげてしまいましたが、どうにか郡くんをキャッチすることには成功しました。
正直勢い良すぎて受けとめられないかもしれないと思っていたので、直前で子狐に戻ってくれたのは都合が良かったのですが、狐に戻っているということはそれだけ感情が揺れ動いた、ということです。
不安に、させてしまったのでしょう。
申し訳なさからぎゅっと抱きしめると、何故か郡くんは唐突に私の手をあぐあぐと噛みだしました。甘噛みなので痛くはないのですが、一体何事でしょうか。
これは、甘えているのでしょうか?それとも、―
「おなかすいてるの?」
その言葉に、郡くんはむっとしたような顔をしてあぐあぐするのをやめました。
『…おれいがいをなでてほしくないのに』
耳をぺたりとさせて、郡くんはきゅんきゅんと鼻を鳴らしました。すりすりと甘えつくように頭をこすり付けられて、私はその時やっとおじいちゃんの存在を思い出しました。
今日のあの執拗なすりすり攻撃は、要はマーキングだったのでしょう。
「ごめんね」
郡くんが頼れるのは、私しかいないのに。
なのに、他の人との仲の良さを見せつけられてしまっては、郡くんだって気分が悪いでしょう。
ぎゅう、と抱きしめると郡くんは大分落ち着きを取り戻したようで、すりすりするのをやめて安心したように私の腕の中で丸くなりました。
それにしても、おじいちゃんもなにもこんなタイミングですりすりしなくたってよかったでしょうに…。
もしかして、嫉妬だったのでしょうか?