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魔法の木の実  作者: 羽月
9/9

【9】

 二人を家に迎え入れた母親は、早速、ロニーに、何を願ったのかと問いました。ロニーは得意気に、左の人差し指を立てて見せました。


「かあさん、みて。

 トゲの跡、治してもらったよ!」


「え、トゲのあと?」

 

 きょとんとする母親に、ロニーは大きく頷きました。


「もう痛くはなかったけれどね、朝まで、少し赤くなっていたんだ。

 でも、すっかり治してもらったんだよ」


 ニコルが家を追い出された吹雪の夜、ロニーの指に刺したトゲの跡は、ほとんど治りかけていましたが、うっすら赤く、ぽちんと跡が残っていました。それが、今では何事もなかったように滑らかな肌色の指先になっています。

 唖然とする母親に、ロニーはさらに続けました。


「もうこれで、ぼくの指のトゲの跡がひどい事になったりしないよ。

 ぼくの指がひどい事にならなかったら、かあさん、うれしいでしょう?

 だから、もうニコルを叱らないで。

 ニコルが雪のひどい日に家から出て行ったりしたら、いやだよ」


 しん、とした部屋の中、ニコルが一歩進み出ました。


「かあさん、ぼく、恥ずかしいんです。

 ロニーはぼくの事を、家のみんなの事を思って願ってくれたのに。

 本をたくさん読みたい、なんて、自分のことしか考えていない願い事をしてしまって」


 そういって、涙をこぼしました。

 父親は、そんなロニーとニコルの頭をなでてくれました。


「ニコル、ロニーの願いはたしかにとても立派なものだと思う。

 けれど、ニコルの願いだって間違いじゃない。

 たとえば、とうさんなら、いまよりもっと良いきこりになれるようにと願うだろう。それは、自分のためでもあるし、お前たちみんなのためでもある。

 家族を思うのは大事だ。けれど、まずは、自分をしっかりすることだと、とうさんは思う。そうして、顔をあげ、誇らしく生きる姿を支えあうのが家族だと思う。

 とうさんは、兄思いのロニーも、本が好きなニコルの事も、誇らしく思うよ」


 父親の言葉に、兄弟は顔を見合わせて笑いあいました。

 そして、ニコルは、少し離れたところで目を伏せて立っている母親の事が気になりました。


「かあさんは、ぼくたちがこんなお願い事をしても怒らない?」


 その問いには、ロニーが、怒らないよ! といい、吹雪の夜の事を話し始めました。

 あの夜、ニコルが家を出されてからすぐ、弟のロニーは、兄の姿が見えないことに気付きました。


「かあさん、ニコルは?」


 母親はイライラと青ざめた顔で黙り込むばかり。

 不安に駆られて必死に問い質すと、重い口を開き、黄泉の国を探しに出て行った、と、やっと言葉にしました。

 ロニーは驚いて玄関のドアを開けましたが、雪がめちゃくちゃに吹き付けてくるばかりで、兄の姿はどこにもありませんでした。


「ニコル、いない。本当に黄泉の国に行っちゃったの?」


 ロニーの言葉に、母親は目を見開き、扉の外に駆けだしました。

 自分で出て行けといってしまいはしたが、扉の前で途方に暮れてうずくまっているものと思っていました。すぐに扉を開けて家に入れてやろう、と。こんな吹雪の夜、まさか本当に家から離れるなんて。

 母親は、吹雪の中に駆け出し、半狂乱になってニコルの名を叫び続けました。

 家の周りを3度もまわり、物陰を覗き込み、それでも息子の姿が見えないので、敷地を出ようとしました。

 右へ行ったのだろうか、左へ行ったのだろうか。

 慣れた道とはいえ、少しでも道を外れれば、あっという間に迷ってしまうはず。


「かあさん、待って!

 いかないで、こんな日に出かけたら、凍えて死んでしまうよ」


 母親は、すがって引き止めるロニーに、はっと我に返ってその場に座り込んで泣き続けました。


「そんな風に、ニコルを心配していたかあさんだもの、怒ったりしないよ。

 かあさんは、ニコルが大好きなんだもの、ニコルが喜ぶことだったら、うれしいんだよ。

 ニコルが、ぼくにそう言ってくれたでしょ?」


 ロニーの言葉に、みんなの心があたたかく繋がりました。

 それからもずっと、きこりの家族は仲良く暮らし続けました。


 春がもうすぐそこまでやってきていることを、谷間の鳥が告げていました。

読了、ありがとうございました。

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