【7】
家にたどり着くと、父がいて、母と弟のロニーと、驚いた3人の顔がニコルを迎えました。
「ニコル! ああ、ニコル、無事だったのか?
いったい、いままで、どこに」
駆け寄り、ニコルの全身をあれこれと調べ、怪我がないのを確かめた父に促され、家に入り、そして、これまでにあった事をすっかり話しました。
森の奥で、不思議な老人に出会った事、その老人の家にはたくさんの本があった事。家の事を手伝い、本を読んで聞かせたそのお礼として、なんでもひとつ願いを叶えてくれる木の実を食べさせてもらった事。
「願いの叶う、木の実?」
父の問いに、大きく頷きました。
「ぼくは、森の賢者様のおうちにまた遊びに行って、本を一緒に読みたいって願ったんだ。
その願いは叶って、いつでも遊びにおいでって言ってくれたんだよ!」
ニコルの言葉に、全員がそれぞれの表情を浮かべました。
父は、
「そうか。ニコルが無事に帰ってくれて、本当に良かった」
といって、頭を撫でてくれました。
「その木の実、ロニーの分はもらってこなかったの?」
と、母が言いましたので、ニコルは、その木の実は手で触れると消えてしまうので、もぐことができず、木になっているまま直接食べるしかなく、持ち帰る事はできなかったのだ、と話しました。
ロニーは、
「ぼくも食べたかった」
と、少しふくれました。
そうして翌日、父が山の上の小屋へ戻っていくと、母親は兄弟を呼びました。
「ニコル、ロニーを、森の屋敷へ連れて行って、願いが叶う木の実を食べさせてもらってきてちょうだい」
と、言いつけました。
ニコルは、昨日帰ったばかりなのに、再び訪れるのには早すぎないかと戸惑いましたが、家の仕事を朝から晩までこなすのと、老人の館で本を読ませてもらえるかもしれない、という期待を秤にかければ、やはり、どうしても行きたくないと反抗する気にもなれず、弟と二人、森の奥の屋敷へ向かう事にしました。
「ロニー、かあさんを喜ばせるお願いをしてきてちょうだいね」
出かけていく二人を呼び止めて、母親はロニーにそう言いました。
二人は、しばらく雪原を歩いていました。
不思議な事に、ニコルは、老人の館への行き方が、すっかりわかっていて、もうずっと通いなれたように、体が自然とそちらに向かっていくのでした。
「ねえ、ニコル、かあさんの喜ぶ願い、って、なんだろう」
歩きながら、ロニーは問いかけました。
ニコルは、うーん、と、考えて、弟を見ました。
「かあさんは、きっと、ロニーが喜ぶことだったら、うれしいんじゃないかなあ」
「ぼくが、喜ぶこと?」
「かあさんは、ロニーが大好きだからね。
ロニーがうれしかったら、うれしいと思うよ」
「そっか!」
ロニーは笑みを浮かべて、雪道をどんどん歩きました。