【5】
翌朝、空は晴れ渡っていました。
ニコルは立派な朝食をいただき、せめてものお礼にと、家の事をあれこれと手伝いました。
くるくると動き回るニコルを、老人はにこにことみていました。
「はきはきと動いてくれて、助かるなあ。
すっかり頼りにしてしまって、疲れただろう?」
「いいえ、家でもこれくらい、いつも働いていますから、お安いごようです」
「そうか。実はな、もう一つ、どうしても頼みたいことがあるんだ。
それをしてくれたら、お礼をしよう」
「僕は命を助けてもらったんです。
泊めていただいて、ごちそうまでいただいて、この程度のお手伝いではお礼のうちに入りません。
してもらいたい事、って、なんですか? 僕のできることなら」
老人はゆっくりと頷き、ニコルをとある部屋に連れて行きました。促され、扉を開けて、ニコルは息をのみました。
そこには、見渡す限り本がありました。
壁がすっかり見えないくらい、四方の棚に本が収められ、部屋中に迷路のように立ち並ぶ棚にも、ぎっしりと本が並んでいました。
本は、とても貴重なもの。ニコルの家には、古びた本が数冊あるだけでしたので、圧倒されてしまいました。
老人は立ちすくむニコルの背にそっと手を置き、近くの棚から一冊の本を取り出しました。
「最近は、目が弱ってしまってね、本を読むのが難しいんだよ。
これを読んで聞かせてくれないか」
ニコルは差し出された本を恐る恐る受け取り、そっと表紙を撫でて、ドキドキする胸を抑えながら何度も頷いて応えました。
それから、夜までずっと、二人は陽のあたる窓辺で、本を読んで過ごしました。
ニコルは字を追うのに慣れていましたので、すらすらと読み、一区切りすると、老人がその文章に、様々な考えをつけたして話してくれました。ニコルが初めて触れる、深い、深い知識の泉を覗き込んでいるような、静かで濃い時間でした。




