第七十六話
「また一人増えるフラグね」
妙にキリッとした表情で言うフィア。
「村を見るたびにそれを言われると困るんだけど」
清雅の言う通り、村が見えていた。
「……でもさ、あの村、襲撃受けてない?」
「あ~…ホントだ」
ルーネとライラの言葉に、全員固まる。
「ライラ。黒い狼の姿で火を使ってた。ヘルハウンドで良いな?」
パシアンは、村を見つめつつ、ライラに聞く。
「良いと思うよ」
「分かった。じゃあ、ここはお前に任せる」
「パシアンは?」
「倒しに行くに決まってんだろ?それ以外に何があるんだよ」
「はぁ…パシアンって、ホントに正義感強いよね」
「それは褒めてるのか?」
「そのつもりだけど?」
パシアンはそれを聞いた後、
「じゃあ、行ってくる」
「行ってら~」
走っていってしまう。
「セイガ。貴方も行きなさい。どうせ勝てるでしょ?」
「そこで俺に振るのか!?」
話を聞く側に回っていた清雅は、突然の指名に驚く。
「倒せるのは分かってるから、早く行きなさいよ」
「えぇ~…んな無理矢理…いや、行くから行きますからそんな満面の笑みで近付かないで怖い!」
清雅はそう言うと、パシアンの後を追うように走り出す。
「フィアも行く?」
「相性最悪なのよ…ヘルハウンドって」
「火属性魔法はヘルハウンドからしたらご馳走だもんね」
「だから物理しかないのよ」
「その点、優奈ちゃんは水属性だからしっかり効くのよね」
ライラがそう言って優奈を見ると、
「行っていいの?」
「良いよ?」
「じゃあ行ってくる」
優奈は走っていく。フィアはそれを見て、
「むぅ……私も戦えたらなぁ…」
「武器に水属性とか無いの?」
「水属性……無かったような……あ、いや、一つだけあった!」
フィアがそう言って取り出したのは、水色の穂先を持った、蒼色の槍。
「それは?」
「倉庫に眠ってた氷の竜角を素材に作ったやつ……かな?棒の部分は、確か紅狼魔石を溶かして固めたんだと思う。難易度が高すぎて死ぬかと思ったもん」
「でも使われず奥底にしまわれるという現実。悲しいね」
「そもそも私が武器を使う時点で珍しいんだけど……」
フィアが言うと、シャルスが、
「私はフィアさんが武器無しで戦うところを見た覚えがないです!」
「僕はそもそも戦うところを見た覚えがないです」
「……そういえば、フィアちゃんって、滅多に戦わないような?」
言われて思い返すと、そう言えば戦うこと事態が珍しい気がする。
「……じゃあ、私が戦うこと事態が珍しいって言い換えればいいのかな?」
「じゃあ仕方ないね」
うんうん。とライラが納得するが、フィアはなんとも言いがたい表情になる。
「実際は私が戦う前にみんなが倒しちゃうじゃん」
「主に私と清雅がね」
「ほら。戦うところがない。シャルスとクロノワールだって戦えないでしょ?自衛手段くらい持たせようよ」
「そう言っても、勝てるような敵がいないじゃん」
「難しいところね」
はぁ、とため息を吐き、フィアは村を見る。
「ルーネはルーリス見てるから動けなくて、プリムローズはサボり?じゃあ、貰ってくわ。というか、城を追い出されてから肩身狭くて息苦しいからストレス発散してくる」
「私も行くの!?」
「お~!頑張って~!」
プリムローズ箱から引きずり出し、村に向かってフィアは歩いていった。
「じゃ、帰ってくるまで待ちましょうか」
ライラはそう言って、ぼんやりと村を眺めるのだった。
* * *
「火属性魔法は使うな。攻撃力が上がってくだけで得は何もないぞ」
「それは困るな……氷とか水とか叩きつければいいのか?」
「それで十分だ。しばらくそれを続けると火が消えるから、後は全力で殴ればなんとかなる」
「アバウト~…」
「分かれば良いじゃん?」
清雅とパシアンにいつの間にか並んで走っている優奈。
「いつの間に?」
「今さっき追い付いたばっかりだけど?」
「速くね?」
「ゆっくり走ってくれてたじゃないの」
「ん~…俺はそんなつもり無いけどな…普通に走ってたぞ?」
「私は全力疾走だったからね…それで追い付けなかったら悔しいし」
「なら問題ないな。とりあえず、どうするんだ?分散して狩るか、集中して狩るか」
「分散で行けるのか?」
「たぶん俺は行ける」
「私も問題ない。っていうか、一応勇者よ?私」
「勇者って、人によってはめっちゃ弱いから不安なんだ」
「あ~…いや、そこまで弱くないはずよ?この前の悪魔は油断しただけだし。次はないわ」
「そうか…それなら良いんだが。じゃあ、分散して狩るぞ。次の十字路で解散だ」
「「了解」」
そう言って三人は解散する。
* * *
一匹のヘルハウンドが、少女のもとへと向かう。
そのヘルハウンドは、周りよりも二回りほど大きく、明らかに強いと確信できる。
少女は、そのヘルハウンドに臆することなく、むしろ笑顔を見せて、
「お帰り。問題は?」
ヘルハウンドは少女の前に座り、声を上げる。
「そう…外から誰か来たのね。じゃあ、迎撃かな?」
少女は近くに置いていた黒い槍と弓矢を持って、ヘルハウンドの背に乗る。
「行こうか」
少女に従うように、ヘルハウンドは立ち上がり、走り出す。




