第七十話
「っとと…ん~、勝てるか?コレ」
苦笑いをしながら、清雅は呟く。
清雅は今、昼間、清雅とフィアが通った場所にいる。
そして、彼の前には、黒い魔物――――いや、人魔がいた。
真黒な体に同色の甲殻のような形が見える尻尾、背中から生えた大きな翼。何もないツルツルの頭から出ているねじれたような角は、まるで悪魔の様にも見える。
「悪魔は…殴って倒せるか?」
魔力込めれば大丈夫だろうか…と考えていると、目の前の悪魔は、清雅を認識して向かってくる。
「うわっ!!来るなよッ!!」
清雅は言いながら、振るわれた右拳を最小限の動作で避け、カウンターを放つ。
「ッ!…手ごたえが無い!」
ただの拳では、まるで水を殴ったかのような微妙な感覚。ただ、ダメージを与えられたとは言えない。
瞬間、悪魔は尻尾を振るい、清雅の腹部を正確に殴る。
「カハッ!!」
想像以上の威力に、清雅は苦悶の表情を浮かべ、
「『凍れ』!」
瞬間的に悪魔の体を氷が包み込み――――
砕かれる。
「嘘だろ…おい…!!」
まさか氷が砕かれると思っていなかった清雅は、驚きの表情を浮かべるが、すぐにその場から離れる。
瞬間、悪魔の拳が地面に突き刺さる。
「うわぉ。ただのパンチで地面破壊かよ…怖いな」
言いながら、彼は無意識に笑う。
「魔力を込めて殴ればいけるか?」
考え、瞬時に動く。
「オラァ!!!」
全力で放った拳を、悪魔は受け止め――――
堪え切れずに受け止めた左手が燃える。
「魔力入りなら殴れるのな!!なら、このままいかせてもらうぞ!!」
清雅はすぐさま反対の拳で殴りかかる。が、瞬間、先ほど燃えたはずの悪魔の左手は再生しており、今度は逸らされる。
「んなっ!!」
驚きに目を見開くが、清雅はすぐさま受け身を取り転がると同時、背後から迫ってきた悪魔の蹴りを更に転がって躱す。
「あぶねぇ…つか、なんで魔法を使わないんだ?」
悪魔っぽい見た目をしてるっていうか、悪魔そのものなのに、魔法は使えないのか。それとも、他の理由があるのか。
それは分からないが、とにかく、今はこの悪魔を倒さなくてはいけない。
清雅は立ち上がると、向かってくる悪魔の腕を掴み、そのまま相手の勢いを利用して地面に叩き付けようとする。
その際、清雅は地面を凍らせ、無数の氷の棘を生み出し、威力を上げる。
ドドドドスッ!!と突き刺さる氷の棘は、無いはずの悪魔の顔がゆがんでいるように見える。
次に放たれたのは、炎の槍。
「このまま燃えろ!!」
悪魔の胸に炎の槍は突き刺さり、その体を焼き、それと同時に清雅は悪魔から離れる。
「チッ、燃え尽きねぇか…」
悪態を吐きながら、立ち上がってくる悪魔を睨みつける。
「さてと…どうすっかな…」
清雅は呟き、武器を持つ。あの黒い剣を。
「使うしかないよな…」
そもそも、いつぞやのアルベルトより強いのは確実だ。
ならば、あの氷の剣では止められはしない。
清雅は剣の先を悪魔にして構え、魔力を込める。
瞬間、剣は一瞬にして悪魔に突き刺さる。
清雅が移動したのではなく、剣が伸びて、だ。
「この剣って、伸縮可能だったんだよな…そういえば」
思い出したように言いながら、清雅はそのまま剣伝いに炎をイメージしながら魔力を込める。
「今度こそ…燃えろ!!」
悪魔の体内から発生する炎。それは、悪魔を再度焼き――――
今度こそ、一片も残さず焼き尽くす。
「はぁ…珍しくダメージ受けた気がする…戦闘で初じゃないか?」
清雅は剣をしまう。
「ふぅ…疲れた。っていうか、腹痛い。尻尾痛い。超痛い。なんであんなに威力あるんだよ…想定外だっつの」
清雅はぶつぶつと呟いていると、遠くから走ってくるような音が聞こえる。
「ん?誰か来る?」
音のする方向を見ていると、
「……フィア?」
確かに、フィアだ。フィアもこちらに気づいたようで、全速力で向かってくる。
「フィア~!大丈夫か~!」
「セイガ~!!」
フィアは弾丸のような速度で清雅に抱き着く。
「うごぁ!!」
二、三度バウンドしながら清雅はフィアの勢いに負けて飛んでいく。
「うぐぐ……まさかここまで痛いとは…って、フィア?どうしたんだ?」
「うぅ…いや、セイガがいなくなっちゃうんじゃないかと思って…」
「ハハハッ!俺がいなくなるかよ。死にもしないって。最低でも、お前が死ぬまでは生き続けるつもりだぞ?」
「……どういう意味で言ったのかは、聞かないでいるね」
「?いや、どういう意味って…あ」
自分の言った言葉に気付くが、別にいいか。と思って訂正はしない。
「さてと。じゃあ、皆の所に戻ろうぜ?いつまでも心配かけられないだろ?」
「むぅ……分かった。行く」
「よし。ほら、立ってくれ」
「うん」
フィアは清雅に言われて立ち上がると、そのまま清雅の手を掴んで皆がいた場所に連れて行く。
「ふぅ。一件落着かな。でも、あの悪魔は何だったんだろ」
「ん?どうかしたの?」
「いや、何でもないよ」
疑問に思いつつも、清雅はそれを胸の中にしまうのだった。




