第六十二話
幸い村人に見つかる事無く村を出る。おそらく見つからなかった理由は昨日の暗殺者達が彼らの事をすでに亡き者にしたと思っているからだろう。
* * *
「そう、だよな。魔界を通るって事はここを通る事になるんだよな」
そういう清雅達の目の前にはあの鳥に襲われた島と島をつなぐ橋があった。
見上げると黒い点がグルグルと橋を守るようにそこにいる。
「いやぁ、ここに来るのも久しぶりね。そう言えばあの子はまだこの橋を守ってるのかしら」
不穏な事を言うライラに嫌な予感がするが、出来ればその『あの子』というのがあの鳥でない事を祈りたい清雅達(ただしルーリスは除く)なのだった。
そんな清雅の考えなど知らないライラはのんきに橋まで歩いて行き、
「確かこの橋を踏んだら降りてくるように言ってたはず」
と言ってしっかりと橋の上に乗る。
もう『降りてくる』という時点で予感が確信に変わり面倒臭さをひしひしと感じながら待つ。
数分後、ヒュオォォォォォォォ!!という風切り音が聞こえ、あれほど小さかった点が鳥としての輪郭が分かるほどに大きくなり、更にその数秒後にはライラの前に降り立つ。
それは清雅達の予想通り茶色の羽をもった、三メートルくらいのあの鳥だった。
「おぉ!まだ生きてたの!?もう百年経ってるでしょ?しかも私と別れた時より強くなってるみたいね。うんうん。そりゃこんな所をずっと警備してたらそうなるか。それにあなたも初期メンバーだしね」
「初期メンバー?」
「いや、こっちの話よ。あ、そうだ!貴方も一緒に来なさいよ!前みたいにあの姿でさ!」
満面の笑みを浮かべながら鳥の身体を数回叩く。そして、鳥は面倒臭そうな雰囲気を出すが、すぐにその姿を覆い隠すように風が木の葉を運んでくる。
木の葉に完全に覆われ中が見えなくなるが、数秒して爆発するように散っていく木の葉。その中から出て来たのは茶色いオーバーコートの青年。かなりのイケメンだ。
「やっぱりそっちの姿の方が良いわ。鳥の姿ってあんまり見なかったから違和感バリバリだったのよ」
「ったく、お前は昔から変わらな…いや、昔と変わったのか。面倒な変わり方しやがって。こりゃ俺もあの人を探してお前を再教育してくれるように頼まないとか?」
「そ、それだけは勘弁して…?」
男の言葉に笑顔のまま冷や汗を流しながら両手を合わせてお願いするライラ。なんだか親に言いつけられるのを拒む子供のようだった。
「なぁライラ…その人は誰だ?」
その状況に耐えかねたのか、清雅が声をかける。瞬間、(一部を除く)全員が『(良く声をかけられるな!)』と思って清雅を見る。
「あ、そう言えば言ってなかったわね。こいつは――――」
「――――パシアンだ。よろしく頼む。それと、俺はそんなに強くないからな。期待するなよ」
「あぁ、よろしく」
それを始めとして、全員は自己紹介をする。
「さて。一通り自己紹介も終わったし、そろそろ行こうか」
そう言ってライラが橋を歩いて行くのを見て、パシアンはハッ!とした表情になり、
「おいライラ!油断したら喰われ――――」
言っている最中にザパァァァァ!!と大きな音を立てて見上げるほどに大きな魚が現れライラを飲み込んでまた海の中に戻って行った。
「……遅かったか」
「いやいやいやいや!?ちょ!喰われたよ!?助けないの!?」
清雅が驚きのあまりほぼ叫びながらそういうと、パシアンは爽やかな笑みを浮かべ、
「あいつがあの程度で死ぬわけないだろ?」
思いっきり納得してしまった。
「で、でもさ。戻って来れるの?」
「心配ないさ。昔、崖の下に落ちた時には数分で這い上がって来たからな。アレは少し怖かった」
遠目になって言うパシアンに同情してしまいそうな清雅だった。
落ちて行ったライラが気になったのか、ルーリスはトコトコと歩いて橋の下を覗き込む。それに付き添うようにルーネもルーリスが落ちない様に支えながら覗き込む。
――――ズガガガガガガガガッ!!
およそ人間とは思えないような速度で橋の継ぎ目に手をかけて全力で登ってくるライラを見て二人はひぃっ!と悲鳴を上げてその場から離れる。
瞬間、勢いよく飛び出してきたライラに全員は唖然とする。
「ッグゥゥゥゥ!!ハァッ!いやぁ、久しぶりの遊びだったわ。あっ!魚取ってくるの忘れた!」
かなりのんきな事を言いながらライラは伸びをする。
「ったく、お前はもう少し警戒しながら動くようにしろって言われたのを忘れたのか?」
「あ~…言われたわね。でも無事なんだから良いじゃないの」
「そう言う問題じゃないだろうが」
ペシッ!とパシアンに叩かれるライラを見ていて、やはり親子のように見える。
「はぁ、しょうがない。この橋を渡る間は俺が前を歩くから注意して来いよ?」
「はいはい。全く、他に人がいるからって見栄張っちゃって」
「うるさいぞ」
一言多いライラはまた叩かれ、むくれながらも皆の後ろに回る。
「じゃ、行くか」
そう言って笑顔を向けた後、彼は橋を渡りだし、その後ろを皆はついて行くのだった。




