第六十話
振るわれた暗殺者の凶刃は、ライラが軽く構えていたナイフの凹凸部分に止められる。
ギリギリギリッと金属が擦れ合う音が聞こえるが、ライラは先ほどよりも強い笑みを浮かべ、
「まだよ。まだ足りないわ。この程度で私を倒せるなんて思わないでよ?」
ガキンッ!と一際大きい音を立てて彼はライラから距離を取る。そして、構え直すと攻撃するタイミングを窺い始める。しかし、ライラがそれを許さない。
軽く床を踏みしめ前へ移動すると一瞬で彼の前へ現れ手に持ったナイフを突き刺すように振るう。
彼は咄嗟に体を左に反らし避け、カウンターとばかりに振るう。
ライラは瞬時にそれを把握すると同時に屈んで刃をやり過ごし地面に降りたつとナイフを右手から左手に持ち変え逆手持ちにすると体の向きを反対にし彼の喉元に向かって振るう。
彼は体勢を立て直すと同時に後方――――壁に向かってバク転する。
普通はここで手を突かなくては遠くへは飛べない。が、
「『風よ。我が身を運び給え』」
彼の周りに突然風が発生し壁まで飛ばす。
彼は壁に着地すると同時に全力で壁を蹴ってライラに突っ込む。
ライラはその場に伏せて自分の速度を殺し、彼が上に来ると同時に左手のナイフを順手で持ち突き刺す。
ズドッ!という鈍い音が響き、しかし彼の移動速度でナイフはライラの手から離れる。
ドッ!ゴロゴロゴロズダンッ!と大きな音を立てて彼は壁に激突する。
「さて。これで終わったって事で良いのかな?」
立ち上がった彼女は、ゆっくりとした動きで暗殺者に近づく。
「はぁ、久しぶりの対人戦だからちょっと期待してたけど……そういえばここ人間界だったわねぇ……やっぱ魔界とかの方が緊迫感あって楽しいわ」
そう言って彼に突き刺さっているナイフに手を伸ばし――――
直後、ヒュッという音と共に短刀が振るわれる。
だが、その刃は彼女まで届かない。瞬時に一歩下がって繰り出された蹴りによって彼の右手は弾かれ短刀は宙を舞って地面に落ちる。
が、それで止まらず彼は自身に刺さっていたナイフを左手で抜き取ると立ち上がりながら彼女に向かって突き刺しに来る。
さすがにそこまでは読んで無かったライラは、振り上げた足を素早く地面に降ろすと後ろに下がって伸ばされた腕を掴んで一本背負い投げの要領で投げ飛ばす。
その際投げ飛ばした瞬間にナイフを彼の手から抜き取った。
「うひゃぁ……さすがに油断しちゃってたわ……まさかあの状態で腹に刺さった私のナイフすら使おうとするとは……人間にしては中々骨のある奴だったみたいね」
感心しつつも警戒は緩めない。さすがにあの状態で反撃されたのだ。まだ何か隠し持っていてもおかしくは無い。
直後、背後に気配を感じ取った彼女は振り向く。そこには今さっき倒した男とさほど変わらない服装の人物が佇んでいた。
「……二人で確実に殺しに来るのはさすがに想定外かなぁ……まぁそこまで脅威じゃないから良いんだけども」
瞬間、目の前に移動して来た二人目に驚くもナイフを振るう。が、当たる寸前で姿が掻き消える。
突然の事に唖然とするが、背後の気配に気付き振り向きざまに振るう。が、やはり当たらない。
「……面倒くさいわね」
言うと、彼女のナイフを持っていなかった手にもう一本ナイフが追加された。
「『雷帝よ。我が刃に宿りて我が敵を喰らえ』」
瞬間、バチバチッ!と音が響き、二本のナイフは青白く光り出す。
「ガッカリさせないでね?暗殺者さん達」
青白く光る二本のナイフの内、右手のナイフを背後に迫っていた気配に振るう。
もちろんこれも当たらなかったが、彼女は更に舞うようにその場を何度も回転する。
刃が振るわれる度に青白い軌跡は残り、それは消える気配が無くどんどん増えて行く。
「『雷光の軌跡は王の道。それは邪を滅ぼす道。すなわち我が敵を屠る絶対の刃になろう。さぁ、存分に奔れ、存分に舞え、立ち塞がる壁を砕くまで!』」
言い終わると同時、数百数千と作られた二本の道は先ほどまで何度も彼女の背後を取り攻撃をしようとしていた暗殺者に向かって伸びて行く。
その速度は凄まじく、やはり雷光。常人ではまず避けられない。
それでも彼は最初の二、三秒は回避するが、すぐに捕まり雷撃に焼かれる。
「グッ…ガアアァァァァァァァ!?」
バリバリバリィッ!という激しい音がして、それが更に数十秒続いてから消える。
雷撃が止まると同時に暗殺者はその場を一寸たりとも動かない。否、動けない。
不敵な笑みを浮かべライラは彼に近づき、トンッと軽く押す。それだけで彼はゆっくりとした動きで倒れてゴガッ!という音を立てて倒れる。
「やっぱりあの威力じゃあっさりとやられちゃうね。全く、弱いくせに私に喧嘩売るのが間違いなんだよ。せめて人間やめてから出直して来なさい」
ブツブツと文句を言いながら、彼女は二つの遺体を容赦無く焼き尽くし、暗殺者達が入って来た天板を直すと、最初にいた窓際に歩いて行き、壁に寄り掛かって眠る事にした。




