第五十九話
場所を変えて、優奈達の部屋。本当はこの部屋にフィアが寝るはずだったが、いつまで経っても来ないので放置された。この部屋に寝るはずだったのは優奈、フィア、ルーリスだ。まぁ、フィアがいないので実際に寝ているのは優奈とルーリスだけだが。
時間も少し戻して清雅が襲われた位の時間帯。
優奈は嫌な予感がして目を覚ます。
優奈は無意識に剣を取り周囲を警戒する。すると、
ガコンッ!という音と共に清雅を襲った奴と同じ場所の天板が外れる。
思わず唖然とする優奈。まさかこんなあからさまに侵入しますよ~。と言わんばかりの登場に心から呆れながらも侵入者を見逃さない様にその場所を見ていると、
「あの、そんなに見られてると困るんですけど……」
バカだ。と優奈は確信する。そりゃそうだ。暗殺対象が起きているのを見て第一声が「見られてると困る」。こいつ本当に暗殺者か?と思っても仕方ない。だが現実は非情なのだ。今目の前で起こってる事が全てなのだった。
「……いいから降りて来なさいよ。そこにいたら何も出来ないでしょうが」
「そ、そうですね。ちょっと待って下さい…」
確実に使えない子だ。人見知りにも程ってものが…というより、こんな人物を暗殺者として派遣するなバ~カと言ってやりたい気持ちを抑え、声色的に男であろう彼はゆったりとした動きで落ちる。
降りるではなく落ちる。もう文字通りそれは落ちてきて大きな音を立ててその場に仰向けに倒れ込む。
「(バカだ。救いようの無いバカだ。もう諦めて帰ろうとか言いだしそうなくらい残念な奴に見える)」
呆れを通り越して憐れに思えてきた優奈だった。
「うぅぅ……また失敗しちゃった……ハッ!し、そうだ。貴方たちを殺さないといけないんでした」
これはまた物騒な単語である。彼は全身黒づくめな格好で、腰に短刀を一本差しているだけだ。あれだけで倒せると思われているのが心外だ。そんなに軟じゃない。
さて、どうするかなぁ、と優奈が考えていると、彼は腰の短刀をスラリと抜いて構える。どうやらやりあうつもりのようだ。ただ、優奈的にはあまりにも面倒で、意外と律儀な性格をしている彼に対して最強の攻撃を思い付いた。
「今戦うの?そこで小さい子が寝てるのに」
そう言って優奈は未だにベッドでぐっすり寝ているルーリスを指差す。すると、彼は狼狽えているのが丸分かりな声色で、
「で、でもぐっすり眠ってるみたいだし、大丈夫なんじゃ…」
「ふぅん?じゃあ戦ってる最中に起きたらどうする気?」
「え、そ、それは……」
剣を持ったまま彼は自分に刃が当たらない様に腕組みをして考えに没頭してしまう。その隙を狙って――――
「えいっ!」
鞘に収まったままの剣で頭部を殴りつける。
ゴンッ!という良い音が響き、彼は気を失うのだった。
「ふぅ。我ながら良い働きをしたわ。暗殺者を被害ゼロで倒すなんて中々出来ない事だからねっ!」
ドヤッ!と言わんばかりの表情で目の前に倒れる暗殺者(笑)を見下ろす。
「むぅ……優奈お姉さん、ちょっとうるさいよぉ?」
「あ、ごめんなさい。ほら、まだ子供は寝てる時間だからおやすみなさい」
「ん、おやすみなさぁい」
……どこか締まらないのであった。
再度時間を巻き戻し場所を変えライラ。この部屋にはライラの他にシャルスと少年が寝ていた。二人はもちろんベッドに寝ていたが、ライラだけは壁に寄り掛かっていた。
「……それにしても暇ね。あまりにも暇だからそこの暗殺者さんにでもちょっかいかけようかな」
音はしない。何も変わらないように見える。だが、彼女はそうは思わない。なぜなら、いつの間にか扉側の天板の一つが外れていたのだから。しかも、不自然なまでにど真ん中。明らかに分かりやすい場所を開けた。
正直角の方が見つかりにくいだろう。だが、それ以上に気になるところは、音が無かった事。そうとうな手練れなのだろう。ライラはそう思った。
その考えは外れてはいなかった。奴は音も無くそこに現れた。天板から現れたのは分かる。だが、その過程が見えなかった。だが、彼女にとってそんな事は些末な事に過ぎない。
彼女はゆっくりと立ち上がると、
「ようこそ暗殺者さん?他の二人はポンコツみたいだけど、貴方は違うみたいね。貴方だけが『本物』。全く。分かりやす過ぎるのよ。だって貴方達の本当に狩りたいのはそこの男の子でしょ?それが分かりきってるなら後はそこで待ち伏せればいい。ほら、かかって来なさいよ。私を倒さないでこの二人に手を出せるとは思わない事ね」
彼女はいつの間にか武器を右手に持っていた。それはサバイバルナイフ。月の光に照らされて黒く輝くその刃は彼に恐怖を与える。
にやりと笑う彼女は悪魔に見える。しかし、それでも彼は平静を装い、
「……貴様の武器はそれか。油断できそうにないな。本気で行かせてもらう」
「餓鬼が粋がるんじゃないわよ。最初っから本気でかかって来なさい」
瞬間、男はライラの前に瞬時に移動して腰から短刀を逆手で抜刀し斬りかかる――――!




