第四十九話
「私の命の恩人を助けるのを手伝って下さい!」
少女ははっきりとそう言った。清雅はそれを聞くと、フィア達の方を向き、
「なぁ、協力して良いか?」
「早すぎ。せめてその『命の恩人』がなんで助けないといけない状態になったのかを聞いてからにしなさい」
即座にフィアが言う。清雅はやや不満そうな顔をしてフィアを見るが、フィアに睨まれるとおとなしく少女の方を向く。
「ってことで、えっと、君、名前は?」
「え?あ、しゃ、シャルスです」
ライラが優しい笑みで聞くと、名前を言っていなかった事に気付いたのか、顔を真っ赤にしてそう答える。
「じゃあシャルスちゃん。なんで君の命の恩人が助けなきゃいけないような事になったの?」
「そ、それは……」
少女改めシャルスは、どこから話そうかと思っているのか、悩み始めた。
「シャルスちゃん。ほら、イスに座りなさいよ。いつまでも立ったままだと疲れちゃうでしょ」
フィアは近くにあるイスをシャルスに渡す。シャルスは申し訳なさそうにそれを受け取ると、そのイスに座る。
「えっと、話しても良いですか?」
「あぁ、何時でも構わないよ」
「そうですか。じゃあ、話は十二年くらい前のことなんですけど……」
シャルスはゆっくりとだが、話し始める。
「この村から少し離れた所に、おじいさんが住んでいたんです。で、そのおじいさんが、冬だったかな、そのくらいの時期に子どもを拾ったらしいんです。結論から言うと、その子どもが私の命の恩人なんですけど、その時はその子どもは普通の人間だったそうなんです。ただこれが本当かは分からないんですけどね。だって、私が生まれる数か月前くらいの話ですから。で、去年の夏くらいに、その人を育ててくれていたおじいさんが亡くなってしまったんです。それで、その人は数日間泣き続けて、それから一週間後くらいの満月の日でした。その時、ちょっとした用事で外に出ていた私は、運悪く村の中に入って来ていた魔獣と遭遇してしまったんです」
シャルスはその時の恐怖を思い出したのか、もしくはそれ以外の感情が溢れ出してきたのか、震えだす。
「その魔獣は確か、狼のような姿をしていました。私はその魔獣がこわくて、動けなかったんです。その時に周りにあった家に住んでいた人達は、窓を少しだけ開けて、私と魔獣の様子を見てました。そして、その魔獣が私に襲い掛かって来た時です。その人が魔獣の真横から殴り掛かって、その魔獣を倒しちゃったんです。私は驚きました。その人が強かった事よりも、他の村の人達が誰一人として駆けつけてくれず、魔獣がいなくなるのを今か今かと思っている中私の事を助けるために魔獣に立ち向かってくれた事が。でも、他の見ていた人は違ったみたいで、その人が魔獣以上の恐怖の対象になったらしく、彼がいない時はどうやって彼を倒すかを話していました。私もその会議に連れてかれた事がありました。もちろん私は怒りました。だって、私の事を助けてくれて、その後も村に魔獣とかが入り込まないかをずっと見ていてくれたんですよ!?そんな事をも知らないであの人達は、彼を追い出そうと!倒そうとしていた!そんなの許せるはず無いじゃないですか!私はあの人がやっていることを皆に言いました。だけど、それは何かを企んでる予兆だ。いつかこの村を潰しに来るに違いない。なんて言い始めるんです!!正直、呆れましたよ。だって、そんな事を考えているなら、なんであの日私を助けてくれたのか。なんで村の見回りなんてしてくれているのか不思議でしかないでしょう?なのに、あの人達はそんな事を考えもしませんでした。そして、つい半年前の事です。夜中、あの人が寝ている時に村の人達が家に入り込んで、あの人を拘束しました。私がそれを知ったのはその翌日です。彼は国から、アトランタルから言われて5年前くらいに作った牢屋の奥深くに入れられました。私はすぐさま彼を解放してくれるように村の人達に頼みました。けど、誰一人として私の言葉を聞きいれてくれませんでした。だから、私は一人でどうにかして彼を助け出そうとしました。だけど、その牢屋を村のほとんどの人が守っていて、なかなか入れないような状況だったんです。私は村に住んでるから入れるんじゃないかと思ったんですが、最初の頃から反対していたのが原因なのか、すぐさま追い返されました。だから、私はどうにかして入れないかと試行錯誤して、何とかその牢屋への裏道を作り出したんです。正直どこにも入れそうなところが無かったから地面に穴を掘って方向とかを確認しつつ掘り進めて何とか通路を作りました。それから、牢屋の中にいる人達に見つからない様に進んでいたんですが、奥に進むにつれてどんどん人が増えていって、結局彼の元にたどり着くまでに見つかって捕まってしまうんです。でも、見つかったとしても牢屋から追い出されるだけで済んでいたんですが、入り込む度に人数が増えていくので最終的にはもう入り込んだらすぐ見つかりそうなくらいになっちゃったんです。なので、一人じゃもうどうにもできないと思ったので、誰かが気を引いてくれるような事をしてくれないかなって思って。でも、もう私の友達とかも他の村人と同じ考えだから頼れる人が居なくて……だから、冒険者さん達なら助けてくれるかなって」
少女は最後まで言い切ると、潤んだ瞳で清雅達を見る。清雅は特に考える素振りもなくフィア達の方を向くと、
「助けていいか?良いよな?だって一応話は聞いたぞ?」
「だから待ちなさいってば。どう考えてもその子、私達を囮にする気よ?」
「いや、だってさ。正直俺達ならどうにかできるじゃんか」
「そ、それは確かにそうだけどさ……」
「じゃあ問題ないな。って事で、お前の恩人を助けるの、手伝ってやるよ」
清雅は全員が了承するよりも早くシャルスの依頼を受ける。シャルスは清雅の言葉が信じられないのか、数秒固まった後、
「え、良いんですか?」
と聞き返す。
「当たり前だ。俺は基本的に困ってる奴とかは助けるからさ。まぁやり過ぎて怒られた事が何度もあったけどな」
清雅は当たり前だろと言わんばかりの表情でそう言う。
「あ、ありがとうございます!」
シャルスは心の底から清雅にお礼を言うのだった。
――――一方、清雅とシャルスが話している後ろで、優奈とライラは――――
「……なんかさ、清雅って小さい子にすごく優しくない?」
「確かにね。ルーリスちゃんも気付いたら助けてたし、しっかり守ってたしね」
「なんかなぁ……」
「なに?不満なの?」
「別にそう言うわけじゃないけど……はぁ、何でもないわ。とりあえずなにか良からぬことを企んでそうな清雅の話でも聞きましょ」
「良からぬって……まぁいいか」
どこか不機嫌そうな表情で話す優奈に、苦笑いをしながらライラは返答をしていたのだった。




