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第四十六話

 彼は拘束されていた。彼は人にもなれず、人魔にもなれなかった少年だった。


 見た目はただの人間と変わらないように見える。しかし、彼の歯は刃のように鋭く尖っており、彼の目は鮮やかな緋色をしている。そして、人間よりも遥かに強い力を持っており、人間から見ると彼は恐怖の対象でしかない。


 だが、この少年の人間とは思えない力は今は使えない。彼の力を封印する拘束具を使われており、それに加えて力の入らない縛られ方をしていた。、


 彼は拾われた子供である。何も知らず、道端に捨てられていた赤ん坊。それを偶然見つけた人間が、彼を何気なく拾っただけである。


 彼を拾ったのは、村から少しだけ離れた所に住む心優しき老人だった。彼の正体を知らず、ただ『可哀想だった』という理由だけで拾った善人である。その時、少年はまだ力を持っておらず、ただの人の子同然だった。


 そんな彼を老人は精一杯の愛情を込めて育て、時には他人に手伝って貰いながらも、優しい人になるように、誰かを守れる強さを持つ人になれるようにと、我が子の様に、一心不乱に育てていた。


 それから何年もの月日が経ち、少年を愛情込めて育ててくれた老人は亡くなった。少年は泣いた。老人が亡くなった日も、その翌日も、そのまた翌日も。


 そして、幾晩も泣いた後、彼は決意した。老人が何年もかけて望んでいた、誰かを守れる優しい人物になると。


 少年はその日から強くなれるように努力をした。そして、それはある満月の夜に起きた。


 村に一匹の狼の姿をした魔獣が迷い込んできたのだ。当然、村の人達が襲われた。そして、それに気付いた少年は、反射的に魔獣を攻撃した。


 しかし、その時の少年の力ではその魔獣を倒すことはおろか、怯ませることすら困難なはずだった。が、その魔獣は少年の渾身の一撃をくらうと、ドンッ!という音と共に吹き飛んでいき、その魔獣は息絶えた。


 少年は思った。この力があれば村の人々を守れると。だが、その守るべき村の人達は、彼に怯えていた。恐ろしい力を持った彼に怯えていた。もしも少年を怒らせたら殺されてしまうかもしれないと。もしも少年が何かを願い、その願いを断ったら殺されてしまうかもしれないと。もしも、もしも……。


 そんな不安が募り、やがて村人の一人が、


「彼を閉じ込めてしまえばいいんだ」


と言い出した。その言葉に、村人は一人、一人と賛同していく。そして、たった一人の少女を除き、村人達はその意見に賛同した。


 そして、少年を閉じ込めるという行動は、夜に行われた。


 少年は心優しい老人が亡くなった後、その老人の家に一人で暮らしていた。それを知っていた村の人々は、彼が寝静まった時に行動する。彼に気付かれない様に家の中へと入り、彼を拘束する。少年は拘束される寸前に目を覚ましたものの、想定外の事に頭がついて行かず、そのまま捕まってしまった。


 そして、村人達は、国から『凶悪犯の一時的収容所』という名目で作らされた地下牢に少年は放り込まれる。両手両足を鎖に繋がれて。


 少年は悲しかった。守るべき者達に怖れられ、化け物呼ばわりされたことが。だが、少年はこうも思った。自分がここにいることで村の人々が怯えなくていいのなら、それでもいいと。


 それは間違っていたのかもしれない。しかし、少年にそれを教えてくれる者はいなかった。だから少年は、逃げようと微塵も思わずに誰も居ない地下牢で一人、鎖に繋がれていた。


 地上では、たった一人の少女が少年がいなくなったことに嘆いていた。この少女は、少年が魔獣から助けた人物だった。少女はこんな事が起こらない様にと必死で大人を説得しようとしていた。しかし、彼女の言葉は誰の耳にも届かなかった。


 村の人々は、少女が何を嘆いているのか分からなかった。だから彼女は余計に嘆き、怒った。誰一人として彼女の言葉を聞いていなかったんだと。誰一人として彼女に気付いていなかったんだと。


 もちろん、聞いていなかったのは大人だけではなかった。彼女と同じか、それ以下の子供達もだ。彼らも、少年の事をとても恐ろしく思っていた。だから、彼女が何を考えているのか分からず、彼女をなぐさめようとして更に深く深く傷つける。


 少女は決意した。少年を助け出そうと。少年をしいたげるこの村から助け出そうと。少年が自分を魔獣から助け出してくれたように。


 しかし、少女が思っていたよりも、地下牢への道は、多くの人が守っていた。どれだけ少女が頑張っても、少年の所まではたどり着かず、途中で村の人に見つかって追い出されてしまう。


 何度も何度も頑張った少女は、ついには力尽きてしまった。自分一人では彼の元までたどり着けないと。自分一人ではあの人の壁は乗り越えられないと。しかし、それでも少女は希望を捨てない。自分は何が出来るか。何が出来ないか。その力を考え、どう動けばあの壁を越えられるのか。彼女は考えた。必死で考えた。


 そして、彼女は再び挑む。彼を救い出すために。しかし、それでも彼女の手は彼の元まで届かない。一人では越えられない壁。彼女は思った。誰かに頼ろうと。だが、この村の人間が手伝ってくれるはずが無い。だから彼女は、冒険者に頼ることに決めたのだった。

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